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週刊スモールトーク (第348話) トランプがゆく(5)~米中戦争の可能性~

カテゴリ : 人物戦争終末経済

2017.02.12

トランプがゆく(5)~米中戦争の可能性~

■トランプの扉

一つの世紀が過ぎようとする、はざまに私は生きる、
大きなページがめくられ、その風を感じる、
神と君と私がしるし、見知らぬ手の中で、
高々とひるがえる、ページの風を、

~リルケ~

2009年1月、オバマ政権が誕生したとき、この詩を思い出した。

新しいミレニアム(千年紀)が始まり、時の扉が開き、新しい風が吹き込む。「変革(Change)」がはじまるのだ。

ところが・・・

あれから8年たって、何も変わらなかった。

オバマの名セリフ「Change, yes, we can!」はどこへいったのだ?

夢と期待の、単純な「だまし絵」だったのか?

今住んでいる金沢に、こんな言葉がある。

「うまいこと言いのごっつぉ喰い」

うまいこと言って、ごちそうばかり食べる奴・・・オバマさん、期待してたんですよ!

ところが、2017年、世界は変わろうとしている。主役も、オバマからトランプにかわった。そのトランプだが、大統領令を連発して、有言実行をアピールしている。「Change(変革)」が始まったのだ。吉と出るか凶と出るかはさておき。

脇を固める役者も勢ぞろい・・・

究極の勝負師で、ハラハラドキドキ、曲芸外交を連発するプーチン大帝。究極の人徳か人たらしか?操り人形をよそおいながら、人形を操る安倍首相。

これに、究極の自己中で、わが道を行くトランプ閣下がくわわれば、「Change」間違いなし。

みんな突出したキャラだが、共通点がある。

イデオロギーより損得勘定、不毛の空論より、確かな実利を優先すること。正真正銘のリアリスト(現実主義者)なのだ。

ということで、今後の世界情勢は損得で決まる。

具体的には・・・

米国は、ロシアと和解し、中国とIS(イスラム国)に対抗する。

ロシアは、米国と和解し、西ヨーロッパとISに対抗する。

日本は、米ロ和解に便乗し、中国に対抗する。

もちろん、そうなるかどうかは神のみぞ知る。鍵を握るのは、気まぐれなトランプ閣下だから。

ところで、中国は?

それどころではない。

人民の不満があちこちで爆発しているのだ。もし、爆発が連鎖すれば、核分裂同様、巨大なエネルギーが生まれる。そのときは・・・中国史でおなじみの「王朝交代」だ。

■中国の2大リスク

2017年、中国の経済成長は失速している。しかも、不動産バブルの崩壊は時間の問題だ。このままいけば、中国経済は2020年~2025年にピークアウトする。もちろん、その前に大量の失業者が発生するだろう。

共産主義で「失業」というのもヘンな話だが、中国経済は資本主義と共産主義のハイブリッド(混合)。上はタキシード、下は人民服という出で立ちだ。

この「異形」ぶりは、EUと酷似している。

EU加盟国は、一部の例外をのぞいて、統一通貨ユーロを採用している。本来、通貨の力(為替レート)はその国の経済力をあらわす。だから、経済力が違うのに、通貨が同じ、というのはとてつもない矛盾だ。ギリシャ危機がおこるのはあたりまえ。

ギリシャ危機・・・ギリシャの財政が破綻し、事実上、国が破産に追い込まれたこと。

もちろん、悪いのはギリシャ政府だが、諸悪の根源はEUにある。ギリシャに「打ち出の小槌(こづち)」を与えたのだから。そんな宝物もらったら、誰でも使いますよ!

それはさておき、ギリシャはいい国だ。

国民はノンビリだし、街並みはこじんまりしていて、彩色鮮やかなのに、わび・さびがある。太陽光をあびて、ゆらゆら揺れるオリーブの葉は心地良い。2回目に訪れたとき、故郷に帰ったような気がした。マカオ同様、心の相性がいいのだ。

だから、肩を持つわけではないが・・・ギリシャは悪くない。グローバリゼーションの犠牲になったのだ。ハイブリッドが生んだ禁断の「打ち出の小槌」によって。

というわけで、ハイブリッドはしょせん「つぎはぎ」、いつかは「ほころぶ」。

中国のハイブリッド経済も同じだ。

毛沢東はある意味偉大だった。共産主義をかかげ、私有財産を禁じ、「万人平等」世界を目指した、一切ブレることなく。だから、米国の支援をうけた蒋介石との内戦で勝利したのである。

ところが、その後、中国は変質していった。米国並みの巨大格差が出現したのである。共産主義と巨大な貧富の差、これはハイブリッドではなく、単純な矛盾だ。

そこで、中国は「社会主義市場経済」を謳(うた)っている。つまり、「社会主義(共産主義)」と「市場経済(資本主義)」のハイブリッド。市場原理に任せるけど、政府がコントロールする、というわけだ。もちろん、「つぎはぎ」なので、いつかは、ほころぶ。

そのプロセスは・・・

巨大な格差で、国中に「不平不満」がたまる。毛沢東の万民平等はどこへ行ったのだ、と。

もちろん、主体は大多数を占める貧困層。この大多数が、毛沢東の共産主義の理念をかかげて立ち上がったら・・・中国史でおなじみの農民革命だ(起義という)。

そもそも、今の中国も、毛沢東の共産主義革命で生まれた政権。歴史は繰り返すのだ。

中国には、もう一つリスクがある。

大気汚染、とくに「PM2.5」が凄まじい。PM2.5とは、2.5μm以下の大気汚染物質をさす。微小なので、普通のマスクや空気清浄機では防げない。しかも、肺から血液に侵入するので、呼吸器系のみならず循環器系、脳にも疾患を引き起こす。

事実、中国では「PM2.5」が原因で毎年100万人が死んでいるという(NHKスペシャル「巨龍中国・大気汚染・超大国の苦闘~PM2・5沈黙を破る人々~」)。

このまま放置すれば、都市部で不満が炸裂するだろう。

経済格差、大気汚染・・・内乱の圧力は強まるばかりだ。だから、「政権の安定」が欠かせない。中国政府が、ネット検閲を強化し、民主主義国家ではありえない統制を行う理由はここにある。

そもそも、中国の人口は13億5000万人(2017年)・・・民衆のパワーは桁違いだ。ひとたび、反乱がおこれば、巨大な波となって中国全土を襲う。

事実、中国の歴史は「農民反乱→王朝転覆」の繰り返し。かのチンギス・ハーンの末裔「元」でさえ、農民反乱で滅んだのだ。そのドサクサで中国を統一したのが明の朱元璋だった。

中国の政権交代は、日本とは違う。

「万世一系(一つの系統が続く)」ではない。前王朝の血筋が根絶やしにされるのだ。中国政府が神経質になるのもムリはない。

■米国と中国、もし戦わば

では、人民の不満が中国政府に向かったら?

いつもの「ガス抜き」・・・

民衆の目を外に向けるのだ。具体的には、東シナ海と南シナ海。

これまで、中国の東シナ海・南シナ海の侵出に対して、米国は口先介入にとどめてきた。オバマ前大統領は軍事作戦が大嫌いなのだ(ノーベル平和賞をもらったことだし)。

ところが、ドローン(無人機)を使ったステルス戦争では、前ブッシュ政権を凌駕する。敵対する人物や勢力のピンポイント攻撃だが、巻きぞえで、民間人も多数犠牲になっている。

これがオバマのダークサイドだ。

戦争は外交の延長だからしかたがない。とはいえ、平和主義者だし、ノーベル平和賞もらったし、手を汚したくない。そこで、目立たないドローンでコソコソ戦争。

とはいえ、犠牲者の数は普通の戦争より少ないし、あからさまな民間人殺戮もないから、良心的な戦争?

一方、トランプはそんな面倒臭いことはやらないだろう。正々堂々、真っ向勝負!

おれの言うことをきけないって、やっちまえ!

恐ろしい話だが、可能性が高いのは東シナ海・南シナ海だろう。

トランプの「思考の連鎖」の短さ、引くに引けない習近平の立場を考慮すれば、いつ起こっても不思議はない。

ところが、東シナ海・南シナ海で、一旦、戦闘が始まれば、ただではすまない。

「核戦争」が五分五分だから。

そもそも、通常戦では中国に勝ち目はない。太平洋・アジアに展開するのは、米国第7艦隊。原子力空母ロナルド・レーガンを中心に、350機の航空兵力を擁する(2017年)。質と量ともに、中国軍を圧倒する史上最強の艦隊だ。

米軍がよほどヘマをやらない限り、中国軍は壊滅するだろう。しかし、問題はその後だ。

想定されるシナリオは2つ・・・

1.中国が東シナ海と南シナ海から撤退する。

2.中国が核を使う。

「1.東シナ海・南シナ海から徹底」のシナリオでは、中国の現政権が転覆する可能性がある。その場合、現指導者たちの命があぶない。中国の歴史をみれば明らかだが・・・王朝が交代するとき、前王朝の血統は根絶やしにされるのだ。

事実、共産党政権内でも、失脚した指導者は、みな哀れな末路をたどっている(命があるだけでめっけもん)。

というわけで、中国指導部は一か八か、核戦争に賭けるしかないのだ。

■渚にて

では、米中核戦争がおこったら、どうなるのか?

米国は、2000発超の戦略核ミサイルを保有する(中国の10倍以上)。一旦、核戦争がおこれば、中国は壊滅、放射能で人が住めなくなくだろう。ネビル・シュートの小説「渚にて」が現実になるわけだ。

「渚にて」・・・全面核戦争が勃発し、北半球が壊滅する。南半球にも放射能が迫り、それにおびえながら生きるオーストラリア人と米国軍人。そんな終末を描いている。

この小説は映画化もされた。モノクロにもかかわらず、素晴らしい作品だ。とくに、ラストシーンが衝撃的で忘れられない。中国の指導者たちもこの映画を観て、核の使用を思いとどまることを願うばかりだ。

一方、米国も、南シナ海の中国軍基地をいきなり攻撃することはないだろう。海上封鎖でことがすむ、と思っているから。

というのも・・・

米国第7艦隊が中国近海を封鎖すれば、中国の物流は止まる。いわゆる兵糧攻めだ。太平洋戦争開戦時、日本の石油備蓄は2年分あったが、今の中国は1ヶ月分しかなない。だから、米国軍が海上封鎖したらゲームオーバー、というわけだ。

しかし、ことはカンタンではない。

太平洋戦争末期、米軍は日本を海上封鎖したが、日本側はまったく動じなかった。「欲しがりません、勝つまでは」で耐え忍んだのである。つまり、生きていくだけなら、海上封鎖は屁でもない。

とはいえ、中国が海上封鎖されれば、人民の不満は爆発するだろう。太平洋戦争中の日本人と違うから。みんな、ケータイやスマホをもって、

「もう昔のわたしたちではない」

ゼイタクに慣れてしまったのだ。日本式の「欲しがりません、勝つまでは」が通用するわけがない。

だから、海上封鎖は民心の不満に火をつける。とはいえ、封鎖を解くには、米国艦隊をせん滅するしかない。ところが、通常戦で勝ち目がないので、核を使うしかないわけだ。

つまりこういうこと。

東シナ海・南シナ海が有事なら「核戦争」がセット。さらに「核戦争は敵を倒すことと、自殺することがセット」も忘れてはならない。

「中国の核使用」が現実味をおびれば、日本にも影響がおよぶ。米中核戦争は、日本を巻き込むからだ。まず、円は大暴落するだろう。滅ぶ国の通貨など何の価値もないから。これまでは、何か起こるたびに円が買われてきた(円高)。円は安全資産と勘違いされてきたのだ。

つまり、日本の輸出産業を苦しめてきた「円高」から解放される。もっとも、核戦争にリーチがかかって、お金の心配しても始まらないが。

そして・・・

中国は日本にも核を使うだろう。沖縄をはじめ、米軍基地がある日本の領土に。そして、首都の東京も・・・

■金融制裁

一方、米国側には金融制裁という手もある。

米国が中国に金融制裁を実施すれば、中国人民元と米ドルのリンクが切れる。結果、人民元建ての債券は暴落する(利回りは急上昇)。人民元が力をつけたといっても、米ドルとの両替保証があっての話。米ドルは世界の基軸通貨で、世界の取引の90%以上がドル決済なのだ。

くわえて、米国内の中国のドル資産も凍結されるだろう。

じつは、オバマ政権時代、ウクライナ問題で、米国はロシアに金融制裁している。

結果は?

効果あり、という見方もあるが、ハタ目にはピンピンしている。天然ガスなどで日銭に入るので、資金繰りはなんとかなるのだろう。

では、中国は?

金融制裁の内容にもよるが、効果はあるだろう。ロシアの天然ガスのような日銭を稼げる仕掛けがないから。とはいえ、そこまで追い込まれれば、窮鼠猫を噛む(追い込まれたネズミは猫を噛む)どおり、軍事行動にでる可能性もある。1941年、日本が米国に追い込まれ、真珠湾攻撃にうってでたように。

というわけで、南シナ海・東シナ海は「アジアの火薬庫」。ただの「火薬」ならいいが、「核」だからコワイのだ。

かつてのキューバ危機を彷彿させる。

1962年10月、キューバにソ連の核ミサイルが持ち込まれた。驚愕した米国政府は、カリブ海を封鎖し、一触即発の状況に・・・人類は初めて全面核戦争に直面したのである。

だが、このとき、人類は幸運だった。

指導者に恵まれたのである。米国はジョン・F・ケネディ大統領、ソ連はニキータ・フルシチョフ第一書記。ケネディはエリート階級出身だが、フルシチョフは貧乏からの叩き上げだった。ところが2人には共通点があった。

聡明で冷静で粘り強い。くわえて「核戦争は敵を倒すことと、自殺することがセット」を理解していたのである。

2人は、辛抱強く交渉を続けた。そして、周囲の圧力を押し切って、核戦争を回避したのである。

あれから、55年経って、指導者はトランプと習近平に・・・彼らにそんな器(うつわ)はあるだろうか?

《つづく》

by R.B

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