BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第65話) 天才の世界(1)~知能とIQ~

カテゴリ : 社会

2006.09.23

天才の世界(1)~知能とIQ~

■天才とは

物心ついたときから、
天才とは、1%のひらめきと99%の努力である
と教えられた。無口でふさぎがちな息子を励ますための親心からだと思うが、生まれてこのかた納得したことは一度もない。というか、完全に間違っていると思っている。

むしろ、個人的には、
天才とは、99%の努力を無にする、1%のひらめきのことである
が真実だと思っている。交流理論の先駆者「ニコラ・テスラ」の言葉である。

そもそも天才とは、読んで字のごとし、「天から降ってくる人」。大地からにじみ出た優等生とは違う。優等生の切り札は努力、つまり、己の目的意識によって奮い立たせた悲壮な精神力にある。一方、天才の努力は才能と完全に一体化し、その接点において間然とするところがない。これは、本質的に異なるものである。

困ったことに、最近はちょっと目立っただけで、「××の天才」という称号が授かることになっている。天から降ってくるヒトというのは、隕石以上にレアで、どこでも転がっているものではない。常々、気難しい老人たちは、
「最近の若いもんは、言葉がなっとらん」
と警告を発しているが、たまには耳を傾けるべきだ。天才にはきんとした定義が必要である。

冒頭のエジソンの言葉は、明らかに「業績」を大前提としている。つまり、偉大な業績があって、その原因が天才であり、そのまた原因が「1%のひらめきと99%の努力」というわけだ。だがなぜ、天才と業績を結びつけるのだろう。天才は原因であり、業績は結果。原因と結果をいっしょくたにすれば、タイムマシンの「時間のパラドックス」同様、混乱するだけだ。

たとえば、知能指数(IQ)300の子供がいたとする。これほどのIQなら、8歳で微積分法を理解できるだろう(例えばフォン・ノイマン)。ところが、その子が9歳で死んだとする。当然、業績は何も残していないが、その子が天才であったことは間違いない。「8歳で微積分法をマスター」は尋常ではないからだ。そもそも、ホモ・サピエンスかどうかもあやしい。

逆に、助手が実験中に、偶然見つけた現象を分析したところ、大法則の発見につながった、というケースもある。現象さえ分かれば、研究者なら誰でも法則に到達できる、というのはよくある話。これは、運であり、天才ではない。実際、歴史年表の科学技術編にはそんな事実がたくさん載っている。だから、天才を論ずるに業績を前提とするのは間違っている

■知能とは

そこで、天才をはかる「物差し」を考えてみよう。おそらく、天才か否かを判定する最っとも信頼のおける基準は「知能」だろう。ただし、ここでいう天才とは、自然科学や人文科学の分野に限定する。つまり、ゲームパッドを1秒間に20回押せるとか、ステーキ10kgを3分で平らげるとか、いわゆるギネスブック系の才能は除外する。

このような条件で判定するなら、知能がある値を超えたところで天才となる。ところが、知能の定義そのものが難しい。そこで、学術的な視点から見てみよう。知能をあつかう最もポピュラーな学問、心理学だ。

心理学の専門書(※)によると
「知能とは、高等な抽象的思考能力である(Terman,L.M.)」
抽象的思考能力とは、いかにも抽象的だが、数の概念に当てはめるとわかりやすい。例えば、
「リンゴ2個にリンゴ1個を加えると、何個でしょう?」
は具体的であり、
「2+1?」
は抽象的である。平凡な幼児は、計算をする時、具体的な物におきかえる必要があるが、神童は数字だけで計算する。また、
「知能とは、獲得する能力である」(Woodrow,H.)
という定義もある。わずかな時間と労力で習得できる人は、そうでない人より知能が高い。これも納得。

■知能指数(IQ)とは

では、知能はどうやって計るのか?もちろん、「知能テスト」。じつは、知能テストの歴史は意外に古い。時は20世紀初頭、パリで学業不振児が深刻な問題になっていた。教育委員会から研究の委託をうけたビネーは、同僚のシモンとともに、普通児と精神発達遅滞児とを区別するための方法をあみだした。それがアメリカにわたり、先のTerman,L.M.により、スタンフォード・ビネー検査として紹介された。それが一般に知られている「知能指数(IQ)」である。

知能指数(IQ)は、次のように定義される。
知能指数(IQ)=精神年齢÷生活年齢×100・・・①
ここで、精神年齢とは、精神の発達具合をあらわし、生活年齢とは、暦上の年齢である。たとえば、ある児童が、6歳児の問題が解けて、7歳児の問題が解けなければ、その児童の精神年齢は6歳。その児童の生活年齢が3歳なら、①式より、とてつもなく高い知能指数(IQ)となる。また、逆に生活年齢が20歳なら、生活するには社会のサポートが必要だ。

このような知能検査は、わが国でも、鈴木ビネー式知能検査、田中ビネー式知能検査として導入された。ただし、適用範囲は15歳まで。また、この知能検査は、次の7つの因子により測定される(※)。

因子
英語名
内容
S因子 Space 立体図形を知覚し、空間との関係を知る能力
P因子 Perceptual speed 知覚判断のスピード
M因子 Memory 記憶力
V因子 Verbal meaning 言語を理解する能力
W因子 Word fluency 語の流暢さ
I因子 Induction 規則性や原理を見抜く能力
N因子 Number 計算の正確さとスピード

確かに、これらの要素を加算すれば、知能は計れそうだ。ところが、この知能検査は、練習するほど得点が高くなる傾向がある。先天的な知能を計るテストが、後天的な努力の影響をうける?ということで、ビネーのオリジナル検査、鈴木ビネー式知能検査、田中ビネー式知能検査、いずれも知能の目安になるが、精度には限界がある。

■歴史上のIQランキング

面白いことに、知能検査が登場する以前の「歴史上の偉人の知能指数(IQ)」も分かっている。下表のスコアは、業績、日記、書簡から推定したものである(※)。まずは、表に登場する人物を簡単に紹介しよう。

ライプニッツは、17世紀ドイツで活躍した物理学者、数学者、哲学者、経済学者、歴史学者、神学者、そして政治家であり外交官でもあった。どこまで本業で、どこから趣味かわからない。この怪物は、ニュートンと同時代の人物で、微積分法の発見者としても知られている。とにかく、やたら頭が切れたらしく、ニュートンの論文にまでケチをつけたらしい。ということで、少年期のIQはトップ。

ゲーテは、19世紀ドイツの詩人、劇作家、小説家、科学者、そして弁護士にして政治家。こちらも、どれが本業で、どれが副業かも分からない。あえて言えば、悪魔に魂を売ったファウスト博士の「ファウスト」の著者。余談になるが、手塚治虫の漫画版「ネオファウスト」は彼の遺作となった。また、ゲーテは女性にも万能だったらしく、晩年少女に恋をしている。ロリコン?自由奔放に生き、地位と名声まで得た夢のような人生だった。国難を救った天才なのに、自殺に追い込まれたアラン・チューリングとは天地の差。

デカルトは、
「我思う、ゆえに我あり(cogito,ergosum)」
で有名な知の巨人である。ニュートンが体系化した慣性の法則、学校で習うデカルト座標(XY座標)も彼の実績で、哲学者、物理学者、数学者・・・こちらも万能の天才。

デカルトは、世界のすべてを機械論的な合理主義で説明しようとした。その結果、生まれたのが「西洋合理主義」である。やがて、西洋合理主義はヨーロッパに大砲と帆船をもたらし、アジアの植民地化に一役買った。その後、機械文明、電気文明と、地球は唯物論的な世界へとひた走り、広島と長崎に原子爆弾が投下されたのである。つまり、原子爆弾の原点はデカルトにある。

アインシュタインと並ぶ大天才ニュートンのIQがいまいち低い。これはちょっと意外だ。ニュートンは、歴史上燦然と輝く「万有引力の法則」を発見者で、その過程で、微積分法も編み出している(先のライプニッツとほぼ同時期)。歴史上、彼ほど有名な科学者はいないのだが。

ネルソンは、トラファルガーの海戦でフランス・スペイン連合艦隊を壊滅させたイギリス海軍の提督。イギリスでは今でも英雄で、歴史上最も有名な提督である。軍人は声がでかければいいというものでもない。作戦立案と臨機応変の采配には高い知能が必要だ。1990年の湾岸戦争で、「砂漠の嵐」作戦を指揮したシュワルツコフ司令官は、わずか4日で地上戦を勝利に導いた。ちなみに、彼のIQは170と噂されている。

人名
知能指数(IQ)
少年期
青年期
ライプニッツ
195
205
ゲーテ
190
210
デカルト
170
180
ガリレオ
160
185
レオナルド・ダ・ヴンチ
155
180
ニュートン
150
190
ネルソン
130
150

つぎに、鈴木ビネー式、および田中ビネー式知能検査の指標をしめす(※)。この表と比べると、先の歴史上の人物のスコアが突出していることがわかる。ところが、教師をしている妹夫婦は、下記の表に異論を唱えている。表では、IQ140以上は1000人に2人強だが、経験上はもっと多いと言う。人類の頭脳は今も進化しているのかもしれない。

IQ
分類
英語名
出現率(%)
90~110 正常知 normal intelligence
60.0
110~120 上知 superior intelligence
13.0
120~140 最上知 very superior intelligence
6.75
140以上 準天才または天才 near genius org enius
0.25
■知能を決めるもの

知能を決めるのは、遺伝と環境だと言われる。先の、Terman,L.M.がIQ140以上の優秀児の643名について調査をしたところ、その兄弟姉妹はIQの平均値が133であったという。ちなみに、IQ140以上は出現率0.25%というレアさ。いずれにせよ、この数字は、遺伝が知能に大きく関わっていることを示している。

また、優秀児と普通児の差は、年少時は小さい。ところが、優秀児はその後、急激な発達を示し、それが長期間つづく。一方、普通児は早期に停滞する。そのため、暦年齢が大きくなるほど両者の差は大きくなる。これは、先の①式をみれば明らかだ。

数学を例にあげよう。中学校の数学は算数の延長なので、満点がたくさんいる。なので、同じ満点でも、ガリ勉のおかげか地頭かは区別がつかない。当然、優秀児と普通児の区別もつかない。ところが、高校の数学になると、難易度は上昇し、努力だけで満点はムリ。当然、地頭の差が出る。

さらに大学の数学ともなれば、難易度は急上昇し、満点どころか、大半の学生は脱落する。ところが、優秀者なら、そのすべてを理解する。大学の研究室にその”優秀者”がいたが、「頭の造り」が違っていた。つまり、知能の優劣は、年少時にはあらわれにくいのである。神童が長じてただの人になるというのは、本当は神童ではなかったのだ。

■大人の知能検査

知能検査は15歳までが限度とされるが、じつは、大人の知能検査もある。厳しい入社試験をくぐり抜け、一息ついていると、企業研修が待っている。それも、新入社員研修、中堅社員研修、管理職研修と、リタイアの日までつづく。

以前、参加した管理職研修会で、この「大人の知能検査」があった。いい歳のオッサンが知能テスト?情けない話だが、事実。このテストは、大手の就職情報会社が作成したもので、全国規模で実施されている。テスト科目は、国語と数学。国語は読解が中心で、字づらを見ると、たぶん日本語なのだろうが、内容はまるで外国語。このテストは、先のV因子をテストしている。数学は、中学校程度の知識で解けるのだが、長大な思考の連鎖を必要とする。これは先のI因子やN因子を測定している。

この「大人の知能検査」が昇進と給与に反映されると思うとゲンナリだが、まぎれもない事実だ。現代では、サラリーマンはもちろん、公務員、学校の教師にいたるまで、能力はすべて数値化されている。なんでも、かんでも、数値化すれば一目瞭然。各人の能力は一瞬で把握できる。サラリーマン諸氏の額には、密かに測定された知能指数が刻印されているのだ。もちろん、額に記されたバーコードを読めるのは、人事部と一部の役員のみ。嫌な世の中になったものだ。

《つづく》

参考文献:
(※)真辺春蔵「心理学の基礎」朝倉書店

by R.B

関連情報