仕事の選び方・人生の選び方
■人並みの人生
結婚して、子供をつくって、暖かい家庭をもつ、そんな人並みの人生を送るには、人並みの稼ぎが必要だ。
そのためには・・・
大企業で働くこと。それがダメなら、たとえ地方の企業でも「全国区の企業&正社員」で働くこと。
そして、肝心なのは・・・
普通に出世すること。
さもないと、人生の後半、家のローンと子供の教育費でつまづき、失速する。ただし、役員や部長を狙う必要はない。中間管理職(課長・係長)で十分。これなら、努力次第でなんとかなるし、人並みの人生は確保できるから。
人並みの人生?人並みの収入?普通の出世?課長や係長を目指す?
なんとも夢のない話だ。とはいえ、これを現実として受けとめないと、人生は面倒なことになる。
たとえば、大企業で部長までいっても、年収は1200万円~1500万円(金融関係は除く)、家を買って、子供を大学にやるのがギリ。というのも、「都会の持ち家」の収得コストはハンパではないから。
一方、地方は、家は安いが、給料も安い。つまり、中小企業はもちろん、中堅企業でも、管理職にならないと「人並みの人生」はムリ。
ではまず、サラリーマンの現実の話からはじめよう。
■サラリーマンのリスク
企業規模をとわず、どんな会社にも、「賃金モデル」がある(年俸制の会社は除く)。
たとえば、大卒の標準モデルなら、
「20歳代で主任→30歳代で課長→40歳代で部長」
という具合。このペースで昇進した場合の、年齢ごとの賃金が規定されている。このモデルにのれば、50歳ぐらいまでは昇給するだろう。しかし、30代で課長になれなかったら、以後、賃金カーブは水平線になる(上がらない)。そして、40代で部長になれなかったら、そこからは水平線。だから、出世するしないで、給与に大きな差がつく。実際、ヒラで終わる人と、部長まで昇進する人では、生涯賃金は3割~5割は違うだろう。
さらに・・・
ほとんどの会社には「役職定年制」がある。
たとえば、55歳で管理職を解かれ、平社員または参事など意味不明な役職に落とされる。昨日までの部下に、こき使われてもいいなら、どうぞ、というわけだ。一方、役員(取締役)には、この縛りがないが、55歳未満でも解任される場合がある。
というのも・・・
法的には、役員は経営者になるので、労働者の「不当解雇」などの法律が適用されない。だから、取締役会で解任が決議されれば、おしまい。しかも、常務以上の役付き役員は、失業保険は1円もでない(たとえ雇用保険をかけていても)。
サラリーマンのリスクはそれだけではない。
日本を代表する企業ソニー、パナソニック、NEC、IBMでも、「早期退職制度」がある。問題は「何歳から?」だが、40歳からの会社もある(本当に早期ですね)。しかも、赤字が出ようが出まいが、継続的に実施している会社もある(名前は出さない)。もっとも、大手企業なら、退職金が割り増しになるので、最悪というわけではない。
というわけで・・・
昭和の元祖テキトー男、植木等は、
「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ~♪」
と唄ったが、それは古き良き時代の話。
■サラリーマンの特典
とはいえ、サラリーマン(勤め人)は悪いことばかりではない。たとえば、VISAカード。サラリーマンが申請しても、断られることはないが(小さな会社でも)、自営業者なら高収入でも断られる場合がある。収入の大小ではなく、安定性と継続性が重視されるのだ。
さらに、最近は「再雇用制度」を採用する会社が増えてきた。これまでは、60歳で定年だったが、65歳まで働けるようになったのだ。今後は中堅企業、中小企業でも採用がすすむだろう。
ただし、対象は正社員のみで、非正規社員には適用されない。そもそも、非正規社員の契約期間は1年~2年なので、60歳からの再雇用などありえない。正社員と非正規社員の格差はこんなところにもあるのだ。
ただし、「再雇用制度」に過度の期待は禁物だ。定年が60歳から65歳に延長されたわけではないのだ。「再雇用制度」とは、読んで字のごとく、60歳で定年退職して、再雇用される制度。そして、ここが肝心なのだが、再雇用後は、1年更新の契約社員になる(正社員にあらず)。しかも最長で65歳という時限付きだ。
さらに、給与は、年収200万~300万円。
大企業なら、定年時の年収は1000万円を超えるので、60歳の誕生日をもって、一気に1/5に暴落するわけだ。仰天するような話だが、「再雇用」の主旨は、公的年金が支給される65歳まで、企業が年金を肩代わりすることにある。だから、年金程度(20万円)の金額なのだ。それが気に入らないなら、転職してください、というわけだ。
実際、60歳で完全に退職して、新天地を求める人もいる。そんな日本人技術者を虎視眈々と狙っているのが中国や韓国の企業だ。実際、60歳を待たずに、高度な技術をもつ不満分子を一本釣りにしている。
一方、これは日本にとっては大きな損失だ。
日本のハイテクが中国・韓国へ流出するから。中国企業が、日本のハイテクと安価な労働力を使って、類似品を量産すれば、日本に勝ち目はない。そこで、一本釣りにされた日本人技術者を売国奴よばわりする向きもあるが、筋違いだろう。自分がスカウトされた場合を想像してみればいい。
会社に評価されないわ、給料は安いわ、このままではお先真っ暗。オレの人生、一体なんだったんだ?と悶々としているところへ、年収5000万円、5年契約でどうですか?
5年でクビになっても、2億5000万円は稼げるし、自分の技術を高くかってくれるのだから、技術者冥利につきる。
それを売国奴だって?
普通に転職するでしょう。
一方、「重要な技術」を持つ技術者を粗末にするからだと、日本企業を責める向きもあるが、これもお門違い。
それが「重要」かどうかは、企業によるから。たとえ、彼・彼女が最先端技術を持っていたとしても、その会社に似たような技術者がたくさんいたとしたら、彼・彼女は重要とはいえないだろう。
つまり、この手の転職は、人材の需要と供給を平滑化する自然の摂理なのだ。だから、倫理や道徳で論じるのは不毛。どうして、阻止したければ、法律でしばるしかないだろう。
というわけで、正社員といえども、油断はならない。まぁ、でも、65歳まで働ければ、人生なんとかなるだろう。
■非正規社員の現実
ところが、非正規社員はそうはいかない。
ここでいう非正規社員とは、派遣社員、契約社員、パート、アルバイトである。雇用期間が短く、定期昇給もないし、「再雇用」など望むべくもない。だから、よほどの技術やスキルがない限り、年収200万~300万円で人生を終わることになる。
年収200万円なら、家や車を買うのはムリ、食べて行くだけの人生。結婚して、子供をつくって、クリスマスパーティに家族旅行、子供を学習塾に通わせるなど、夢のまた夢(奥さんが高収入なら別)。もっとも、それが幸福な人生とは限らないが。
じゃあ、結婚と子供をあきらめればいいかというと、そうでもない。一生独身で通したとしても、老後の不安は残る(年金が少ないから)。
さて、これでも、責任がついてまわる「正社員」はイヤ、「出世」などしたくないと言えますか?
というわけで、「人並みの人生」送るためには、
1.身の丈の仕事を選ぶ
2.全国区の会社&正社員で働く
3.普通に出世する
つぎに、その具体的な方法を紹介しよう。
■仕事の選び方(エリート編)
まずは、仕事の選び方。
もし、あなたがすでに、「人生を賭けるに値する」仕事を見つけていたら、それを選ぶべきだろう。「人並みの人生」など忘れて。やって失敗した後悔より、やらなかった後悔の方が大きいから・・・そんな月並みな教訓の前に、
元NHKアナウンサーの鈴木健二氏の名言・・・
「人は自分の仕事をするために生まれたのだ」
ぐうの音も出ない金言だが、
「自分の仕事」なんて思いつかないよ、と憮然とする人も多いだろう。これから書くのは、そんな愛すべき人たちへのメッセージだ。
東大法学部をトップクラスで卒業するほど聡明なら、官僚、外交官、外資系の金融、好きな道を選べばいいだろう。国家を動かすとか、世界を変えるとか、年に何億もかせぐとか、夢ような世界が待っている。
つぎに、
学校の成績が抜群で、血を見るのがイヤでないなら、医者になるのがいいだろう(ただし、血を見るのは慣れるらしい)。医学部に入ってしまえば、間違いなく医者になれるし、仕事にあぶれることもない。しかも、高収入で、若い勤務医でも月給80万~100万円はもらえるだろう(中堅企業の役員並み)。
つぎに、
学校の成績が優秀で、ルーチンワークに耐えられるなら、公務員がいいだろう。上下関係で陰湿な職場もあるが、それさえ我慢すれば、安定した人生が送れる。仕事にあぶれることはないし、収入もそこそこ、そして、一番のアドバンテージは、退職金と年金が大きいこと。
さらに、
弁護士、税理士、弁理士、司法書士など「士」のつく仕事は、安定してみえるが、実際はそうでもない。昔と違って、仕事にあぶれることがあるのだ。しかも、資格試験に合格するのは、非常に難しい。意外に割の合わない職業なのだ。
知人で、「県内一の進学校→有名私大→大手企業」の順風満帆の人生を歩んでいたのに、「資格」に賭けて失敗した人がいる。会社を辞めて、試験勉強にしぼったのに、合格する前に貯金が尽きたのである。その後、風の噂で、スーパーでアルバイトをしていると聞いた。
普通にサラリーマンやっとけば良かったのに、資格が人生を賭けるに値するとは思えないし・・・でもまあ、人それぞれ、これが人生というものだろう。
■仕事の選び方(凡人編)
さて、最後に、上記のいずれにもあてはまらない人。
小さな会社でもいいから、正社員になること。多少「ブラック」でも我慢すること。目の前のリスクを避けて、ブラック企業を辞めても、その後もっとリスキーになることがあるから。
本当にあった話を紹介しよう。
登校拒否の中学生が二人いた。二人とも心療内科にかかったが、医師の対応が真逆だった。一方は「ムリして学校に行かなくていいですよ」、片方は「這ってでも学校に行きなさい」。前者は心の病気はまぬがれたが、怠け癖がつき、高校も卒業できず、定職につけなかった。一方、後者は心の不安をかかえながらも、高校から専門学校に進み、今は正社員として働いている。
つまり、目先のリスクを回避した結果、さらに大きなリスクを生んだのである。
もう一つの話は深刻だ。
県内で一、二を争う進学校に通う高校生が二人いた(学年は違う)。ともに、一流大学を目指していたが、強度のストレスから拒食症(拒食障害)にかかってしまった。ところが、二人はひるむことなく、猛勉強を続け、一人は一橋大学に合格した(その後快復)。
もう一人は?
入試を受けることができなかった。病院で死んだのである。親にとって、こんな悲しいことはない。勉強なんか、大学なんか、どうでもいいから、生きていて欲しい、そう願ったことだろう。
しかし、この二人は、生きるか死ぬかのリスクを受け入れ、未来に賭けたのである。受験勉強に耐えられないなら、その後の人生で勝ち抜くことはできない、ここでダメなら、未来もダメ。あるいは、自分を甘やかしてまで、長生きしたくないと、考えたのかもしれない。
長い人生において、学歴は重要ではない。学歴が有効なのは、就職するときだけ。その後は結果がすべてだ。しかし、17歳の高校生なら、純粋でストイックなほど、それに気づくのは難しいだろう。
この二人の高校生の生き方は、一見、奇異にうつるかもしれない。今の日本の風潮は、我慢してはいけない、頑張ってはいけない、励ましてはいけない、なのだから。心の病気になったり、死んだら困るからだろう。しかし、人間は必ず死ぬ。だから、人生は何十年生きたかではなく、何を成し遂げたか?
そう考える人がいてもおかしくないのだ。
いずれにせよ、どの人生を選ぶかは本人次第。そして、最後のより所は、世間体でも、倫理でも、損得でもない、ひらめきであり、本能なのだ。そして、結果はすべて自分に降りかかる。だからこそ、「自分の人生」なのである。
ただ、一つ重要な分岐点がある。我々が住む世界が「弱肉強食のアリーナ」と気づいているか、いないか?
今の日本なら、後者でも普通に生きていける。だから、「おゆとり様世代」なる言葉が生まれたのだろう。
話を「仕事の選び方」にもどそう。
自分の仕事のある人や、才能のある人はさておき、普通の人はどうすればいいのか?
仕事の「中身」ではなく、仕事の「形」にこだわるのである。
具体的には・・・
最初から正社員で就職する。それがダメでも、あきらめない。若ければなんとかなる。いや、なんとかするのだ。一生懸命働いて、実績を積んで、正社員になればいい。そういう姿を見てくれる会社もたくさんある。
正社員になったら、つぎに、出世をめざそう。狙うのは、社長や役員ではなく中間管理職。課長や係長になれば、人並みの人生は築けるから。それに、出世を目指すだけで、自分自身も向上する。食べて、飲んで、寝るだけの人生なんてつまらないではないか。
では、どうやったら出世できるのか?
ということで、つぎのテーマは「出世する人の条件」。
by R.B