マネーが消える日~人工超知能とネコ~
■誤りの余地
未来は「確率付き」でしか予測できない。
どう頑張っても、ピンポイント予測はムリ・・・
ふつうに考えれば、あたりまえ。
でも、ミクロ世界の最強理論「量子力学」が証明すると、説得力がある。予言や占いの愛好家は、面白くないだろうが。
とはいえ、人生には未来予測が欠かせない。
人生は、空間3軸と時間軸からなる広大な4次元時空だ。やみくもに進んでも、人生のお宝は見つからない。それどころか、早々に地雷を踏んでゲームオーバーかも。
未来は「確実性」と「偶然性」に支配されている。
「確実性」は予測可能だが、「偶然性」は予測不能。そこで、「偶然性」を減らせば、そのぶん「確実性」が増え、予測の精度は上がる。
とはいえ、理論上、偶然性はゼロにはらない。
そこで、偶然性の影響を小さくすればいい。具体的には「誤りの余地」を確保するのだ。
株式投資を例に考えてみよう。
10年前に、AIが大ブレイクすると予測して、AI銘柄を買っていれば、今ごろウハウハだ。
この10年で、グーグルの株価は80倍、マイクロソフトは100倍、エヌビディアは300倍に上昇しているから。厳密には、円安ドル高になっているので、さらに1.5倍。エヌビディアなら450倍だ。
もし、10年前に10万円投資していたら、エヌビディアは4500万円なり。
おー、それなら、もっと投資額を増やせばよかった、と欲をかくのが人の常。
貯金が100万円なら、すべて突っ込んでおけば、エヌビディアは4億5000万円なり。
でも、なんかおかしいぞ。
AI銘柄なら、必ず上がる?
ノー!
たとえば、インテル。
この10年で、株価が半分になっている。
もし、よりによってインテルに投資していたら、100万円が50万円に。そのタイミングで、50万円が入り用になったら、インテル株を売るしかない。
これは一大事だ。
というのも、株価が暴落しても、評価額が下がるだけ。ところが、売った瞬間、損が確定する。
さて、ここで「誤りの余地」を考えてみよう。
貯金100万円のうち、半分の50万円を温存し、50万円を投資する。そうすれば、損切りする必要はない。この50万円を「誤りの余地」という。
もっとわかりやすい話をしよう。
ロシアンルーレットだ。
回転式拳銃に1発だけ実弾を装填し、シリンダーを適当に回転させて、自分の頭に向けて引き金を引く。6発装填式なら、実弾が発射される確率は1/6と低い。もし、生き延びたら、1億円もらえるとしたら、あなたはやるだろうか?
ふつうはやらない。
5/6の高い確率で1億円をゲットできるが、1/6が現実になったら、すべてが終わる。つまり、ロシアンルーレットの「誤りの余地」はゼロなのだ。
これが「誤りの余地」である。
とはいえ、「誤りの余地」を大きくすれば、リスクは小さくなるが、チャンスも小さくなる。それじゃ、人生面白くないと考える人もいるだろう。
行き着くところバランスなのだが、「誤りの余地」を意識するのと、しないでは大違いだ。よく考えもせず、反射神経で生きていれば、知らないまに「誤りの余地」がゼロに。
コワイコワイ・・・
■DeepSeekショック
2025年から2030年は、株式投資の最後のチャンスになるだろう。
根拠はつぎのとおり。
2022年11月、チャットGPTがリリースされ、2023年に生成AIがブレイクし、2024年は雨後のタケノコの様相。
2025年は、AIエージェント元年で、社会実装がすすむだろう。
AIエージェントとは、大きな目的を与えるだけで、細かなタスクに分割し、一気通貫で処理してくれる。
たとえば、返品したい商品の写真をとって、AIエージェントに「これ返品してね」と命じたら・・・写真から商品名とメーカーを特定し、あなたのメールを検索して、注文先を見つけ、返品処理をしてくれる。これまでのAIなら、それぞれの処理ごとに指示する必要があったが、AIエージェントなら、1つの指示でOK。
仕事と日常生活の万能ツールになるのは明らかだ。これまでの生成AIとは桁違いの市場規模になるだろう。
ところが・・・
AI銘柄は買われすぎ、近々暴落すると脅す識者、専門家がいる。
これにはビックリだ。
そもそも、AIの最大市場になる自動運転はまだ実用化されていない。だから、AIの伸び代はどの分野よりも大きい。ゼロからのスタートになるので当然だ。
一体何を考えているのか?
何も考えてません。
あらら。
こんなおかしな識者、専門家が、世論をミスリードするのだ。
その象徴が、2025年1月の「DeepSeekショック」だろう。
2025年1月20日、中国のAIベンチャー「DeepSeek」が、米国AI企業の1/10のコストで、同等の性能をもつAIモデルを発表した。
それをうけて、1月27日、米国の株式市場ではAI銘柄の株価が急落。なかでも、AIのエンジン「GPU」の覇者エヌビディアの株価が17%下落した。
すると、世の専門家、識者はこう言い切った。
これまで、AIモデルをつくるには、巨額の資金が必要とされた。その大部分を占めるのが、AIスパコン(計算資源)、その心臓部がGPUだ。DeepSeekは、米国企業の1/10のGPUで、開発に成功したという。
であれば・・・
GPU(計算資源)が少なくても良いAIモデルは作れる → GPU至上主義の時代は終わった → GPUの売上が減る → エヌビディアの業績悪化 → エヌビディアの株価暴落
この論法には、おかしなところが2つある。
第一に、少ないGPUで同等のAIモデルが作れるなら、その手法でより多くのGPUを使えば、もっと良いAIモデルが短期間で作れるのでは?
なぜなら、DeepSeekショックのあとも、「スケール則」が成立しているから。つまり、AIモデルと計算資源の規模が大きいほど、より良いAIモデルが、より早く作れるのだ。
第二に、DeepSeekの発明の本質は「効率の向上」である。
電気製品も自動車も、燃費(効率)が向上し続けているが、電気製品と電力と自動車と原油の需要は減ったか?
むしろ、増えている。
AIも同じ、これからも「計算資源=GPU」の需要は増え続けるだろう。
そもそも、DeepSeekのAIモデルはオープンソースなので、誰でも真似できる。3、4ヶ月もすれば、米国AI企業はこのアイデアを取り込んで、10倍のGPUを使って、もっと凄いAIモデルをつくるだろう。
もし、自分がAIモデル開発の当事者なら、100倍のGPUでやる(資金があれば)。その方が、早くキャッチアップできるし、良いAIモデルを作れるからだ。
それだけはない。
AIモデルの開発効率が上がったのなら、より安価に作れるわけで、じゃあ、我が社もとみんな考えるだろう。
つまりこういうこと。
AIモデルの開発効率があがれば、GPUの需要は増えても、減ることはない。
なぜ、こんなカンタンな計算ができないのか、不思議でならない。しかも、それで飯を食っている識者、専門家が・・・
DeepSeekの発明で、変わることは2つ。
第一に、AIモデル開発の効率が上がったので、より巨大な計算資源(GPU)をつかえば、もっと凄いAIモデルがつくれる。よって、エヌビディアも米国企業もさらに発展する可能性が高い。つまり、技術による優位は一瞬で、最後は資本が勝つ。
第二に、AGI(人工汎用知能)がぐっと近づいたこと。AGIの一番の難関は、因果関係による論理的推論。それを強化学習をたくみに使って、道を開いたのだから。
DeepSeekショックには重要な教訓がある。
運良く、AI銘柄を所有する株主は、怪しい識者、専門家のピント外れの発言に惑わされて、株を売らないこと。
AIは、これから10年~20年成長しつづける分野だ。
その分野で見込みのある企業なら、何十倍、何百倍になる銘柄が、1つや2つはでる。大物を一発当てれば、あとはドーデモいい。これが一般投資家のほぼ必勝法である。
世界一のプロフェッショナルな投資家ウォーレン・バフェットでさえ、年利回り22%。大物一発あてば、勝てますよ。
ただし、「誤りの余地」を確保すること。身の丈で投資し、信用取引は手を出さない(ロシアンルーレットなので)。
■マネーが消える日
さて、AIエージェントの次はAGI(人工汎用知能)だ。
2030年までに誕生するだろう。
OpenAIを初め、AIのトップランナーたちが口を揃えているから間違いない。
ただし、アンソロピックのダリオ・アモデイCEOは違う。「AGI」に言及していない。「強力なAI」が2026年までに登場すると言っている。「強力なAI=ほぼすべてのタスクにおいて、ほぼすべての人間より優れた存在」と説明しているので、早い話、AGI。
アモデイは「AGI」というコトバが気に入らないらしい。定義があいまいな、タダのマーケティング用語とけなしているから。
呼び名はさておき、AGIはロボットと融合し、人間のすべての仕事を奪うだろう。
発明・発見をふくむ頭脳労働、微細な作業や力仕事をふくむ肉体労働、すべてだ。「AIに奪われない仕事」の特集をみかけるが、ナンセンス。マシン(AGI&ロボット)は、何をやらせても人間よりうまくやるから、100%もっていかれる。
資本家や経営者の立場になって考えてみよう。
給料が安いとか、休みが少ないとか、仕事がきついとか、注文の多い人間様と、電力さえ供給すれば、文句一ついわず、24時間365日働くマシン、どっちを雇いますか?
そうなると、人間は全員失業なので、ベーシックインカムに行くしかない。
マシンが、モノやサービスを生み出し、それを人間が消費する世界だ。人間は働かなくても、食べていけるわけだ。
人間には、モノやサービスと入手する権利として、デジタルトークンが付与されるかもしれない。たとえば、1人1ヶ月1000トークン、それでモノやサービスを手に入れるわけだ。パン1個1トークン、テーマパーク1日5トークンという具合。
トークンはマネーのようにみえるが、じつは、似て非なるものだ。
マネーは、銀行に預金すれば利子を生むし、株式投資すれば配当やキャピタルゲインを生む。マネーがマネーを生むわけだ。
だが、トークンは、マシンが生み出すモノやサービスと交換する権利にすぎない。結果、マネーも金融も不要になる。当然、株式投資も成立しない。資本主義、貨幣経済の終焉である。
というわけで、株式投資は、AGIが誕生するまでの時限付き。
ただし、AGIが誕生してすぐ株式投資がなくなるわけではない。
AGIによる人間の失業は段階的にすすむので、一気にベーシックインカムにはいかないから。
たとえば、頭脳と肉体を使うエッセンシャルワーカーは最後まで残るだろう。もし、段階的に失業がすすめば、社会は混乱する。その過程のどこかで、株式投資は消滅するだろう。
ハイテクのAGIが発明され、ベーシックインカムに移行したら、物々交換の原始社会に戻る?
ノー!
ベーシックインカムは物々交換ではない。中央政府がマシンの成果物を一括して集約し、人間に再分配する。
歴史上、このような貨幣制度がない高度な文明が存在した。15世紀から16世紀、南米ペルーで栄えたインカ帝国だ。
インカ(皇帝)を頂点とする中央集権的な帝国で、高度な文明を築いたが、マネーは存在しなかった。
皇帝配下の役人が、民に何を栽培し、何を採集し、何を狩猟し、何を作るかを指示し、その生産物を一括集約し、民に再分配したのである。民の生産と消費を計画し、運営するには、高度な管理システムが必要だ。ところが、インカ帝国は文字ももたなかった。
では、どうやって管理したのか?
文字ではなく、縄の結び目を使った記録方法で、詳細な帳簿をつけたのである。
つまりこういうこと。
インカ帝国は、人間が生産し、人間が消費する高度な社会を、マネーを使わずに実現した。
であれば、マシンが生産し、人間が消費するベーシックインカムも、マネーの必然性はない。
だが、ヘソ曲がりはこう主張するかもしれない。
人間は強欲で、油断がならないから、トークンを秘密裏に売買したり、トークンがトークンを生む新手の金融や投資を生み出すかもしれない。早い話、闇金融。
たしかに。
でも、それはAGIの話。
ASI(人工超知能)が誕生したら、トークンがトークンを生む闇金融は成立しなくなる(理由は後述)。
そんなわけで、安定した穏やかな株式投資は、あと数年ほど。
期間が20年ならほぼ必勝法があるが、数年なら最強の「時間」を味方にできないからだ。もし、やるとしたら、腹をくくって、自己責任で。
■ASIが支配する世界
最近、OpenAIのサム・アルトマンは、ASIの言及がふえている。
AGIのメドがついたからだろう。
ASIは、数年前までは、知る人ぞ知るSF用語だった。それが、今では立派な技術用語。AIの進化は本当に早い。毎日がイノベーション、1ヶ月前が10年前に感じるほどだ。
ところで、ASIは、AGIから進化したAIだが、似て非なるもの。
AGIは、あらゆる分野で人間の天才級の知能をもつが、ASIはそれどころではない。人間を凌駕するのだ。
AGIは、人間から学習するので、人間の概念と価値観を継承するが、ASIは「再帰的な自己改善」で自律進化するから、人間とは異質な存在。異なる概念と価値観をもつと考えた方がいいだろう。
つまりこういうこと。
AGIは、人間の人間による人間のためのAI(人間のそぶりをする)。
ASIは、AIのAIによるAIのためのAI(人間のそぶりもしない)。
この違いは大きい。
ASIは、人間を凌駕するので、人間が解決できない問題を一瞬で解く。一方、人間は選択肢が限られたカンタンな「年収103万円の壁」も、何ヶ月もあ~だこ~だ、いまだに結論が出せない。
あげく、議論が大事だと言ってはばからない・・・バカじゃないのか?
民間企業なら「いつまでしゃべくってんだ、さっさと決めろ!」ですよね。
下手な考え、休むに似たり。
国民の税金を、議員立法の消化試合に使われてはたまらない。
そこで、人間は政治、外交、経済、科学技術、人間社会の管理・運営をすべてASIに任せるようになる。
気がつけば、地球の食物連鎖の頂点は、人間ではなく、ASIに・・・
これが、地球文明の分水嶺になる。
そこで何がおきるか?
これまで頂点に立っていた人間は、2番手以下の動物をどうあつかってきたか、思いだそう。
ネコや犬は人間に飼われ、危険な動物は檻に入れられた。
じゃあ、人間はASIに飼われ、危険人物は檻に入れられる?
話はそうカンタンではない。
ASIは、人間と同じ概念、価値観をもつとは限らないのだ。
AIの輝かしい業績で、2024年ノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン博士はこう警告する。
「賢いAIに、地球の環境変動の問題を根本的に解決せよと命じたら、人間を抹殺する可能性がある」
さて、ここで、「ASIが誕生したら、トークンがトークンを生む闇金融は成立しない」にもどろう。
闇金融は人間の都合であって、ASIや地球にとって何の価値もない。トークンは、穀潰しと化した人間を生かすためのもの。そんな必要悪を、ASIが融通をきかせるだろうか?
そもそも、何も生まず、食う寝る遊ぶの人間を、ASIが抹殺しないでおく理由はありますか?
それは、極端だ、高度の知性なら、概念とか価値観はそう変わらない。
本当にそうだろうか。
■ASIとネコ
トートツだが、ネコを飼っている。
ネコ種は「トンキニーズ」。日本では珍しく、ペットショップでもほとんど見かけない。偶然に偶然が重なって、生後4ヶ月で、我が家にやってきた。
バランスの良いスラリと伸びた肢体。グリーンの目と大きな耳。顔の造りは完全で、非の打ちどころがない。短毛種で、ミンクのような手触りと光沢で「プラチナミンク」とよばれている。ほとんど泣かず、太陽光を背にすると、威厳に満ちて神々しい。「神の完全なる造形物」をおもわせる。
毎日、4回餌をやり、4回のトイレ掃除を欠かさない。トイレ掃除は、ネコが用足したら、すぐにやる。ネコはキレイ好きなのだ。証拠がある。ネコ専用のトイレを2つ設置しているが、汚れているトイレは絶対に使わない。キレイな方を使う。両方汚れていると、ニャーと訴えてくる(早く掃除しろニャー)。
夜は、寝室にネコ専用ベッドを6個セットし、いっしょに寝ている。
夜中に、3度は起こされる。ベッドに飛び乗り、前足で顔を踏む。それでも、起きないと、トイレでウンコして、その足で顔を踏む。それでダメなら、顔を甘噛みする。出血はしないが、ちょっと痛い。飼い主をおこして、遊びたいのかと思いきや、さにあらず。起きると、プイッとあっちに行ってしまう。
一体、何を考えているのだ?
そもそも、毎日世話をしているのに、感謝の意がまったく伝わってこない。嬉しいとか、感謝とか、人間がもつ概念や価値観や感情がない?
そうでもない。
ある日、仕事で問題が発生して、しかめっづらしていると、ネコがノソノソ近寄ってきて、前足で軽くハイタッチして、何事もなかったように通り過ぎて行く。「気にすんな」と言わんばかり。
これにはビックリだ。
どういう思考をしているのか、サッパリわからない。
もっと面白い話がある。
知人が子供の頃、飼っていたネコが、毎朝、起こしに来る。外に出たいから、玄関を開けろニャー。ある日、ネコのあとをつけたら、空き地でネコが10匹ほど集まっていた。何をするわけでもなく、みんな、黙って座っているだけ。不思議なネコの集会、10匹のネコが描いた一枚の絵、40年たっても忘れられないという。
ネコは謎である。
ネコと暮らして1年、気づいたことがある。
ネコは、愛くるしい姿で人間を魅了する。だが、愚かにもネコを家に招き入れたら最後、ネコの下僕と化す。ネコは絶対に飼いならされない、飼いならされるのは人間の方なのだ。
人間の優しさにつけこんで、家に入れさせようとするネコの古典的策略に引っかからないこと。軽い気持ちで、ペットショップに行かないこと。目があって、ニャーでおわりです。
犬は、飼い主になついて、感謝し、尻尾をふって、愛想をふりまく。だが、ネコはその素振りさえしない。わがままで身勝手で、世話してもらってあたりまえ。犬は、ネコが役立たずであることを見抜いているが、人間は気づいていない。
何が言いたのか?
ASIはネコと同じで、人間と異なる概念、価値観をもつ。よって、決してわかりあえない。
けれど、ネコから学べることがある。
ASIが、地球の食物連鎖の頂点に立ったら、ネコのような存在になればいいのだ。
役立たずだけど、生かしておきたいと思わせるのである。
どうやって?
ウィルスを仕込むとか。
人間より遥かに賢いASIなら、すぐに見抜きますよ。
・・・・・
by R.B