日本の格差社会~富裕層とマス層~
■富める者と貧しき者
富の独占が加速している。
米国では、富裕層の上位1%が、全米の株式・投信の52%を保有している。日本では、富裕層の上位2.5%が、家計の金融資産の21%を保有している。富裕層が大量のリスク資産を所有し、それで財産を増やし、富を独占する・・・そんな構図がみてとれる。
たとえば、株式は巨額の配当収入をもたらす。さらに、1株10ドルで買った株式が100ドルになれば、元本は10倍になる。事実、成長株のIT、半導体銘柄なら、この10年で10倍は珍しくない。つまり、リスク資産は、継続的に得られるインカムゲインと、売却によって得られるキャピタルゲインの二つの増幅器で増えていく。一時的に下がっても、中長期では増えると考えていいだろう。
一方、実体経済は急には増えない。10年で人口が10倍になることはないから。そのため「投資収益率>経済成長率」が常態化する。さらに、賃金は経済成長率と連動するから、「不労所得>勤労所得」も常態化する。(リスク資産を)持てる者と持たざる者で、貧富の差が拡大するのは自明の理。
じつは、このルールは2000年前に予言されていた。
持てる者はさらに与えられ、持たざる者は持っているものも取りあげられ、さらに貧しくなるだろう(ルカ伝19章26節)。
それを示すデータもある。
米国の富裕層上位1%の資産は、2020年に435兆円増えたが、これは全米の増加分の35%に相当する。一方、下位50%の増加分はわずか4%。富める者はさらに富み、貧しき者はさらに貧しく・・・。
■日本の5つの階層
貧富の差が拡大しているのは米国だけでない、日本も同じ。
野村総研は、保有する「金融純資産」で世帯を5つに分類している。まず「金融資産」とは、預金・現金・株式・投資信託・債権など換金性の高い資産で、不動産は含まない。つぎに「純資産」とは、借金やローンを差し引いた実質資産。つまり「金融純資産」とは、自分がすぐに使える資産の総額である。
では、野村総研が提示した5つの階層とは?
①超富裕層(5億円以上):0.16%
②富裕層(1億円以上5億円未満):2.3%
③準富裕層(5,000万円以上1億円未満):6.33%
④アッパーマス層(3,000万円以上5,000万円未満):13.18%
⑤マス層(3,000万円未満):78.04%
パーセントの数値は、それぞれの層が全世帯数に占める比率(2019年)。一番上の超富裕層は、全世帯の0.16%で最も少ない。一方、一番下のマス層は78%で最も多い。ここまでは想定内だが、①~④のアッパーマス層以上に注目!全世帯に占める比率が、なんと22%。これにはビックリだ。だって、そうではないか。家のローンや借金を差し引いても、金融資産3000万円以上・・・それが5軒に1軒!?
近所を見わたしても、そんな羽振りの良さそうな家は見当たらない。みんな、家のローンを抱えて、共稼ぎで頑張っている。一体どうなっているのだ?
さては、わがご近所さんは、マス層が集中する居住区!?
それは受け入れ難いから、アッパーマス層以上は首都圏に集中している・・・そういうことにしておこう(根拠はない)。
■拡大する日本の格差
さらに驚くべき事実がある。
ツートップの超富裕層と富裕層が2.46%を占めること。家のローンや借金をさっぴいても、金融資産1億円以上・・・そんなお金持ちが40軒に1軒!?
ウソや・・・さらに、そんな富裕層が年々増えているという。これは二度ビックリだ。データで確認してみよう。
超富裕層が占める比率は、2011年から2019年で1.6倍に急増している。一方、富裕層は1.5倍、准富裕層は1.2倍、アッパーマス層は1.04倍に増えている。そして、マス層だけが0.97倍に減少。「増える」があれば「減る」がないと帳尻があわないので。
ここで、各層のランクアップ率をみてみよう。
・富裕層→超富裕層:60%増
・準富裕層→富裕層:50%増
・アッパーマス層→准富裕層:20%増
・マス層→アッパーマス層:4%増
・マス層:3%減
上位にいくほど、ランクアップ率が高い。理由は2つある。
まず、2011年から株高が始まり、株式・投資信託の価値が上がったこと。さらに、上位層ほど資金に余裕があるので、保有するリスク資産(株式・投資信託)が多い。だから、上位層ほどランクアップが多いのである
ところで、マス層の3%減で、上位層の134%増をまかなっているが、比率があわない?
マス層は世帯数の78%を占める大世帯で、絶対数が大きいから。
■二階層のマス層
マス層が減り続ければ、いずれみんな豊かになる?
そうはならない。
そもそも、マス層は一番下に位置するが、幅がありすぎる。マス層の上位は、ローンも借金もなく、金融純資産は3000万円弱。独身で定職についていれば、生活に不安はないだろう。資産の一部をリスク資産にあてても問題はない。日本の家計資産に占める株式・投資信託の比率は17%なので、これを適用すると、株式・投資信託に500万円を回せる計算になる。
では、この500万円で、米国株を買っていたら?
期間は、先のランクアップ率の期間と同じ2011年から2019年とする。
たとえば、電気自動車のテスラ・モーターズなら「6ドル→86ドル」で14倍。汎用CPUでインテルを脅かすAMDは「1.2ドル→31ドル」で26倍。AIチップの覇者エヌビディアは「16ドル→172ドル」で10倍。このような桁違いの上昇は、ハイテク株では珍しくない。
ここで、エヌビディアを買ったとすると、8年で500万円は5000万円に。金融純資産は3000万円弱から8000万円弱に跳ね上がる。アッパーマス層を飛び越えて、一気に準富裕層へ。つまり、マス層の上位はランクアップする可能性は十分ある。
一方、単身世帯の38%、2人以上世帯の23.6%は貯蓄がないという(2019年)。貯蓄がなければ、株も投資信託も買えない。株・投資信託がなければ、資産が大きく増えることもない。というわけで、一口にマス層といっても、資産が増える可能性がある上位層と、そうでない層に二分される。
つまりこういうこと。
ランクアップするかどうかは、リスク資産にかかっている。ただし、それを保有しているかどうかではない。買う余裕があるかどうか。つまり、初めからお金持ちかどうかがすべて。これはあるべき社会ではないだろう。
■格差が悪である理由
同じ人間でありながら、スタート地点が違うだけで、天地の差が生まれる。人間は、本来、不公平・不公正を嫌うから、社会の主体である人間と、結果としての社会とで整合性がとれない。しかも、逆転するチャンスは1ミリもないから、意欲のある人間ほど絶望する。これほど、不条理な世界はないだろう。
でも・・・いずれAI&ロボットが、人間に代わって働くから、そこはドーデモいい?
そうかもしれないが、その日が来るまで、まともな世界で暮らしたい。格差を放置すれば、地球は「偽りの道徳」がはびこる異世界と化すから。ニーチェが言う「ルサンチマン」である。
ルサンチマン・・・響きはいいが、危険な言葉だ。フランス語で恨み、嫉妬を意味するが、哲学用語としては最悪である。絶対にかなわない強者に対し、ねたむ、ひがむ、陰口をたたく・・・人間につきものだが、ルサンチマンは陰湿でしつこい。相手を悪者に仕立てあげ、自分を正当化するのだ。そして、ここが肝心、すべて想像の産物で、行動は一切ナシ。つまり、絶対妄想の世界。
15世紀に始まったアフリカの黒人奴隷制度は、奴隷に永遠の絶望を強いた。一方、ルサンチマンは絶望を受け入れるわけではない。偽りの道徳をでっちあげ、自己満足で現実を逃避するのだ。地球上では類をみない半生物と言っていいだろう。
格差はゼロにはならない。だが、頑張ったら人生が好転する可能性は1ミリでもあって欲しい。どんな絶望的な状況でも、希望があれば、生きていけるから。もちろん、これができるの政治しかない。でも、新型コロナや五輪ですったもんだの現政権をみると・・・やっぱりムリかな。
by R.B