プレステ4(4)~バイオショック・インフィニット~
■テクノロジーは人生のスパイス
さて、いよいよ「テッキー(techie)」お楽しみの技術談義。テッキーとは「技術オタク」のことだが(たとえばビル・ゲイツ)、なにもテクノロジーはオタクだけのものではない。楽しく、面白く語れば、ワクワクドキドキ、誰でもインスピレーションがわく。テクノロジーは人生のスパイスみたいなものだから。
では、今回の次世代ゲーム機のテクノロジーは?旧機種(プレステ3)ほど画期的ではないが、それなりに進化している(歯切れが悪いなぁ)。今回の次世代機バトルはソニーの「プレステ4」と、マイクロソフトの「XboxOne」の一騎打ち。任天堂の「WiiU」もあるが、ユーザー層もゲームのカテゴリーも違う。任天堂のゲームは、子供と子供ゴコロを忘れない大人のための暇つぶしゲーム。さらに、スマホゲームというのもあるが、こっちは時間潰し、人生潰し・・・さらに「課金」の魂胆があからさまに見えてゲンナリ、まぁ、忘れよう。
一方、ソニーとマイクロソフトが狙うのは、ゲームの王道を行くハリウッド映画並みの本格派エンターテインメント・・・ただ面白いだけじゃないぞ、みんなを感動させて、世界や人生について考えさせるんだ、なんて高い志を持っている(全部ではない)。たとえば、2013年4月にリリースされた「バイオショックインフィニット(BioShockInfinite)」。「洋モノ」しかやらない知人のコアゲーマーよれば、2013年では、「ラスト・オブ・アス(TheLastofUs)」、「トゥームレイダー(TombRaider)」と並ぶ傑作だという。
この中で気を惹いたのが「ラスト・オブ・アス」。私的お気に入りベスト5にはいる「アンチャーテッド」と開発元が同じだから。期待に胸膨らませ、amazonで衝動買いしたが・・・感想は「アンチャーテッド」の劣化版。未知のウィルスで崩壊した世界を生き抜く設定は悪くないのだが、薄汚れた街や不気味な地下をネズミみたいにうろつくのは気が滅入る。こういう世界観でゾクゾクする趣味はないので、すぐに息子にたらい回しにした。
すると、彼も1時間ほどで辞めて、こう言ったものだ。「なんでこうなったんだ?はは~ん、アンチャーの劣化コピーか」あらら・・・DNAのなせるわざか、本当に劣化コピーかは知らないが、その後、「ラスト・オブ・アス」の陰気なパッケージは部屋の片隅でホコリをかぶっている。そんなわけで、フラストレーションが溜まりまくり、中国じゃないがガス抜きが必要になった。とはいえ、日本車を壊すようなみっともない真似はしたくないので、新たにゲームを買うことにした。それが、くだんのゲーマーお勧めの「バイオショックインフィニット」だった。
■バイオショックインフィニット
「バイオショック・インフィニット」は、世界で大ヒットを続ける「バイオショック」シリーズの第3作目である。今作も、すでに販売本数は100万本を超えたという。販売実績といい、顧客満足度といい、押しも押されぬビッグタイトルだ。ところが日本ではパッとしない。世界観が濃すぎて、とっつきが悪いのだろう。一般論として、日本市場では「ファイナルファンタジー」のようなデカくて軽いゲームが主流だ。具体的には、「外側」はうまそうだが「内側」は空洞のドーナツのようなストーリー、淡く美麗で無国籍のCG(ファンに怒られるぞ)。バイオショックのような、潜在意識に食い込むような心理描写や複雑で込み入ったストーリーは日本ではうけないのだ。やりこめば、面白いのにね。
実際、日本でもプレイしたユーザーの評価は非常に高い。これまで、バイオショックシリーズの舞台は海底都市だったが、今回は一気に浮上して「空中都市」!ネットで映像を確認すると、フォト・リアリスティック(写真のようにリアル)な絵ではないが、色彩が童話調に統一され、飛び出す絵本のよう。町並みを散策するだけで楽しいかも、と再び衝動買いしてしまった。
「バイオショックインフィニット」は、絶妙なシナリオと演出、幾重にも入り組んだ複雑なストーリーで潜在意識を揺さぶる。そのせいで、夢にまで出てくるのだ。浅い睡眠がさらに浅くなったではないか。あげく、覚醒時には、この世界は本当に現実なのか、この人生は本物なのか、別の世界や人生が並行して存在するのでは・・・と不毛の妄想までかきたてるのだ。じつに困ったゲームである。というわけで、気がつけば、2回半もやっていた。3回じゃなくて、2回半?イエス!これ以上やると、「人生潰ししている!」と非難されるので。
■あらすじ
ここで、「バイオショックインフィニット」のあらすじをみていこう。今回の舞台は、天空に浮かぶ空中都市「コロンビア」、時代は19世紀末である。19世紀末?100年前のテクノロジーで、どうやって都市を宙に浮かすのだ?「ガリヴァー旅行記」の空飛ぶ島「ラピュータ」を彷彿させるが、こちらはさらに古く、18世紀初頭。ところが、律儀なことに著者のジョナサン・スウィフトは浮遊原理をきちんと説明している。時代も時代なので、テキトーにすませてもいいのにね。
ところで、「ラピュータ」が宙に浮く原理だが・・・ラピュータ本島とラピュータが移動できる大地に強力な磁場(磁石)があり、その反発力で浮遊している。当然、ラピュータが移動できるのは強磁場がある地域に限定される。だから、ラピュータの存在は世界に知られていない・・・ん~、全部説明しきっている、おみごと!大人げないツッコミを忘れれば、300年前とは思えない発想と論理である。宮崎駿のアニメ「天空の城ラピュタ」もここから着想を得たらしい。スウィフト恐るべし。ところが、彼は晩年深刻な心の病気で苦しんだという。やはり、天才となんとかは紙一重なのだろうか?では、都市国家コロンビアの浮遊原理は?量子の力?を利用するらしい。もちろん、詳細は明かされていない。それができるくらいなら、ゲーム世界ではなく、現実世界で空中都市を作っているだろうから。
そこで、ゲームで明かされた範囲でコロンビアの浮遊原理を説明しよう(それ以上はムリなので)。原理を発見し実用化したのは、女性物理学者ロザリンド・ルーテスである。彼女は双子の兄ロバート・ルーテスと連れだって、ゲームの要所要所に現れ、意味深な会話を交わす。その出現の仕方というのが、空間を割ってフェードイン、フェードアウト。さては、時空の超越者?それとも、もう死んでいる?
この2人の会話は一風変わっている。抽象的で象徴的で、画面の外側に向かって問いかけてくるようだ。思わず返答したくなるが、今のところその機能はない。ちなみに、話の内容はストーリーの理解の助けにはなるが、ゲームの進行には役に立たない。
ところで、浮遊原理は?
これ以上の説明はないです、本当に。そして、コロンビアを創設したのが予言者ザッカリー・ヘイル・カムストックだ。彼の過激な思想はアメリカ合衆国から拒絶され、それゆえ、アメリカから独立し、浮遊都市を建造したのである。カムストックは極端な人種差別主義者で、黒人を奴隷としてこき使い、原始的な資本主義で労働者を酷使していた。さらに、宗教がかった怪しい思想で市民を洗脳し統治したのである。
さて、つぎはゲームの主人公(ユーザー)。酒とギャンブルで借金まみれの探偵で、名をブッカー・デュイットという。そんな彼のもとに、ある日、謎めいた依頼人が現れる。「少女」を連れて来たら、借金をチャラにするというのだ。その少女というのが、このゲームの準主役の「エリザベス」だった。エリザベスは、空中都市「コロンビア」の建物の一画に閉じこめられている。その部屋を捜し出し、彼女を救い出せば、その後、強力なパートナーになってくれる。戦闘になれば、武器弾薬、回復アイテムを見つけてくれるし、恐るべき神技も秘めている。並行世界へ通じる「ティア(時空の裂け目)」をつくりだすことができるのだ。
こうして、主人公ブッカーと謎の少女エリザベスの冒険が始まる。旅半ばで、カムストック夫妻とエリザベスとの関係が明らかになるが、その後、ストーリーは急展開する。新たなキーパーソンが登場するのだ。カムストックの私邸で働いていた黒人女奴隷デイジー・フィッツロイである。彼女は、ヴォックスという反体制組織をつくり、カムストック体制を転覆しようと目論んでいた。
つまり、革命・・・そして・・・エリザベスが作り出したティア(時空の裂け目)から並行世界に入ると、そこはヴォックスが革命に成功した世界だった。さらに驚くべきことに、主人公ブッカーが革命の英雄になっているではないか!ストーリーは混迷し、人間関係はさらに複雑になっていく。並行世界をからめることで、もう一つの世界、もう一つの歴史、もう一つの人生が生まれるのだ。しかも、これらの多元世界は最終的に一人の人物のもとに集約される。
というわけで、世界観は独特で深みがあり、ストーリーも演出も良くできている。さらに、ラスト戦を除けばゲームバランスも悪くはない。ただし、携行できる武器が2つしかないのは問題だ。敵によって武器を使い分ける戦術的な面白さがスポイルされるから。もっとも、戦闘そのものが台無しというほどではない。
ただし、ぜひ改善してもらいたいことがある。バイオショックシリーズ全般に言えることだが、ゲームロードやステージ切り替えに時間がかかりすぎる。ゲームへの没入感が深い分、興醒めするのだ。また、絵本調のCGはいいが、アニメーションはもっと滑らかに、秒間120フレーム(現在は60フレーム)は欲しい。とはいえ・・・これらの問題はすべて、プレステ3のハードのスペックに依存している。つまり、ゲームタイトルが悪いわけではない。では、これらの問題はプレステ4で解決された?ということで・・・いよいよ、プレステ4のテクノロジーを読み解いていこう。
by R.B