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週刊スモールトーク (第508話) 安倍晋三・銃撃事件(4)~自作銃とレールガン~

カテゴリ : 人物歴史科学

2022.09.23

安倍晋三・銃撃事件(4)~自作銃とレールガン~

■山上容疑者の自作銃

安倍晋三・銃撃事件は、消えた銃弾・複数犯説と謎が多いが、一つ確かなことがある。

山上容疑者が、安倍元首相に向けて発砲したこと。しかも、手製の自作銃で。

山上容疑者の自作銃は、2本のパイプ(銃身)が、ビニールテープでぐるぐる巻きにされている。工業製品でなくハンドメイドであることは明らかだ。

銃器の専門家によれば、山上・自作銃の弾丸は、直径9.5ミリ前後。それを6発、市販の空薬莢に詰め込んであるという。1回撃てば、6発の弾丸が飛び出すので、一種の散弾銃だろう。電気コードが見えるから、火薬の点火は電気火花式。

使用された火薬は黒色火薬だ。現代の銃は無煙火薬で、黒色火薬にくらべ、発煙が少なく、爆発力が大きい。

ではなぜ、山上容疑者は無煙火薬を使わなかったのか?

無煙火薬の成分は、ニトログリセリン、ニトロセルロース、ニトログアニジンで、入手も製造も難しい。

ニトログリセリン・・・ダイナマイト?

イエス、取扱いに注意が必要です。わずかな衝撃で、自分も吹き飛びますから。

一方、黒色火薬は、成分が木炭10%、硝石75%、硫黄15%で、入手も製造も容易だ。ちなみに、木炭は炭素のことで、元素記号は「C」。硝石は硝酸カリウムのことで、化学式は「KNO3」。硫黄の元素記号は「S」である。

黒色火薬は、無煙火薬にくらべ、爆発力が小さいから、自分が吹き飛ぶ心配がない(ただし量が多いと危険)。さらに、花火を買えば、黒色火薬が入っているので、調合する必要もない。

花火は夏の風物詩だが、江戸時代からあった。町人文化として根付いていたのである。その江戸の花火も、現在と同じ黒色火薬である。

黒色火薬の歴史は古い。

14世紀初頭、ドイツのフランチェスコ会修道僧ベルトルト・シュヴァルツが発明した。彼は神に仕える身でありながら、危険な化学実験に夢中だった。その過程で、偶然「爆発物」を見つけたのである。その後、黒色火薬が火縄銃の発射薬として使われたのは周知だ。

■日本史を変えた火縄銃

火縄銃は戦争を一変させた。野戦の主力部隊が、エリート騎馬兵から足軽鉄砲隊に移ったのである。

それを象徴する歴史的事件がある。戦国時代の「長篠の戦い」だ。織田信長の足軽鉄砲隊が、戦国時代最強の武田騎馬隊を殲滅したのである。その後、信長一強時代に突入し、日本の半分は信長に征服された。もし、明智光秀の謀反がなかったら、2、3年後には、信長は日本を統一していただろう。つまり、火縄銃が日本の歴史を作ったのである。

長篠の戦いの勝因は、3000丁の鉄砲と三段撃ちとされるが、本当か?

信長の家臣・太田牛一が著した「信長公記」にはこう記されている。

「武田騎馬隊が押し寄せたとき、鉄砲の一斉射撃で、あっという間に軍兵がいなくなった」

恐ろしい打撃力だ。これでは戦(いくさ)にならない。信長公記には「三段撃ち」はでてこないが、「佐々成政、前田利家らに鉄砲1000挺持たせ、布陣させた」とある。信長が大量の鉄砲を使用したことは間違いない。一斉射撃すれば、1000発の弾丸が射出されるから、半分が命中したとしても、500名が瞬殺。10回射撃すれば、5000名だ。この戦いで、武田勝頼が率いたのは1万5000だから、火縄銃で勝敗が決まったことは間違いない。

戦国時代、日本は世界有数の鉄砲大国だった。この時代、来日したヨーロッパの宣教師たちが、おびたたしい数の火縄銃を目撃しているからだ。ポルトガル宣教師の機密文書には、こんなくだりがある。

「日本はヨーロッパを超える軍事国家で、武力征服は不可能である。キリスト教で支配するしかない」

つまり、ポルトガル勢力は、日本をキリスト教で征服しようと目論んでいたのである。「宗教で洗脳」は今も昔もかわらない。

■銃の原理

山上・自作銃に話をもどそう。

火薬銃の「基本原理」は、数百年変わっていない。細長い円筒形の銃身に、弾丸と火薬を詰め込んで、火薬を爆発させる。その圧力で弾丸を射出するのである。

一方、銃の「実装方法」は数百年かけて進化してきた。山上・自作銃は、古い技術と新しい技術のハイブリッドだ。つまり、銃の歴史の写し絵である。

銃を構成する技術は大きく4つある。

第1に火薬。昔は黒色火薬で、現代は無煙火薬である。

第2に点火方法。火薬に点火する方法で、火花で点火する方法と、衝撃で点火する方法がある。

第3に弾丸の装填方法。銃の前部から装填するのが前装式(先込め)。後部から装填するが後装式(元込め)である。

第4に銃身の構造。銃身内にらせん状の溝を彫って、弾丸を回転させるのが施条式。溝がなく無回転で射出するのが滑腔式である。

この4つの技術を軸に、銃の歴史をみていこう。

■火縄銃とマスケット銃

まず、最古の銃は火縄銃で、15世紀前半にヨーロッパで発明された。

火縄銃は、火薬は黒色火薬で、弾込めは前装式(先込め)である。1発撃つたびに、銃身の中の燃えカスを掃除し、火薬と弾丸を装填するので、なにかと都合が悪い。とくに生死がかかる戦場では。

つぎに、火縄銃の銃身は滑腔式。銃身の内側はつるつるで、弾丸にスピンがかからず、そのまま射出される。そのため、空気抵抗をモロに受け、弾道が安定せず、射程距離も小さい。

山上・自作銃は、黒色火薬、前装式、滑腔式なので、火縄銃に近い。ただし、点火方法が違う。火縄銃は、縄火で点火するが、山上・自作銃は、電気火花で点火する。電気式は、火縄式より安定しているし、電気部品は通販で買えるから、自作に向いている。

火縄銃は、戦争の根本をかえたが、欠点もあった。点火が不安定なのだ。ジリジリ燃える縄火で点火するのだから、あたりまえ。風が吹いたり、雨が降れば、ひとたまりもない。

そこで「火打石式」が考案された。撃鉄の先端に火打ち石(フリント)を装着し、鋼鉄のフリズンに激突させる。すると、火花が飛んで、火薬に点火する。これがフリントロック式だ。1648年、フランスで発明され、19世紀初頭まで使われた。この方式を採用したのがマスケット銃である。

とはいえ、マスケット銃は、火縄銃と同じ前装式で滑腔式で、違いは点火方法だけ。その点火方法も、火縄の「弱火」に対し、火打石は「瞬間火」で、似たり寄ったり。あいかわらず、点火が不安定で、雨風に弱かった。それを根本から変えたのが、雷管である。

■雷管と薬莢とライフル

18世紀、ルイ15世の軍医監バンヤンが、雷汞(らいこう)を発見した。雷汞は、水銀を濃硝酸に溶かし、アルコールを加えて得られる結晶で、叩くだけで爆発する。この雷汞を銃の点火装置に利用したのが、アメリカの銃工エジョシュア・ショウだ。彼は、1816年、銅製キャップに雷汞を付着させた銅製雷管を発明した。これなら、キャップを軽く叩くだけで、爆発する。湿気による不発もなく、雨風の中でも、確実に点火できる。1830年以降、銃用雷管が実用化され、広く普及した。

そして、この「雷管」が画期的な「完全薬莢」につながる。

火縄銃とマスケット銃は、弾丸と火薬を別々に装填するから、弾込めはニ回。時間がかかるし、連射など夢のまた夢。ところが、完全薬莢は、弾丸と点火薬(雷管)と発射薬(装薬)を1つのカートリッジに詰め込んだ一体型。つまり、弾込めは一回ですむ。

原理はこうだ

銃の引き金を引くと、撃針が雷管を叩き、雷管内の点火薬が燃焼し、発射薬に引火する。その燃焼ガスで、銃身の内部圧力が急速に高まり、弾丸を射出するのである。

薬莢のおかげで、弾込めは1回になったが、もっと大きな恩恵があった。銃弾が1つに収まったので、後部からカンタンに装填できるようになったのである。これを後装式(元込め)という。1836年、ドイツのヨハン・ニコラス・フォン・ドライゼが実用化に成功した。

そして、銃最後の発明は「施条式」だ。

1850年、フランスのミニエが発明した方式で「ライフル」ともいう。施条式は、銃身の内側にらせん状の溝が彫ってあり、弾丸が通過すると、らせんに沿ってスピンがかかる。銃弾は回転して飛ぶので、空気を切り刻み、弾道が安定する。さらに、射程距離と貫通力も増す。これが現代のライフル銃の起源となった。

山上・自作銃は、古い技術と新しい技術が混在している。前装式と滑空式は古い技術で、薬莢は新しい技術だ。そして、点火方法は電気式のオリジナル技術。部品の調達しやすさ、製造の容易さを考慮した上で、殺傷力が極大化されている。銃のDIY(Do It Yourself)への凄まじいを執念を感じるのは気のせいだろうか。

■とある科学の超電磁砲

安倍晋三・銃撃事件で、日本の安全神話は崩壊した。

日本は、一般人の銃の所持が認められていない。そのため、日本は、暴力団抗争を除けば、銃犯罪と無縁だった。ところが、今回の事件で、市販の部品で銃が作れることが証明されたのだ。

今後、銃のDIYが加速するだろう。飛び道具は、火薬銃に限らないからだ。

たとえば、電磁投射砲。火薬ではなく、電磁力で弾を発射するハイテク銃だ。

電磁投射砲は、構造と原理が異なるレールガンとコイルガンがあるが、ともに電磁気の力で弾体を発射する。つまり、火薬は不要。

とある科学の超電磁砲?

有名なSFアニメだが、電磁砲は現実に存在する。

日本の防衛省は、2022年度の予算案にレールガンの開発費65億円を計上した。2020年に試作したレールガンは、初速「2.3km/秒(マッハ7)」に達したという。

火薬を使う火砲で、最大初速を誇るのが戦車砲だ。約「1.8km/秒(マッハ5.5)」で、これが火砲の限界とされる。理由はカンタン、火薬の爆発力は銃弾の進行方向だけではなく、四方にかかるから。つまり、力が分散し、効率が悪い。そのぶん爆発力を大きくすればいいかというと、そうカンタンではない。爆発力が大き過ぎると銃身も自分も吹っ飛ぶから。つまり、火砲は原理的に問題があるわけだ。

一方、レールガンにはその問題がない。電磁力を弾体の進行方向に集中できるので効率がいい。さらに、爆発の問題もない。そのため、初速度を物理の限界「光速(30万km/秒)」まで伸ばすことができる。火砲のなんと170,000倍だ。初速度が桁違いなら、射程距離も、貫通力も桁違い。レールガンは究極の銃砲だろう。

■レールガンの原理

レールガンの構造と原理はシンプルだ。

導電性のレールを2本平行に並べて、その間に導電性の弾体をはさみこみ「レール → 弾体 → レール」の経路で電流を流す。すると、2本のレールに流れる電流で磁場が発生し、その磁場と電流との相互作用で、ローレンツ力が生まれる。その力で弾体を撃ち出すわけだ。

原理も構造もシンプルなぶん、部品点数も少ない。レールと弾体の他に必要なのは、パルス電流を発生させる電源と、それを充電するコンデンサぐらい。ここで、パルス電流とは、連続して流れる電流ではない。瞬間に1発だけ流れる単発電流だ。まぁ雷のようなもの。

パルス電流の発生方法はカンタンだ。まず、コンデンサ(充電器)に充電し、満杯になったところで、一気に放電する。この電気エネルギーで弾体を発射するわけだ。

ところで、電磁気兵器といえばニコラ・テスラ。エジソンと並ぶ電気文明の功労者だが、マッドサイエンティストの文脈で語られることが多い。事実、彼が発明したテスラ・コイルをレールガンと同一視する向きもある。だが、テスラ・コイルはそんな物騒なものではない。高電圧を発生させるタダの変圧器だ。とはいえ、たかが変圧器でこんな難解な方式を思いつくのだから、テスラは天才か悪魔か?

話をもどそう。

レールガンはスペックは凄いが、欠点もある。

電磁力で弾体を射出するので、大電力が必要なのだ。そのため、電力を発生する電源と、それを充電するコンデンサ(充電器)は、「装置」というより「施設」に近い。さらに、2本のレールと弾体の間に電流を流すため、レールと弾体は接触している必要がある。ところが、弾体がレールの間を高速で移動すれば、当然、摩擦熱(ジュール熱)が発生する。それは弾体を溶かし、レールを損傷するレベルだ。発射した弾体が着弾する前に、融けて消えたら、シャレにならない。

自衛隊が開発中のレールガンは、中国・ソ連の極超音速ミサイルの迎撃が目的だ。だが、極超音速ミサイルはマッハ5以上で飛ぶから、マッハ7のレールガンでは銃弾を銃弾で撃ち落とすようなもの。さらなる高速化が必要だろう。そうなると、電源とコンデンサの巨大化は避けらない。

というわけで、レールガンは据え置き型。

■自作レールガン

ところが、驚くなかれ、ポータブル・レールガンを自作した民間人がいる。

Youtubeに投稿された動画をみると、弾体は半分に切ったメロンを貫通している。殺傷力はなさそうだが、ポータブル&レールガン&DIYにはビックリだ。

レールガンは火薬が不要である。

しかも、市販の電気部品で作れるから、知識さえあれば、誰でも作れる。そもそも、電磁投射砲の完成品がアマゾンで売っている。ただし、兵器ではなく、物理学実験の教育科学モデルとして(そうりゃそうだろう)。画像をみると、レールガンではなく、廉価版のコイルガンだ。この程度の電源とコンデンサなら、殺傷能力はない。だが、そのままスケールするだけで、殺傷兵器になるだろう。

安倍元首相が凶弾に倒れ、保守が凋落し、日本はリベラル一色になりつつある。世相は、国家権力は悪、個人の自由バンザイ!

言論の自由で、閣議決定された国葬も反対!

DIYも自由で、火薬銃もレールガンも作り放題!

その先に待っているのはどんな未来なのか。

参考文献:
・週刊朝日百科 世界の歴史 90巻 朝日新聞社出版
・太田牛一著榊山潤訳「信長公記」富士出版

by R.B

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