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週刊スモールトーク (第405話) ガリヴァー旅行記(2)~空中浮遊都市ラピュタ~

カテゴリ : 娯楽科学

2018.10.07

ガリヴァー旅行記(2)~空中浮遊都市ラピュタ~

■空中浮遊都市

「空中浮遊都市ラピュタ」・・・いい響きだ。空想科学少年のココロがよみがえる。

ためしに、このフレーズをAI処理すると・・・

・「空中」:名詞(一般)

・「浮遊」:名詞(サ変接続)

・「都市」:名詞(一般)

・「ラピュタ」:名詞(一般)

単語に分けてるだけじゃん、なのだが、これを「形態素解析」という。自然言語処理の基本で、「浅い」言語処理とよばれている。ところが、本当は「浅い」どころか、とてつもなく「深い」。自然言語というものが曖昧だからで(特に日本語)、完全な「形態素解析」などムリ。

とはいえ、「空中浮遊都市+ラピュタ」なら、意味は明々白々、AIを使うまでもない。

でも「ラピュタ」って?

ジョナサン・スウィフトの「ガリヴァー旅行記」に登場するオーパーツ(場違いなハイテク)。謎の「磁力場推進」で、空宙を浮遊・飛行する都市だ。遠くからは島にみえるので、小説の中では「浮島(うきしま)」とか「飛島(とびしま)」とよばれている。

ラピュタが登場するのはガリヴァー旅行記の第3篇「ラピュタ、バルニバービ、グラブダブドリップ、ラグナグおよび日本渡航記」・・・長くて覚えられない。そのため、一般には「天空の国」とよばれている。

■ラピュタ

ラピュタ」といえば、宮崎駿のアニメ「天空の城ラピュタ」だが、「ガリヴァー旅行記」とは関係がない。登場人物もストーリーも別モノ。共通するのは「空中浮遊」ぐらいだろう。

宮崎駿版ラピュタは、文字どおり「城」で、こじんまりしている。一方、スウィフト版ラピュタは、王宮と町がある。時代を考慮すれば「都市」と言ってもいいだろう

もう一つのキーワード「空中浮遊都市」はSFで人気のアイテムだ。アニメなら宮崎駿の「天空の城ラピュタ」。映画なら「スター・ウォーズ5/帝国の逆襲」の「クラウド・シティ」。ランド・カルリジアン男爵が治める雲の上の都市だ。

そして、真打ちは、TVゲーム「バイオショック・インフィニット」。数十万のコアユーザーをかかえる「バイオショック」シリーズの第3作目だ。20世紀初頭のアメリカ合衆国を描いているが、実在したアメリカではない。蒸気機関が異常に進化したスチームパンクな「もう一つのアメリカ合衆国」。そこから、もう一つの世界が派生し、2つの世界を行ったり来たり。究極のパラレルワールドものだ。

このゲームの舞台となるのが「空中浮遊都市コロンビア」。文字どおり、都市一つ丸ごと空に浮いている。都市上空には無数の離島が浮かび、それを空宙モノレールがつなぐ。さらに、飛行船も飛び交う、3軸に拡張された立体都市だ。しかも、海と海水浴場まで備えていて、遊びにも抜かりはない。

つまり、空中浮遊都市コロンビアは、自給自足のメトロポリスなのだ。

そして・・・「コロンビア」には含みがある。

もし、アメリカ大陸を発見したのが、アメリゴ・ヴェスプッチではなくコロンブスだったら?

「アメリカ合衆国」ではなく「コロンビア合衆国」になっていただろう。

「コロンビア」の街並みは素晴らしい。東京ディズニシーのアメリカンウォーターフロントを彷彿させる。ともに、20世紀初頭のアメリカを描いているから。古き良き時代のアメリカとスチームパンクが融合した世界で、デジャヴュのように懐かしい。

というわけで、「空中浮遊都市」と「ラピュタ」はSFゴコロをかきたてる。そして、その元祖が「ガリヴァー旅行記」なのだ。

■ガリヴァーの生い立ち

「ガリヴァー旅行記」の原題は、「船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇」と、副題より長い。文字どおり、ガリヴァーが船医として航海する大冒険譚だ。

ガリヴァーは中小地主の三男坊として生まれた。貧乏ではないが、裕福でもない。だから、学校には行かせてもらったものの、仕送りだけではまかなえない。そこで、医師の書生をやりながら、航海術と数学を学んだ。それから、1、2度、航海を体験した後、オランダで医学を学んだ。そして、満を持して、ロンドンで開業したが失敗。同業者がやっている不正を真似ることができなかったから、と言い訳がましいことを言っている。

早い話、プータローなのだが悠長なことは言ってられない。ガリヴァーには妻子がいたのだ。そのとき、たまたま船医のオファーがあった。稼ぎはいいし、船に備え付けの本が読める。知識欲旺盛なガリヴァーにとって、一石二鳥だ。そこで、奥さんを説得して、航海に出ることにした。ところが、行き先はインド・・・イギリスから22万kmも離れた地の果て、地球を半周する距離だ。

小説の設定とはいえ、なんでよりによってインド?

これには理由がある。

■イギリス東インド会社

「ガリヴァー旅行記」の第一版が刊行されたのは1726年、この頃、イギリスは史上最強の「大英帝国」にリーチをかけていた。その40年後、蒸気機関が発明され、産業革命が起きる。結果、イギリスは世界の工業製品の半分を生産したのである。これほど極端な独占は歴史上見当たらない。「パクス・ブリタニカ(イギリスによる世界平和)」といわれるゆんである。

ガリヴァー旅行記を書いたジョナサン・スウィフトはアイルランドで生まれた。ただし、両親がイギリスからの移民だったので、イギリスでの活動期間が長い。

この時代、15世紀後半に始まった大航海時代は様変わりしていた。先行したポルトガル海上帝国は見る影もなく、その後を継いだオランダ海上帝国はイギリスに侵食されていた。

一般論でいえば、「大航海時代の最終勝者=最大の植民地」。この点で、イギリスは有利だった。植民地「インド」は、人口も領土も世界最大級だったから。「大英帝国」の植民地政策は、インドに依存していたのである。

ところが、実際にインドを統治したのは、イギリス政府ではなかった。「イギリス東インド会社」である。民間企業でありながら、独立した軍隊をもち、征服、虐殺、略奪、なんでもあり。しかも、本国から離れているので、やりたい放題、イギリス国王でさえ手が出せなかった。

それを赤裸々に描いたのが、イギリスのTVドラマ「TABOO(タブー)」だ。

アフリカ帰りの謎の入れ墨男が、イギリス東インド会社に立ち向かい、総帥ストレンジ卿を爆殺するという話。おそらく、フィクションだろうが、時代考証と映像が素晴らしい。さすがはリドリー・スコット(制作者)なのだが、リアルすぎて、ドロドロしていて、観ていて気持ちが悪くなる。ストーリーも救いがないし。

というわけで、ガリヴァーが向かったのはイギリスの大植民地「インド」だった。ところが、その先にあったのは、未知との遭遇・・・

■風刺小説かブログか

「ガリヴァー旅行記」には謎がある。痛烈な「風刺小説」、「風刺文学」の金字塔、が定説になっていること。

これを聞いて、どんな印象をもちますか?

皮肉、批判的、上から目線で一刀両断、陰でクスクス笑って小馬鹿にする・・・

でも、私見と断った上で、一体どこが?

見たこと、聞いたこと、そのまま、率直に書きつづった「航海ブログ」としか思えないのだが。

論より証拠、「ガリヴァー旅行記」を読み解いていこう。

ガリヴァーは、記憶力に優れ、知的好奇心も旺盛だったが、開業医としては落ちこぼれ。そこで、船医として貿易船に乗り込んだ。「ホープウェル」号という1本マストのスループ船である。300トンというから、大きくも小さくもない。大航海時代に活躍したガレオン船の半分ほどで、大砲は搭載していない。それが後々、あだとなるのだが。

■出航と遭難

1706年8月5日、ガリヴァーの「ホープウェル」号は無事出航した。

ところが、すぐに海賊船に捕獲されてしまう。そこで面白い件(くだり)がある。この海賊船には、オランダ人と日本人の船員もいたが、その国民性の違いについて・・・

オランダ人は、「お前ら、背中あわせに引っくくって。海にほうりこんでやる」と悪態をつくのだが、日本人の方は気さくに話しかけてくる。しかも「絶対に殺さないよ」と妙に優しい。そこで、ガリヴァーは、オランダ人に向かって「やれやれ情けないことだ、キリスト教徒同士の兄弟よりも、異教徒の方によっぽど深い慈悲心があろうとは」と皮肉るのである。

この頃、イギリスの最大の敵はオランダだったから、さもありなん、なのだが、結局、ガリヴァーは放り出されてしまう。小さな丸木舟に乗せられ、4日分の食糧を与えられて。ガリヴァーは、細々と航海を続け、懐中望遠鏡で島影をさがした。

懐中望遠鏡?

天体望遠鏡のような据え置き型ではなく、ハンディタイプの望遠鏡。

最古の望遠鏡は、1608年、オランダのレンズ職人ハンス・リッペルハイが製作したといわれる。その翌年には、ガリレオが望遠鏡を自作し、天体観測をしている。倍率は10倍ほどだったが、月面のでこぼこを視認するには十分だ。それが隕石が衝突した痕(クレーター)とは知る由もないが。ガリヴァー旅行記が刊行されたのは、その100年後のことだから、航海でハンディタイプの望遠鏡が使われたとしても不思議はない。

ガリヴァーは、懐中望遠鏡で見つけた島に片っ端から上陸した。食糧を得るためだが、食料品店はもちろん、穀物も果物もない。最後に辿り着いた島はサイアクで、草しかはえていなかった。

この件(くだり)は、ジョン万次郎の漂流記を彷彿させる。漁の途中に遭難し、無人島「鳥島」に漂着した話だ。溜まり水と海鳥だけで4ヶ月生きのびたという。結局、ジョン万次郎は、アメリカの捕鯨船に救助されるが、ガリヴァーも救助された。ただし、捕鯨船はなく、「浮島(うきしま)」に。

■浮島ラピュタ

ガリヴァーは、ギラギラ照りつける岩場で、呆然としていた。すると、突如、あたりが暗くなった。雲や天候のせいではない。空を見上げると、途方もなく巨大な物体が近づいてくる。それが太陽光をさえぎっているのだ。

物体は、ガリヴァーの頭上までくると、徐々に降下してきた。底面は平たく、海面からの反射光で光り輝いている。懐中望遠鏡で物体を見ると、側面にたくさんの人影があった。

ガリヴァーは閃いた。

これは空中に浮かぶ島ではないか。この島の住人は、島を上昇させたり、下降させたり、前進させたり、自由自在に操れるのではないか?

とはいえ、カンタンには受け入れられない。そんな話、見たことも聞いたこともないから。

そうこうしていると、座席がついた鎖が降りて来た。ガリヴァーがそれに乗り移ると、鎖は滑車で引き上げられた。

その先に待ち受けていたのは「空中浮遊都市ラピュタ」・・・俗世を超越した異世界「プラトンの理想郷」へようこそ。

《つづく》

参考文献:
ガリヴァ旅行記(新潮文庫)スウィフト(著),中野好夫(翻訳)

by R.B

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