確率のウソ(2)~地震予知は可能か?~
■確率メガネの世界
「確率」は謎にみちている。
というより・・・
「確率メガネ」で見る世界が謎なのかもしれない。
たとえば、コインを投げると、「表」か「裏」がでる。理屈の上では「垂直」もあるが、生まれてこの方、一度も見たことがない。ただし、そこが「謎」というわけではない。
では、確率の謎とは?
コインを投げる回数を、何百回、何千回と増やしていくと、表が出る確率は「1/2」に近づく。「ん万回」投げようものなら、限りなく「1/2」。
これは不思議だ。
というのも・・・
コインは、額面によって形も重さも違う。しかも、同じ額面でも個体差がある。この世に一つとして同じコインは存在しないのだ。さらに、投げ方も毎回違う。だから、表が出る確率はバラついてあたりまえ。事実、試行の回数が少ないと、みごとにバラつく。
ところが、試行回数を増やすと、判で押したように、
表が出る確率=裏が出る確率=1/2
に収束する。
冷静に考えてみよう。
コインは、表と裏をまんべんよく出す「(物理的)仕掛け」はない。出目を記憶しておくメモリも外部記憶装置もない。
一体どうやって、表と裏のバランスをとっているのだ?
何の変哲もない、薄っぺらい金属片が「コンピュータ+アクチュエータ」顔負けの制御をしているのだ。
「世界の七不思議」どころではない。「宇宙は神の一撃で始まった~宇宙誕生の謎~」に匹敵する難問に思える。
しかも、この問題は「世界は偶然か必然か?」、つまり、インテリジェント・デザイン(神は実在する)もからむ。
というわけで、凡人の手に負えそうもない。そもそも、この問題は「確率メガネ」では解けない。確率はデータから相関関係を見つけるもので、因果律から原因を特定するものではないから。
ちなみに、「因果律」とはすべての事象は「原因→結果」で生まれるという法則。つまり、「原因→結果」さえ特定できれば、すべての事象は説明できるわけだ。
そこで、「確率メガネ」を「因果律メガネ」にかけ替えて、この問題に挑戦してみよう。
■因果律メガネの世界
コインを投げて「表」が出たとする。
その原因は「因果律メガネ」ならカンタンに説明できる。
「1/10秒前」・・・コインが着地した瞬間にさかのぼればいい。そこに表が出る「原因」があるはずだから。
具体的には・・・
・コインの表面と着地面がなす角度(90度以上なら表面が出やすい)
・コインにかかる加速度(コインを押し倒す力)
この「2つの状態=原因」によって、「表or裏=結果」が決まる。
では、この「2つの状態」の原因は?
その時点から「1/10秒前」。
さらにその原因は・・・その「1/10秒前」と「原因←結果」とさかのぼれば、コイン投げの事象は完全に説明できる。
この論理のキモは、未来はその「一歩手前の状態」だけで決まること。つまり、それ以前の状態は全く関係ない。これを「マルコフ連鎖」という。計算が「一歩手前」だけですむので、様々な分野で使われている。
たとえば自動文章作成ソフト。人工知能のカテゴリに入るが、じつのところ、統計的・確率的に単語をつないでいるだけ。意味がわかって作文しているわけではない。とはいえ、文章が「笑える」のでそれなりに遊べる。
一方、今流行のニューラルネットワーク&機械学習を使う自動文章作成ソフトもある。アルゴリズムは「RNN(時系列が扱えるニューラルネット)」、その改良型の「LSTM」。スジの良さ、将来性ではマルコフ連鎖版を凌駕するが、とてつもない学習量が必要になる。学習が少ないと、そもそも文章にならない。
というわけで、「人工知能的」文章作成ソフトなら、マルコフ連鎖が手っ取り早い。どちらも、Python(プログラム言語の一つ)を使えば、カンタンに実装できる。プログラマーのヒマ潰しにはうってつけ、ぜひお試しあれ。
本題にもどろう。
このように「原因←結果」をさかのぼれば、コイン投げの事象(表or裏)は完全に説明できる。
問題解決、メデタシ、メデタシ・・・
とはいかない。
肝心なことを忘れている。
「1回」投げた結果は「因果律メガネ」で説明できるが、「ん万回」投げたときの「表が出る確率=1/2」が説明できない。
というわけで、振り出しにもどる・・・
一方、こんな見方もある。
「1回」はさておき、「ん万回」の結果が予測できれば、それでイイジャン・・・
ところが、そうはいかない。
「ん万回」の予測は、現実には役に立たないから(カジノの胴元は除く)。
たとえば、地震の予知。
■地震予知の現実
日本は言わずと知れた地震国だ。
地震が予知できれば、多くの人命が救われる。だから「地震予知」の需要はとてつもなく大きい。
そのため、日本では「確率論的地震動予測地図」が公開されている。文科省の地震調査研究推進本部が作成した資料だ。日本地図の上に、地震の発生確率が色分けされている。地震が起こりやすい地域は一目瞭然なのだが、全部で136ページもある。
136ページ!?
様々な視点からみた確率が、これでもかとテンコ盛りされているのだ。
たとえば「今後30年以内に震度6弱以上の地震が発生する確率」・・・
有益な予測データだが、一つ問題がある。ゼンゼンあてにならないこと。
論より証拠、最近の地震の「予知」と「現実」を比較してみよう。
かつて、「神戸」も「熊本」も地震が起こりにくい地域とされていた。ところが・・・
・1995年1月17日、阪神淡路大震災。マグニチュード7。死者・行方不明者6437人。
・2016年4月14日~16日、熊本地震。マグニチュード7.3。死者204人。
さらに、1990年代以降、
「次に地震がおこるのは『関東』と『南海トラフ』」
と散々脅されてきたのに、現実は・・・
・1993年7月12日、北海道南西沖地震。マグニチュード7.8。死者・行方不明者230人。
・2007年3月25日、能登半島地震。マグニチュード6.9。死者1名。
・2007年7月16日、新潟県中越沖地震。マグニチュード6.8。死者15人。
・2011年3月11日、東日本大震災。マグニチュード9.0(日本観測史上最大)。死者、行方不明者1万9000人。
ところが、2017年3月現在、「関東地震」も「南海トラフ地震」も起こっていない。
というわけで、地震予知はあたらない。地震が起こった後で「わたしは予知していた」はよく聞く話だが。
これでは「地震予知=妄想」といわれても仕方がない。事実、「地震予知は不可能」と言い切る地震学者もいる。
じゃあ、なんで、地震調査研究推進本部(文科省管轄)は存続しているのだ?
国民の税金使って「妄想」やってるだけでは?
そうではない。
将来的には、地震予知は可能だからだ。
■隕石衝突と天気予報
たとえば、直径1kmの巨大隕石が、地球の大気圏に突入したとする。この時点で、隕石は地球に衝突していないが、その後、何が起きるかは明らかだ。99%の確率で、隕石は地球に衝突する。
残り1%は?
宇宙戦艦ヤマトが波動砲で隕石を撃破する!(0%やろ)
というわけで、次に起こる確率が99%なら、完全予測といっていいだろう。
そんなものない!
ところがあるのだ。
たとえば、天気予報。
明日の天気なら99%的中するし、3日後でもけっこうあたる。これなら「未来予測」の価値はあるだろう。
その方法は?
スーパーコンピュータを使って原因と結果をシミュレーションしている。
これを、隕石衝突と地震にあてはめると、
隕石衝突なら「隕石の大気圏突入(原因)→隕石衝突(結果)」
大地震なら「地盤の変位(原因)→大地震(結果)」
つまり、因果関係のシミュレーションは最強の未来予測なのだ。
一方、データの相関関係に頼る統計的確率は、地震予知では使えない。
統計的確率には膨大なデータがか欠かせない。コインの投げのように、確率を収束させるには「ん万回」もの実績データが必要なのだ。ところが、大地震に「ん万回」のデータはない。だから、統計的確率はムリ。
それ以前に・・・
「ん万回」のデータで確率が計算できても、次の「1回」の予測には役には立たない。つまり、統計的確率は未来を予測する指標にはならないのだ。
そして、一番肝心なことは・・・
地震予知は、ん万回ではなく、「次にどこで地震が起こるか」がすべて。そんなわけで、統計的確率に頼る地震学者はほとんどいない。
■IoTで地震予知
では、地震の原因をどうやって探知するのか?
最近流行の「IoT」を使えばいい。
「IoT」とは「Internet of Things(モノのインターネット)」。センサーなどの入力デバイス、モーターなどの出力デバイスを、すべてインターネットでつなぐ。入力デバイスから入ってくるデータを解析し、未来を予測し、出力デイバスを使ってアクションを起こす。そのデータのやり取りにインターネットを使うわけだ。
では、具体的にどうやるのか?
地震の直接原因は「地盤の変位」にある。そこで、地盤に無数のセンサーを埋めこみ、地盤の変位を観察する。そして、大地震を引き起こす「地盤の変位」をとらえたら、地震予報を発令する。
では、どうやって、大地震を引き起こす「地盤の変位」と引き起こさない「地盤の変位」を見分けるのか?
AIの機械学習を使えばいい。ただし、地震はめったに起こらないので、少ないデータで機械学習するアルゴリズムが必要になる。じつは今、それが機械学習の重要なテーマになっているのだ。
これは妄想ではない。実際、この試みはすでに始まっている。
というわけで、IoT式地震予知は、これまでの地震予知とは別モノ。「ん万回」の予測はムリだが、「次の1回」は確実に予測できるから。
ところが・・・
「次の1回」より「ん万回」の予測が重要な世界もある。それが、今話題のカジノなのだ。
by R.B