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週刊スモールトーク (第415話) 米中新冷戦(3)~熱戦(核戦争)への道~

カテゴリ : 戦争歴史経済

2019.03.02

米中新冷戦(3)~熱戦(核戦争)への道~

■冷戦から熱戦へ

「米中新冷戦」は、80年前の「日米冷戦」の写し絵だ。

「日米冷戦」は「熱戦(太平洋戦争)」まで発展したが、「米中新冷戦」はどうなるのだろう。

識者が言うには、戦争にはならないという。米中は核保有国だから、行き着くところ「核戦争」、そんなバカなことをするわけがない、というわけだ。

では、キューバ危機は?

1962年10月9日、CIA長官ジョン・マコーンは、キューバの空中偵察を提言した。ハバナ南方のサン・クリストバル地域に「ヘンなモノ」があるというのだ。偵察機U-2が持ち帰った写真を分析すると、そこに驚くべきものが・・・ソ連製の中距離弾道ミサイルと準中距離弾道ミサイルの発射場である。

北米大陸の海岸線から、わずか150kmの場所に、北米の全都市を射程に入れる核ミサイル・・・米国にしてみれば、裏庭に最終破壊兵器をもちこまれたようなもの。これでは夜もおちおち眠れない。

そこで、米国は反撃にでた。カリブ海を封鎖し、ソ連の艦船が入れないようにした。ところが、ソ連は絶対に折れないお国柄。一方、米国の将軍たちは戦争したくてウズウズ。キューバなら空爆だけで片がつく。ついでに、ソ連もやっちまえ、というわけだ。全面核戦争が起きてもおかしくない状況だった。

しかし、米ソ戦争はおきなかった。

なぜか?

米ソが核保有国だからではなく、最高指導者(米国はケネディ、ソ連はフルシチョフ)が賢明だったから。もし、ソ連がフルシチョフではなくスターリンだったら、核戦争の確率は99.99%・・・純金の純度フォーナイン(99.99)なんてしゃれてる場合ではない。あの時代に米ソ全面核戦争なら、人類は石器時代に逆戻り。

ではなぜ、スターリンなら「フォーナイン」?

スターリンは、数百万人の政敵を、処刑するか強制収容所送りにした。さらに、第二次世界大戦で1500万人の国民を犠牲にしたあげく、こう言い切ったのだ。

「一人の死は悲劇だが、大量死ならタダの数字」

(旧)ソ連は領土が世界最大で、人口も3億人いるから、核戦争で2億人死んでも、1億人は生き残る・・・という算段だろう。つまり、人間の死は「数」でしかない。

だから「核保有国同士で戦争はおきない」は妄想だろう。

■勝ち目のない戦争

米中が「戦争にならない」理由がもう一つ・・・今戦えば、中国に勝ち目はない。負けると分かっていて、戦争をふっかけるバカはいない、というわけだ。

では、1941年の太平洋戦争は?

あの時代、日本は米国と戦争しても、勝ち目はなかった。国力が違いすぎたのだ。開戦前の米国と日本の国力を比較してみよう。

まずは経済力。米国のGDPは、日本の「10倍」。

つぎに工業力。米国の工業生産高は、日本の「8倍」。

まさに桁違い。しかも、科学技術では米国が日本を圧倒する。これで、どうやって戦争に勝てるのだ?

ところが、日本は米国に宣戦布告した。

なぜか?

日本の指導者が愚かだったから・・・これが戦後の歴史教育とマスコミ報道の定番だ。

この「愚かな」な刷り込みを主導したのは、マッカーサーを首班とする米国進駐軍だが、彼らを責めることはできない。敗者(日本の指導者)を悪者にしないと、占領支配が円滑にすすまないから。進駐軍の将校も、しょせんは公務員、給料分の仕事をしただけなのだ。

ただし、「日本の指導者は愚か」を真偽でジャッジすれば、「偽」だろう。

冷静に考えみよう。

一国のリーダーまでのしあがる人物がおバカ、なんてことがあるだろうか?

■司馬遼太郎の謎の歴史観

19世紀のアジア、地球の裏側から侵略者が押し寄せた。欧米列強である。アジア全域を植民地にしようというのだ。ところが、日本とタイだけはまぬがれた。タイは防衛で手一杯だったが、日本は攻勢に転じた。明治維新をなしとげ、富国強兵を推進し、戦争で連戦連勝、「列強」に名を連ねたのである。

そんな国のリーダーがおバカ?

作家の司馬遼太郎は、明治を称賛し、昭和をディスったが、明治も昭和も根っこは同じ(ただし戦後の昭和はのぞく)。ともに、欧米列強とロシアに併呑されないよう、国家安全保障を優先しただけ。違いといえば、勝ったか負けたか。

もし、(負けた)太平洋戦争を暴挙というなら、(勝った)日露戦争は狂気の沙汰だろう。「戦争経済」でみれば、日露戦争は無計画さは、太平洋戦争の比ではない。もし、外貨調達で、高橋是清の「ウルトラC」がなかったら、勝ち負け以前に、戦争は続けられなかっただろう。カネがなくては戦さはできないので。

さらに、財政の健全さでは、太平戦争中は平成よりマシ(本当ですよ)。

太平洋戦争中、膨大な軍事費を日銀が支えていた。そのため、GDPに対する日銀の資産比率が異常に高かった。最悪の太平洋戦争末期(1945年)のデータをみてみよう。

日銀の資産÷名目GDP=0.4

なんと、日銀の資産額は国民総生産の40%!?

ところが、平成29年は、

日銀の資産÷名目GDP=1.0005

な、なんと、100%!

どうして、そんなことに?

太平洋戦争中同様、日銀が日本国債を爆買いしているからだが、戦争中より今の方が大変?

それに、日銀って日本の中央銀行ですよね。ということは、政府は自分で国債を売って買ってるってこと?

なんか、キナ臭い・・・

キナ臭いどころか、現実のリスクもある。株価暴落より何倍もコワイ「国債暴落」。行き着くところ、貨幣経済の崩壊なので。

というわけで、太平洋戦争末期の財政は平成よりまともだった!?

ところが、日本のマスメディアは、必ず、日露戦争を称賛し、太平洋戦争をディスる。マスメディアが、司馬遼太郎の「明治>>昭和」の歴史観を正当化したため、日本人の歴史観にヘンなバイアスがかかったのだ。それが「善悪」。善い歴史、悪い歴史ってなんだ?しかも、「善し悪し」の根拠というのが、勝ったか負けたか、あるいは、外国からの非難をあびるかあびないか・・・これでは歴史の真実は見えてこない。歴史とは「善し悪し」ではなく「因果関係」の解明なのだ。

そもそも、歴史上の出来事は、その時代でしかわからないことがある。この世界は、国際情勢、国内情勢、時代の空気、無数のパラメータがからみあう複雑な時空だ。それを、何十年も経って、わかりやすい「丁半」結果が出たところで、バカじゃん?

どっちがバカでしょう。

最近、脳科学者の茂木健一郎が、マスコミのレベル低下を訴えているが、あたっていると思う。たとえば、経済ニュース。日本にも経済専門番組はあるが、米国ブルーバーグと比べ、内容もツッコミも気合いも劣る。アンカーマンのインテリジェンス、表現力、機転もゼンゼン違う。それ以前に、日本のアンカーさん、もっと早口でしゃべってよ!

録画して早送りしたら?

そこまでして観ませんから。

■太平洋戦争の原因

話を太平洋戦争にもどそう。

資質に問題がなかったとして、当時の指導者たちは、なぜ勝ち目のない戦争をしたのか?

日米の巨大な国力差を知らなかったから?

ノーノー!

今ほど正確な情報はなかったが、日本の指導者たちは、勝ち目がないことはわかっていた。だから、米国ルーズベルト大統領が、「先に銃を抜かせる」ため無理難題をふっかけても、外務省は涙ぐましい外交を続けた。

海軍トップの山本五十六提督もしかり。米国に留学したときのことだ。授業もロクにでず、米国内を視察し、桁違いの生産力と流通力を目の当たりにした。戦って勝てる相手ではない、と悟ったことだろう。事実、後に日米戦争を命じられると、山本提督は伸るか反るかの大勝負にでた。真珠湾を奇襲し、初戦で圧勝し、講和条約にもちこむのである。山本提督はバクチ好きで知られたが、本当だろう。

というのも、真珠湾攻撃の勝利は奇跡に近い。将兵を限界まで訓練し、未発達なテクノロジーで索敵と情報収集を繰り返し、不足部分を推測でおぎなう。それをもとに、精緻な作戦を練り上げ、完全な情報統制で侵攻する・・・それがすべてうまくいって初めて成功するのだ。だから、正真正銘の「大バクチ」。

当時、日本の選択肢は2つあった。一つは、米国の無理難題を呑んで、獲得とした領土をすべて放棄すること。もう一つは、初戦で米国を圧倒し、講和にもちこむこと。

前者は、まともな主権国家なら絶対に呑めない。戦って、講和条約を締結し、獲得した領土をすべて放棄しろというのだから。もちろん、世論も絶対に許さない。つまり、理屈の上では成立するが、現実にはムリ。

一方、後者は、見込みは薄いが、可能性はゼロではない。奇襲で、ハワイの米国太平洋艦隊を殲滅すれば、太平洋の制海権は2年半は日本のもの。高い工業生産力をもつ米国でも、太平洋艦隊を再建するのに、最低2年はかかるから。結果、米国の西海岸一帯が日本軍の攻撃にさらされる。米国は本土が攻撃されたことがないから、民意は講和に傾くかもしれない。米国の民主主義につけこむわけだ。それに、南方の石油資源を確保すれば、当面は戦えるし・・・そう考えたのかもしれない。

政府も軍部も苦渋の決断だっただろう。

つまり、太平洋戦争は「ありえない」戦争ではない。むしろ、おこるべくしておこった戦争なのだ。唯一無二の「史実=現実」であることが、何よりの証拠。だから、太平洋戦争の原因を「指導者の資質」に押し付けるのは、子供の論理だろう。

戦争は、国家間の利害関係がからむ複雑な事象だ。しかも、外交の延長なので、ふつうにおこりうる。とはいえ、戦争は文明を破壊し、大勢が死ぬから、やらない方がいい(あたりまえ)。

では、戦争はどうすれば防げるのか?

まず、戦争に至る「因果関係の連鎖」を、「善悪」ではなく「論理」で解明する。それから、「戦争」直前ではなく、何段も前でブロックする。戦争の直前では、はずみで戦争になることがあるから。それに、前段で処理するほど、やり直す機会も増えるし。

■日本陸軍の戦い

一方、太平洋戦争の責任を、ピンポイントで「陸軍」におしつける向きもある。

これも、戦後の歴史教育とマスコミ報道の定番だ。いわく、陸軍上層部は、海軍と違って、海外に出ないから、世界情勢にうとかった。だから、無謀な戦争を始めたというわけだ。海軍は船で海外に行けるけど、陸軍は陸しか行けないから?(ジョーダンですよね)

さらに、開戦後も陸軍は無謀な作戦をくりかえして、敗戦に導いた、というわけだ。

お気づきだろうか?

都合のいいパーツだけつまんで、「普遍的ルール」まで拡大し、「真実」にもちこもうとしている。

たとえば、無謀な作戦の代名詞「インパール作戦」。

インパールはインド北部の古都で、ビルマと国境と接している。太平洋戦中は、イギリスのインド方面軍の基地があり、「援蔣ルート」の要衝でもあった。「援蔣ルート」とは連合国側が、蒋介石へ支援物資を送る補給路のこと。この頃、日本軍は、中国大陸で蒋介石の国民党軍と戦っていた。だから、インパールを制圧すれば蒋介石軍は軍需物資を絶たれ、窮地に陥る。さらに、日本軍はインパールを拠点に、一気にインドを制圧するかもしれない。その場合、イギリス軍はアジアから撤退するしかない。

つまり、インパール作戦は、戦略上重要な意義があったのである。

とはいえ、それを考慮しても「大バクチ」だった。事実、大損害を出して敗北したし、師団長が命令を無視して、無断撤退することもあった。軍紀が厳しい日本軍では珍しい。日本軍は、勝利か玉砕だから。とはいえ、見方をかえれば、それほど凄惨な戦いだったのだろう。

しかし、問題はそこではない。

「インパール作戦=無謀=日本陸軍」が公理化されていること。つまり、日本陸軍の戦いは、すべて「インパール作戦」式で無謀、というわけだ。

でも、本当だろうか?

そもそも、日本人は「日本陸軍の戦い」をどれだけ知っているのだろう?

■日本陸軍の真実

開戦当初、日本陸軍は疾風怒濤の快進撃を続けた。イギリス領マレー半島の攻略、米国領フィリピンの攻略、イギリス領香港の攻略、すべて圧勝。不意を突いたからとケチをつける人もいるが、イギリス軍は日本軍の侵攻を予測していた(対応は遅れたが)。

ところが、日本陸軍は別件でも非難をあびている。兵を小出しにして、逐次撃破されたこと。たしかに、「ガダルカナル島の戦い」はそうだったが、情報不足と過信が原因で、戦術が「小出し」だったわけではない。それに、「大出し」の戦いもたくさんある。

たとえば、シンガポールの戦い。難攻不落といわれたイギリス軍のシンガポール要塞を、たった2週間で陥落させている。2倍の兵力差を跳ね返して。そのとき、日本軍は「小出し」どころか「大出し」、弾薬を惜しまず集中砲火をあびせたのだ。こっちが弾切れ、あっちが降伏、どっちが先?という大胆さ。

結果、弾切れ寸前に、イギリス軍が降伏してくれた。だから、「無謀&兵の小出し」が日本陸軍のスタンダードだったわけではない。米軍に物量で劣り、数倍の敵と戦うことは度々あったが、「兵の小出し」とは別の話。

また、陸軍は海軍に比べ、世界を知らなかったわけではない。海軍だけでなく、陸軍士官も多数、海外留学している。満州事変のキーマンの石原莞爾中将(ドイツに留学)、「硫黄島の戦い」の栗林忠道中将(米国に留学)もその一人。ちなみに、硫黄島の戦いは、アメリカ軍が勝ったが、大損害を出している。アメリカ軍の死傷者数が日本軍を上回ったのだ。

というわけで、日本陸軍は「世界情勢にうとい」わけでも、「兵の小出し」で負け続けたわけでもない。

話を「勝ち目のない戦争」にもどそう。

「勝ち目のない戦争はおきない」は妄想である。そもそも、「勝ち目」の判断が難しい。日本は「10倍」の国と戦ったが、「1000倍」と戦って勝利した国もある。ヌルハチ率いる女真族だ(このとき国ではなく一部族)。

ヌルハチは、中国(明王朝)に侵攻するさい、「一人十殺」のスローガンをかかげた。人口の差が大きかったからだ。ところが、物知りの家臣がこう進言する。

長(おさ)よ、「一人十殺」では足りませんぞ、「一人千殺」にしなくては!

中国の人口は女真族の1000倍だったのである。それでもヌルハチは勝利した。それが、中国最後の王朝「清」である。

というわけで、核を持っていようがいまいが、勝ち目があろうがなかろうが、指導者が賢明だろうが愚かだろうが、戦争はおこりうる。つまり、戦争を阻止する要因にはならないのだ。「抑止」にはなるだろうが。

《つづく》

by R.B

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