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週刊スモールトーク (第386話) アサシンクリード~都市伝説と歴史の渚にて~

カテゴリ : 娯楽歴史

2018.01.13

アサシンクリード~都市伝説と歴史の渚にて~

■映画「アサシンクリード」

映画「渚にて」は、核戦争後の世界を描いている。

舞台はオーストラリアの港町メルボルン。「渚にて」はそこから来ているのだろう。

それにしても、いいネーミングだ。

「渚(なぎさ)」とは、2つの異世界(陸と海)をむすぶグレーゾーン。

じつは、この映画はもう一つの「渚」を暗示している。放射能が到来して滅びるか、それとも運良く生き延びるか、つまり、生存と滅亡が共存する世界なのだ。

現実世界も、「渚」に満ちている。

たとえば、「アサシン」。歴史と都市伝説の「渚」にある。

「アサシン」は英語で「assassin」、「暗殺者」を意味するが、歴史の文脈なら「アサシン教団」だろう。歴史上実在した宗教組織だが、その歴史は知る人ぞ知る。

一方、アサシン教団は、神秘主義、カルト、暗殺、ハシーシュ(大麻)・・・闇の都市伝説に彩られている。そのため、「アサシン暗殺教団」ともよばれる。当然、教科書や、歴史の王道を行く「マクニール」の著書には登場しない(まともな形では)。

ところが、最近、「アサシン教団」の知名度があがっている。映画「アサシンクリード」がスマッシュヒットしたからだろう。

「アサシンクリード」は20世紀フォックスが配給した大作だ。米国で2016年、日本では2017年に劇場公開されている。制作費は150億円なので、この手の映画にありがちなB級SFではない。

ストーリーは・・・アサシン教団の暗殺者が、テンプル騎士団の要人を暗殺していく。テンプル騎士団の恐ろしい陰謀を阻止するために。彼らは人間を心をコントロールする「エデンの果実」を捜し出し、世界征服をもくろんでいるのだ。

アサシン教団は「善」で、テンプル騎士団は「悪」?

映画ではそうなっている。

本当は?

善と悪の「渚」・・・

少なくとも、「007Vs.スペクター」、「0011ナポレオン・ソロVs.スラッシュ」、「仮面ライダーVs.ショッカー」のような勧善懲悪の構図は存在しない。そもそも、人間の所業は複雑にして怪奇。善悪の秤(はかり)で測れるほど単純ではないのだ。

■アサシン教団とテンプル騎士団

アサシン教団とテンプル騎士団は、歴史上実在した組織である。ともに、中世の時代、中東で活動した宗教団体だが、他にも共通点がある。

第一に、神秘主義・カルトの世界ではカリスマ的存在であること。たいてい、謎めいた組織として登場し、秘密の力で、大それたことを企てている。ところが、実際は、真面目でストイック・・・このミスマッチが都市伝説と歴史の「渚」を暗示しているわけだ。

第二に、「並の」宗教団体ではない。

アサシン教団は、イスラム教シーア派から分派したイスマーイール派の独立組織で、「ニザール派」とよばれる。主家筋のイスマーイール派は「グノーシス主義」、「新プラトン主義」にどっぷりなので、教義は神秘主義的で知的。

そして、もう一つの「並でない」は「暗殺」を生業とすること。ただし、無差別大量テロではない。ピンポイント、敵対する教団の要人暗殺。ただし、暗殺には厳格なルールがあった。

まず、暗殺者は、厳しい訓練をうけたプロフェッショナルで、「フィダーイー(献身者)」とよばれた。しかも、殺害方法が具体的に決められていた。

「金曜日」に、「公共の場」において、「1本の短剣」だけで殺害する。暗殺というよりは、神聖な儀式だったのではないか。

アサシン教団は、11世紀から14世紀、イラン・シリアで活動した。総本山は、イラン北部のエルブルズ山脈にある要害アラムート城で、ここからシリアまで山岳沿いに大要塞網が張り巡らされていた。いわば、面の要塞で難攻不落。宿敵のセルジューク朝も、最後まで攻め落とすことはできなかった。

しかし、アサシン教団はセルジューク朝に攻勢を仕掛けることはなかった。この頃のセルジューク朝は強大で、イスラム教スンニー派の最大勢力を誇った。だから、正攻法では勝ち目ナシ。そこで、要人暗殺に徹したのである。

一方、テンプル騎士団も「並の」宗教団体ではなかった。

テンプル騎士団は、キリスト教の修道会だが、修道士が兵士も兼ねていた。自ら剣をもって戦うのである。つまり、左手に聖書、右手に剣。そのため「騎士修道会」ともいわれた。このような修道会は、テンプル騎士団の他に、ドイツ騎士団、ヨハネ騎士団があった。いずれも、教皇直轄の自治団体である。

ではなぜ、修道会は「戦う」必要があったのか?

聖地エルサレムに巡礼するキリスト教徒を、イスラム軍から守るため。当時、アフリカ北岸、中東のほとんどは、イスラム教国が支配していた。そのため、聖地巡礼も命がけだったのである。

危険にさらされたのは命だけではない。金品が奪われることもあった。そこで、テンプル騎士団は銀行業務も行った。巡礼者は、「テンプル銀行」に現金を預け、その証書として通帳を受け取るのである。ヨーロッパ初の本格的銀行はテンプル騎士団かもしれない。

テンプル騎士団の資産は増え続けた。預金にくわえ、王侯貴族からの寄進もあったから。その資金量は大国を凌駕するほどだった。

アサシン教団とテンプル騎士団の第三の共通点は「凄惨な最期」。アサシン教団はモンゴル軍に、テンプル騎士団はフランス国王フィリップ4世に、完全に滅ぼされたのである。

このような尋常ならざる特質と歴史が、カリスマの源泉になっているのだろう。

ところで、映画「アサシンクリード」は面白い?

まぁまぁ(WOWOWで観た感想)。なぜ、歯切れが悪いかのかというと・・・

神秘主義・カルトな「世界観」にこだわり過ぎて、ストーリーがぼやけ、メリハリがない。しかも、説明不足で、全体も部分もわかりにくい。しっかり説明すると「世界観」が壊れると思ったのだろうが、その世界観も「雰囲気」どまり。

これなら、ゲーム版「アサシンクリード」の方が面白いかも。

ゲーム版?

イエス。

じつは、「アサシンクリード」のオリジナル(原案)はゲームなのだ。

■ゲーム「アサシンクリード」

「アサシンクリード」はメディアミックスを狙っている。

メディアミックスとは、一つの原作を複数のプラットフォーム(映画、ドラマ、TVゲームなど)に展開すること。効率がいいし、リスクも少ないから。昔流行したCM「1粒で2度おいしい」のノリだ。

これまで、映画の原作といえば、小説かコミックだった。ところが、最近はTVゲームも増えている。有名どころでは、バイオハザード、トゥームレイダー、ちょっと格落ちでDOOM。

ゲーム版「アサシンクリード」はアクションRPGだが、「ステルスゲーム」ともよばれている。「暗殺」がテーマなので「隠れる(ステルス)」がキモ。街のど真ん中で、惑星破壊砲をぶちかますわけにはいかない。

ゲームの映像は美麗で、リアルタイムレンダリングとは思えない。最新プラットフォームのPS4ではトップクラスだろう。ただし、ゲームの「美麗」競争は激しい。最近リリースされた「ウルフェンシュタインII・ザニューコロッサス」はアサシンを超えたかもしれない(少なくとも武器の描き込みでは)。

「アサシンクリード」の世界観は独特だ。

暗殺教団、マインドコントロール、世界征服・・・サブカルの王道を行く。しかも、プレイヤーはアサシン教団のアサシン(暗殺者)となって、広大なオープンワールドを暗殺して回る。

アブナイゲームに思えるかもしれないが、どのゲームも似たようなもの。現実では叶えられない、逮捕されてもおかしくないことを体験するのがゲームなのだから。ちなみに、アサシンクリードは、史実とは違い「短剣」以外の武器も使える。

ゲーム「アサシンクリード」はステルスゲームのキングと目されている。すでに、タイトル数は10タイトルを超え、シリーズ化に成功、ビッグタイトルになっている。ただし、操作が複雑で、初心者には敷居が高い。ユーザーのほとんどが、リピータだろう。

■十字軍

史実では「アサシン教団Vs.セルジューク朝」なのに、アサシンクリードでは「アサシン教団Vs.テンプル騎士団」・・・なぜか?

「セルジューク朝」は地味で、食いつきが悪いから。

たしかに・・・でも、それだけではない。

アサシン教団とテンプル騎士団は、「十字軍」でつながっているのだ。

「十字軍」は歴史のビッグワードである。

ちなみに、十字軍の「十字」は「十字架」を意味する。イエスは、全人類の罪を背負って、磔(はりつけ)にされた。だから、キリスト教徒にとって、「十字架=十字」は信仰のシンボルなのである。

なるほど。でも、見方を変えると・・・

キリスト教徒は、十字架の前にひざまずき、十字を切る。これが信仰の証なのだが・・・

もし、イエスが磔刑ではなく、絞首刑だったら絞首台を、斬首刑だったらギロチンを拝むのだろうか?

・・・・

天罰がコワイから、これでおしまい。

十字軍は「信仰心」から始まった。キリスト教の聖地エルサレムをイスラム教国から奪回しようというのだから。でも、エルサレムはイスラム教徒にとっても聖地なんですけど、という事実に目をつむれば、大義名分は立たないこともない。

ところが、問題は他にもある。

十字軍遠征は、200年以上続いたが、エルサレムを奪回したのは、第一回十字軍だけ。その後は、動機は不純で、プロセスはハチャメチャで、結果は本末転倒というか意味不明・・・完全に道をそれてしまった。しかも、「それ具合」は驚天動地である。

たとえば・・・

純粋な信仰心をもった少年兵が奴隷として売り飛ばされたり、エルサレムが落ちないとわかると、別の都市を占領したり(領土拡大に方針変更?)、イスラム教徒のみならず、同根のユダヤ教徒、くわえて、別派のキリスト教徒を皆殺したり・・・おいおい。

それだけではない。

給与が支払われないと、腹を立てて、富裕な都市に侵入し、掠奪の限りをつくしたり。それがキリスト教国だったのだから、あいた口がふさがらない。対イスラムの聖戦だったのでは?

ブラックジョーク?

ゼンゼン笑えない。

ということで、「十字軍」は見直す価値がある。概要でこれなら、ディテールで何が出て来るかわからないから。

参考文献
・週刊朝日百科世界の歴史、朝日新聞社出版
・世界の歴史を変えた日1001ピーターファータド(編集),‎荒井理子(翻訳),‎中村安子(翻訳),‎真田由美子(翻訳),‎藤村奈緒美(翻訳)出版社:ゆまに書房

by R.B

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