21世紀の資本主義(4)~Uber(白タク)~
■Uber(ウーバー)旋風
資本主義が地殻変動をおこしている。新しい潮流が始まっているのだ。
牽引するのは「Airbnb(エアビーアンドビー)」と「Uber(ウーバー)」。前者は「民泊」を、後者は「白タク」を支援する新手のウェブサービスだ。
「白タク」とは、一般人がマイカーを使ってタクシー業務を行うこと。
とはいえ、これを認めたらタクシー会社は商売あがったり。日本はタクシーの数が多く、稼働率が低いので、なおさらだ。
具体的な数字をしめそう。
日本で稼働するタクシーはおよそ24万台・・・といわれてもピントこないが、都心部でタクシーに困ることはないので、十分な台数なのだろう。
では、稼働率は?
一般にタクシーの稼働率は「実車率」であらわされる。具体的には、
実車率=お客さんを乗せて走行する距離÷全走行距離
目安として、日本のタクシーの実車率は40%前後といわれる。つまり、60%はお客さんを乗せずに、無賃走行しているわけだ(究極のムダ)。
そこで、実車率をあげるため、IT化が始まっている。ベテランドライバーは、いつどこにいると、お客さんを拾いやすいかを知っている。それをデータ化して、新米ドライバーに周知させるのである。
さらに、天候、イベントなども要因に加え、ビッグデータを生成し、「機械学習」させれば、さらに実車率は上がるだろう。
とはいえ・・・どう頑張っても、実車率100%はムリ。
会社を出るとき、たまたまお客さんを拾って、目的地に着いたら、そこでたまたま新しいお客を拾って、そんなラッキーが会社に帰るまで続きました、なんてことあるわけないから。
というわけで、タクシー会社にとって実車率は生命線・・・と言いたいのだが、現実は少し違う。というのも、ほとんどのタクシー会社は完全歩合制だから(特に東京)。つまり、実車率はタクシー会社ではなく、ドライバーにとって生命線なのである。
では、マイカーの稼働率は?
公共交通機関が発達していない地方では、マイカーは仕事や生活に欠かせない。そのため、稼働率に目くじら立てる人はいないだろうが、低すぎると、やはり面白くない。
じつは、マイカーの稼働率はタクシーの実車率で計ることはできない。
お客さんを乗せて走るわけではないからだ。
たとえば、1日の稼働率は、
稼働率=稼働時間(走行時間)÷24時間
マイカーで比較的稼働率が高いのは通勤だが、せいぜい、1日2時間。また主婦が買い物や子供の送迎で使う場合も、似たようなものだろう。その場合、1日の稼働率は、
2時間÷24時間=0.083
マイカーの稼働率はせいぜい8%!?
ほとんど駐車場で待機しているわけだ。
では、稼働率を上げるには?
やみくもに走れば稼働率は上がるが、それこそ究極のムダ。時間と労力とガソリンが減るだけ。
では、マイカーの稼働率を上げて、得する方法は?
その答えが・・・「Uber」なのである。
早い話、マイカーでタクシーやって小銭を稼ぐ!
オーナーにしてみれば、マイカーの稼働率は上がるし、おカネは稼げるし、いいことづくめ。
一方、利用客にしてみれば、料金はタクシーより3〜4割安いし、相乗りなら6〜8割も安くなる。だから、超お得!
つまり、Uberは「win-win」なシステムなのだ。
ちなみに、サービスの仕組みだが、民泊のAirbnbと同じ。ウェブサイトを使って、提供者と利用者のリクエストをマッチングする。
まず、ドライバーと利用客はスマホアプリでウェブサイトに登録する。つぎに、お客がUberを利用したいとき、スマホアプリで目的地を入力する。すると、Uberサイトが周辺にいる登録車を見つけて、知らせてくれる。車を独占することもできるし、同じ方向に向かう他の人が途中で乗り込む「相乗り(ライドシェア)」もアリ。
さらに、最近、「ウーバーコミュート」という新しいメニューが追加された。通勤時に同じ方面に移動したい人をのせるサービスだ。
ドライバーが通勤状態に入ると、通勤コースに沿って移動したいお客からリクエストが入る。行き先をお客に合わせるのではなく、ドライバーに合わせるのがミソだ。
そのぶん運賃は安いし、お客を拾う確率も下がるが、お客の乗り降りが通勤コースに限られるので、遠回りのメンドーがない。つまり、「通勤=収入」と夢のような話。一方、利用客も安上がりなのでこちらも「win-win」。
さらに、Uberはクレジットカード決済なので、現金の受け渡しがない。だから、ドライバーにとって取りっぱぐれがないので安心。
というわけで、Uberは便利なアルバイトなのだ。
ところが、Uberで収入の半分を稼ぐ人もいる。そうなると、本業とUber、どっちがアルバイト?
そもそも・・・
Uberはアルバイトの元締めだが、ありがちなニッチ・ビジネスではない。それどころか、グローバル化したビッグビジネスなのだ。Uberは、2016年、世界67カ国、360都市で展開し、客を運ぶ回数は月に1億回を超える。
そして、Uberの2015年半期の売上高だが、なんと、500億ドル(6兆円)!
なんのことはない、世界最大のタクシー会社なのだ。
しかも、Uberはタクシーを所有していない。だから、実車率なんかドーデモいいわけだ。こんなモンスター相手に、既存のタクシー会社は勝ち目はあるのだろうか?
■白タク規制
ところで、日本は?
十八番の「規制」がUberを封印している。一般人が自家用車で運送サービスを行うのは「白タク」といわれ、法律で禁じられているのだ(白タク規制)。違反すると、道路運送法違反で検挙されるから、規制の厳しさは民泊の比ではない。
日本最大のタクシー会社「日本交通株式会社」も、Uberには猛反対している。
理由は・・・
1.日本のタクシーは十分あるので、Uberは不要
低料金のUberが十分あれば、タクシーは不要では?
2.タクシードライバーの雇用が奪われる
消費者とどんな関係が?
3.安全性が確保できない
プロのドライバーなら安全?
そういえば、2016年、年明け早々・・・
・1月16日、軽井沢でスキーバスが転落し14人が死亡。
・1月17日、淡路島でツアーバスが蛇行運転し大惨事寸前。
・1月20日、愛媛県の国道でバスがガードレールに衝突。
・1月20日、東京・大田区で観光バスが信号に衝突。
・1月22日、回送中の仙台市営バスが田んぼに突っ込む。
わずか、1週間でこのありさま・・・
それでも、タクシー業界は「猛反対」をやめないだろう。Uberを認めたら最後、売上げ激減どころか、業界の存続も危うくなるから。とはいえ、タクシー業界は当面は安泰だ。政府は「白タク規制」をやめるつもりはないから。
そんなわけで、日本では、Uberは普及するどころか、一台も走っていない。
一方、米国や中国では大繁盛だ。それはそうだろう。提供者も利用者「win-win」なのだから。
それにしても、消費者より業界の都合を優先するとは、一体どういうつもりなのだろう。
まるで、社会主義国家ではないか。
資本主義、自由競争を標榜する日本が、社会主義国家「中国」以下とは!
しかし、世の中そんなに甘くない。
日本政府が「白タク規制」に固執しても、タクシー業界の安泰は一時のもの。その先には、恐ろしい自動車革命が待っているから。
Googleが先行する「自動運転システム」だ。
人工知能(AI)が、人間に代わって運転する。
ちょっと待った!コンピュータが運転するってコワくない?
ゼンゼン!
だってそうではないか。
ニュースをみていると、酔っ払いや薬物中毒者や高齢者の「ありえない」事故が多発している。通学途中の子供の列に突っ込んだり、高速道路を逆走したり、ブレーキとアクセルを間違えてコンビニに突っ込んだり・・・「ありえない」がふつうに起こっている。
さらに、先のバス事故のように、プロのドライバーの事故も珍しくはない。
つまり・・・人間の運転の方がよっぽどコワイ。
でもコンピュータだって間違えるじゃん、は問題ではない。
絶対安全はありえないのだから、人間とコンピュータどっちがより安全か?それが問題なのだ。
言うまでもないが、コンピュータは酒を飲まないし、薬もやらないし、歳もとらない・・・ソコは考慮するべきだろう。
というわけで、自動運転車の時代は必ず来る。
そのとき、人間は自動車を運転する必要がなくなるが、それは重要ではない。重要なのは自動車を所有する必要もなくなること。
■自動運転車の衝撃
ここで、来たるべき自動車社会を予測しよう。
多数の自動運転車が、あちこちの駐車場に駐車している。利用者のリクエストがあると、最適の駐車場から、最適の自動車を配車する。そして、利用者を運んだ後、近場の最適な駐車場に駐車する。どの駐車場に何台配置するかは機械学習で鍛えた人工知能(AI)が決定する。
個人で自動車を所有して、駐車場を確保して、自分で運転するより、近場の最適の駐車場から配車してもらう方が、利便性もコスパもいい。それに、社会全体でみれば、自動車の台数が少なくてすむし、省エネにもなる。
そんな世界で、タクシーって?
ともあれ、タクシードライバーという職業がなくなることは確かだ。あと、自動車教習所とか、自動車の「運転」にからむすべての仕事や会社が消えてなくなる。
これは、決して遠い未来の話ではない。
自動運転車の基礎技術はすでに確立されているのだ。米国では自動運転車が、すでに公道を走っている(テスト走行)。量産の問題さえクリアすれば、コストダウンがすすみ、本格的な自動運転社会がくるだろう。
2016年1月7日、ルノー・日産アライアンスは、2016年に高速道路での自動運転が可能な自動車を発売すると発表した。さらに、2020年までに10車種を超える自動運転車を市場に投入するという。
では、史上初の実用自動運転車の名誉に輝くのは・・・日産、トヨタ、Google?
イーロン・マスク率いるテスラモーターズだろう。
彼は、発想が違う、やり方が違う、スピードが違う。きっと、遠い宇宙の彼方からやってきた宇宙人なのだろう(比喩です)。
だから・・・
業界が、既得権益を守ろうと、何をしようが言おうが、「時代の壁」には勝てない。「時代の壁」は業界や政府が作るものではない。イーロン・マスクのような一握りの天才が作るものなのだ。
自動運転車という「時代の壁」が通り過ぎた後には・・・見たこともない異世界が広がっているのだ。
参考文献:
・これからのお金持ちの教科書、加谷珪一(著)出版社:CCCメディアハウス
・ビジネスモデル2025、長沼博之(著)出版社:ソシム
by R.B