世界恐慌(3)~大恐慌の対策~
■最悪
最悪の事態がじつは最悪ではなく、さらに悪化しつづけた~J・K・ガルブレイス~
20世紀を代表する経済学者ガルブレイスは、1929年の世界恐慌をこう評した。当時のほとんどの投資家が、「恐慌」を「バブル崩壊」と見誤ったのである。
1929年10月24日、ニューヨーク株式市場で株が大暴落した。翌日は値を戻したものの、その後も暴落は続き、11月にはダウ平均は224ドルまで下落。3ヶ月間で半値という凄まじさだった。さすがに、ここまで下がれば底値だろうと、みんなが思った。ところが、株価はその後も下がり続け、底を打ったのは、3年後の1932年7月だった。その時の株価は58ドル、みんなが大底と信じた1/4。
そして現在、ニューヨークのダウ平均は、1年前の高値から半値まで下落したが、今のところ、下げ止まっている(2009年1月12日)。1929年11月同様、「半値=底値」と見ているのだろうか。だが、区切りのいい数字が底値とは限らない。
それとも、オバマ新大統領の大盤振る舞いに期待しているのだろうか。だが、際限のない公共投資は、アメリカの財政赤字を悪化させるだけだ。赤字会社が信用されないのと同様、アメリカの信用も失墜し、海外からの投資も減る。結果、アメリカ金融業の不況はさらに深刻になる。
■保護貿易
オバマ新大統領は、明確に問題解決型の人間なので、内政面では期待できるだろう。だが、大統領権限が制限される外交となると、話は別だ。例えば、今問題になっているブロック経済。ブロック経済とは、自国と植民地、または同一経済圏を一つのブロックとし、それ以外の国に対して高い関税を課し、自分たちの産業を守ることだ。これが「保護貿易」で、反対言葉は「自由貿易」である。
景気は、外需(輸出向け需要)と内需(国内向け需要)に支えられている。日本の場合、今後人口が減るため、内需は期待できない。そのため、「外需=輸出」が増え続けない限り、景気は好転しない。つまり、日本にとって保護貿易は天敵なのだ。
1930年の昭和恐慌では、日本は自国の経済ブロックを拡大する方法を選んだ。植民地を増やし、内需を拡大しようとしたのである。結果、世界の列強と衝突し、大平洋戦争が勃発した。同時期、ヨーロッパでも同じようなプロセスで戦争が始まり、最終的には世界を巻き込む第二次世界大戦を引き起こした。保護貿易が戦争の火種になるのは明らかだ。
2008年11月15日、緊急首脳会合(金融サミット)が開かれ、
「保護主義はやらない」
と力強く宣言された。80年前の教訓に学んだのである。それを受け、日本の新聞も、
「これは大きな成果だ。80年前の世界恐慌のようにはならないだろう」
と評価した。
ところが・・・
その1ヶ月後の2008年12月12日、貿易拡大を目指すWTOの多角的通商交渉の大枠合意が見送られた。それが意味するのは、明確に、
「保護貿易はやる」
さらに、2008年12月23日には、ロシアのプーチン首相は、自動車関税を引き上げ、国民に国産車を買うよう訴えた。これも明確に、保護貿易。
自由貿易の世界では、国際間のヒト・モノ・カネの交流が深まり、相互依存が高まるので、紛争が起こっても収束しやすい。一方、保護貿易が強まれば、各国は自給自足経済にシフトし、外交といえば、同盟か敵対しかなくなる。とはいえ、世界恐慌が視野に入った今、為政者は保護貿易に走らざるを得ない。それが今の現実なのである。
■中国
2009年1月4日、中国が東シナ海のガス田の掘削を開始した。日本側は、2008年6月18日の合意に反する行為だと非難した。尖閣諸島など、この手の領土・領海問題が急増している。中国は、資源確保を国家安全保障に関連づけ、武力行使も辞さない構えだ。
中国は、このままいけば、世界最強国にのし上がる。圧倒的な人口と生産設備を有するので、日本を併合して、ハイテクを入手すれば、アメリカなど敵ではない。一方、危うい面もある。中国の歴史は、
「農民反乱→王朝滅亡」
の歴史と言っても過言ではない。実際、
・陳勝・呉広の乱→秦が滅亡
・黄巾の乱→後漢が滅亡
・黄巣の乱→唐が滅亡
・紅巾の乱→元が滅亡
・白蓮教徒の乱→清が滅亡
ん~、凄まじい人民パワー。お上に従順な日本人は見習うべき?
現在、インターネットが普及したおかげで、一斉蜂起が簡単になっている。実際、リーマン・ショック以降、中国の景気は急速に悪化し、暴動が多発している(2009年1月)。中国共産党にしてみれば、、かつて滅んだ中国王朝、ソ連崩壊の二の舞はご免だろう。広大な国土、10億人を超える民衆を束ねるのは、並大抵のことではない。中国政府が人権無視の強硬策をとるのは必然なのだ。田母神論文で右往左往し、自衛隊の役割すら定まらない日本に勝ち目はない。
日本人の多くは、
「外交と戦争は一体」
という事実に目をそむけている。今も、自衛隊は軍隊ではないと決めつける評論家がTVの顔になっていることに驚く。彼らは、決まって、国民の生命と財産を守る自衛隊をないがしろにする。自衛隊員が激しい訓練で身につけたメンタルパワーとスキルを認めない。これでは、海域や小島どころか、日本本土まで併合されるだろう(中華人民共和国・日本省)。危機を煽るだけの悲観論は危険だが、危機を直視しない楽観論は命取りになる。
現実味のない正論を吹聴する評論家は、歴史に学ぶべきだ。なぜなら、歴史に主観はなく、あるのは客観的事実のみ。そして、そこに記されているのは、
「強力な軍隊がないと、国民は殺されるか、奴隷にされるかである」
バカバカしい、そんなことが現代に起こるはずがない?では、20世紀初頭のチェコスロバキア、1956年チベット動乱は?
■ロシア
やっていることの善し悪しはともかく、一刀両断モードで立ち向かうのは、中国だけではない。プーチン率いるロシアもしかり。2008年9月、グルジアの自治州南オセチアをめぐり、ロシアとグルジアが対立、ロシアはグルジアに侵攻した。欧米の激しい非難など歯牙にもかけない横柄な態度は、かつての強面(こわおもて)のソ連を彷彿させる。この問題は、民族主義に米ロの覇権がからむのでどっちが悪いは意味を持たない。外交とはすべて、そういうものである。
また、ロシアは、2009年1月1日、ウクライナへの天然ガスの供給を停止した。表向きの理由は価格交渉のもつれだが、親欧米のウクライナに対する圧力と見られている。ソ連崩壊後、米ソ冷戦は終結し、世界はアメリカ一極支配へとシフトした。ソ連を継いだロシアは、一旦、民主化に向かったものの、現在、メディア統制、産業統制を強めている。さらに、世界一豊富な資源を武器に、アメリカ主導の世界秩序に揺さぶりをかけている。
プーチンは、頭のてっぺんから足のつま先までリアリストだ。自分が何を望み、何をすべきかを知っている。そして、どんな非難を浴びようが、かまわず断行する。坂本竜馬の
「世の人は われをなんとも言はば言へ わがなすことはわれのみぞ知る」(俺の事は何とでも言ってくれ、どうせ、俺のやることは、俺しか分からん)
を彷彿させる。プーチンの正体は革命家なのだ。
以前、プーチン首相とロシア市民の対話が、TVで放映された。ある女性が、
「輸入品のせいで、ロシア産業が苦況に立っているが、こんな政策は間違っている」
とプーチンに詰め寄った。日本の首相なら、保護貿易は世界秩序に反するとかなんとか、自分の正当化に終始しただろう。ところが、プーチンの答えは驚くべきものだった。
「あなたの言うことは正しい。私は、そうするつもりだ」
その後、ロシアは自動車の関税を引き上げ、国産車を買うことを奨励した。プーチンは真の愛国者だ。他国にとっては災難なのだが。
今のロシアは日本の明治維新に似ている。株価は最高値から70%も下落し、失業と給料遅配で経済は混乱し、善と悪、偽善者と愛国者、隆盛と没落が、せめぎ合っている。人口はアメリカの半分にも満たず、工業製品の量産技術ももたない。これで、強敵アメリカと伸張著しい中国に対抗しなければならない。明治維新を思えば、今どんな指導者が必要かは明らかだ。プーチン大帝が、ロシアに君臨する理由はここにある。
■底値
このような世界情勢をみれば、当面の危機は、
「世界恐慌が起こるか否か」
に帰着する。世界恐慌は第二次世界大戦を引き起こした前科があるからだ。そして、その「予兆」となるのが、株価。今、株が大暴落すれば、1929年のような金融恐慌ではすまない。社会システム全体が壊れ、未知の恐慌に突入する可能性がある。そこで、今後の株価予測・・・
先ず、株価は何で決まるか?株が下がると思う人が多ければ株は下がり、その逆なら、株は上がる。それだけ。不況だから株が下がるわけではない。その良い例が、2009年初頭の株価だ。企業業績の悪化、企業倒産、失業者の急増など、実体経済は転げ落ちるどころか、つるべ落としなのに、株価は意外に堅調。何のことはない、株が上昇に転じると思っている人が多いからだ。その根拠は?
企業の経営状態に比べ、株価が割安だから。その指標となるのが「PBR」だ。
「PBR=株価÷1株当たりの純資産」
この式から、PBRが低いほど資産がある割に株価が低いことになる。つまり、割安。
現在、東証一部企業のPBRの平均値は、0.7(2009年1月)。70万円分の株を買えば、その会社の資産100万円分の権利を所有することになる。もし、会社が解散して、資産を処分すれば、単純計算で、
100万円-70万円=30万円
の利益が得られる。本来、株式投資はリスクを負って、会社の成長を買うものなのに、解散すればすぐに元が取れる・・・あくまで単純計算だが、それにしても、異常な安値だ。
では、今が買い?買う前に、冒頭のガルブレイスの言葉を思い出そう。本当に今が底値?
■大底
公的資金を投入しようがしまいが、アメリカのビッグスリーが生き残る未来はない。それほど、自動車産業は斜陽化している。これまで、5年前後で車を乗り換える人が多かったが、今は7年前後、やがて10年以上になるだろう。それだけで、新車販売台数は半減する。そもそも、自動車は10~20年は走る。売上半減なら、生き残る自動車メーカーも半分?世界で生き残る自動車メーカーは6社という説もある。トヨタ、ホンダ、BMW、フォルクスワーゲン、ダイムラー、プジョー・シトロエン・・・米ビッグスリーが入る余地はない。
ビッグスリーショック発の世界恐慌が始動すれば、下請けも含め、大量の失業者が出るだろう。とはいえ、アメリカのGDPに占める自動車産業の比率はわずか0.8%。ところが、金融の大量破壊兵器CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)に火がついたら、ただでは済まない。GDP比率で20%を占める金融・保険・リース・不動産業は大打撃を受ける。もっとも、金融システムそのものが崩壊すれば、業種は関係ないが。
もしそうなれば、アメリカ人は、借金消費を心から悔い改め、ガラクタ商品など買わなくなるだろう。結果、商品需要は激減する。
「生産減→失業者急増→消費減→生産減」
の巨大な悪循環が生まれ、企業の業績は急速に悪化する。この時点で、予測される株価は、米ダウ平均6000ドル、日経平均7000円。
ここまで株価が下がると、別の問題が発生する。国民の健康と生命と老後を脅かす「生活の大量破壊兵器」である。生命保険会社は、自社の資産の一部を株で運用しているが、下の表は各社が株を購入した時の日経平均株価である。
会社名
|
株式取得時の日経平均株価
|
朝日
|
12,750
|
住友
|
10,400
|
三井
|
9,400
|
富国
|
9,300
|
第一
|
8,800
|
太陽
|
8,270
|
大同
|
8,000
|
日本 |
7,600
|
明治安田
|
7,400
|
※出所:日本経済新聞
例えば、明治安田生命の場合、日経平均株価が7400円でトントン、それより下がれば、株で損をすることになる。もし、先の予測、7000円まで下落すれば、すべての生保が、株で損をする(含み損)。株式の含み損は、会社の自己資本から差し引かれるため、保険金の支払い余力が下がる。もしそうなれば、生命保険会社の信用不安が起こり、生活者の健康と生命の保障が瓦解する。銀行の倒産どころではない。
株暴落は年金も直撃する。国民が納めた公的年金を運用しているのが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。リーマン・ショックに始まる株価下落により、GPIFの運用損失は上半期としては過去最大の2兆9000億円に達した(2008年)。さらに、運用損失が累積すれば、保険料の引き上げや支給額の減額は避けられない。いくら政府でも、ないものは払えない。年金は、労働者の収入、年金生活者の生き死にを左右する。もちろん、アメリカも事情は同じ。
株の大暴落は、保険と年金を直撃し、すべての生活者の「安心と安全」を根底から揺さぶる。深刻な社会不安が発生するだろう。そのような状況では、投資家は不安にかられ、もっと株は下がると考え、売りに回る。当然、現実の株価も下がる。このフェイズでは、株式投資のテクニカル分析は用をなさず、底値は予測不能になる。底値が見えないほど恐ろしいことはない。投資家はパニックに陥り、最後の投げ売りが始まる。そうなれば、日経平均は6000円を割り込むだろう。その後何が起こるかは予測不能・・・
■未来
現在、マスメディアが予測する未来は2つある。
1.1~2年後に底をうって回復に転じる(多数派)。
2.1929年の世界恐慌に陥る(少数派)。
フランスの経済学者ジュグラーは、恐慌も景気循環に組み込んでいるので、広い意味で、「1.」も「2.」も循環的なものと言えるだろう。でも、ひょっとしたら・・・今回の大不況は循環的なものではないかもしれない。これまでの世界とは不連続の大破局だったとしたら・・・
自動車、電話、カメラ、コンピュータを1人1台所有することが幻想だとしたら?50年前までは、ほとんど業務用だったのだから。もしそうなら、何年、何十年待っても、景気は回復しない。回復とは本来あるべき姿に戻ることなのだから。これは、社会全体を包含する変異であり、個別に対処しても効果はない。悪循環の大車輪が、すべてを丸呑みにするからだ。
そこで、個人予測。未来は2つある。
1.数年後、悪名高い「カジノ経済」に逆戻りする(確率60%?)。
2.未知の世界恐慌に突入し、社会のスクラップ&ビルドが起こる(確率40%?)。
先ずは「1.」。カジノ金融による世界恐慌をふせぐため、健全な金融を取り戻し、実体経済も回復する・・・識者が予測するこんな世界は、たぶん来ない。これまでの資本主義に戻るなら、カジノ経済もそのまま復活する。今の資本主義は、カジノ経済なくして成り立たないからだ。具体的には、アメリカが借金漬けで大量消費し、その代金を、アメリカ金融業(アメリカ国営カジノ)が回収する。ガラクタ商品頼みの資本主義を維持するには、これしかない。
次に「2.」。株の大暴落が、保険&年金システムを破壊し、生活者の安心は消し飛び、疑心暗鬼が世界をおおうようになる。生活必需品しか売れなくなり、多くの企業が倒産し、失業者が街にあふれる。運輸、外食などのサービス業にくわえ、警察・消防などの公的サービスも減り、不便な世の中になる。だが、そんな状態は長くは続かない。社会革命、つまり、新しい社会システムが生まれる。
■新生
もし、「2.」が現実になったとして、お金のかからない、資源も食いつぶさない、充実した生活などあるだろうか?たぶん、ある。我々が築き上げた素晴らしいテクノロジーが、それを可能にしてくれるはずだ。
人間が生きていく上で欠かせないのが、エネルギーと食料と水。じつは、最新のテクノロジーを使えば、すべて自給自足できる。さらに、エネルギーにいたっては、太陽光発電を使えば、ランニングコストはほぼゼロ。ガラクタ資本主義に加担して、高収入を得る必要などないのだ。考えてみれば、エネルギー、食料、水は自然界にあふれている。
かつて業務用にしか使われなかった道具も、今では独り占めできるようになった。TV、新聞、書籍、ゲーム、通信もしかり。コンテンツとコミュニケーションのために、これほどたくさんのメディアやインフラが必要だろうか?すべて、インターネットでまかなえるのに。資源を食いつぶし、ガラクタを大量生産し、ポイ捨てでゴミの山?何かが間違っている。
インターネットは、人類が初めて手にした「文明の統合ツール」だ。情報、コンテンツ、商品販売、コミュニケーション、さらに、全く新しいサービスが生まれる可能性もある。しかも、
「光ファイバー+ルーター+端末」
というつましい資源で構築できるし、利用者の負担も少ない。頭を切りかえて、ちょっと振り向くだけでいい。そこには、安価で、エコ(ECO)で、ワクワクする楽しみはいくらでもある。
東京から田舎にUターンして、気づいたことがある。自然の豊かさだ。人口密度が低いので、一人が独占できる自然が多い。これは天の恵み。東京は、巨大な人口、インフラをかかえるが、災害に弱く、食糧在庫は1日分しかない。しかも、「派遣切り」で露見したように、失業すれば、たちまち命にリーチがかかる。何でもそろった夢の楽園が、弱肉強食のコンクリートジャングルと化している。
もし、世界恐慌が始まれば、不便、不自由どころか、命さえ危なくなる。だが、歴史をみれば、もっとヒドイ時代もあった。太平洋戦争末期の硫黄島の玉砕。何十倍、何百倍もの火力をもつアメリカ軍に撃たれ、焼かれ、死んでいった兵士たち。地獄の苦しみと恐怖の先に待っているのは、確実な死。これ以上の苦しみはないだろう。冒頭のガルブレイスの言葉を読みかえよう。
「最悪の事態がじつは最悪ではなく、もっと悪いこともあった」
世界恐慌であれなんであれ、人間が犯した過ちなら、必ず修復できる。それまでは、安い賃金、辛い仕事でも、納得して働く。今はとりあえず生き延びればいい、と割り切るのである。そのうち、新しいパラダイム、新しい社会が生まれるだろう。これは気休めではなく、人類の歴史が証明している。
では、どうすればいいのか?
1.気の合う仲間で、コミュニティをつくる。
2.田畑を耕し、食を自給自足する。
3.太陽光発電&充電システムで、エネルギーを自給自足する。
4.ガラクタ消費生活から、もっと知的なECOライフへ。
最近、こんなハイテク自給自足コミュニティを夢見ている。
《完》
by R.B