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週刊スモールトーク (第146話) クラウドの未来~スカイネット人類滅亡の序曲~

カテゴリ : 科学終末

2010.08.29

クラウドの未来~スカイネット人類滅亡の序曲~

■サラ・コナークロニクルズ

「ターミネーター」のTVドラマ版「サラ・コナークロニクルズ」は映画より面白い。

元々、海外ドラマは長尺なので、作り手の”思い”を入れやすい。なので、うまく作れば、映画よりずっと深い感動が得られる。「サラ・コナークロニクルズ」はテレビ界のキング「FOX」が、2008年に放映したSFドラマだ。記録的な視聴率でスタートしたものの、第2シーズンでコケ、第3シーズンは幻と消えた。同じFOXのSFドラマ「フリンジ」、「LOST」ほどのインパクトはないが、ちょっと屈折したところがあって面白い。それにしても、最終回であれだけ盛り上げておいて、そのまま打ち切りはないだろう。

「サラ・コナークロニクルズ」のあらすじは、映画「ターミネーター」を継承している。サイバーダイン社の技術者ダイソンが開発した技術は、未来で「スカイネット」へと進化していた。「スカイネット」とは自我を持つコンピュータで、ロボットをあやつり、人類の抹殺をもくろむ。そのスカイネットと戦う抵抗軍のリーダーがジョン・コナーズだ。そこで、スカイネットは、ジョンの母サラ・コナーズ、次に、ジョン自身を抹殺するため、過去にターミネータを送り込んだ・・・これが映画版。

「サラ・コナークロニクルズ」はその後の話。ジョンとサラは平和に暮らしていたが、未来から新たなターミネーターが送り込まれる。そして、今度は2人を守る戦士も・・・ジョンの伯父デレク・リースと、美少女ターミネーター・キャメロンだ。キャメロンは高校生のようなあどけない顔をしているのに、鋼鉄をもひん曲げる。ビニール人形のような華奢な身体で、屈強な大男を投げ飛ばす様は、観ている者の頭を空っぽにする。「サラ・コナークロニクルズ」の本当の主人公はキャメロンかもしれない。

ところで、ロボットやコンピュータが自我をもち、無能で怠惰な人類を滅ぼすネタは、今ではゼンゼン珍しくない。それに、ほとんどの人はこう思っている。「コンピュータが暴れたって?コンセントを抜けば?」なるほど、ごもっとも。さらに、もっと物知りの人ならこう思うかもしれない。「コンピュータが知能を持つ?ムリムリ。今のノイマン型コンピュータでは構造的にムリ」ふんふん、ごもっとも。さて、「コンセントを抜く」アイデアは悪くはないが、もうすぐ無効になる。電源供給システムまでコンピュータの管理下に入るからだ。そうなれば、コンピュータの暴走を止めるには、丸ごと破壊するしかない。ここまでくると戦争・・・そう、これが映画・ドラマの「ターミネーター」の世界なのだ。

また、「ノイマン型コンピュータが知能を持つのはムリ」はたぶん当たっている。人工知能など知らなくても、熟練プログラマーならピンとくるはずだ。「ノイマン型コンピュータ」は単純で、その単純さが積み上がって複雑に見えているだけ、知能の複雑さとは異質のものだ。異形のコンピュータ「チューリングマシン」を考案したアランチューリングは、「プログラムの実行結果を、事前に予測する普遍的なプログラムは存在しない」を数学的に証明した。この証明が意味するところは、「プログラムを読んで理解できる普遍的プログラムは存在しない」つまり、プログラムの正体を知るには実行してみるしかない(ウィルスだったら困るけど)。

一方、人間は、思考手順(プログラム)をそのまま理解することができる。「知能」の本質は、たぶんココにある。今のコンピュータは、計算力と記憶力では人間を圧倒するが、「自発的に思考する」のはムリ。仮に、そう見えたとしても、「知能をシミュレーション(真似)している」に過ぎない。究極のチェスゲームで、天才カスパロフを破ったディープブルーのように。第一、我々は人工知能の分野で、国家レベルの失敗を犯している。

1982年、まだ日本が青春時代だった頃、(財)新世代コンピュータ技術開発機構(ICOT)が創設され、世界初の人工知能をめざした。夢のような「第5世代コンピュータ」が喧伝され、マスコミも大騒ぎしたが・・・10年経っても何も起こらなかった。そう、本当に何も起こらなかったのだ。やっぱり、人工知能はムリ?いや、じつは、もっと巧妙な手がある。「人間の脳の仕組みを、プログラムに置き換える(人工知能)」のではなく、「脳をそのまま、他の物質にコピーする(脳のデッドコピー)」これなら、まがいものの人工知能(AI)など不要だ。現実の問題はさておき、理論的には可能?

じつは、冒頭で「サラ・コナークロニクルズ」を引用したのは理由がある。ドラマの中で、機械の未来を示唆する意味深なセリフがあるからだ。主人公のジョンがつぶやく、「ロボットが自分自身を改良できるようになった瞬間、人類は滅びる」じつは、「道具を使う」動物は人間だけではない。ところが、「道具を改良する」のは人間だけ。そして、この「道具の改良」こそが前頭葉の証し、人間が食物連鎖の頂点に立った理由なのである。

■地球の支配者

地球は弱肉強食の世界、強者が弱者を食い、それをさらに上位の強者が食う、そんな連鎖の中で成り立っている。そして、「地球最強」は時代とともに移り変わってきた。

では、「地球最強を決める因子」は何か?地球46億年の歴史をみれば・・・肉体力。その究極の解が「恐竜」だった。中でも最強のティラノサウルスは、体長11~13m、体重は5~6t。背丈がビル3階、重さが自動車5台分の生き物がうろつくわけだ。さらに、アゴには20センチ近い鋭い歯が並び、他の恐竜を骨ごとかみ砕いていたという。信じられないほどの肉体力。

ところが、地球に巨大隕石が衝突した後、巨大生物も巨大遺伝子も消滅してしまった。つまり、「地球最強を決める因子」は「最強の肉体」ではなかった。また、恐竜の時代、異次元の因子をもつものも現れた。プテラノドンだ。この空飛ぶ恐竜は、大地という2次元世界を超え、3次元世界を利用した生物だった。空を飛んでいる限り、ティラノサウルスに噛みつかれる心配はない。とすれば、「強者の因子」に「空間利用」も付け加えねばならない。さて、巨大隕石が地球に衝突し、大型生物が死滅したおかげで、我らが先祖「ほ乳類」が地上に出ることができた。

以後、この軟弱な種は恐竜とは別の進化を歩むことになる。「肉体力」ではなく「脳力」。この不思議な能力は、これまでとは異質のパワーを生んだ。自らの肉体ではなく、道具の力を利用すること。人間はこの新しい力によって、地球の食物連鎖の頂点に立つことができたである。しかし、真に重要なのは、道具を”使う”ではなく”改良する”こと。地球上で、この能力を持つのは、人間だけ(今のところ)。そして、驚くべきことに、人間は、「石斧」を「原子爆弾」まで改良したのである。これだけ見れば、人間の地球支配は安泰のようにも見える。

だが、6500万年前の恐竜もそう思ったに違いない。人間社会で、「道具の改良」の突破口を開くのは天才の役目だ。彼らは天から降ってくる神のメッセージを受信できる。それがインスピレーションだ。結果、画期的な発明が生まれる。とはいえ、天才もしょせんは有機体、死はまぬがれない。つまり、道具の改良には終わりがあるのだ。ところが、人間はそれをおぎなう方法を発明した。文字である。この「記録」手段によって、道具の改良は、次の世代に引き継がれてきたのである。ここで素朴な疑問がわく。「人間も道具か?」である。もし、人間も道具だとしたら、人間自身も改良できるのだろうか?もちろん、筋トレや脳トレのような”ぬるい”ものではなく、「石斧」→「原子爆弾」のような革新的な大改良である。現在の技術でも、人間を改良することは可能だ。設計図であるDNAを書き換えればいい。

今後、遺伝子治療は本格化するだろうし、それによってガンも克服されるだろう。長寿命がもたらす年金問題はさておき、喜ばしいことだ。一方、頭のイカれたマッドサイエンティストがDNAをいじくりまわし、人間より優れた生物を創造するかもしれない。どちらにせよ、「自己の改良」は「道具の改良」よりはるかに強力だ。じつは、この機械バージョンが「ターミネーター」の「スカイネット」なのだ。もちろん、これはSF。だが、現実世界もそれに近づいているとしたら?たとえば、今後20年、ITのキモとなる「クラウド・コンピューティング」。

■クラウド・コンピューティング

2010年現在、日経新聞には毎日のように「クラウド」の記事がのっている。さらに、アメリカ調査会社ガートナーによると、2010年のIT市場の伸び率は5%なのに対し、クラウドは17%。まさに、「IT=クラウド」先日、クラウドのセミナーに行くと、会場は酸欠状態だった。クラウド技術で延命をもくろむテッキー(技術屋)、儲け話と信じ込んだスーツ、ただの新しいもの好き・・・などなどセミナーの主催者が知り合いだったので、少し話を聞いた。彼曰く、「まさか、満席になるとは思わなかったですよ」「商売繁盛?」「はぁ?こんなもの、カネになるわけないですよ」しかり。

この社長は、クラウド開発を前面に出しながら、プログラマーの派遣で食っている。このセミナーで強調されたのは、クラウド・コンピューティングの夢のような話、

1.安くつく

2.すぐに使える

3.拡張性が高い

4.維持と管理が楽ちん

真っ赤なウソとは言わないが、クラウドは決して「銀の弾丸」ではない。これまで、コンピュータで仕事をするには、それなりのパソコンを買い、ソフトをインストールする必要があった。ところが、クラウドなら、チープなパソコンをインターネットにつなぐだけ。必要なハードもソフトも、すべてインターネットの雲(クラウド)の中にある。自分で用意する必要はない。使いたい時、使いたい機能を使って、使用料を払うだけ

クラウドのメリットはそれだけではない。業務が増えても、パソコンやソフトを買い換える必要はない。用途に応じたサービスに切り替えるだけでいい。つまり、拡張性が高い。しかも、ソフトのバージョンアップも自分でシコシコやる必要はない。いつでもどこでも最新のソフトが使える。維持管理が楽ちん、というのはこれ。しかし・・・「1.安くつく」はちょっと怪しい。何をするにも、通信回線の使用料がかかるからだ。

それがイヤなら、社内にクラウドをもつ「プライベート・クラウド」というのもある。コンピュータ(サーバー)を社内に置くので、回線使用料は不要。反面、ハードもソフトも自前なので、初期コストは高くつく。ただし、社内であまっているパソコンをかき集めて使えば、安くあがる(今後普及するのでは?)。今後は、本家クラウドの「パブリック・クラウド」と、ローカルな「プライベート・クラウド」のすみ分けが進むだろう。だが、こんなこと、大した問題ではない。一番の問題は、クラウドの利便性に隠れたテクノロジーの危険性だ。

「クラウド・コンピューティング」で生計を立てているわけではないので、詳しいことは分からない。だが、分かっていることもある。クラウド・テクノロジーのキモは「仮想技術」だから?仮想技術なんて、昔からあるし、一体何のキモ?ターミネーターのスカイネット、つまり人類滅亡のキモ・・・さて、頭がヘンだと思われる前に、クラウド・テクノロジーの危険性に話を進めよう。今では、写真の編集も保存もインターネットでできる。自分のパソコンに、編集ソフトや写真をおく必要はないわけだ。インターネットブラウザーを起動し、サービスにアクセスするだけ。これも立派なクラウド。ただ、自分が使っているソフトや写真がどこにあるか分からない。無数のコンピュータが群がるインターネット空間のどこかにあるはずだが・・・だから、クラウド(雲)

インターネットは、無数のコンピュータに、無数のユーザーがアクセスするダイナミックな情報空間だ。目的は、ウェブサイトの閲覧、趣味、ゲーム、ビジネス、エコポイントの管理まで・・・やがて、ITのほとんどがインターネットに取り込まれるだろう。ところで・・・無数のアクセスを無数のコンピュータに振り分けているのは誰?何万台、何十万台もあるコンピュータの稼働状況を調べ、効率良く仕事を割りふる・・・そんなこと、人間ができるわけがない。じつは、これもコンピュータがやっている。ここで、へぇすごいね、で聞き流すのは、ちょっと危険。背後に、人工知能より恐ろしい「仮想技術」が潜んでいるからだ。

■仮想技術

最近、ほとんどの会社がウェブサイトを立ち上げている。

たいていは、レンタルサーバーを利用しているが、選択肢は大きく2つある。1.共有サーバー(複数のウェブサイトが1台のコンピュータを共有)2.専用サーバー(1つのウェブサイトが1台のコンピュータを占有)共有サーバーは、1つのコンピュータを複数のコンピュータに見せかけている。1台のリアルなコンピュータ上に、複数の仮想コンピュータが存在するイメージ。これで、複数のウェブサイトを1台のコンピュータで実現できるわけだ。原始的な「仮想技術」の一つといえる。

もう1つの「仮想技術」はその逆。つまり、複数のコンピュータを1つのコンピュータに見せかけること。具体的には、複数のリアルなコンピュータをつなぎ、一つの仮想コンピュータを構成する。さて、この「仮想技術」が進化していけば、リアルなコンピュータ、つまり、コンピュータの実体は重要ではなくなる。リアルなコンピュータは部品に過ぎず、処理の主体は、仮想コンピュータになるからだ。

その結果、未来のクラウドは・・・「仮想技術」が進化し、やがて、「動的スーパー仮想技術」が生まれる。その実体は、

1.1億台を超えるリアルコンピュータ(コンピュータの実体)が接続される。

2.リアルコンピュータ群から、変幻自在に仮想コンピュータが現れては消える。

3.ある時は、1兆台の仮想コンピュータ。

4.ある時は、1台の仮想コンピュータ。

まるで生物だが、仮想コンピュータを創造しているのがコンピュータ自身である点に注意が必要だ。つまり、コンピュータが、状況や目的に応じ、自己を改変しているこれは、「道具の改良」より上位の「自己の改良」を意味する。食物連鎖の頂点に立つ人間でさえ、まだ実現できていないのに。地球上に初めて出現した「自己改良型の種」と言えるかもしれない。シリコン生物、機械生物と言うべきだろうか?さて、ここで、「進化論」の提唱者チャールズ・ダーウィンの言葉を思いだそう。強い者が生き残るのではなく、環境に適応した者が生き残る。これは、クラウドの恐ろしい未来を暗示している。

今、IT業界では、「やがて、コンピュータは世界で5台になる」というウワサがある。Google、Amazon、MSN・・・クラウド・コンピューティングを推進する大手のコンピュータ群に集約されるというのだ。つまり、地球全体が、たった5台のクラウド・コンピュータで管理される。象徴的だし、マスコミが乗りやすいネタだが、正確とはいえない。正しくは、「コンピュータは世界で1台になる。ただし、状況に応じて、1兆台にもなる」

■クラウドがスカイネットになる日

クラウド・コンピューティングの仮想技術は、「環境に合わせ、自己を改変する」を意味するが、これはダーウィンの「環境に適応した者が生き残る」に通じる。つまり、進化論的には、クラウド・コンピューティングは人類を脅かす存在になりうるのだ。クラウドにはもう1つ脅威がある。世界中とつながっていること。

もし、10億台のリアルコンピュータが1台の仮想コンピュータに変身し、反人間的な意識をもったとしたら・・・もう、誰にも止められない。このSFバージョンが、スカイネットなのだ。人類を食物連鎖の頂点から引きずり下ろすのは、クラウドかもしれない。今は、犬のように忠実だが、突然変異で危険な「意識」が生まれるかもしれない。その突然変異を引き起こすのはネット上のウィルスかもしれないし、イカれたマッドサイエンティストかもしれない。リアル世界でも、ウィルスは他の生物の突然変異を引きおこしているのだから。

さて、条件付きではあるが、人間も自己を改良することはできる。しかし、DNAを操作して、タンパク質を生成し、実体に反映させるには時間がかかる。ところが、コンピュータなら一瞬だ。この差は大きい。これまで我々は、人類を滅ぼすのは「知能」を獲得した機械かもしれないと考えてきた。だが、それは間違いかもしれない。機械が人類を滅ぼすのに、「知能」、つまり、詩や文学を理解する必要はないのだ。クラウドのコワイ未来・・・クラウドは「動的スーパー仮想技術」を獲得し、自己を改良しながら進化していく。無数の突然変異を繰り返し、やがて、反人間的な意識が生まれる。この新種は、ターミネーターのスカイネットのように、文学や詩は理解できないが、人間社会を破壊することはできる。もちろん、現実では、美少女ターミネーター・キャメロンが助けに来ることはない。

生物の本質は「個体」ではなく「DNA」にある。設計図のDNAを元に「個体」を生成し、「個体」の自然淘汰により、DNAの優劣を決めるからである。もちろん、この仕掛けには「個体」の死が必要だった。地球の資源には限りがあり、収容できる「個体」の数も限られるから。ところが、クラウドから進化したスカイネットは、個体の”誕生”も”死”もない。DNAと個体が一体化し、半永久的に自己改良を繰り返すだけだ。もちろん、リアルコンピュータを製造したり、廃棄したりする作業用ロボットも必要になるだろう。

いずれにせよ、ここまでくると、「ターミネーター」の世界そのもの。使い古されたSFネタだが、地球の次の支配者は「自己改良型の機械」かもしれない。そして、その起源となるのがクラウド・コンピューティング・・・クラウドが、スカイネットに変異しないよう祈るしかない。

by R.B

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