宇宙家族ロビンソン(3)~セカンド シーズン~
■天然色カラー
宇宙家族ロビンソンは、セカンドシーズンから、念願の天然色カラーになった。ファーストシーズンはシリーズ最高傑作と誉れ高いが、映像はモノクロ。それがカラーになる?素晴らしい!そもそも、宇宙家族ロビンソンはSFなので、登場するアイテムは非日常品ばかり。どんな色か見当もつかない。画面の半分が謎だったわけだ。その謎がセカンドシーズンで明らかになる、ワクワク。そんなつつましい感動も、昭和40年代ならではの話・・・
ところが、カラーになったぶん、制作コストが跳ね上がった。1本あたりの制作費は24%アップの5753万円。TVドラマとしては破格で、この番組の人気度、期待度がうかがえる。面白いのは、ドクタースミス役のジョナサンハリスだ。セカンドシーズからは、ギャラが57%もアップした。ドクタースミスは、オリジナル脚本では存在せず、ロボットフライデーとともに番組のリリーフ役に過ぎなかった。ところが、放映が開始されるや否や、人気沸騰、フライデーとともに宇宙家族ロビンソンの看板になった。また、この2人はもう一つ共通点がある。悪玉から善玉にクラ替えしたこと。
■ドクタースミスとフライデー
ドクタースミスは、強面(こわおもて)の破壊工作員から、怠け者で臆病な憎めないじいさんへ。フライデーは、融通の利かないロボットから、ウィルとジョークを飛ばし、ドクターをからかう陽気なロボットへと変身する。このドクターとフライデーのドタバタキャラは、ファーストシーズン最終回「第29話亡霊を呼ぶ声」で完成の域に達する。
「第29話亡霊を呼ぶ声」で、父・ロビンソン博士が謎の宇宙亡霊に取り憑かれ、ロビンソン一家を破滅寸前に追い込む。ダン少佐とロビンソン一家の大人たちは、行方不明になったロビンソン博士の捜索に出かける。留守役のドクタースミスとフライデーは、彼らがもう二度と帰ってこないと確信し、残されたウィルとペニーをあわれむ。夜がふけても、両親を待ち続けるウィルとペニーに、ドクターは暖かい夕食を作ってやり、それを食べて、はやく寝るようにさとす。やがて、2人が寝た後、ドクターは、フライデーに、これからは自分が親代わりになると宣言する。それにこたえて、フライデー・・・
フライデー:
「ドクターガ オトウサン?ドクターガ オカアサン?」
「ソレハ計算サレマセン、ソレハ計算サレマセン・・・」
ドクタースミスとフライデーのウィルとペニーに向けられた慈しみと愛情、そして、2人のかけ合い漫才がすでに確立している。その後、ドクターとフライデーの関係は、シリーズ最後まで変わらなかった。お互いにコケにしあい、信頼のカケラもないように振る舞いながら、じつは、唯一のよりどころにしていたのである。
考えてみれば、ジュピター2号のクルーの中で、この2人だけが「よそ者」。もちろん、ダン少佐も厳密にはロビンソン一家ではない。とはいえ、一家の長女ジュディとは恋仲で、いずれ結婚し、ロビンソン一家の一員になることは暗黙の了解だった。一方、ドクターとフライデーは、何十年経とうが、ロビンソン一家の一員になることはない。このような複雑な人間関係を、巧みにあぶり出し、SF本来のストーリーではなく、ファミリードラマに徹したのがセカンドシーズンである。
■SFギミック
セカンドシーズンでは、SFにつきもののメカやギミックもバージョンアップされた。まずは、フライデー。元々、フライデーはキャタピラー駆動のはずだった。ところが、ファーストシーズンでは、人間同様、ヒョコヒョコ二足歩行しているのが分かる。バレないよう、足元を隠しているが、移動中、大きなボディーが上下し、何をしているかは子供でもわかった。ところが、セカンドシーズンでは、キャタピラー駆動で高速移動できるようになった。そのため、上下の振動もなくスムースに移動、いかにもロボットらしくなった。また、上半身が回転可能になり、腹を立てて、プイっと180度回転して立ち去る様は、なかなか愛嬌があった。
そして、SFではおなじみの電磁バリア。電磁バリア装置は、読んで字のごとく、強力な電磁波を張って、外敵の攻撃から守る防御シールドである。スタートレックでは「電磁スクリーン」、映画「デューン砂の惑星」では電磁シールドなどなど、呼び名な異なるが、実体は同じ、エネルギー装甲である。つまり、破損しても、瞬間に再生できる。
電磁波は空間のゆがみで、無限に伝搬していくはずなのに、閉じた空間で固定できるのはヘンだし、外側からの攻撃は反射するのに、内側からの攻撃は素通りするのもおかしい。ありそうな話だけど、深く考えると謎だらけというのが、SFギミックの妙。だから、気にしない気にしない。
宇宙家族ロビンソンの電磁バリア装置は、半径30m、地上3mを電磁シールドで覆い、外部からの攻撃を防いでくれる。エネルギー源は原子力で、充電に必要な時間は6時間(※)。ところで、なんで充電する必要があるのだ?原子力で発電した電力をそのまま使えばいいのに。ひょっとして、短時間で膨大な電力を使うので、一旦、コンデンサに貯える必要がある?電磁砲(レールガン)と同じ理屈?これは、マニアックだ!そういうことにしておこう。
念入りなことに、電磁バリア装置の三面図と詳細な仕様書が、「宇宙家族ロビンソンBOXVol6」LD版の解説本に載っている。解説本によると、アメリカの研究書には電磁バリアの写真は1枚もないので、ビデオとコマ撮り写真で計測して、製図したのだという。見事なブループリント(青写真)で、宇宙家族ロビンソン&SFマニア必見。当時は気づかなかったが、電磁バリア装置は、セカンドシーズンから強化されている。三面図によると、新型の電磁バリアでは、旧型のバリア発生装置にくわえ、バリア強化光線装置が追加されている。興味津々、さっそく、LD映像で確かめる。確かに、セカンドシーズン「第33話人間爆弾」から、新型に変わっている。ところが、登場早々、故障しまくり(笑)。
■プリプラナス星からの脱出
セカンドシーズン第1回目のエピソード「第30話宇宙への出発」で、ロビンソン一家は住み慣れたプリプラナス星を脱出する。宇宙鉱夫ネリムなる人物が、生命の源コスモニアを採取するため爆破作業を行い、それがもとで惑星の寿命を縮めたのだ。ロビンソン一家を乗せたジュピター2号は、危機一髪、プリプラナス星を脱出するが、またもや、宇宙の迷子になる。そして、「第32話幽霊の星」で降り立った星から、ミサイルを発射され、それを回避するため、未知の惑星に不時着する。以後、セカンドシーズンは、この惑星が舞台となった。
セカンドシーズンは、探検・冒険のハラハラドキドキのSF色は薄れ、心安らぐファミリードラマへと変った。そのため視聴率が低下したのだが、個人的には気に入っている。少年時代、ロビンソン一家の「家族の暖かみ」が身にしみたし(人間は自分にないものを求める)、
「宇宙家族ロビンソン=昭和40年代」
はすでに美化されている。だから、どんなに変質しても、宇宙家族ロビンソンは宇宙家族ロビンソン。セカンドシーズンは、ファーストシーズンと別の意味で愛着を感じている。最高の作品は、その人が思春期に見た作品・・・なのかもしれない。
ところが、日本での宇宙家族ロビンソンはこのセカンドシーズンが最後となった。本国アメリカでは、セカンドシーズンから徐々に人気が低迷し、日本でも状況は同じだった。特に、日本の場合、TVドラマの歴史的名作「逃亡者」のつなぎに使われたことが大きく響いた。
■セカンドシーズン最終回
セカンドシーズン最終回は「第59話宇宙の宝物」。原題は「TheGalaxyGift」。このエピソードは最終回として作られたわけではないが、「実質最終回」にふさわしい作品となった。プロデューサー、アーウィン・アレンが宇宙家族ロビンソンで言いたかったこと、「フロンティアスピリッツと愛」が前面に出ているからだ。まず、ストーリーがファーストシーズン並のシリアスなSF。
ロビンソン博士とダン少佐が不在のロビンソン一家の前に、突如、アルコンなる宇宙人が現れる。地球人を小馬鹿にした高飛車なエイリアンで、サテコンという宇宙人に追われているという。大言壮語を吐くわりには、臆病で、サテコンの攻撃が始まるやいなや、ジュピター2号に逃げ込む。やがて、悪役宇宙人サテコン3人組が、ジュピター2号の前にあらわれ、アルコンを引き渡さなければ、皆殺しにすると脅す。ところが、留守役のモーリン・ロビンソンは、引き渡しを断固拒否する。すると、サテコンは周囲の気温を下げ、一家を皆殺しにしようとする。ジュピター2号に勝手にあがり込んだ見ず知らずのエイリアン「アルコン」。それを、自分たちを危険にさらしてまで、守ろうというのだ。宇宙家族ロビンソンの柱「無上の愛」がそこにある。
地球人を小馬鹿にしていたアルコンも、その話を聞いて、ロビンソン一家に一目おくようになる。そこで、アルコンはペニーに「魔よけベルト」を渡す。これさえあれば、サテコンに指一本触れられないという。ただし、条件が一つ。これをサテコンに渡さないこと。もし、渡せば、サテコンは全宇宙を滅ぼすほど強大になるというのだ。
そして、ここで、ドクタースミス登場。ペニーの魔よけベルトを渡す見返りに、自分を地球に帰してくれる約束を、サテコンからとりつけるのである。地球に帰りたい一心で、仲間を裏切ろうというのだ。あまりにあさましい行為に、ドクターを責め立てるフライデー。ところが、ドクターは動じる気配はない。お得意の口でペニーをくどく・・・
ドクター:
「このままでは、気温が下がりつづけ、みんな、死んでしまうよ」
「そうなってもいいの?」
家族思いのペニーは、この一言で、ドクタースミスの作戦に乗ることに。ところが、サテコンはドクターを地球に帰すつもりなどなかった。魔よけベルトを手に入れたら、一家を皆殺しにするつもりだったのだ。ドクタースミス、ペニー、フライデーは、地球に帰すとだまされて、宇宙の果てにある死の惑星に送られてしまう。行方不明のペニーを心配する母モーリン、ジュディ、ウィル。そこへ、アルコンが現れ、ことの始終を説明する。
アルコン:
「何百年もの間、いかなる誘惑にも負けない者を探し歩いていた」
「そういう完璧無比な者に、宇宙にまたとない贈り物を授けようと思って」
「しかし、テストをすると」
「わが身可愛さから、あるいは欲に目がくらんで」
「(魔よけベルトを)手放してしまう・・・」
モーリン:
「ペニーがあなたがおっしゃるその宇宙一の贈り物を手放すのは」
「私たちのためになんですよ」
「自分がかわいいからじゃありません」
アルコン:
「あれがあれば安全なのに」
「魔よけさえあれば、恐いものなしだ」
「どうもわからんな、君たちは」
モーリン:
「家族ってものを、ご存じないでしょ」
「家族のために、ペニーはあんなことをするんです」
「たとえ、自分の身はどうなっても」
アルコン:
「わたしは間違っていたかな」
「うちの星には家族なるものはなくってな」
「わたしたちは、みんな一箇所に集められ、卵からかえる」
モーリン:
「そう、じゃ、ムリもないわ」
自分の身を危険にさらしてまで、家族を守ろうとするペニー。ここで描かれるのは、家族の絆(きづな)、家族愛である。やがて、アルコンの力で、死の惑星に閉じこめられたドクターとペニー、フライデーが無事救出される。みな、事なきをえて、ホッとするが、アルコンはドクタースミスに詰め寄る。
アルコン:
「君は本当に救われたわけじゃないよ、ドクタースミス」
「罪は一時延期しただけだ。罰として暗黒の星へ送ってやる」
ドクター:
「悪気があってやったことじゃありませんから」
「何しろ、宇宙に長いもんですから、地球に帰りたい一心で」
アルコン:
「また、君みたいな男をあたり前の社会に入れといては、はた迷惑だ」
「いいから、いさぎよく、みんなにさよならをいいたまえ、ドクター」
ペニー:
「ドクターを暗黒の星に送るなら、私もいっしょに送って下さい」
それをフォローする母モーリン・・・
モーリン:
「あなた方の星ではどういう考え方をなさるるのか、よく知りませんけど」
「わたしたちは誤ちを許すんです」
「人間は完全ではありません」
「失敗もあります」
「でも、それを改めれば・・・」
アルコン:
「なかなか面白い哲学・・・」
モーリン:
「ご自分をお考えになったら」
「思い当たるふしもあると思います」
確かに、頼みもしないのに、勝手にペニーに魔よけベルトを渡し、それがもとで、こんな事件を引き起こしたのだから、責められるべきはアルコンにある。聡明な母モーリンの会心の一撃。こうして、ドクタースミスは再び許された。己の欲のため、ロビンソン一家の命をも脅かしたのに。これこそが、イエス・キリストが説いた「無上の絶対愛」である。
ひるがえって現代、正義を守るためには法と武力に頼るしかない。すでに、道徳は力を失っているのだ。だから、宇宙家族ロビンソンは現代人には響かない。ひょっとして、地球は歴史的転換期にあるのかもしれない。だが、あきらめるのはまだ早い。新しい世代にはまだ可能性がある。今の子供たちに、宇宙家族ロビンソンを毎日1話づつ見せれば、物語を通して、家族愛や道徳を伝えられるかもしれない。宇宙家族ロビンソンは、聖書というより神話なのだから。
参考資料:
(※)「宇宙家族ロビンソンBOX」パイオニアLDC株式会社
by R.B