■取締役の真実 2011.12.17
数年前のこと、知人(上場企業の常務)が、突如、解任された。まだ、57歳。理由を聞いたところ、「新しい社長に嫌われた」
たまたま、彼の元上司と顔見知りだったので、事情を聞くと、「彼は、『俺は頭がいいんだ』が、プンプンしてたなぁ。それが社長の気に障ったんだろうね。あの社長ならありうる」
上場企業なので、退職金はハンパじゃないし、子供も自立しているので、生活に困ることはないだろう。それに、非常勤の監査役になったので、完全失業というわけではない。ただし、年収は、3000万円→360万円。
たしかに、取締役は取締役会で解任されれば、一巻の終わり。とくに、役付きの役員は、失業保険もでない。労働者の権利がないからだ。
しかし・・・
こんな理由で、会社をクビになったのではたまらない。労働者の権利どころか、人権も無いのでは?
それから、2年経って、別の上場企業の知人が、取締役を解任された。しかも、まだ40歳代。企画課長→企画部長→企画担当役員と順調に出世していたのに・・・
ところで、理由は?たまたま、その会社で、取締役の定員数を減らすことになり、その中に、彼が入っただけ。まぁ、交通事故みたいなもの。こんな理由で、会社をクビになったのではたまらない。仕事にしくじった、あるいは、業績が悪化したなら、あきらめもつくが。
そして、先日、知人がもう一人、取締役を解任された。年齢は53歳。
未上場の中堅企業だし、退職金も大したことはないだろうし、子供はまだ大学生だし、これからどうするのだろう?
ところが、会ってみると意外に元気。どうやら、会社を立ち上げるらしい。温厚な人物なので、腹いせというわけではないだろうが、クビになった会社からスタッフを引き抜くという。こんな仕打ちをされたのだから、会社に同情する気にもなれない。
解任された理由を聞くと、よくわからないと言う。彼の事業は会社の稼ぎ頭だし、まぁ、社内抗争で、トコロテン式に、はじき出されたのだろう。
確かに、取締役は労働者ではなく、経営者だ。だから、会社の経営に責任を負ってしかるべきだ。
しかし、だからといって、テキトーな理由をつけて解任、では筋が通らない。特に、日本の取締役は、欧米ほど報酬が高くない。それに、権限も小さい。権利と責任は「対」だが、権利は軽量級で、責任だけが重量級、ではたまらない。
そうでなくても、最近は、「株主訴訟」で、取締役個人が訴えられることもある。しかも、企業の損害賠償なので、金額はハンパではない。自己破産するしかないだろう。
美人秘書と社用車付き、なんて遠い昔の話。まして、中小企業の役員なら、年収800万円~1500万円で、上場企業の「課長~部長」並み。付き合いも多いし、子供にカネはかかるし、家のローンもあるし、貧乏ではないが、決して楽ではない。しかも、いつクビが飛ぶかわからない。
しかも、仕事の内容は種々雑多。資金繰り、事業管理、組織管理、商品企画、雑務一般。ソフト会社をやっている知人は、日中は、派遣先でプログラムを書いて、夜会社に帰って、部下の進捗状況を確認し、経理を処理して帰宅する。やっとれんわ・・・
ところが、取締役の受難はこれだけではない。知人があるベンチャー企業の取締役をやっていた。ある日、社長によばれ、こう言われた。「代表取締役・副社長になってくれ」「こんな小さい会社に、代取(代表取締役)が2人もいるんですか?」彼は、数時間断り続けたが、最終的には承諾した。
ところが、その直後、経理部長が飛んで来て、「この手形に『裏判』をお願いします」と言われ、金額を見て卒倒しそうになったという。金5000万円也。
商取引では、現金の代わりに手形が使われることがある。受け取る側にしてみれば、現金ではないので不安だ。そこで、手形の裏に「記名捺印」させ、個人保証をとるのである。もし、その手形が現金化できなければ、個人で保証しなければならない。いわゆる連帯保証人だ。
そもそも、代表取締役の「代表」は、連帯保証人の「代表」という意味。この知人は、2年間、代表取締役・副社長を勤めたが、その間、熟睡できなかったという。その後、平の取締役にもどり、今は元気にやっている。
ところで、そんなにイヤなら、辞めたら?ご冗談でしょう。こんな歳じゃ、どこも雇ってくれないし、失業保険も出ない。
人間は肉体をもつ。ゆえに、食料を補給しないと死ぬ。自殺するつもりはないのでカネがいる、というわけだ。取締役受難の時代である。
by R.B