魔法のコンピュータ(2)~異次元世界は存在する~
■太平洋戦争のIF
太平洋戦争の2つのシナリオ・・・もし、真珠湾攻撃の前に、日本海軍の暗号がアメリカ側に解読されていたら・・・日本艦隊は真珠湾に到達する前に発見され、真珠湾攻撃は中止されていただろう。
その場合、1941年12月8日の日米開戦はない。一方、アメリカ大統領ルーズベルトは、日本と戦争がしたくてウズウズしていた。日本というバックドアから第二次世界大戦に参戦し、ドイツを打ち破るためである。それを陰で画策していたのが、イギリスのチャーチルだった。イギリス軍の参謀たちが口をそろえて、アメリカが参戦しない限り、勝ち目はないと訴えていたからである。
そして、そのチャンスはすぐにやってきた。アメリカは武器貸与法にもとづき、ソ連に軍需物資を送っていたが、その輸送船が、日本軍に撃沈されたのである。ルーズベルトは、それを口実に、議会で対日戦争の承認をえることができた。ところが、日本はアメリカの領土も属領も攻撃しなかったため、国民の戦意は盛り上がらなかった。結果、戦争は膠着し、連合国と枢軸国は最終的に講和で決着した。
こうして、アメリカ合衆国、ナチスドイツ、大日本帝国、ソ連の4大ブロックが出現した(※1)。・・・・・もし、1945年8月15日、日本がポツダム宣言を受諾しなかったら・・・広島、長崎につづいて、小倉、新潟、舞鶴に原爆が投下され、「日本本土決戦」に突入していただろう。日本は軍民一体で、必死のゲリラ戦を展開し、アメリカ軍の損失は予想をはるかに超えた。この戦いには戦略も戦術もなかった。肉切り包丁の肉弾戦のようなもので、第二の硫黄島の戦いと化したのである。結果、戦争は長期化し、太平洋戦争は現在までつづく(※2)。
一方、現実の世界は・・・真珠湾攻撃は成功し、「Remember Pearl harbor!」を合い言葉に、アメリカ国民の心は一つになった。アメリカは物量にものを言わせ、徐々に日本を追い詰めていく。1945年8月、広島と長崎に原爆が投下され、日本はポツダム宣言を受諾した。日本本土決戦は幻と消えたのである。冒頭の第一、第二のシナリオは現実にはならなかった「もう一つの世界」、第三のシナリオは「現実の世界」。今となれば、「現実の世界」が必然のようにみえるが、そうでもない。現実か仮想かは鼻の差、つまり、現実は偶然の産物にすぎないのだ。実際、この時代を精査すると、発生確率では、現実と仮想に大差はない。とはいえ、「現実の歴史=本物」、「仮想の歴史=偽物」は否定しようもない事実。では、もし、仮想の歴史が”実在”するとしたら?あー、SFによくある「パラレル世界」ね。
ところが・・・そのSF「パラレル世界」が、科学者たちの間でまじめに論じられているのである。たとえば、マサチューセッツ工科大学教授のマックステグマーク博士の「パラレル宇宙論(マルチパース論)」。この説によれば、パラレル宇宙には4つの階層があり、より高いレベルのパラレル宇宙には、より低いレベルのパラレル宇宙が無数含まれるという。その中に、われわれの世界と瓜二つの「宇宙=地球」があるかもしれないというのだ。というのも・・・この世界の物質はすべて素粒子でできている。だから、世界の多様性は、素粒子の並び方の多様性にほかならない。
もし、宇宙が無限に広い、もしくは事実上無限なら、世界も無限にあるはず。その中に、われわれの地球と同じ粒子の並び方があっても不思議ではない(※3)。とすれば・・・冒頭のマルチシナリオのように、歴史が少しづつ違った、もう一つの世界があるかもしれない。というより、あると考えた方が合理的だろう。世界が無限にあるなら、シナリオも無限にあるはずだから。ただし、テグマーク博士の「パラレル宇宙」は、複数の世界が「同じ場所」に並行して存在するのではない。われわれの宇宙のはるかかなた、「別の場所」に存在するという。一方、複数の世界が「同じ場所」に並行して存在するという説もある。SF「パラレル世界」まんまだが、あなどってはならない。最近、「ブレーン宇宙論」という科学のお墨付きを得たのだ。
■異次元世界は存在する
2007年元旦、NHKのTV番組「未来への提言・リサ・ランドール~異次元を語る」が放映された。テーマは、異次元世界は存在する!しかも、提唱者はSF作家や科学評論家のたぐいではない(失礼)。ハーバード大学の現役の物理学科教授リサ・ランドール博士だ。そこで、期待に胸膨らませて、TVの前に正座したのだが・・・ランドール博士のインタビュアーが宇宙飛行士の若田光一。専門外なんだから、おバカタレントのノリで、楽しく盛り上げればいいものを、中途半端な知識をひけらかすものだから、内容も中途半端。科学好きの人間には物足りないし、門外漢にはなんのこっちゃ?早い話、誰が観ても面白くない(たぶん)。
しかも、ランドール博士は、美しすぎる物理学者という触れ込みだったのに、TVで見るとイマイチ(失礼)。さらに、終身在職権(企業でいうフェロー?)を持つというから、ズバ抜けて優秀なはずなのに、それも伝わってこない。ちょっと、ガッカリな番組だった。その半年後、ランドール博士の著書「ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く」の日本語版が出版された。Amazonでチェックすると、小難しい科学物にしては評価が高い(4つ星)。エキサイティングで、とてもわかりやすいという。そこで、期待に胸膨らませて、著書の前に正座したのだが・・・一体、どこがわかりやすいのだ?
クドクド、ダラダラ、マジでわかりにくい。これなら、数式でズバッの方がまだマシだろう(それでもわらないだろうが)。お前がバカなだけ?かもですね。悪口のこのくらいにして、「ブレーン宇宙論」に移ろう。じつは、この理論は最新の量子力学「超ひも理論」がベースになっている。超ひも理論によれば、この世界は9または10次元空間だという。ところが、われわれが知覚できるのはX-Y-Z軸の3次元のみ。ちなみに、残りの6~7次元を「余剰次元」とよんでいる。ブレーン理論によれば、この余剰次元のサイズは「0.01ミリ」だという。
そして・・・われわれの宇宙は、この高次元空間に浮いている一枚の薄い膜(ブレーン)、つまり、「一枚の薄い膜=ブレーン=一つの宇宙」というわけだ。しかも、このブレーン(宇宙)は複数存在し、ブレーン間の距離は余剰次元のサイズ「0.01ミリ」だという。つまり・・・われわれの宇宙の目と鼻の先(0.01ミリ)に、別の宇宙が存在するわけだ(※3)。こりゃ凄い。さっそく、見に行かなくては・・・ところが、他のブレーン(宇宙)に行くことは不可能なのだという。0.01ミリ先なのに?イエス!というのは、ブレーン間を行き来できるのは「重力」だけ。もちろん、重力を完全にコントロールできれば、重力を介して、他のブレーン(宇宙)に行くことができるかもしれない。J・J・エイブラムズのTVドラマ「フリンジ」のように。
ということで・・・パラレル宇宙論によれば、宇宙は複数存在する。しかも、理論上存在するのではなく、”実在”する!まあ、話半分にしても、科学者たちのもう一つの気晴らし「タイムマシンの作り方」よりはマシだろう。重力波を電波代わりに使えば、他のブレーン(宇宙)を見ることはできるだろうから。ただし、重力を含む「統一場理論」の完成が大前提だ。理論がなければ、テクノロジーは手も足も出ないから。それは、500年後、あるいは、1万年後?じつは、時間が経過するにつれ、実現が難しくなる。なぜか?人類は、巨大隕石の衝突、全面核戦争という「種の絶滅」リスクに直面しているから。これは、急がねば・・・そこで、一足先に、パラレル宇宙を生成し、ビジュアル化するコンピュータを考案した。まだ影も形もないのだが、名付けて「魔法のコンピュータ」。
■魔法のコンピュータ
じつは、「魔法のコンピュータ」は、「パラレル宇宙論」に触発されて思いついたわけではない。ことの発端は・・・古い付き合いのSさんが上場会社の社長に就任し、その祝いの席で、富裕層向けビジネスが話題になったのだが、そこで、話題沸騰したのが「魔法のコンピュータ」だった。Sさんは、買う気満々で値段を聞いたので、1000万円と答えると、自信たっぷりにこう言った。
「そんな世界を見れるのは大金持ちの特権ですよ、1億円で売りましょう!」(Sさんはタダでもらえると思っている)
上場会社の社長でも、道楽で1億円は払えません(オーナーなら話は別だが)。1億円コンピュータ?景気のいい話だが、それで一体何ができるのだ?歴史が微妙に違うパラレル宇宙をすべて再生できる!早い話、歴史シミュレーションゲームでしょうが。いいえ、似て非なるものです!だいたい、歴史ゲームに1億円を払う人がいますか?(1万円でも払わん)
ここはきちんと説明しなければ・・・話を簡単にするために、歴史を「第二次世界大戦」にしぼろう。この分野では、コアな歴史シミュレーションゲームが存在する。「動作が重い」が自慢の「ハーツオブアイアンⅢ(HeartsofIron)」だ。第二次世界大戦の戦略級ゲームだが、超がつくほどマニアック。現に、史実に忠実とリアルさをウリにしているのだが・・・中身はゼンゼン。
たとえば、ドイツでプレイすると、何度やっても、1939年、ポーランドに宣戦布告される。これには興ざめだ。99.99%ありえないから。第二次世界大戦前夜、ポーランド、チェコスロバキア、ブルガリア、ルーマニアは互いに利害が衝突し、それをドイツとソ連が利用するという複雑怪奇な関係にあった。だから、何が起こっても不思議ではない。実際、ドイツがポーランドに侵攻して、第二次世界大戦が始まったが、これは最もありえないシナリオだった。
しかし・・・1939年、ポーランドがドイツに宣戦布告することはありえない。なぜか?を熱く語り出すと長くなるので、ここはスキップしよう。では、「ハーツオブアイアンⅢ」は、なぜ、リアルではないのか?本格派シミュレーションをうたうゲームにありがちな「膨大なデータ」をウリにしているから。早い話が、アルゴリズム(プログラム)がショボイので、データの膨大さで煙にまくわけだ。さらに、「ハーツオブアイアンⅢ」は、メンドーな操作を代行するAI機能もついているので、動作が重い。以前、使っていたWindowsXPマシンでは、起動するだけで3分20秒もかかるし、プレイ中もモッサリ・・・なので途中でやめてしまった。
しかし、しかし・・・「魔法のコンピュータ(1億円コンピュータ)」は根本が違う。ウリは「データ」でなく、「アルゴリズム」だから。まずは、歴史のカラクリを俯瞰(ふかん)しよう。歴史は、無数のイベントが原因と結果で絡み合った複雑なネットワーク。その中で、キモになるのが原因と結果をひも付けするアルゴリズムだ。これがショボイと、シナリオが荒唐無稽になる。たとえば、ポーランドの宣戦布告のように。そこで、原因と結果のひも付けにAI(人工知能)を使うわけだが(歴史を作るのは人間なので)、古典的AIの「ルールベース」は使えない。融通がきかないし、そもそも、通産省の「第5世代コンピュータ・プロジェクト」で大コケしているから。だいたい、「ルールベース」はコンピュータが考えているのではない。あらかじめ人間が考えたアルゴリズムをなぞっているだけ。だから、本当は人工知能でもなんでもないのだ。
では、歴史イベントの原因と結果をなんでひも付けする?確率!あの高校で習う確率?
イエス!
具体的には「確率的推論」を使って、パラレル世界「歴史のIF」をのぞき見しようというわけだ。
参考文献:
(※1)「ヒトラーが勝利する世界~歴史家たちが検証する第二次大戦60の“IF”」ハロルド・C.ドィッチュ(編集)、,デニス・E.ショウォルター(編集),HaroldC.Deutsch(原著),DennisE.Showalter(原著),守屋純(翻訳)学習研究社
(※2)「五分後の世界」村上龍(著)幻冬舎
(※3)Newton2014年5月号「最先端物理学が予言するパラレル宇宙論」出版ニュートンプレス
by R.B