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週刊スモールトーク (第215話) プレステ4(2)~宇宙は巨大計算機~

カテゴリ : 娯楽科学

2013.07.14

プレステ4(2)~宇宙は巨大計算機~

■グラフィック能力

一見、地味に見えるプレステ4だが、どこか見所があるかもしれない。それに期待して精査することにしよう。

まず、生まれがゲーム機なので、キモとなるグラフィック能力から。グラフィック能力は、プレイヤー視点からは、どれだけリアルなCGが、どのくらいヌルヌル動くかで判断できる。具体的には、画面の解像度と色数、オブジェクトの質感(特に人間の皮膚)、さらに、3D描画能力で決まる。これを左右するのが、グラフィック専用プロセッサ「GPU」とメインプロセッサの「CPU」だ。

まずは、GPU。

パソコン市場でNVIDIAとシェアを二分するAMD社の「RADEON」をカスタマイズしている。処理能力はプレステ3の約5倍、と一見凄そうだが、7年という歳月を考えれば、フツー。つぎに、CPU。じつは、ここが問題なのだ。ソニーがプレステ3用に一から開発したCPU「Cell」を継承していない。それどころか、Cellそのものが放棄されてしまった。その代わりに採用されたのが、米国AMD社の「Jaguar」コアをベースにしたカスタム品。あらら、全部有り物。すっかり、トーンダウンしてるぞ。たしかに、「ゲーム機専用のCPUを一から作る!」という熱い思いはどこかへ行ってしまった。とはいえ、CPUのスペックは確実に向上している。しかも、動作周波数を上げるみたいな安直な手法はとっていない。アーキテクチャ(構造)を創意工夫し、コンピュータテクノロジーの王道をいっている。

具体的には?

メイン処理を担当するCPUと、グラフィック処理を担当するCPUが、一つのチップに融合された!だから?CPUとGPUが一つのチップ上に仲良く並んだことで、連携しやすくなった。協同作業を東京とニューヨークでやるより、机を並べてやるほうが効率が良いのと同じ。これはものの喩(たと)えではなく、リアルにそうなのだ。たとえば・・・CPUとGPUがメインメモリを共有できるようになり、「CPU-GPU」間のデータのやり取りが非常にスムーズになった。その応用例として・・・本来、GPUはグラフィック専門だが、CPUに比べ小数の計算が桁違い速い。そこで、グラフィック以外の小数計算もGPUにやらせ、その結果をCPUが引き継ぐ。そのデータの受け渡しに共有化されたメインメモリを使えば、プログラミングは楽ちんだし、速度も桁違いだ。

しかも、メインメモリそのものが高速になっている。本来、メインメモリは「DRAM」というチップが使われるが、プレステ4は「VRAM」を採用している。「VRAM」は、画像データを保持するための特殊なメモリで、高価だが非常に高速だ。そんなこんなを考えあわせると、プログラマーが慣れるという条件付きで、プレステ4はプレステ3より一桁速くなるかもしれない。そうなると、これまでとは一線を画すゲームが出る可能性がある(いや間違いないだろう)。

このようなCPUとGPUを融合させた融合プロセッサを、AMD社では「APU」と呼んでいる。もちろん、狙いはパーフォマンスの向上にある。以前は、パーフォーマンスを上げるには「動作周波数を上げる」が常套手段だったが、発熱の問題で限界にきている。そこで、1チップに複数のコアを搭載する「マルチコア」が主流になっている。ここでいうコアは同種のプロセッサ(演算回路)だが、今後は、APUのように異種のコアもワンチップ化されるだろう。

いずれにせよ、コアが複数あれば、並行処理が可能になり、パーフォーマンスは確実に向上する。ところで、グラフィック処理能力が10倍速くなったとして、コンピュータの「新しい使い道」は生まれるだろうか?一桁アップではムリ。では、プレステ4で何が変わるの?続編タイトルが、よりリアルに、より滑らかに!ゼンゼン、変わってないじゃん!まぁ、その問題はさておき、仮にグラフィック処理速度が格段に上がったとして、それだけで「新しい使い道」が生まれる?10倍、100倍じゃダメだろうが、1000倍なら生まれるかもしれない。

たとえば・・・コンピュータ上で、自分だけのマイ・ロボットを歯車単位で設計し、動作をビジュアルで確認できる。その際、すべてのパーツを同時に動作させ、ゲームのようにリアルタイムで3D描画できる(パーツの数にもよるが)。もちろん、ただのアニメーションではない。すべて、物理の法則に基づいて計算されるので、理論上は本物の映像である。

さらに・・・動作が確認できたら、それを3Dプリンタで実体化する。つまり、自分の想像上のメカをいつでも、好きなだけ創り出せるわけだ。個々の創造力をかきたてるし、それが浸透すれば、日本の「物づくり」文化が復活するかもしれない。ただし、プラモデルは消えてなくなるかも・・・それはそれで寂しいのだが。

ということで、このシステムを「デスクトップ・ハンドクラフト(机上工作)」と命名しよう(商標登録はお早めに)。では、プレステ4やXboxOneで、「デスクトップ・ハンドクラフト」が可能かというと?絶対ムリ。部品点数が100個限定なら何とか(シミュレーションの精度にもよるが)・・・これじゃ、機械時計も作れない。じゃあ、いつ頃、1000倍になる?現在の7年で10倍のペースなら、20年先の未来。先の長い話だ(もう生きていないかも)。

■宇宙は巨大計算機

とはいえ、小数計算だろうが、グラフィック処理だろうが、何桁もスペックアップすれば、コンピュータの新しい使い道が生まれることは確かだ。その良い例がシミュレーション(模擬実験)だろう。中でも超弩級のものが、天地創造「宇宙のシミュレーション」だ。

137億年前、ビッグバンが起こったとき、すぐに複雑な生命や惑星が誕生したわけではない。初めは、物質とエネルギーがいっしょくたになったカオスの状態だった。もし、その初期データが分かれば、それに物理の法則を適用して、シコシコ計算すれば、現在の多様な宇宙が再現できるはずだ。

あるいは、逆に・・・現在の宇宙のデータを初期データとして、物理の法則を適用し、時間を逆行してコシコシ計算すれば、宇宙誕生の謎に迫れる。つまり、計算によって、宇宙が再現できるわけだ。一方、「宇宙と計算」について、さらに踏み込んだ説を唱える学者もいる。MITのセス・ロイド教授だ。彼の持論によれば・・・宇宙は巨大なコンピュータであり、自らを計算によって作りだしている。惑星や生命のような複雑な産物も計算の結果なのだ、と。

つまり、「宇宙=計算」!?

おおー、インスピレーションがわく、でも、なんか騙されたような・・・

そもそも、計算とは具体世界を抽象化したもので、見方や解釈にすぎないのでは?

何が言いたいのかというと・・・本来、反対言葉の「具体」と「抽象」を同列に扱うのはいかがなものでしょう?

気を惹くにはいいフレーズだとは思うけど。こんなことを言うと、天下のMIT教授様に意見するとは、一体何様のつもりだ!と反撃されそうだが、気になるものは気になる。そこで、ものは試し、「宇宙の営み=計算」と仮定して、思考実験をしてみよう。まず、地上に生きる人間が1つづ持っている心臓について考える。なぜ、腎臓みたいに2つないのだろう?

は後で考えるとして、一時も欠かさず働き続けてくれる心臓に感謝!(止まったら大変だが)つぎに、その感謝感謝の心臓だが、母親の胎内で生成された瞬間から鼓動が始まる。その回数を数えると・・・1、2、3、4・・・50年後に心停止したとすると合計16億回。これを「計算」と考えれば、「足し算」になるのだろう。逆に、「死ぬまであと何回」で数えると・・・16億-1、16億-2、16億-3・・・0と言う計算も成り立つ。これは、もちろん引き算。何が言いたいのか?解釈が2つあるものが「本質」と言えるのか?心臓の本質は、「計算」ではなく、「血液を送り出す」にあるのでは?

だから、「心臓=計算」と言えないのでは?(「宇宙=計算」みたいに)というわけで、よくわからないんですけど、ロイド先生!

■歴史の工作機械

とはいえ、この世界が計算によって再現できることは確かだし、コンピュータが進化すればいつか「宇宙シミュレーション」も可能になるだろう・・・アップルのスティーブ・ジョブズが初代パソコン「AppleⅡ」を発表したとき、そんな熱い夢を抱いたものだった。

ところが、いつの間にか、コンピューターの進化は横道にそれてしまった。省電力やら、インターネットやら、ちんけなウェブアプリやら、あげく、これからのコンピュータのメインデバイスはスマホだという。便利だろうが何だろうが、あんなオモチャがコンピュータの主役なんて絶対に認めん!と一人で吠えたところで何も始まらない。

さらに、ゲームの世界も、暇つぶしソーシャルゲームが主流になり、モバゲーやGREEがありえない利益を叩きだしている。もちろん、プラットフォームはスマホだ。でも、負け惜しみじゃないけど、ソーシャルゲームは10年後には「切手コレクション」ぐらいに衰退していると思う。参考までに、昔は切手コレクションはかなりメジャーなホビーだった。その根拠は?課金のやり方がエゲツないし、深みのない暇つぶしは、決してメジャーエンターにはなれないから。さらに・・・昔はジョブズを尊敬していたのに、iPodやiPhoneみたいなオモチャにうつつを抜かすようになり、昔彼が描いた壮大な夢とともに、あの世に行ってしまった。

そして、とどめが・・・プレステ3を立ち上げた期待の久夛良木健も、うまいことを言うだけの出井元社長に道連れにされ、ソニーを追い出されてしまった。この先、コンピュータの世界は一体どうなるのだ?スマホとウェブアプリで決まり!了解!

話をプレステ4にもどそう。プレステ4はプレステ3より10倍速いが、それでも「宇宙のシミュレーション」は夢のまた夢(スーパーコンピュータでもムリ)。では、本格的な歴史シミュレーションは?(ゲームではなく)歴史の方程式から「歴史モデル」を構築し、それを元に歴史シミュレータ(プログラム)を作る。次に、ある時点の歴史データを初期値としてシミュレータに与えれば、計算によって次の時点の歴史データを生成できる。これをリアルタイムで繰り返せば、地球の歴史を未来永劫再生できるわけだ。ここまでくれば、本物の歴史シミュレータだが、この世にはまだ存在しない。

では、この”本物”歴史シミュレータは、プレステ4で実現できる?ムリ。ではどうすればできる?まずは、専用のハードウェアを作る。つまり、ハードにあわせて、ソフトを作るのではなく、ソフト(歴史シミュレータ)にあわせてハードを作るのだ。これこそ、「デスクトップ・ヒストリークラフト(歴史工作)」(商標登録はお早めに)。具体的には・・・おっと、ここからは企業秘密だ・・・ムフフ。

というわけで、プレステ4は、プレステ3の「線形進化」であって、「幾何級数進化」ではない。いいゲーム機には違いないが、年数に見合った進化で、「新しい使い道」を生み出すほどの力はない。では、次世代ゲーム機は大コケ?いや、結論を出す前に、大事なことを忘れている。マイクロソフトのXBoxOneはどうなったのだ?

《つづく》

by R.B

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