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週刊スモールトーク (第380話) 金融商品は「毒入り資産」(1)~デリバティブ~

カテゴリ : 社会経済

2017.11.19

金融商品は「毒入り資産」(1)~デリバティブ~

■毒入り資産

株はアブナイけど、元本保障なら大丈夫・・・は妄想である。

預金や現金も?

イエス。

ハイパーインフレがおこれば、物価が上がって、お金の価値が下がる・・・そんな上っつらの話ではない。もっと根深い理由があるのだ。

すべての金融商品は「負債」を隠し持っている。つまり「毒入り資産」。

ところが、この事実はなかなか露見しなかった。その間、投資銀行は、毒入り資産を売り続けた。中でも熱心だったのが、世界有数の投資銀行リーマン・ブラザーズである。

2008年9月15日、そのリーマン・ブラザーズが突然破綻した。毒入りを売ったつもりが、自分に毒が回ったのである。

リーマン・ブラザーズは、150年も続く名門銀行だった。日露戦争では、日本の戦時国債を購入し、国難から救ってくれた。もし、リーマン・マネーがなかったら、極東アジアで南下政策を推進するロシアが満州と朝鮮半島を征服していただろう。ただし、中国はムリ。欧米列強も虎視眈々とねらっていたから。大国ロシアでも、欧米列強を押しのける力はない。いずれせよ、歴史は大きく変わっていたはずだ。

一国を救うほどの大銀行が破綻したのである。金融不安がおこっても不思議はない。そして、それが現実になった。米国の銀行は疑心暗鬼にかられ、資金を抱え込み、銀行間の貸し借りが停滞した。資金の流れが大元で絶たれたのである。米国株価は30%下落し、それが各国に飛び火、世界中が大不況に突入した。

これが100年に一度といわれた金融危機「リーマショック」である。

じつは、予兆は半年前からあった。

米国で、サブプライムローンのデフォルト(返済不履行)が増えていたのである。

サブプライムローン」とは、身の丈に合わないローンのこと。たとえば、年収200万円の人が、1億円の家のローンを組むようなもの(年収の5倍~7倍が限度とされる)。投資銀行は、そんな物騒なローンを買い取り、証券に変えて売っていたのである。

極めてアブナイ担保を、巧妙に加工して、信用度をあげる。このような詐欺まがいのマジックがウォール街で横行していた。このような金融商品を「デリバティブ」とよぶ。

一般に、「デリバティブ」は、種々雑多な負債が組み込まれている。ハイブリッドな「毒入り」商品と言っていい。ただし、何がどういう比率で、何を根拠に仕込まれているか、コンピュータにしかわからない。高度な数学とコンピュータを駆使した「金融工学」という触れ込みだった。結局、破綻したのだが、今は「FinTech(フィンテック)」という名で蘇っている。しぶとい・・・

ただし、「金融工学→FinTech」をけなしているのではない。お金があり余って、実需を超えれば、投資に回すしかないではないか。もちろん、ここで言う「投資」は、利息0.01%の銀行預金ではない。「毒入り資産」のこと。

というのも、預金なら「負けが確定」、毒入り資産なら「勝つか負けるか」。それが社会の「勝ち組・負け組」に直結しているから、コワイ話だ。

ではなぜ、「毒入り資産」を買うのか?

利息がいいから。

つまり、ハイリスク・ハイリターン。もっとも、買う側は、ハイリスクとは思っていなかった。だから、世界中の名だたる金融機関が買いまくったのである。

でも、冷静に考えれば・・・

サブプライムローンは身の丈をこえた借金。だから、返済がいつ破綻してもおかしくない。返済不履行になれば、サブプライムローン入りの証券は紙くずになる。証券の元本と利子は、ローンを組んだ人の返済に支えられているから。

そして、それが現実になった。

サブプライムローンの返済不履行が増え、「毒入り」を発行した銀行の資金繰りが悪化、リーマン・ブラザーズは破綻したのである。もちろん、買った方もタダではすまない。証券が紙くずになるのだから。

つまり、サブプライムローンを組み込んだ金融商品は「毒入り資産」だったのである。

この事件から、多くのことが学べる。

欲をかいたら痛い目にあう、そんなぬるい話ではなく、もっとストレートな教訓。

金融商品とは、「負債」を「債権」に変えたもの。そして、ここが肝心・・・「負債=負い目」があるので、それをカバーするために「利息」が付く。

つまり、

「利息」が付く金融商品は「負債」がある。

「負債」が焦げ付けば「紙くず」になる。

ゆえに、「利息」が付く金融商品は「毒入り資産」。

結局、「金融商品を買う」ことは「他人の負債(借金)を買う」ことなのである。

■金融資産の正体

ここで、金融資産を商品別に精査しよう。

金融資産は、国、企業、個人で異なるので、個人資産にしぼると、安全な順に・・・

①現金(タンス預金を含む)

②預金(銀行に預けたお金)

③国債(政府が発行する債券)

④年金の基金(保険料の積立金)

⑤生命保険の基金(保険料の積立金)

⑥社債(会社が発行する債券)

⑦株式(会社の所有権)

まず、「⑦株式」だが、毎日、株価(資産価値)が変動するので、元本保証と思っている人はいないだろう。

でも、優良株なら、元本保証なみに安全では?

とんでもない!

東日本大震災で大暴落した「東京電力」、不正会計で株価が暴落したあげく、東証一部を追い出された「東芝」・・・いずれも、かつては優良株と言われた。だから、「株式」は元本保証から最も遠い金融資産なのである。

一方、「⑥社債」も会社が発行する債券だが、「株式」より安全だ。満期まで待てば元本と利息は保証されるから。裏を返せば、発行した会社にとっては「負債(借金)」。期日が来たら、買い戻さねばならないから。つまり、「社債」を買うことは、会社の「負債」を買うことなのである。

「社債」は「株式」同様、発行した会社が破綻すれば、価値が毀損する。ただし、「株式」よりマシ。というのも、「株式」は劣後債といって、会社が破綻したとき、返済順位は最下位だが、「社債」は上位。これを優先債とよんでいる。とはいえ、全額返ってくる保証はない。

つぎに、「④年金の基金」と「⑤生命保険の基金」。

それぞれ、国や保険会社に支払った保険料の積立金である。何かあったとき、あるいは老後に、お金を受け取る権利だ。ところが、実質は元本保証ではない。納めた保険料が必ず返ってくるとは限らないから。とくに、年金は元本保証に程遠い。今の若い世代は、平均年齢まで生き延びても、納めた保険料を回収できないだろう。

それが現実になりつつある。まず、年金が支給される年齢がどんどん上がっている。「70歳」を超えるのは時間の問題だ。それまで生きられればいいのだが。さらに、年金の支給額は減り、納める保険料は増え続けている。人を喰ったような話だが、本当だ。

しかし・・・

社会保険料は払った方がいい(サラリーマンや公務員は選択の余地はないが)。老後、働けなくなって、収入がゼロなら、死ぬしかないから。それに消費税を年金に使うので、年金をもらわないと損。

というわけで、ここまでは元本保証はナシ。

では、「③国債」は?

国が発行する債券だから、元本保証なのでは?

見かけは元本保証だが、実質は「毒入り資産」。

たしかに、満期まで待てば元金は返ってくる。額面100万円なら100万円だ。利息も付く。ただし、返還されたときの100万円が、買ったときの100万円の価値があるか、保証はない。

結局、インフレで元金が目減りする話じゃないか?

ちょっと違う。

国債はもっとスケールの大きな「毒」を抱えているのだ。

■国債のリスク

国債は、元本保証をうたっているが、サブプライムローンと同様「負債」をかかえている。償還期があり、必ず返済しなければならないから。つまり、国債は「政府の負債」なのである。

もちろん、負債が焦げ付けば、サブプライムローン同様、価値は大きく毀損する。

では、国債の負債が焦げ付くことはあるのか?

政府が、国債の利子、元本を返済できなくなれば、焦げ付く。そうなれば、国債は紙くず同然になるが、それだけはすまない。国を揺るがすハイパーインフレが起きるのだ。

ハイパーインフレとは、極端なインフレである。史上最も有名なハイパーインフレは、1930年代ドイツで起こったもの。喫茶店で、コーヒを注文し飲み終わったら、その間に価格が2倍になっていた・・・お金の価値はないに等しい。

ハイパーインフレでは「現金」より「株式」の方が安全だ。「株式」の実体は企業、つまり、ヒトとモノなのでインフレに強い。これは、1930年代のドイツのハイパーインフレでも証明されている。

悲惨を極めるのは年金受給者だ。ハイパーインフレは国家の非常事態だから、物価に連動して年金額を上げる余裕はない。つまり、年金の価値はゼロに収束する。

国債を買い込んだ金融機関も破綻する。それが国家規模でおこれば、「預金の定額保護」は絵に描いた餅。そもそもマネー(通貨)が暴落しているのだから、預金が保障されても意味はないのだが。もちろん、タンス預金も紙くずになる。

つまり、国債の破綻は、金融不安どころか「金融崩壊」を引き起こすのだ。

そして、それが現実になる可能性はゼロではない。

現在、問題視されているのが、政府日銀が推進する量的・質的金融緩和、いわゆる「異次元緩和政策」だ。

具体的には・・・

日銀が、政府が発行する国債を買い占める、常軌を逸する規模で。だから「異次元」なのである。

理由は2つある。

まず、市中にお金(通貨)を増やしたいから。お金をバラまけば、企業がお金を使って、景気がよくなると思っているのだ。しかし、これは完全に間違い。いくらお金があっても、需要が見込めない限り、設備投資はしないし、給料も上げない。

この状況は、中小も大手もかわらない。2017年11月、大手企業の決算が最高と騒がれているが、GDPも給料も上がっていない。つまり、給料と設備投資をおさえて、利益をひねり出しているのだ。その証拠に、企業の内部留保(貯金)は急増している。これでは、景気はよくならない。

では、日銀が国債を買い占めると、なぜ、市中のお金が増えるのか?

市中(民間)で、国債購入が減って「国債<お金」になるから。

「日銀の国債買い占め」のもう一つの理由は、国債暴落を阻止すること。

政府は、財政難を国債の大量発行でしのいでいる。とはいえ、国債を大量に発行すれば、その価値は下がる。数が多いものほど、価値は下がるから。

国債が暴落すれば、ハイパーインフレは避けられない。そうなれば金融崩壊だ。だから、国債の価格を下げるわけにはいかない。

そこで、日銀が国債を買い占め、品薄にして、価格を維持しているわけだ。

自転車操業?!?

そうかもしれない。じつは、国債は、様々な要素がからんでいて、一筋縄ではいかない。

とはいえ、政府日銀の「異次元緩和政策」は間違いとも言い切れない。円安・株高で経済を好転させたことは事実だから(今のところ)。一方、綺麗ごとばかり並べて、経済を停滞させた民主党は崩壊してしまった。やはり、政治は「今の実績」なのだろう。

ところで、「国債暴落→ハイパーインフレ」は予測できない?

一つ方法がある。

国債にかぎらず、債券が暴落するとき、金利(利息)が暴騰する。利息を上げて、買い手を確保せざるをえないから・・・と考えるとわかりやすい。だから、国債の長期金利に注目すればいい(2017年11月時点は大丈夫)。

とはいえ、政府は「神の力」をもっている。国債暴落、ハイパーインフレの兆しがあれば、あらゆる手を打ってくるだろう。「預金封鎖」も含めて・・・コワイコワイ。

というわけで、国債は安全な資産ではない。他の金融資産同様、「負債」をもつ「毒入り資産」なのだ。

でも、預金・現金は元本保証なんだから、「負債」はないのでは?

さにあらず!

《つづく》

by R.B

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