■「プロメテウスの火」の本当の話 2018.05.30
「火」といえばプロメテウス。
人間に「火」を与えた悪徳の神だ。
悪徳?
人間は「火」から「原子の火=原子爆弾」を創り出し、破滅に向かっているから。
だから、全能の神ゼウスが激怒したのだ・・・ただし、人間を思ってのことではない。自分にナイショで事がすすんだから。
結果、プロメテウスは罰をうけた。山頂に磔(はりつけ)にされ、毎日、ワシに肝臓をついばまれたのである。ところが、プロメテウスは不死、夜中に肝臓が再生してしまう。死と再生が延々と続くわけだ。つまり、不老不死のループ、これ以上重い罰はないだろう。
ところでなぜ、ゼウスは「火」にこだわったのか?
「火」は「テクネー(技術)」を意味する。自然を支配する究極の道具なのだ。だから、使いこなすには「知恵」が必要で、人間にはムリ。事実、人間は自らを滅ぼす「原子爆弾」を創ったではないか。
ここまでが、世に知られたギリシャ神話「プロメテウスの火」。ところが、本当の話はもっと複雑だ。
プロメテウスにはエピメテウスという名の弟がいた。プロメテウスは「前もって考える人」、エピメテウスは「後から考える人」という意味である。
ある時、兄弟は、神から動物を創るよう命じられた。そのとき何を思ったのか、二人は役割を交換することにした。弟のエピメテウスが「前もって考える」、つまり、動物の「設計」を担当したのである。
エピメテウスはヤル気満々だったが、計画性がなかった。動物たちに爪や角や翼を気前よく与えたので、人間の分がなくなったのである。
困ったプロメテウスは、「知恵」の女神アテナに相談した。すると「火」を与えてはどうかという。そこで、プロメテウスは神々の鍛冶師へーパイストスの仕事場から火を盗んで、人間に与えたのである。
つまりこういうこと。
人間が「火」を獲得したのは、エピメテウスがミスをしたから。そのため、エピメテウスには「後悔する人」という意味もある。
そもそも、「火」は天上の神々のものだった。「知恵」のない人間には分不相応、というわけだ。
だけど・・・
人間に言わせてもらえば、人間は「知恵」がないというけど、「火」を勧めた女神アテナは「知恵」の神ではないか。
おっと、神罰がくだる、このヘンでやめとこう。
というわけで、神々にとっても、人間にとっても、「火」は特別の存在だった。事実、古代より、人間は「火」を崇めてきた。
「火」は「熱」と「光」をもたらす。
「熱」は、暖を取る、調理する、金属を抽出・加工する、に欠かせない。
「光」は、夜を明るくし、遠方に信号を送ることもできる。
つまり、「火」は文明の源なのである。
古代世界で「光」の源といえば太陽だった。だから「火」は地上の太陽として崇められたのである。古代ギリシャの哲学者アリストテレスもこう言っている。
火の故郷は天上である・・・言い得て妙かも。
「火」は宗教にとっても、重要なアイテムだった。
たとえば、最古の一神教ゾロアスター教は、「火」を神聖なものとし、なかば神格化した。「拝火教」の異名があるほどだ。
教義も・・・
この世界は「光明」をつかさどる善神アフラ・マズダーと、「闇」を支配する悪神アンラ・マンユの闘争の場である。
つまり、「火」は魔界や霊界の「闇」を照らし、「光明」の世界に変える「テクネー(技術)」なのだ。
じつは、人類史上、初めて火を神聖化したのはゾロアスター教ではない。古代アーリア人である。彼らは祭壇に火を焚き、祈りを捧げる儀式を行っていたという。
参考文献:
週刊朝日百科世界の歴史、朝日新聞社出版
by R.B