大発明の2023年(1)~ChatGPT~
■大発明の年
2023年は、後世「大発明の年」とよばれるだろう。
50年に1度の大発明が、2つも生まれたのだ。OpenAIの人工知能「ChatGPT」と、アップルの空間コンピュータ「Vision Pro」だ。
まずはChatGPTから。
人類が50年間待ち望んだ、本物のチャットボットがついに実現した。
チャットボットとは会話するAIで、元祖は57年前にさかのぼる。1966年、ジョセフ・ワイゼンバウムが「ELIZA(イライザ)」という自然言語処理プログラムを書いたのだ。アルゴリズムは単純なパターンマッチングで、ハードウェアも貧弱だったから、実用にはほど遠かった。
一方、ChatGPTは人間より巧みに言葉を操る。
会話、翻訳、文章の作成・校正・要約、さらにプログラミング・・・言葉を使って言葉で完結するなら何でもできる。史上初の実用レベルの自然言語処理AIと言っていいだろう。
ChatGPTは、2023年初頭、いきなりブレイクした。
公開後わずか2ヶ月で、アクティブユーザーが1億人に達したのだ。ツイッター、インスタグラムをこえて、史上最速。
話題性だけではない。その4ヶ月後、実体経済にも波及した。大手半導体メーカーのエヌビディアが、驚異的な決算を発表したのだ。
上場企業は、1年を4期に分けて決算発表する。これを四半期決算という。最初の四半期は第1クォーター(1Q)、つぎに第2クォーター(2Q)、第3クォーター(3Q)とつづき、最後は第4クォーター(4Q)だ。
エヌビディアの1Q(2023年2~4月期)は、前4Qと比べ、売上高は19%増で、利益は70%増。
しかも、2Qの売上高見通しは、なんと50%増。利益ではなく、売上高であることに注目。規模の小さなベンチャーならともかく、大手企業で50%増収はありえない。
そのためか、エヌビディアの株価はこの半年で3倍に急騰している。
日本の銀行利息は、1年で0.001%なんですけど。
銀行に預けるより、エヌビディアに預ける方がいいですか?
2年前、このサイトで「AIのおすすめ株」を紹介したけど、これを信じて株を買った人は、コーヒーごちそうしてくださいね。
■ChatGPTとエヌビディア
ところで、ChatGPTがブレイクしたら、なぜ、エヌビディアが儲かるのか?
ChatGPTを開発したのはOpenAIですよね。
風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる・・・風が吹けば、土ほこりが舞い、目に入って、盲人が増える。盲人は三味線を生業にするので、三味線の需要が増える。三味線には猫の皮が欠かせないので、猫が減って、ネズミが増える。ネズミは桶をかじるので、桶の需要が増える、というわけ。
いえいえ、そんな難しい話ではないです。
ChatGPTを動かすには、巨大な専用コンピュータが必要だ。その「心臓と肺」を握るのがエヌビディアなのである。だから、ChatGPTの稼働が増えると、専用コンピュータの需要が増え、エヌビディアが儲かるわけだ。
でも、コンピュータメーカーや半導体メーカーはたくさんあるのに、なぜエヌビディア?
ここを押さえると、株式投資に有利になるので、詳しく説明しよう。
ChatGPTは、言語を学習する「トレーニング」と、言語を操る「推論」の2つのフェイズで成り立っている。
この2つのフェイズは、行列の計算のカタマリだ。行列とは、複数の変数データを一括で扱う方法。その計算に、エヌビディアの半導体「GPGPU」が欠かせないのだ。メディアはこれを「GPU」とよんでいるが、本当は間違い。「GPU」はグラフィック処理専用ユニットで、AIなどの汎用計算に使うのは「GPGPU」です。
さて、ここまでは、並の投資家ならみんな知っている。彼らを出し抜くためには、さらに深掘りしないと。
ChatGPTは、まず、テキストを言葉の最小単位「トークン」に分割する。ここで「トークン≒単語」と考えていい。たとえば、トークンが「私」、「は」、「人間」、「自動車」・・・全部で5万個あるとする。その場合、1つのトークンは5万個の要素をもつベクトルに変換される。
というのも、このベクトルは、それぞれのトークンに対応する要素だけ1で、残りの要素はすべて0。そのため、5万個の要素が必要なのである。これを5万次元の「行ベクトル」という。
では、ChatGPTはどうやって文章を作るのか?
人間式に言葉を理解して、作文しているわけではない。次に来るトークンを予測して、文章をつないでいるだけ。
たとえば・・・「私」のつぎに「は」が来る可能性が高い。さらに「私は」のつぎは「人間」が来る可能性が高い。「自動車」はまず来ないだろう。つまり、GPTは、つぎに来るトークンを計算で予測しているのだ。
ただし、データを集計して、「私は」のつぎに来るのは「人間」が一番多い・・・なんて単純な多数決で決めているわけではない。文脈も考慮した非常に複雑な処理をしている。つまり、ChatGPTは「コンピュータ式」に言葉を理解しているのだ。
ところが、ここが理解できない識者や投資家は、こう考える。ChatGPTは人間のように言葉を理解できないから、ニセ知性である。
これは完全に間違っている。
自然言語はそんな単純なものではない。ChatGPTの挙動を観察していると、自然言語の「未知の原理」に気づいたフシがある。
たとえば、自動翻訳。
完全に実用レベルに達しているが、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語だけでなく、系統の違う日本語も難なく翻訳する。
なぜか?
AIは、すべての言語に共通する「中間言語」を見つけた可能性が高い。それを使って、効率的に翻訳しているのだろう。人間が気づかないうちに、AIが「自然言語の原理」を見つけていたら?
ChatGPTはニセ知性どころではない。
すでに、人間の知性を超えたかもしれないのだ。もしそうなら、人類史上最大級のイノベーションで、人類文明を根底から揺るがすだろう。
ただし、ChatGPTは万能ではない(今のところ)。
入力の長さが制限されているのだ。無制限にすると、データが無限になり、処理しきれないから。
たとえば、ChatGPTのGPT-3モデルは「2048」トークンに制限されている。もし、2048個のトークンが入力されると、このテキストは、2048個の5万次元の行ベクトルに変換される。つまり、2048列×5万行の巨大行列だ。これを言葉の符号化という。つぎに来るトークンを予測するために、こんな膨大な計算をしているのだ。
たとえば、2048列×5万行の行列なら、単純に2048列×5万行=1億240万回の計算が必要になる。もし、並列計算ができれば、計算速度は劇的に向上する。1度で10回の計算ができれば、計算速度はほぼ10倍だ。それを実現したのが「GPGPU」なのである。
ChatGPTは、トレーニングも推論も、おうちのパソコンではできない。計算量が膨大すぎるのだ。
そこで、複数のGPGPUを搭載したサーバーを多数連結して、データセンターを構築している。その巨大コンピュータで、ChatGPTを動かしているわけだ。実際は、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」が使われている。つまり、ChatGPTは高度なソフトウェアだが、設備産業の側面も持つわけだ。
つまりこういうこと。
AI専用コンピュータの実体は「GPGPU」。その90%のシェアを握るのがエヌビディアなのだ。つまり、エヌビディアはChatGPTの「心臓と肺」。だから、ChatGPTの需要が増えれば増えるほど、エヌビディアのフトコロも潤うのである。
簡単な計算をしてみよう。
2023年、マイクロソフトとエヌビディアは、AIに特化したクラウドコンピュータを構築すると発表した。このコンピュータには、エヌビディアの最新GPGPU「Hopper H100」が数万基搭載される。
H100は1基500万円なので、エヌビディアの取り分は・・・
500万円×数5万基=約2500億円ナリ
エヌビディアさん、濡れ手に粟ですよ。
もし、半年前、ここに気づいて、エヌビディアの株を買っていたら、今は3倍。
ということで、AIの投資は、テクノロジーを深掘りするのコツだ。そうすれば、一般の投資家より、早く気づき、そのぶん、安く買える。
「株式投資のパーフォーマンス=売値÷買値」をお忘れなく。
■ChatGPTとマイクロソフト
ChatGPTの恩恵をうけるのは、エヌビディアだけではない。
ハードウェアがエヌビディアなら、ソフトウェアはマイクロソフトだろう。
でも、ChatGPTを開発したのはOpenAI?
イエス。
だが、両社の間には複雑な契約があるようだ。
情報筋によると、マイクロソフトのOpenAIへの出資額は100億ドル(約1兆4000億円)。さらに、マイクロソフトは出資を回収するまで、OpenAIの利益を75%取得する。投資が回収できた段階で、マイクロソフトがOpenAIの株式49%、他の投資家が49%、そしてOpenAIの親会社が残りの2%を保持するという取り決めがあるという(公式発表ではない)。
マイクロソフトが、OpenAIの実権を握っていることは明らかだ。
動かぬ証拠もある。
ChatGPTの基盤(心臓)となるのが、大規模言語モデル「GPT」だ。その独占使用権をマイクロソフトが握っているのだ。そのおかげで、マイクロソフトは最新バージョンの「GPT-4」を、自社のブラウザのEdge、検索エンジンのBing、ワード、エクセル、パワポなどのOffice、さらにWindows本体にも組み込もうとしている(一部実装済み)。こんなことができるのはマイクロソフトだけだ。
というわけで、ソフトウェア業界は不穏である。
そんなおり、マイクロソフトのナデラCEOはこんな発言をした。
「AIによって、すべてのソフトウェアカテゴリーを再構築する」
行間を読むと・・・
「AIで、すべてのソフトウェアを作り直す。AIを握るのはマイクロソフトなので、すべてのソフトウェアは我々が支配する」
早い話、マイクロソフトによるソフトウェア独占だ。
20年前、マイクロソフトは、MS-DOS、WindowsでOSを独占し、Officeをはじめ主要なアプリを独占した。だが、今回の独占は次元が違う。
スケールが大きすぎて、にわかには信じられないが、現実になる可能性がある。
なぜなら、マイクロソフトのトップは、ビックテック(巨大IT企業)の中で最強だから。
ナデラCEOは、歴代のマイクロソフトのCEOの中でも、ズバ抜けて優秀だ。未来を正確に見抜き、素早く決断し、実行する能力をもつ。1兆円を超えるOpenAIへの出資も決断したのも、ナデラCEOだ。運に恵まれて大成した初代ビル・ゲーツ、体育会系で鳴かず飛ばずで終わった2代目スティーブ・バルマーとは大違いだ。
しかも、ナデラCEOは賢く、用心深く、スキがない。
独占の批判もかわそうとしている。
ChatGPTが、他社も利用できるようにAPIを公開したのだ。APIは、ChatGPTのようなコアソフトとアプリをつなぐインターフェイスだ。このAPIを使えば、誰でもChatGPTを利用できる。
ただし!
ChatGPTは、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」でしか利用できない。もちろん、有料だ。つまり、他社がChatGPTを使えば使うほど、マイクロソフトは儲かる。
一挙両得じゃん!
ただし、マイクロソフトは責められない。これが今どきのビジネスモデルなのだ。悪しきサブスクもその一つだ。
■ChatGPTが生む巨大市場
50年に一度の大発明「ChatGPT」は、文明を発展させ、人々の暮らしを豊かにするだろう。
一方で、ChatGPTは、人間の知的労働を奪う。かつてない規模で、失業者が街にあふれるだろう。
ChatGPTの基盤「GPT」から派生したのが、生成AI(ジェネレーティブAI)だ。文章、画像、映像、サウンド、ボイスを創る新種のAIで、巨大なアプリ市場を生むだろう。かつて、MS-DOSやWindowsが、巨大なパソコンアプリ市場を生んだように。
一方で、生成AIアプリは、簡単に作れるので、血で血を洗うレッドオーシャンと化す。さらに、アイデア勝負で、次々と新しいアプリやサービスが登場する。いわば「飛び石」ビジネスだ。乗っている石が沈む前に、次の石に飛び移るしかない。
というわけで、末永くガッポリ儲かるのはエヌビディアとマイクロソフトだけ。
なぜなら、AIビジネスは、プラットフォームが頭と胴体で、アプリは尻尾だから。もちろん、頭と胴体はエヌビディアとマイクロソフトがとり、尻尾はその他大勢が分け合う。
そんなカラクリが丸見えで、実業への興味がすっかり失せてしまった。
残されたのは投資しかない?
7年前にエヌビディア、半年前にマイクロソフトの株を買ったが、元金が小さいので、爆上げしても、人生は変わらない。1泊2日の小旅行を楽しみにする今日この頃だ。
なんか、虚しい。
そんなおり、2023年6月、第2の大発明が発表された。
AIで出遅れたアップルが、空間コンピュータ「Vision Pro」を発表したのだ。
これは、タダのVRやARではない。パソコン、スマホに続く第3世代のプラットフォームになる可能性がある。新しいプラットフォームは、並みのイノベーションとは根本が違う。ChatGPT同様、巨大なビジネスを生み出すだろう。
半世紀前、マイクロプロセッサが発明され、マイコン・パソコン革命がおこった。そして、今、Vision Proで、空間コンピュータ革命がおころうとしている。
マイコン・パソコン革命で、ワクワクな人生を築けたから、空間コンピュータで夢よもう一度!?
だが、待てよ。
あのときの実業は、すべて消滅してしまった。残ったのは資本(マネー)のみ。
最後は資本が勝つ。
やっぱり投資しかないかな。
by R.B