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週刊スモールトーク (第599話) ソフトウェアの死~アンソロピック・ショック~

カテゴリ : 社会科学

2026.03.23

ソフトウェアの死~アンソロピック・ショック~

■人間の限界

「人間の、人間による、人間のための政治」は、もう限界かもしれない。

予兆がある。

たとえば「130万円の壁」。

国民民主党が言い出して、1年以上たつが、まだ解決していない。

選択肢が限られ、どっちに転んでも大差ないのに、延々と議論している。

しかも、年間経費1億円の国会議員が。

どうせ、結論がでないなら、人件費の安い新卒にやらせればいいのだが、そういう問題でもない。制度が破綻しているのだ。

低額納税者なので、大きな声では言えないが・・・税金の無駄遣いはやめてね。

じつは、もっと大きなリスクがある。

あーでもないこーでもない議論を「しっかり議論」に言い換えて、ダラダラやっていると、取り返しがつかないことになる。

それでも、税金を使う国会は破綻しないが、自腹の民間企業なら命取りだ。

怖い統計データがある。

スタートアップは、初年度に21.5%が廃業し、5年以内に半数が退場し、10年目を向かえるのはわずか35%。

経験上、ナットクできる数値だ。

これまでの人生・・・上場企業 → 100人のベンチャー企業 → 300人の中堅企業 → 30人のベンチャー企業と転々としたが、上場会社は上場廃止になり、ベンチャー2社はすでに存在しない。

こんな体験をすれば、「しっかり議論」は詭弁で、時間のムダ、さっさと決めろ、と言いたくなる。

議論することに価値はない。決めて実行して、初めて価値が生まれる。それでも、半分は失敗だ。その場合、価値とはいえない。だから、結論がでないダラダラ議論は「やってるアピール」にしかみえない(個人的見解です)。

もっとも、哲学談義みたいな議論も「しっかり」をつければ「絶対正義」にみえる。この時点で、議論は手段ではなく、目的になっている。おかしな話だ。

ではどうすればいい?

「さっさと決めて、実行し、ダメなら、やり直す」このループを最大速度で繰り返す。これが「PDCA」で、「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)」の頭文字をとっている。

■PCDA Vs. OODA

ビジネスの現場では、PDCAは常識だが、もっとセッカチな方法がある。

軍事で使われる「OODA(ウーダ)」だ。

軍事は、人命と国家の存亡がかかっているから、迅速な意思決定と行動が欠かせない。そのため、つぎの4つのステップを踏む。

1.Observe(観察):生の情報を収集する。

2.Orient(方向付け):収集した情報から、何が起きているかを判断する。

3.Decide(意思決定):具体的な方針や計画を決定する。

4.Act(実行):計画を実行する。

このループを高速回転させるのだが、PDCAのような単方向ではない。状況に応じて、前へ後ろへ何段でもスキップする。そのぶん、融通がきき、効率がよく、処理も速い。

PDCAとの違いはまだある。

ループの第一ステップが、PDCAは「Plan(計画)」だが、OODAは「Observe(観察)」であること。

なぜか?

戦争は不測の事態が頻発するので、初めに計画を立てるのはムダ。それより、まず現状把握だ。

一方、不測の事態は、ビジネスの現場でも起こりうる。

そこで、世界最大の会計事務所でコンサルをやっている知人は、OODAを財務リスク管理に活用しようとした。

彼はこう考えた。

財務リスクは、金利、為替、流動性の環境が刻々と変化するため、PDCAよりOODAが有効かもしれない。会社の顧客は、ほとんど大手企業なので、きっと理解してくれる。そこで、クライアントに提案しつつ、社外の講演もこなし、OODAの普及に務めた、ところが、日本では根付かなかったという。

彼の分析によれば、原因は2つ。

第一に、日本は長年にわたる超低金利時代が続いたので、経理畑の人たちが財務まで担当し、本当の財務人材が育っていない。

第二に、決算など、過去を管理する経理業務は、PDCA で十分。

つまりこういうこと。

議論も、PDCAも、OODAも、手法としては間違っていない。うまくいかないのは、「実行者=人間」に問題があるからだろう。

じゃあ、いっそのこと、AIに丸投げしたら。

AIの進化が加速している。それなら、AIエージェントが実用化したら、任せられるかも。

問題は、それがいつか?

まさか、2026年年明け早々とは・・・

■SaaSの死

2026年1月30日、米国アンソロピックが、AIエージェントを発表した

内容を精査すると、史上初の実用レベルのAIエージェントの可能性が高い。これで、議論もPDCAもOODAも、AI任せで、世界は変わると思ったら、違う意味で変わった。株式市場が急落したのである。

とくに、SaaS関連企業の下げ幅がきつく、不穏な「SaaSの死」という言葉が市場を駆け巡る始末。

SaaS企業の株価が急落、SaaSの死・・・まるで「SaaSの黙示録」ではないか。

では「SaaS」とは?

ソフトウェアをインターネット経由で、利用するクラウドサービスのこと。ソフトウェア本体はクラウド側にあるので、クライアント側でインストールする必要がない。しかも、すぐに導入できるし、バグの修正、バージョンアップも不要。さらに、必要な機能だけを、月額・年額のサブスクリプションで利用できるから、コスパがいい。くわえて、複数の利用者で共同作業ができるので、利便性も高い。そんなこんなで、現在の業務ソフトウェアは、ほとんどがこれ。

ところが、そのSaaSが、AIエージェントに取って代わられるという。だから、SaaS関連株が急落したのだ。

急落といっても、色々あるので、規模を確認しよう。

SaaSといえば、真っ先に思い浮かぶのが米国セールスフォースだ。CRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援)で、世界シェアNo.1のプラットフォームである。

セールスフォースの株価は、アンソロピックの発表から1ヶ月で、178ドルまで急落した。ピーク時は361ドルなので、51%減という凄まじさ。暴落時の大底といわれる「半値八掛け(60%減)」に迫るから、ほぼ暴落である。

ではなぜ、AIエージェントが、SaaSに取って代わるのか?

アンソロピックが発表したAIエージェントは、「Claude Cowork」と「Claude Code」からなる。

「Claude Cowork」は、法務・金融を含む11種類の業務プラグイン(Claudeの拡張機能)を備える。そのため、同じ機能を提供するSaaSは、Claude Coworkに呑み込まれる可能性が高い。

さらに、法務・金融プラグインがうまくいけば、医療・会計への横展開が進むだろう。そうなれば、Claude Coworkが、SaaSすべてを呑み込む。

つまり行き着くところは「SaaSの死」。

■ソフトウェアの死

ここで一つ疑問がわく。

機能が同じなら、なぜ、AIエージェントはSaaSに優るのか?

極論するとコストだろう。

SaaSは、利用者に1人に1つのIDが振られ、IDの数で課金される。「利用者=ID」が「10」なら、料金は「×10」だ。

ところが、AIエージェントは、自然言語で指示するだけで、複数のアプリやデータベースやミドルウェアを横断して、一気通貫で処理してくれる。そのぶん、人手がかからない。SaaSの10人分の作業を、AIエージェントなら1つのアカウントで処理するイメージだ。

見方をかえると・・・

SaaSでは、それぞれの機能(ソフトウェア)を、人間が操作するが、AIエージェントは、人間を介さず、AIエージェントが直接操作する。

であれば、SaaSの機能そのものはなくならないのでは?

事実、物知りの専門家は、SaaSの機能は「人間が操作するツール」から「AIエージェントに呼び出される機能部品」へと役割が変わるだけ、と主張する。もしそうなら、SaaS企業は、取り分が減るが、絶滅までいかない。

では、本当のところは?

短期的には正しいが、中長期的には間違い。

アンソロピックのもう一つのAIエージェントを忘れている。「Claude Code」は、人間に代わってプログラムを書く。であれば、顧客が、Claude Codeを使って、SaaSの機能(ソフトウェア)を内製する可能性がある。プログラミング言語を知らなくても、自然言語でプログラムが書けるからだ。

結果、最終的に、SaaS機能も不要になる。

それだけではない。

Claude Codeは、10万行のCコンパイラ(C言語で書いたプログラムを機械語に翻訳するソフト)を、2週間で書いたという。

これにはビックリだ。

プログラマー時代、最後に書いたのは、5万行の歴史アプリだった。8万本以上売れたので、調子にのって続編を考えていたが、やらなくて良かった。このプログラムは、1人で2年かかったから、続編も1年はかかる。ところが、Claude Codeなら、1週間だ。やっとれん。

じゃあ、Claude Codeを使って、1週間でリリースすれば?

そうカンタンではない。

もし、大ヒットしたら、いい商売なので、誰かがClaude Codeを使って1週間で真似るだろう。逆に、売れなかったから、そもそもやる価値はない。どっちにしろ、やるだけムダ。

あらら、身もフタもない。

では、これからどうなるのか?

世間では、この歴史イベントを「アンソロピック・ショック」とよんでいるが、なんとも奥ゆかしい。

AIエージェントが進化すれば、OS、ミドルウェア、データベース、アプリ、すべてのソフトウェアが垂直統合されるからだ。

つまり、「SaaSの死」ではなく「ソフトウェアの死」。

■AIによる政治

冒頭の提起にもどろう。

人間の、人間による、人間のための政治は、もう限界・・・

AGI(人工汎用知能)を待つ必要はない。政治は、AIエージェントで十分だろう。

しっかり議論して、1年もかけて結論がでない法案も、AIエージェントなら、一瞬で解決だ。

すると、したり顔の識者はこう言うだろう。

「AIも間違いをおかす」

そうかもしれないが、人間も間違いをおかす。

それに、人間よりAIの方が、広く深く、論理的に考えるし、忖度せず、悪事も働かず、迅速に決断する。

そもそも、AIに「完全」を求めるのは間違いだ。

この世に「完全」など存在しないから。全能の神でさえ、間違いを犯すのだ。

地球は、支配種が常に入れ替わってきた。自然淘汰・適者生存にしたがって。

ところが神がつくったこのルールは、トップダウンで一発解決できない。長大な時間をかけて、試行錯誤を延々と繰り返す。しかも、46億年もかけてできたのが、我々人間なのだから、残念な話だ。

愛猫家は「猫は神の最高傑作だが、人間は欠陥品」と言ってはばからないが、人間は猫の世話をしているので、せめて「駄作」にして欲しい。

それはともかく、どこからどう考えても、人間はロクなもんじゃない。

地球上の資源を食いつぶし、環境を破壊し、生態系を狂わせ、いつも、地球上のどこかで殺し合っている。

しかも、恐ろしい格差を容認するほど無神経だ。

世界の人口は82億人だが、栄養不足に直面する人々は約7億人、深刻な食料不足は約23億人、危機的飢餓は約3.1億人だ。12人に1人が日常的に十分な食べ物を得られていない。一方で、一食に何十万円、何百万もかける人たちもいる(ホントだぞ)。

飢餓でガリガリの子供の映像が頭から離れず、贅沢な食事も、大食いもできない。おかげで、BMIはピカピカの21。大好きだったビールもワインもスコッチも辞めたので、血圧は110-70。健康なのはいいが、何を楽しみに生きているのだろう。

人間社会は、貧富の差も凄まじい。

世界で最も裕福な12人の資産は、世界人口の下位半分(約41億人)の資産を超えるという。メチャクチャだ。

月に人間を送り込む知能がありながら、飢餓、格差の問題も解決できない。いや、解決する気などないのだ。困っている人がいても気にもとめない。それが人間という生物種なのだ。人間は欠陥品と指弾されても。文句は言えないだろう。

というわけで、一つ提案があります。

政治もAIに任せませんか?

でも、一つ不安が・・・

AIは、誰にも忖度しないから、人間はサルと同じ檻の中へ・・・

それはそれで困るなぁ。

by R.B

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