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週刊スモールトーク (第101話) 宇宙の終わり ~陽子崩壊~

カテゴリ : 科学終末

2007.12.09

宇宙の終わり ~陽子崩壊~

■人生のはかなさについて

「人間、40才までが本文、それを過ぎたら注釈の人生」~ショーペン・ハウアー~

さすがはドイツが生んだ大哲学者、たった一文で、人生の本質を言い当てている。語呂がいいし、深く考えさえしなければ、いい気分になれる。だが、その意味するところは残酷だ。平均寿命80才として、人生の半分を、若い頃の思い出と解釈で過ごすというのだから。人生の半分は不毛?

「タイムマシンを作るために、工学部に進んだが、本当に正しかった?」
「20年前、貯金などせず、任天堂の株を買うべきだった」
「あの時、結婚を決意した理由がどうしても思い出せない・・・」
確かに、不毛の人生ではある。

しかも、人間はみんな最後には死ぬ。人間は生まれ落ちた瞬間から、死神に追われることになっているのだ。生まれてすぐに捕まる人、100才を超えても逃げ続ける人、だが最後には必ず捕まる。老若男女、貴賤をとわず、死神は万人に訪れるのだ。

こんな人生のはかなさを紛らわすため、人間は宗教や哲学を生み出した。宗教は神の名を語り、哲学は真実を探究するフリをして、苦しみから逃れようとする人々の気を引いたのだ。中でも、「生まれ変わり」は最強の説得力をもつ。これさえあれば、死など恐くない。

■世界のはじまり

今から137億年前、宇宙誕生の瞬間、膨大な物質とエネルギーが突如、出現した。無から有が生れたのである。無から有・・・このとてつもない不連続は、数学では特異点とよばれている。特異点が存在するということは、その世界が不完全で自己完結していないことを意味する。なぜなら、何も無い世界で、「降って湧いた有」など説明できないからだ。外部から持ち込んだ、つまり、外部世界の助けなくして、説明できないのである。

たとえば、地球上の生物種の60%が突然絶滅したとする。地球で種が絶えることは珍しくないが、このような大規模な瞬殺は普通の自然現象では説明できない。外部世界から、とてつもない外圧が加わったとしか考えられない。実際、6500万年前に起こったこの大絶滅は、直径10kmの巨大隕石の衝突が原因と考えられている。その時のエネルギーはTNT火薬6000万メガトン、1メガトンの核弾道ミサイル6000万発分である。

じつは、宇宙誕生の不連続も「宇宙は神の一撃で始まった」と仮定すれば、つじつまが合う。
「宇宙はその外世界にいる創造主が創った」
つまり、有が有をつくったことになり、時空的には連続する。この仮説を唱えたのは、どこぞの怪しい宗教家ではなく、著名な物理学者である。

そして、この説を勝手に発展させれば、次のような仮説も成り立つ。137億年前、宇宙の容れ物である空間と、膨大な物質とエネルギー、そして生命が外世界から持ち込まれた・・・

■生まれ変わり

ここで、生命について考えてみよう。人間とロボットの違いは、魂の有無にあるのかもしれない。ロボットは燃料を注入すれば動くが、生物は肉体があっても魂がないと動かない。例えば、電気ショックで心停止した人間は、肉体に異常がないにも関わらず、動くことができない。そこで、人工心臓を埋め込んで、無理矢理、血液を循環させ、細胞を活性化させても生き返らないことは、誰でも想像がつく。

とすれば、生命の本質は魂にあるのかもしれない。魂は、ちょうど心臓の辺りにあって、魂が肉体から抜け出ると、生命としての機能を停止する。ちょっと唐突だが、アラン・チューリングも同じようなことを言っている。チューリングは、エニグマ暗号を解読し、イギリスの国難を救い、コンピュータサイエンスの父と言われる科学者だが、次のような手紙を書いている
「身体は魂を引きつけ、つかまえるが、死によって身体がそのメカニズムを失うと、魂は飛び去り、すぐに別の身体を見つける」

デカルトの名言、
「我思う、ゆえに我有り(Cogito、ergo sum)」
の意味するところは、
「この世界のすべては幻かもしれないが、自分が思うということは、思う主体、つまり自分も存在する」
魂の本質は、
我思う、ゆえに我有り=意識
にあるのかもしれない。

ビッグバンの後、宇宙は冷えていき、恒星や惑星がうまれ、地球上には生命が誕生した。その物資世界を、魂は遊び場にしたのである。魂は波動なので、物質をすり抜けることができるが、肉体化、物質化すると、それもできない。思考や行動は制限され、不自由さがうまれた。一方、不自由がゆえに「ありがたみ」も生まれ、感情が芽生えた。

こうして、地球は魂の「遊び場=人生体験の場」となった。また、「人生の飽き」を防ぐため、「死」が設定された。そのおかげで、生まれるたびに、記憶がリセットされ、気分一新、人生をやりなおすことができた。一方、震えるほどの体験は、特殊なパターンで魂に記憶された。そのフォーマットは映像や音とは異なるため、直接思い出すことはできないが、感覚を通して、間接的に体験することができる。こうして、肉体人間は、死の恐怖、人生のはかなさから逃れる術を見いだした。これが「生まれ変わり」である。

しかし・・・

宇宙そのものに終わりがあるとしたら。

■宇宙の終わり

世界の終わりをテーマにしたドラマや映画は多い。中でもポピュラーなのが「地球最後の日」。村や町より、地球丸ごと滅ぶほうががインパクトがあるからだろう。その原因も、隕石衝突、全面核戦争、ウィルス感染、エイリアンの襲来・・・ネタに事欠かない。一方、破滅のスケールが大きいほどいいなら、「宇宙の終わり」があってもよさそうだ。ところが、これが意外に少ない。宇宙壊滅ともなると、原因のネタ捜しが大変なのだろう。

たとえば、ビッグクランチ(Big Crunch)。宇宙のビッグバンモデルによれば、宇宙はビッグバンから始まったが、宇宙の内部の質量が一定値を超えると、その引力により、宇宙は縮小に転じる。結果、宇宙の始まり「無から有が生まれた特異点」に戻る。この瞬間をビッグクランチとよんでいる。もちろん、こんな状況では、魂も物質もエネルギーも存在できない。スケールはでかいが、大味過ぎて、SFネタにはちょっと辛い。

ここで、ドラマで採用された「世界の終わり」を見てみよう。

■宇宙最終兵器

まずは、「スタートレック~宇宙大作戦~」。このシリーズには「宇宙の終わり」をテーマにした傑作がある。邦題は「宇宙の巨大怪獣(The Doomsday Machine)」と安っぽいが、内容はシリアスで面白い。スタートレックの人気投票では、常にベスト10に入る名作だ。

物語は、宇宙船エンタープライズ号が、救難信号を受信するところから始まる。信号の発信源を追ったエンタープライズは、やがて未知の太陽系に入るが、驚くべき事態に遭遇する。この太陽系に存在するのは、惑星の破片と小惑星のみ。つまり、太陽系が丸ごと破壊されていたのである。

やがて、救難信号を発信した宇宙船を発見するが、それはエンタープライズと同型艦のコンステレーション号だった。船はすでに破壊され、生存者は船長ただ一人。正体は不明だが、空前絶後の破壊者が近くをうろついていることは確かだった。

追跡していたエンタプライズ号は、ついに、「宇宙の殺し屋」を発見する。巨大な円錐形の物体で、外壁は鈍い光を放っている。装甲は堅牢なニュートロニウムで、光子魚雷もフェーザー砲も通用しない。しかも、船体全体が巨砲になっていて、そこから発射される反陽子ビームは、惑星をも破壊する。つまり、どんな攻撃もはね返す「盾(たて)」と、どんな防御も打ち抜く「矛(ほこ)」を備えた究極の兵器。そして、この怪物が向かっていたのが銀河系の人口密集領域だった。

このエピソードの、
「究極の破壊兵器=反陽子ビーム砲」
はそれなりの根拠がある。反陽子は、質量とスピン(回転)が陽子と同じで、電荷だけが逆、つまり、マイナスの電荷を持つ。いわば反粒子・反物質で、地球の自然界には存在しない。もし、反物質と物質が衝突すると対消滅を起こし、質量はすべてエネルギーに変換され、物質は完全消滅する。だから、究極の破壊兵器なのである。しかも、この「宇宙の殺し屋」は破壊した残骸を飲み込んで、エネルギーに変えるため、半永久的に宇宙をさまよう。

宇宙のどこかの、高度な文明が究極の兵器を造りだしたが、自らも破壊されてしまった、という設定。まるで、地球を脅かしている核兵器だ。全面核戦争は地球を滅ぼすが、宇宙の殺し屋は宇宙を滅ぼす。規模が違うだけで、根本は同じ、敵を倒すことと、自殺することがセットになっている。このような怪物が、現実に宇宙をうろついているとも限らない。ところで、このエピソードは「外からの破壊」だが、「自己崩壊」をテーマにしたエピソードもある。

■分子崩壊

「スタートレック・ヴォイジャー」は、シリーズ唯一の「女性艦長」だが、ストーリーはSFの王道をいく面白さがある。奥が深く、意外性があって、人間の心理描写も巧みだ。このシリーズは全172話からなるが、その中に、「宇宙の終わり」を暗示する名作がある。「第112話・崩壊空間の恐怖」だ。

ジェイン・ウェイン艦長指揮する宇宙船ヴォイジャーは、物語開始早々、7万光年も離れたデルタ宇宙域に吹き飛ばされる。こうして、ヴォイジャーのミッションは一つにしぼられた。地球に帰還すること。エイリアンのテクノロジーで、強化ワープドライブを完成させたヴォイジャーは、地球まであと2年に迫っていた。ところが、ヴォイジャーとクルーに異変が起きる。船体の一部で、分子結合の崩壊が始まったのだ。さらに、機関主任のトレスをはじめ、クルーの皮膚が腐ったように変質していく。

調査の結果、原因は強化ワープドライブが生み出すワープフィールドにあることがわかった。ところが、不思議なことに、最近ヴォイジャーの外から持ちこんだ物資には何の異常もない。調査を進めていた副長チャコティは、ついに原因を突き止める。じつは、宇宙船ヴォイジャーとクルーはコピーだったのだ。一体どうしてそんなことに?

話は「第92話・人を呼ぶ流動生命体」にさかのぼる。宇宙船ヴォイジャーはトラブルのため、ある惑星に緊急着陸する。そこには、意識も感覚もなく、本能だけで生きる流動生命体が住んでいた。偶然、ヴォイジャーのキム少尉と接触した流動生命体は意識に目覚め、キム少尉のDNAと肉体を丸ごとコピーした。結果、流動生命体キムが生まれたのである。こうして、自我に目覚めた流動生命体は、ヴォイジャーのクルーを次々とコピーしていった。その後、宇宙船ヴォイジャーはこの惑星を無事脱出するが、流動生命体がコピーした宇宙船ヴォイジャーとクルーも、その後、惑星を飛び立ったのである。それが、先の「偽ヴォイジャー」だった。

「偽ヴォイジャー」のクルーは記憶もコピーだったので、自分たちがコピーとは気づかない。本物同様、地球に帰還する熱い使命に燃えていたのである。ところが、ワープフィールドが流動生命体の分子結合力を消滅させ、分子レベルでの崩壊がはじまった。惑星出発後、外から持ち込んだ物資だけが変質しなかったのは、それが本物だったからである。

やがて、堅牢なヴォイジャーの外壁に亀裂が走り、船体の崩壊が始まった。もちろん、なすすべはない。ヴォイジャーを構成する分子そのものが偽物なのだから。クルーは次々と死んでいった。ジェイン・ウェイン艦長は、自分たちが存在した証(あかし)を残すため、記録をビーコンで発射しようとするが、失敗する。こうして、彼らが存在した証拠は完全に消えた。

この物語は、デカルトの存在にからむ歴史的な命題「我思う、ゆえに我あり」に疑問をなげかける。コピー品の偽クルーにしてみれば、
我思う、されど我なし
自分の存在そのものが偽で、分子レベルで消滅する運命にあったのだ。もちろん、彼らが生きた証(あかし)も残らない。「誕生し、生きて、死ぬ」という現実のプロセスはなく、「元々存在しなかった」という無力感・・・

この物語の「世界の終わり」は、宇宙船ヴォイジャーという密室空間に限られているが、宇宙全体で同じことが起こるかもしれない。この宇宙がコピー品かどうかはさておき、宇宙を構成する物質に寿命があるかもしれないのだ。

■陽子崩壊

2002年、「天体物理学とくに宇宙ニュートリノの検出に対するパイオニア的貢献」で、小柴昌俊博士がノーベル物理学賞を受賞した。ニュートリノとは物質を構成する素粒子の一つである。このニュートリノを観測をするために作られたのが、岐阜県の神岡鉱山の地下1000mにつくられた「カミオカンデ」だ。小柴博士率いる研究チームは、カミオカンデを使ってこの偉業を成し遂げたのである。ところが、カミオカンデがつくられた本来の目的は別にあった。「陽子崩壊」の観測。

物質は原子で構成され、原子は陽子、中性子、電子で構成される。当然、陽子のような基本的な粒子が崩壊すれば、物質も崩壊し、ひいては、宇宙そのものが崩壊する。まるで、先の「第112話・崩壊空間の恐怖」の宇宙版だが、こちらは「サイエンスフィクション」ではなく「サイエンス」。

かつて、
「陽子の寿命は無限」
とされていたが、大統一理論は陽子崩壊を予言している。もし、それが本当なら、物質の基本粒子にも寿命があるわけだ。ここで、「大統一理論」とは自然界に存在する4つの力を統一する理論だが、まだ完成していない。
その4つの力とは、

①弱い相互作用

②強い相互作用

③電磁相互作用

④重力相互作用

上記①と②は素粒子の間に働く力、③はモーターなどで利用される電磁力である。この4つの力のうち、④重力相互作用を除く3つの力を、一つの理論で説明しようとするのが「大統一理論」だ。ところで、なぜ、④重力相互作用だけがのけものにされるのか?自然界の力の中では、重力は「みにくいアヒルの子」、他とは相容れない特殊な力なのだ。たとえば、①~③の力を伝達する粒子は確認されているが、④の重力は確認されていない(2007年12月)。「重力子(グラビトン)」という仮説はあるが。

また、③電磁相互作用は、すでにモーターや発電機で利用されている。つまり、我々人類は電磁力を完全にコントロールすることができるのだ。ところが、重力は直接つくりだすことも、制御することもできない。もし、それが可能になれば、アニメ「スーパージェッター」の反重力ベルト、UFOでおなじみの反重力推進も思うがまま。地球上の乗物は一変するだろう。小柴博士につづいて、ノーベル賞受賞は間違いない。

2007年、アメリカと日本で脚光を浴びたのが、ハーバード大学の物理学教授リサ・ランドール博士だ。彼女が唱える「5次元宇宙論」は、強固にみえるこの現実世界が、いかにあいまいなものかを教えてくれる。ランドール博士によると、この世界は5次元からなり、重力だけが他の次元と行き来できるという。意味はサッパリだが、ここでも重力は特別扱い。

話を「陽子崩壊」にもどそう。もし、陽子崩壊が観測されれば、この宇宙に寿命があることになる。そうなれば、「生まれ変わり」では、安心は得られない。生まれ変わりシステムそのものが消滅するからだ。もっとも、カミオカンデの後継機スーパーカミオカンデの観測によれば、陽子の寿命は10の33乗年以上になるという。
10の33乗年=1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000年
1兆は「10の12乗」なので、気の遠くなるような数字だ。

もし、陽子崩壊が始まれば、スタートレック・ヴォイジャーの「第112話・崩壊空間の恐怖」のように、宇宙のすべての物質は原子レベルで崩壊する。それでも、「宇宙の容器=空間」は存続するという。しかし、本当にそう言い切れるだろうか?そのうち、誰かが、
空間にも寿命がある
と言い出すかもしれない。そうなれば、宇宙のすべてが消滅する。これが本当の世界の終わり。

by R.B

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