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週刊スモールトーク (第462話) 14世紀のペスト(2)~世界的大流行と終息~

カテゴリ : 歴史社会

2020.11.28

14世紀のペスト(2)~世界的大流行と終息~

■人類と疫病の歴史

人類と疫病のつきあいは深くて長い。

人類(ホモ・サピエンス)は、30万年前アフリカに誕生した。29万年の狩猟採集をへて、紀元前1万1000年には、植物栽培がはじまった。農耕と定住がすすみ、集落から都市へと発展していく。そこで人類は「疫病」のリスクに直面する。農耕には不作はつきものだが、狩猟採集民のように、気軽に移動できない。もし飢饉がは発生すれば、栄養不良におちいり、免疫力が低下、疫病が発生する。しかも、都市は過密化しているから、パンデミック(広域大流行)に発展しやすい。人類と疫病(感染症)の戦いが始まったのである。

疫病は人類にとって、災厄以外のナニモノでもない?

とは限らない。じつは疫病は自然の摂理という説があるのだ。18世紀末、イギリスの経済学者マルサスが、自著「人口論」で提唱した。人口が増えて、「人口>>食糧」になると、疫病が流行し、人間を間引くというのだ。結果、「人口=食糧」で秩序が保たれ、環境に優しい?

間引かれる方はたまりません!

さらに、ウィルスが人間にとってプラスという説もある。ウィルスが人間の遺伝子に作用して、人間が進化するというのだ。でも、遺伝子の変異に方向性はないから(中立進化説)、進化するとは限らない。劣化することもあるのでは?なんて悠長なことを言っている場合ではない。自然は、個体を犠牲にしてまで、遺伝子を変異させると言っているのだ。個々の命より、遺伝情報の方が大事!?

これは、ちまたに流布する怪しい陰謀論ではない。生物学者ドーキンスが、自著「利己的な遺伝子」の中で、堂々と述べている。その内容は衝撃的だ。人間の個体には寿命があるが、遺伝子は子子孫孫、個体を乗り換えて生き続け、不老不死。じゃあ、人間の個体は遺伝子の運び屋、ポイ捨ての消耗品!?

身もフタもない話だが、辻つまはあっている。

というわけで、人間が同意しようがしまいが、「疫病は自然の摂理」は一理ある。とはいえ、14世紀のペストは、有史以来最悪のパンデミック(世界的流行)だった。地球上の人口が4億5000万人の時代に、1億人が死んだのだから。治療を試みても30%~60%が死に、放置すれば確実に死ぬ。グロスで、致死率60%~90%という凄まじさ。

でも、それは700年前の話。現代を生きるボクたち、ワタシたち関係ないもんね?

ペストは近年でも発生している。

抗生物質で治療すれば、致死率は10%だが、治療しないと60%~90%が死ぬ。つまり、700年前とかわらない。恐ろしい話をしている。医学の発達した現代でも、医療崩壊が起これば、暗黒の中世に逆戻り。ペストではなく、新型コロナの話だ。連日、感染最多記録を更新しているのに、のんきにGoToキャンペーン・・・大丈夫か?

■GoToキャンペーンの正体

2020年11月、新型コロナ・パンデミックが加速している。昨年、中国の武漢で発生して1年経過したのに、終息する気配はない。欧米では、すでにロックダウンが再始動した。

一方、日本も第3波が襲来。感染が急拡大し、不要不急の外出の自粛を要請する地方自治体もある。ところが、政府はGoToキャンペーンで、旅行・外食しましょう!

どっちやねん?

日本医師会の中川会長も、医療崩壊が近づいていると警告。今、最も恐れるべきは医療体制の崩壊だろう。医療崩壊がおこれば、暗黒の中世に逆戻り、死者が急増するのは明らかだ。現実に重傷者と死者が増え、医療現場も悲鳴をあげている。ところが、政府はGoToキャンペーンで旅行を愉しんでね・・・

つまりこういうこと。

医療従事者は、GoToキャンペーンで仕事が増えるだけでなく、旅行者の代金まで負担する(税金なので)。エッセンシャルワーカーが大事という話はどこへ行ったのだ?

理不尽の極み、あからさまな不公平、狂気の沙汰としか思えない。これが、GoToキャンペーンの正体なのだ。

さらに、経済優先というが、観光業・飲食業だけが経済ではない。それ以外に、壊滅的損害をこうむった業種は多い。なぜ観光業・飲食業だけなのか、なぜ自分たちの業種を救ってくれないのか?そんな恨み節を、最近よく聞く。そもそも、医療崩壊がおきたら、社会活動が停止し、経済はもっとひどくなる。中途半端なアクセルとブレーキは、経済にとって最悪、と考えたことはないのだろうか?

どんだけ、アタマ悪・・・おっと、ここまで。

■観光業Vs.医療崩壊

というわけで、GoToキャンペーンは理不尽と不公平のかったまり(塊)。最終的に、経済効果も怪しいが、重傷者と死者が増えることだけは確かだ。そんなこんなで、現政権は、後世、こんなレッテルを貼られるかもしれない。

「観光業ファーストで、国民の命と医療体制を犠牲にし、重傷者も死者も増えたけど、何も責任取ら内閣」

ところが、野党もマスコミも識者も声をあげない。検事が賭け麻雀したときには、大騒ぎしたのに。

賭け麻雀と医療崩壊、どっちが大事なのだ?

観光業と医療崩壊、どっちが大事なのだ?

国民の命は何番目?優先順位つけろよ、と言いたい。

これが聞こえたのか(そんなわけない)、2020年11月21日、政府はGoToキャンペーンの見直しを発表した。ところが、感染が拡大している地域限定で、最終判断は地方自治体任せ。自分で始めておいて、失敗したから尻拭いはあんたがやれ・・・責任取ら内閣

当地金沢も、北陸新幹線はすべて満席。近江町市場は前年を上回る人出で、全国ニュースサイトの第一面を飾った。年寄りをかかえる家族は、当面、市内に出れない。観光が、他の業種、国民を犠牲にしていることに気づかないのだろうか?いや、気づいている。政府も国民も、自分さえよければOK。だから、自粛警察が堂々と活動するのだ。

国が分断しているのは、アメリカだけではない。今後、日本も分断が加速するだろう。

東京Vs.地方、エッセンシャルワーカーVs.その他、マスク派Vs.非マスク派、若者Vs.年寄り、金持ちVs.貧乏、現役世代Vs.年金世代・・・あと20はあるがここでおしまい。

こんな話をすると、みんな判で押したように・・・批判するだけなら、誰でもできる。そこまで言うなら、あんたが政治家やれば?

大事な話をしよう。反ナチス運動マルティン・ニーメラーが残した有名な言葉だ。

「ナチスが最初、共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。つぎに、社会民主主義者が攻撃されたとき、私は声をあげなかった。私は社会民主主義者ではなかったから。さらに、労働組合員が攻撃されたとき、私は声をあげなかった。私は労働組合員ではなかったから。そして、私が攻撃されたとき、私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった」

ダメなものはダメ、これがビジネスで学んだこと。あたりまえのことを正々堂々と言わない、言えない会社は衰退する。国も同じ。見ざる言わざる聞かざるは、すべて弱者にふりかかるのだ。つまり、ひどい目にあうのは、政治家ではなく国民。ニーメラーは真実を言っているのだ。

■ペストの原因

ペストも新型コロナも、ともに疫病の病原体だが、違いもある。

新型コロナウィルスは「ウィルス」で、ペストは「細菌」。さらに、ウィルスは遺伝情報しかもたない「半生物」で、細菌からなる「生物」。だから大きさが違う。細菌は、約1μm(1μm=10のマイナス6乗メートル)で、光学顕微鏡で見える。一方、ウィルスは約50nm(1nm=10のマイナス9乗メートル))で、細菌の1/20。光学顕微鏡では見えず、電子顕微鏡でしか確認できない。

この違いが、一人の歴史的人物の人生をかえた。千円札にもなった日本の医学者、野口英世だ。病原体の発見者として知られ、ノーベル賞の候補にあがったほど。野口の最後の研究は黄熱病だった。彼の真骨頂は、他の研究者なら絶対にやらない実験の絨毯爆撃。ところが、黄熱病には通用しなかった。理由はカンタン、黄熱病の病原体は細菌ではなく、ウィルスだったのだ。ウィルスは光学顕微鏡では見えず、この時代、電子顕微鏡はまだ発明されていない。だから、見えなくてあたりまえ。ところが、野口はそれに気づかず、不眠不休で実験を繰り返し、自身が黄熱病に感染、夭折する。データ重視の帰納法は重要だが、論理重視の演繹法を忘れると、根本を誤るという教訓だろう。

では、疫病はどうやってヒトに感染するのか?

新型コロナウイルスは、ヒトからの飛沫や接触で感染するが、ペストは少し複雑だ。

ペスト菌はノミに寄生し、ノミはクマネズミに寄生する。そして、14世紀、クマネズミは人間と暮らしていた。この頃、町や村は不衛生で、クマネズミは人間の生活圏に入り込んでいたのだ。さらに、クマネズミは船の積荷にも棲息していたので、交易船に乗って、世界中を移動した。つまり、14世紀のペスト流行は、ノミとクマネズミとヒトのコラボだったのである。

では、どうやってヒトに感染したのか?

まず、ノミがペストに感染したクマネズミの血を吸う。そのノミがヒトを刺すと、ペスト菌が体内に入り込む。刺された場所に近いリンパ節が腫れたら、「腺ペスト」。ペストで最も多いタイプだ。リンパ腺が侵されるのでこの名がある。さらに、ペスト菌は肝臓や脾臓でも繁殖し、毒素を体内に撒き散らす。潜伏期間は2~7日で、全身の倦怠感、悪寒をへて、39℃から40℃の高熱が出る。治療しなければ、数日で死ぬ。

また、ペスト菌が、血液に入り、全身に回ることもある。これが、敗血症ペストだ。急激なショック症状をおこし、手足が壊死し、黒いアザができる。そのため「黒死病」ともよばれた。

14世紀のペスト流行は、当初、ほとんどが腺ペストだった。ところが、北方ヨーロッパで腺ペストは肺ペストに転じる。ノミやクマネズミを介さずに、空気感染するようになったのだ(※1)。その後、ヒトヒト感染が加速し、歴史的パンデミックを引き起こした。現在の新型コロナは、空気感染は確認されていないが、今後どうなるかわからない。ところが、日本はGoToキャンペーン騒動のさなか。その想像力の欠落ぶりは想像を絶する(これは意味深ですね)。

■14世紀ペストの全歴史

ここで、14世紀のペストの歴史を時系列でみてみよう(※3)。

・1331年:中国河北省で発生し、人口の90%が死亡。中国・元朝の崩壊の一因となった。

・1332年:中央アジアに伝染。地域集落を壊滅させながら、シルクロードを西に向かう。

・1335年:ペルシャに到達。中東全域に伝染し、シリアのダマスカスで1日2000人が死亡。

・1346年:黒海のカッファに到達。ジョノヴァの商人がカッファから北イタリアに持ち込む。

・1347年:イタリア全土に伝染。ヴェネツィアは人口の3/4を失う。フィレンツェの銀行家の多くが破産。

・1348年:7月にイングランドに上陸。ロンドンは人口の半数(4万人)が死亡。

凄まじいとしか言いようがない。被害をうけた地域も犠牲者の数も、二度の世界大戦を凌駕する。人類史上最大の災厄といっていいだろう。ところが、1350年をこえると、ペストは急速に収束する。これで終息?そうでなかった。10年後に、第2波が襲来したのである。その後も、ペストは、10年刻みで襲来し、17世紀中まで続く。

つまりこういうこと。

14世紀のペストは、終息するまで300年!その間、100回以上も流行を繰り返したのだ。

この事実はあまり知られていない。そのためか、この歴史を曲解して、誤った主張する識者もいる。いわく、14世紀のペストは大惨事だったが、結局何も変わらなかった。演劇も旅行も外食も今も続いているではないか。だから、アフターコロナの世界も何もかわらない、と。

だが、この主張は前提が間違っている。じつは、14世紀のペストは、世界を一変させたのだ。

《つづく》

参考文献:
(※1)週刊朝日百科世界の歴史、朝日新聞社出版
(※2)世界の歴史を変えた日1001、ピーターファータド(編集),荒井理子(翻訳),中村安子(翻訳),真田由美子(翻訳),藤村奈緒美(翻訳)出版社ゆまに書房
(※3)ビジュアルマップ大図鑑世界史、スミソニアン協会(監修),本村凌二(監修),DK社(編集)出版社:東京書籍(2020/5/25)

by R.B

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