21世紀の資本主義5~主役は企業から個人へ~
■切手の予言
今から40年前、米国で「鉄の革命」がおこった。
(当時)世界最大の鉄鋼会社のUSスチールが、厚さ25ミクロンの鋼鉄を製造したのである。サランラップの厚さが18ミクロンなので、「サランラップ鋼鉄」!?
ところが、世界は広い。もっと薄い金属があるのだ。金を叩いて伸ばした「金箔(きんぱく)」。厚さは0.7ミクロンというから、金属というより膜(まく)。
ちなみに、当地「金沢」は金箔の生産で、国内シェア99%!
もちろん、そこを強調するつもりはない。ちょっと北陸新幹線が通ったからといって、そんなローカルでみみっちぃ自慢話する?
なんて言われたくないから。
でも、99%はやっぱり凄いですよね!
さて、「サランラップ鋼鉄」だが、1つ問題があった。
使い道がない・・・ドーユーこと?
世界一の会社が、作った後で使い道を考える、なんてことある?
ある!
この頃、米国の製造業は元気があった。自社のハイテクを誇示するために、こんな無謀をやってのけたのだ。
そんなわけで、USスチールは「使い道」を外部にもとめたが、いいアイデアは出なかった(当事者がこれではね)。
ところが、思わぬところからオファーがくる。地球の裏側のブータンだ。
北はチベット、東西南をインドに囲まれた小さな王国が、超ハイテク「サランラップ鋼鉄」を何に使おうというのか?
記念切手!
切手は薄くて軽くて丈夫なほどいい。だから、極薄鋼鉄は最高。しかも、「鉄の切手」というのが新しい。目からウロコ、脱帽ものですね。
こうして、ブータンから8種類の鉄の切手がシリーズ化された。テーマは人類5000年の「鉄の歴史」・・・やっぱり脱帽。
そして、シリーズ最後を飾ったのが「未来の鉄文明」だった。
スズメッキされた極薄鋼鉄の上に、未来都市がカラーでプリントされている。超高層ビルが建ち並び、立体道路がその間をぬい、異形の車が行き交う。ビルも道路も自動車も鉄製、さらに、窓ガラスも「透明の鉄」という設定だ。なんとも夢のある未来ではないか?
ところで、現実は?
「鉄づくめ」をのぞけば、予言はほぼ的中。
21世紀の今、われわれは高度なテクノロジーを獲得し、ありあまるモノの中で暮らしている。ブータンの「鉄の切手」が予言したように。
ところが・・・
そんな豊かな時代に逆行するような資本主義が始まっている。個人のモノをみんなでシェア(共有)しようという「シェアリングエコノミー(共有経済)」だ。
たとえば、AirbnbとUber。前者は民泊を、後者はライドシェア・相乗り(日本では白タク)を支援する。具体的には、提供者と利用者のリクエストをウェブサイトを使ってマッチングする。サービスエリアは「地球」で、世界中に広がりつつある。
ところが、日本は例外。
なぜか?
日本の十八番の「規制」が阻害しているから。
■規制 Vs グローバルスタンダード
2015年12月、政府のIT総合戦略本部が「民泊」の中間案を公表した。それによると・・・
民泊の仲介業者(Airbnbなど)に、貸し手の営業許可の確認、宿泊者の本人確認などを義務づける。トラブルが発生した場合、事業者(Airbnb)が損害賠償の責任を負うことも検討する。海外の事業者も規制の対象になり、国内事業所の設置も義務づける。
ところが、これに思わぬところからクレームが入った。
米国インターネット・アソシエーション・・・アマゾン・ドット・コム、グーグル、フェイスブックなどが加盟する米国最大のインターネット業界団体だ。
2016年1月11日、この団体が日本政府に意見書を提出した。
いわく・・・
日本政府の中間案はシェアリングエコノミーの発展を阻害するから、是正されたし。
大きなお世話だよ!
なのだが、この時勢、そうも言っていられない。
なにせ、世をあげてのグローバリゼーションなのだから。
グローバリゼーション・・・聞こえはいいが、世界中の文化をことごとく粉砕し、欧米流の価値観で統一すること。自己中で悪質なスクラップ・アンド・ビルドだ。
しかも、その価値観というのが「一神教」と「神と悪、白と黒、的な単純な二元論」というから、怪しい話ではないか。
ところが、その言い分はもっともらしい・・・
第一に、インターネット関連法は、(欧米流)グローバルスタンダードに準拠するべきなのに、日本は独自のルールを定めている。それを海外の事業者にも適用するのだから「域外適用」にあたる。「域外適用」とは、自国の法令を外国にも適用すること。
第二に、取引を仲介するプラットフォーム事業者に、確認義務や責任を求めるのは「プロバイダ責任制限法」と矛盾する。プロバイダ責任制限法とは、未知の違法コンテンツが見つかっても、事業者が削除すれば責任は問われないという便利な法律。
さらに、この規制案は、今話題のTPP(環太平洋経済連携協定)に反する可能性がある。海外事業者への参入規制や国内事業所設置義務は、TPPの「市場アクセスなどに関する自由化」に反するから。
つまり、160年ぶりの「黒船」来航。
またか・・・うさん臭いグローバリゼーション流の内政干渉は大迷惑だ。とはいえ、「なんでも規制」というのも芸がない。
では、一体どうすればいいのだ?
ココで個人的な話・・・
最近、腰痛で長時間歩くのがつらい。くわえて、安物のベッドは腰にくる。それがどうした?なのだが、東京に出張したとき、ホテルに苦労する。
移動距離が最短で、ベッドは固めで、できれば安いホテル・・・そんな奇妙な取り合わせて選んだのが秋葉原ワシントンホテルだった。
ところが、最近、予約がとりにくい上、宿泊料金も上昇中(一過性の変動にあらず)。料金を上げても、外国人旅行客が宿泊するので、ホテル側は強気なのだ。
そこで苦肉の策・・・
ホテルを運営する藤田観光の株を買ったのだ。株主優待券に宿泊料の半額券があるから。
半額券目当てに株を買う?
ケチな話だ・・・とバカにしてはいけない。
藤田観光の株を、1000株「40万円」で購入。株主優待券(ホテルの半額割引券)を使えば、1泊「7722円」安くなる。
40万円÷7722円=52
つまり、52回利用すれば元が取れる。
やっぱりケチな話。
それより・・・半額になっても「1泊7722円」って高くない?
それもこれも、外国人観光客が急増したせいなのだ。「爆買いツアー」でホテル、デパート、電気店はウハウハだろうが、出張するビジネスマンはたまらない。
長い話だ・・・で、一体、どうすればいいのだ?
民泊の規制など取っ払ってほしい!もちろん、新たな規制強化など論外!
黒船の肩を持っているのではない。国に税金を納めるビジネスマンが迷惑している、といっているのだ。
■シェアリングエコノミーの本当の意義
AirbnbとUberは資本主義の新潮流「シェリングエコノミー」のさきがけとなった。
仕組みを整理すると・・・
Airbnb → 空き部屋が「もったいない」 → ホテル代わりに使う
Uber → 使わない車が「もったいない」 → タクシー代わりに使う
ははーん・・・強欲な「カジノ経済」から、つつましくも美徳な「もったいない経済」への回帰?
あたらずとも遠からずだが、シェアリングエコノミーの本質はそこではないない。
モノやサービスを生産する主役が、「企業」から「個人」へとシフトしているのだ。
見方を変えると・・・
Airbnb → 「個人」の民家を使う
Uber → 「個人」のマイカーを使う
仕事をする主体が「企業」から「個人」にシフトしているのがわかる。
でも、それって、ホテルとタクシーだけでは?
ノー、もっと大きなところでも起こっている。
たとえば、先のアマゾン(Amazon)。
商品の配送を「個人」に委託しようとしているのだ。
個人?
Uberと同じく、街中を走るマイカーを利用する。
あらかじめ、個人ドライバーがアマゾンのサイトに登録する。アマゾンで荷物の配送が発生すると、配送ルートから最適の車を選び、個人ドライバーに配送を依頼する。
個人ドライバーにとってメリットは大きい。ヒマなとき、あるいは、移動中に、荷物を配送して小遣いを稼げるから。
一方、アマゾンも運送会社より格段に安い運賃で配送できるので、win-win。
では、なぜ、今までそうしなかったのか?
物理的にできなかったのである。
このサービスのキモは、アマゾンと個人ドライバーの需要と供給のマッチングにある。具体的には、アマゾンで荷物配送が発生したとき、登録したドライバーの位置情報と稼働情報から、最適なドライバーを選び出し、配送を依頼する。それを、リアルタイムかつ網羅的に処理するシステムがなかったのである。
じつは、ここに「運送業」という壮大なムダが成立していた。巨大なインフラをかかえた運送会社が、独占的に「小荷物」を運ぶというムダが。
もし、アマゾンのシステムが稼働を始めたら・・・
運送コストは劇的に下がるだろう。
個人ドライバーは専用の車もドライバーも配送センターもいらない。さらに、管理部門や役員などの間接費もゼロ。しかも、ヒマな時間、あるいは、移動のついでに運ぶので、圧倒的に安い運賃で運べる。
だから、配送と直接関係ない費用を山のようにかかえた巨象(既存の運送業会社)に勝ち目はない。残された道は、長距離運送しかないだろう。
個人ドライバーに、東京と大阪を往復する「ついで」があるとは思えないので。
このような個人配送が、2025年までに3350億ドル(40兆2000億円)に達するという試算もある。恐るべき金額だが、その前に・・・
クロネコヤマトはどうするのだ?
大丈夫!
日本は「白タク規制」があるので、マイカーで運送業はできない!
とはいえ、荷物運送の世界でも、「企業 → 個人」が起ころうとしているのは確かだ。
■マッチングサイトが社会を変える
家、マイカーとくれば、もっとほかにも、シェア(共有)できるモノが・・・
ある!
消耗品、パンツ、歯ブラシはムリだが、稼働率が低く、値の張る耐久消費財は共有品にはうってつけだ。
たとえば、テント。
年に一度、会社でバーベキューパーティを開催しているが、テントが欠かせない。ここ金沢は、一年をとおして、晴れた日が少ないから。しかも、ロンドンみたいに、いつ雨が降りだすかわからない。とはいえ、年に一度のためにテントを買うのもバカげている。そこで、レンタル会社から借りるのだが、これがマジで高い。需要が少ないからだろう。
そのときいつも思う・・・
1年中、キャンプしている人はいない(たぶん)。だから、今この瞬間、使われていないテントがどこかにあるはず。
そこで、借りる側の論理・・・
使わないテントがあったら、安く貸してくれ!
一方、貸す側の論理・・・
使わないテントがあるので、安くていいから借りてくれ!
というわけで、win-winだと思うのだが。
とはいえ、これまでは、貸し借りのリクエストをマッチングする術(すべ)がなかった。電話帳をめくりながら、一軒一軒電話して、
「使ってないテントありませんか?」
はムリなので。というわけで、レンタル会社に頼るしかなかったのだ。
ところが、インターネットとスマホの普及で、リアルタイムかつ網羅的なマッチングが可能になった。
あらかじめ、テントを貸したい人がウェブサイトに登録しておく。つぎに、借りたい人がウェブサイトをサーチすれば、所望のテントをカンタンに見つけることができる。
もちろん、シェア可能な商品はテントだけではない。
現実に・・・
多種多様なシェア商品がGoogleMapにマッピングされている。
GoogleMap?
シェアリングエコノミーは個人の貸し借りなので、近い者同士のほうがいい。つまり、地理的な距離が重要なのだ。だから「GoogleMap」なのである。
今後は、空き部屋、マイカー、バイク、自転車、テント、バッグ・・・あらゆるモノがGoogleMapにマッピングされていく(パンツと歯ブラシをのぞいて)。
ブータンの鉄の切手「未来の鉄文明」が示唆するように、人類はありあまるモノの中で暮らしている。それが、有効利用ができなかったのは、眠っているモノの情報を網羅的に知る手段がなかったからだ。
つまり、シェアリングエコノミーは「もったいない」とか「節約」の精神から生まれたのではない。「モノ余り」と「IT」が生んだ経済なのだ。
一方、シェアリングエコノミーは、日本の「空き家」の問題を解決するかもしれない。
総務省の「平成25年住宅・土地統計調査」によると、全国の総住宅数は6063万戸。そのうち、820万戸が空き家だという。
820万÷6063万=0.135
つまり、空き家率は13.5%、8軒に1軒が空き家なのだ。しかも、空き家率は毎年上昇しているという。
なぜか?
東京の一極集中で、地方は若者が減り、高齢化している・・・という話ではない。東京も似たようなものなのだ。
東京の空き家率をみてみよう。
千代田区25.8%、中央区25.4%、渋谷区13.7%、新宿区12.6、港区9.9%。そして、東京都の平均は11.1%と全国平均とかわらない。
一体どうなっているのだ?
日本では・・・
住宅戸数 >> 総世帯数
早い話が、家余り。しかも、日本の総人口は減っているのに、新しい家やマンションがバンバン建っている。空き家が増えてあたりまえ。これを究極のムダといわずして何というのだろう。
ところで・・・
1929年の世界恐慌はなぜ起こったのか?
誰も買わない使わない、なくても生きていける「ガラクタ商品」が量産されたから。つまり、「究極のムダ」のなれの果てだったのである。
だから、空き家の問題は早急に解決する必要がある。シェアリングエコノミーのマッチング機能を利用すれば、ムダな家やマンションを建てなくてすむ。
でも、そうなると、住宅・マンション業界は深刻な不況に陥るだろうが・・・
参考文献:
・これからのお金持ちの教科書 加谷珪一 (著) 出版社: CCCメディアハウス
・ビジネスモデル2025 長沼 博之 (著) 出版社: ソシム
by R.B