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週刊スモールトーク (第412話) 金融の未来(5)~株価暴落の底値~

カテゴリ : 社会経済

2019.01.20

金融の未来(5)~株価暴落の底値~

■非カオス

人間の欲望には限りがない。

1億円貯まれば、つぎは5億円。富裕層になろうが、超富裕層になろうが、決して満足しない。DNAに刻まれたプログラムコードが「満足」を許さないのだ。

とはいえ、「限りない欲望」が弱肉強食・適者生存で有利なことも事実。物騒な武器をこさえて、食物連鎖の頂点にのぼりつめたのだ。捕食される側ではなく、捕食する側にいるのだから、文句はいえないだろう。牛や豚や魚の心情を考えれば、人間であることに感謝しなくては。

ただし、欲をかきすぎると損をする。

金融資産は、裏を返せば、誰かの負債(借金)になっている。借金は増え続けることはできないから、いずれ暴落する。

それなら、底値で買って、高値で売ればいいのでは?

それができれば苦労はない。

が、方法はある。

ピンポイントではなく、長尺で予測すればいいのだ。具体的には、予測対象を「非カオス」にもちこむ。

非カオス?

非カオスとは、「最初」がわかれば「未来」がわかる現象。たとえば、大砲。撃ち方に関係なく、砲弾は放物線を描いて落下する。砲弾の道筋を表す運動方程式もわかっているから、「最初(仰角と初速度)」を入力すれば、「未来(着弾点)」が計算できる。ただし、空気抵抗があるので補正が必要だ。

そこで、第二次世界大戦中、アメリカ陸軍は砲撃射表を作成した。目標までの距離と、それに対応する仰角の一覧表だ。これさえあれば、戦場でいちいち仰角を計算する必要がない。じつは、その計算のために作られたのがコンピュータの元祖「エニアック(ENIAC)」というのは有名なエピソードだ。あまり知られていないが、エニアックは広島・長崎の原子爆弾を製造したマンハッタン計画でも使れている。

というわけで、弾道の予測はカンタン。

だが、例外もある。初速度が「秒速11.2km」を超えると、地上に落下しないのだ(第二宇宙速度)。地球の重力圏を脱出し、太陽の重力圏に入り、太陽を周回するようになる。だから、「秒速11.2km」は並の高速ではない。東京駅からディズニーランドまで「1秒」でひとっ飛び。そんな爆速、大砲では絶対ムリ。

火砲の最高初速度は戦車砲の徹甲弾だ。戦車の分厚い装甲を撃ち抜くためにあるので、速いほどいい。運動エネルギーは速度の2乗に比例するから。それでも、「秒速1.8km」が限界なのだ。さらに、原理的に最速のレールガン(電磁砲)でも「秒速8km」(2019年現在)。第二宇宙速度、おそるべし!

ここで、「非カオス」を整理しよう。

砲弾のような力学的運動は、道筋を表す運動方程式が判明している。たいていは微分方程式なので、積分すれば答えが得られる。つまり、「こうすれば必ずこうなる」の決定論が有効な世界だ。

ところが、それが通用しない世界もある。初期値から未来が計算できない現象、それが「カオス」なのだ。

■カオス

「カオス」は「非カオス」の真逆で、「最初」がわかっても「未来」が予測できない。

詳しく説明しよう。

「カオス」は、「最初」がわずかに違うだけで、計算結果が激変する。これは深刻だ。初期値や途中の計算結果に、ほんのわずかな誤差があるだけで、正解から遠のくから。つまり、計算の初めから終わりまで、すべてのプロセスで「無限の精度」が求められる。「無限の精度」は「無限の計算」を意味するから、現実的に計算不能。だから、カオスは予測不能なのである。

たとえば、天気予報。

現在、天気予報はスパコンで計算している。大気圏を小さな格子(水平方向870m)に分割し、それぞれの格子に現在の大気の状態(気温・気圧・湿度・風)を設定する。それから、流体力学を使って、未来を大気の状態を計算する。ところが、明日、明後日はあたるが、3日目になると怪しくなり、1週間後なら丁半バクチ。初期値のわずかの誤差が、結果を大きく揺さぶるからだ。

一方、何十年後の大気予測なら「非カオス」だ。今日、明日の天気に関係なく、地球温暖化は「必ず来る」未来だから。つまり、尺次第で、カオスにも非カオスにもなるわけだ。

では、株価は?

明日、明後日の株価ならカオス。経済が絶好調で、連日高値を更新していても、どこぞの大統領のお気軽ツイートでカンタンに暴落する。一方、10年スパンの株価なら非カオスだ。たとえば、「金融資産÷名目GDP>5」が成立すれば、金融資産(株価)はいつ暴落してもおかしくない。「いつ」は特定できないが、「暴落」は必ずおきるのだ。太陽が、いつの日か必ず燃え尽きるように。

事実、2018年10月、リーマン・ショック以来最大の下げ幅を記録した。ちなみに、そのとき「金融資産÷名目GDP=5.5」・・・神の数字「5」をちょっと超えたところ。

■リーマン・ショックの底値

ただ、株価が暴落しても慌てる必要はない(信用取引はのぞく)。底値で買えばいいのだ。その後売れば、必ず儲かるから。

とはいえ、底値を特定するには勇気がいる。もっと下がるかも、暴落したらどうしよう、ハラハラドキドキ、本当に心臓に悪いですよね。

一方、こう思っている人もいるだろう。わたし、株やってないので、ゼンゼン心臓に悪くないですから~

ところが、日本は一億総株主なのだ。庶民の虎の子「年金」が株で運用されているから。

年金を運用しているのは、厚生労働省の独立行政法人「GPIF」。労働者から徴収した社会保険料(積立金)を金融資産に投資している。運用先は、国内株式が23%、外国株式が23%、なんと、半分が株式投資なのだ!

日本人の余生(年金生活)は株価にかかっているわけだ。GPIFが大損こくと、社会保険料が上がるか、年金が減らされるか、たぶん両方、サイアクだ。

では、株価が暴落したとき、底値をどうやって見極めるのか?

ピンポイント予測はムリだが、幅をもたせたレンジ予測なら可能だ。

予測には過去のデータが参考になる。そこで、一番近い株価暴落「リーマン・ショック」をみてみよう。

今から11年前、2008年9月15日、米国の投資銀行「リーマン・ブラザーズ」が破綻した。負債額64兆円、「大きすぎて潰せない」企業が潰れたのだ。株価は暴落し、信用不安が広がり、銀行間の貸し借りが滞るほどだった。金融のメルトダウンがはじまったのである。

このときの米国NYダウをみてみよう。

リーマン・ブラザーズ破綻前の株価は「1万1000ドル」。破綻後、株価は暴落し、底値は2009年3月の「7200ドル」。その後、上昇に転じ、2010年10月に暴落前の株価に回復した。

データを整理すると、

・底値は暴落開始から「半年後」。

・最大下落率は「35%」。

・暴落前にもどるまで「2年」。

つぎに日本の日経平均。

暴落前の株価は「1万2000円」。底値は2009年3月の「7100円」。その後、少し値を戻したが「8000円~9000円」あたりをウロウロ。結局、暴落前に戻ったのは2013年3月だった。米国とくらべ、回復に2倍の期間がかかっている。しかも、自力で回復したのではない。すべて、アベノミクスのおかげ。

というのも、アベノミクスが始動したのは「2012年12月」、株価の急上昇が始まったのは「2013年の年明け」、相関関係は明らかだ。しかも、因果関係もハッキリしている。アベノミクス、とくに黒田総裁の異次元緩和で、みんなが株価が上がると信じたのだ。株価は行き着くところ「人間の思い」。みんなが上がると思えば、みんなが買い、結果、株価は上がる。

リーマン・ショックの日経平均に話をもどそう。

データを整理すると、

・底値は暴落開始から「半年後」。

・最大下落率は「41%」。

・暴落前にもどるまで「4年」。

NYダウと違うのは、株価が元にもどるまでの期間、2倍もかかっている。しかも、アベノミクスという特殊要因のおかげ。もし、それがなかったら、株価は今も低迷していただろう。

■2019年以降の株価を予測する

これらのデータから、2019年の株価を予測する。

「時間軸」で合わせるなら、NYダウの底値は2019年4月前後。ただし、今回の暴落は、リーマン・ショックのような「金融メルトダウン」に直結するイベントがない。だから、底値を打つのはもっと早いかもしれない。

一方、「底値」を遅らせるリスクもある。

・2019年中にリセッション(景気後退)に入る。

・米中貿易戦争がおさまらず、世界経済がさらに悪化する。

・米中で交通事故的な軍事衝突がおきる。

・米中が全面戦争に突入し、核戦争が勃発する。

どれか1つでも成立すれば、底値はズレ込むだろう。とはいえ、「米中の全面戦争」にならないかぎり、株価は必ず戻る。問題は「戻り方」だが、リーマン・ショック同様「NYダウ>>日経平均」だろう。

理由はカンタン、国力の未来だ。

翳りゆく日本、黄昏れるEU、迷走するイギリス、停滞するインド、地盤沈下が始まった中国・・・結果、アメリカ合衆国が一人勝ちする。それを加速するのが、2018年始動の「米中貿易戦争」だ。

米中貿易戦争はちまたで言われる「経済戦争」などではない。最重要の国家安全保障「未来の覇権」争いなのだ。

20世紀前半、大日本帝国は「大東亜共栄圏」を構想し、米国の太平洋支配をおびやかした。その結果が太平洋戦争だったのである。あれから70年経って、米国の新たなライバルが出現した。中国である。人口が4倍の中国が、米国を追い抜くのは時間の問題だ。だから、米国は中国を潰すのは今しかない、と気づいたのである(気づくのが遅い)。

とはいえ、今の中国に勝ち目はない。だから、貿易戦争で最終的に中国が譲歩するだろう、とみんな思っている。

だが、太平洋戦争を思い出すべきだ。当初、大日本帝国は米国と戦争するつもりはなかった。勝ち目がないから。ところが、米国は、主権国家なら絶対に呑めない条件をつきつけて、イジメ抜いて、先に銃を抜かせたのだ(真珠湾攻撃)。だから、勝ち目があろうがなかろうが、戦争は起こるのである。

というわけで、当面、株価を一番揺さぶるのは「米中貿易戦争」だろう。

by R.B

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