マイナンバーで困る人たち~若者Vs.中高年~
■若者Vs.中高年
明智光秀の娘、細川ガラシャは禁制のキリシタンだった。
息をのむほど美しく、宣教師が驚嘆するほど聡明だったという。ところが、美人薄命を絵に描いたような人生で、最期も壮絶だった。人質になるのをこばみ、屋敷もろとも爆発、自決したのだから。そんな彼女が詠んだ辞世の句・・・
「ちりぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」(散り時、死に時をわきまえてこそ、花は花、人は人である)
時間をすすめて、20世紀、
アメリカ合衆国軍人ダグラス・マッカーサーは、退任演説をこんなセリフでしめくくった。
「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」
彼は、太平洋戦争と朝鮮戦争で自軍を勝利に導いた国民的英雄で、大統領候補にもなっている。それでも、引き際を心得ていたわけだ。
そして、21世紀の現代・・・
2011年、日本を代表するビジネス誌で、衝撃的な記事が掲載された。
タイトルは「中高年は(若者に)席を譲れ」
中高年が若者の職を奪い、国に大きな損失を与えているというのだ。トップページには衝撃的なイラストも掲載された・・・
「一に雇用、二に雇用(中高年の)」
「採用見送り(若者の)」
と書かれたバスが、中高年を満載して、若者たちが待つバス停を素通りしている。バスの中には醜悪な顔つきの中高年、バスの外には怨めしげな若者・・・バスの中は天国、外は地獄という設定だ。
あおっているのは確かだが、誇張とはいえない。証拠があるのだ。
この記事が掲載された2011年の完全失業率・・・
・15歳~24歳:9.4%
・35歳~44歳:4.6%
・45歳~54歳:3.9%
なんと、若者の失業率は中高年の2倍強!
イラストにデカデカと書かれた
「一に雇用、二に雇用、採用見送り」
は本当だったのだ。
それにしても、不思議な話ではないか。
給料は高いわ、使いづらいわ、新しいことは学べず、古い経験に頼るだけのロートル組。かたや、給料が安く、頭が柔らかく、細胞ピチピチの将来性のある若者。
どっちがいいのだ?
いうまでもない。
ところが、現実は逆なのだ。
なぜか?
理由はカンタン、会社のルールを決めるのは年寄りだから。
最近、コワイ話を聞いた。
日本を代表する某大手企業・・・これまで、「役員定年」があったのに、社長自らルールを破り、70歳近い役員がウヨウヨいるという。
一に年寄り、二に年寄り、若者は後回し!?
Lineはおろか、電子メールでさえ怪しい中高年・年寄りサラリーマンが権限と高給を独り占めにしているのだ。あげく、飲みニケーションとかで、若い部下を引き連れて、夜の街に繰り出し、一席ぶつ。しかも、その内容ときたら、自慢話と苦労話と説教、そしてイタイ精神論・・・意味がわからない。
若者たちはこう思っている。
早く宴席終わらないかぁ、ではなく、早く会社を辞めてくれないかなぁ~
ところが・・・
会社を辞めても、若者が年寄りから解放されるわけではない。退職者の年金を若者が負担しなければならないのだ。それが、給料から天引きされる社会保険料(厚生年金)。
さらに、理不尽なことに・・・
今の若者世代は、自分が払った社会保険料に見合う年金を受け取ることができない。少子高齢化が加速しているからだ。
早い話が、
払う人<<貰う人
これでは、年金制度はいずれ破綻する。それを避けるため、国は社会保険料を引き上げているわけだ。
それなら、社会保険料は払わない方がいい?
ノー!
絶対に払った方がいい(サラリーマンと公務員は天引きなので選択の余地はない)。政府は消費税を使ってでも、年金を払うから。そもそも、リタイア後、公的年金がないとのたれ死にする(金持ちは除く)。
さらに・・・
この10年、日本のサラリーマンの給料は上がっていない(むしろ下がっている)。
これじゃあ、夢も希望もない!
こういうと、無責任な偽善者たちは、こんな説教をたれるだろう。
「人生はお金がすべてではない」
なるほど、でも、これは次の言葉と同義語・・・
「人間は心臓がすべてではない」
人間は心臓だけで生きているわけではないが、心臓をとったら、どうなるのだ?
衣食住、遊び、学校、病院、結婚、子供、なにをするにもお金がいる。そして、取り立て最優先の税金も、お金でしか払えない。つまり、お金がないと生きていけないのだ。心臓がないと生きていけないように。
だから、「人生はお金がすべてではない」という耳ざわりのいい言葉で、お金を軽んじて、人生を破滅させてはならない。
戦後の高度経済成長期・・・
自動車、ラジオ、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、クーラー・・・次に何がでるのかワクワクドキドキ。それにつられるように、給料も上がった。
あれが欲しい、これが欲しい、つぎのボーナスであれを買おう、そのためにガチで働くぞ~、そんな健全な物欲が、高度経済成長をささえたのだ。
親の世代より、子供の世代の方が豊かになる、それが僕らが愛した昭和40年代だった。
ところが、払う社会保険料が増え、受け取る年金は減り、給料は上がらない。僕たち、私たちの将来はどうなるの?
不安・・・これで元気がでるはずがない。
だから、今の若者は、身の丈にあった生活をしている。飲みに行くことも、麻雀、パチンコ、ギャンブルもやらない、コンビニで飲み食いして、無料のLineですませている。なんとつつましい暮らしぶりだろう。
一方、若者の間でも、格差が広がっている。
正規雇用Vs.非正規雇用
さらに、
男子Vs.女子
正規雇用と非正規雇用では、若者世代でも、年収に2~3倍の開きがある。そして、非正規雇用の多くを「女子」が占める。女性は結婚して子供ができると辞めざるをえないので「女性の正規雇用」がすすまないのだ。
その結果、貧困女子が大きな社会問題になっている。
「貧困女子」?
一人暮らしで、年収が手取りで「125万円」以下の女性をさす。ほとんど最低賃金だが、独身女性の1/3があてはまるという。これでは、毎日が貧乏、生きていくだけで精一杯だろう。
そこで・・・
昼OLやって、夜、クラブやキャバクラで働く・・・実際、キャバ嬢の7割~8割が副業といわれる。中には、腹をくくって風俗にいく女性もいる。貧困から逃れるにはこれしかないのだ。
■マイナンバーの功罪
ところが・・・
マイナンバー制度が導入されると、「副業」が難しくなる(水商売に限らず)。
現在、ほとんどのホステスやキャバ嬢は収入を申告をしていない(副業の場合)。これが発覚する可能性が高いのだ。
というのも・・・
マイナンバー制度が始まると、クラブやキャバクラに入店する時、マイナンバーを店に伝える必要がある(たとえアルバイトでも)。そのため、副業の収入が税務署に丸見えになるわけだ。
ここで、確定申告しないと、税務署から所得税の追徴が来る。追徴金をとられるくらいなら、初めから確定申告した方がいい。そこで、確定申告すると、今度は昼の会社にバレる。
なぜか?
確定申告すると、副業の収入が給料に加算され、住民税が跳ね上がる。その跳ね上がった住民税の金額が、昼の会社に通知されるわけだ(給与から天引きするため=特別徴収)。
そのとき、会社の経理は・・・
なぜ、この給料で住民税がこんな高いのだ?
と疑念を抱く。
たとえば、副業がキャバ嬢の場合、昼職と夜職の稼ぎがほぼ同じなので、通知される住民税が2倍になる。これに気づかないマヌケな経理はいないだろう。
そして、ほとんどの会社は・・・
就業規則で副業を禁じている。つまり、副業がバレたら会社はクビ。
では、会社にバレない方法は?
一応ある。
確定申告する際、2つの選択肢があるのだ。
1.給与から差引き
2.自分で納付
ここで、「2.自分で納付」を選択すれば、副業の住民税の請求書は自宅に届く。つまり、副業分は会社に行かない。
ただし、給与所得の場合は適用されない可能性がある(一時所得などはOK)。さらに、仮に「2.自分で納付」を選択できたとしても、役所の手違いなどで、会社に通知が行く場合がある。確率は低いが、一回でもバレたらクビ・・・
というわけで、マイナンバー制度がはじまると、副業は「河豚(フグ)」のようなもの。美味しいけど、ヘタをこくと、命(人生)にかかわる。一時のペナルティではすまない、一生もんのペナルティ(失業)になるから。
では、学生のキャバ嬢はどうか?
学生なら、会社をクビになる心配はないので大丈夫?
イエス!
でも、別の問題がある。
サラリーマンは、扶養家族全員のマイナンバーを勤務先に提出する義務がある。本来、学生は扶養家族だが、副収入が見つかると、扶養家族ではなくなる。つまり、親にバレる。
居酒屋なら言い逃れできるかもしれないが、ホステスやキャバ嬢なら雷を落とされ、風俗嬢なら勘当もん?
これが学生ではなく、主婦だったら、もっと深刻な話になるだろう。
さらに・・・
すべて、マイナンバーでヒモづけされるので、水商売の記録もたどることができる。本来、個人情報なので、漏れたら一大事なのだが、昨今の個人情報ダダ漏れ状況を見ると、漏れると考えた方がいいだろう。
というわけで、情報漏洩事件が報じられるたびに、ハラハラ、ドキドキ。ひょうたんから駒で、キャバ嬢・風俗嬢の経歴がバレるかも。しかも、一度漏れたら、取り返しがつかないのだ。
このままでは・・・
水商売は減る、夜の街は寂しくなる、昭和は遠くになりにけり(平成だったか)。
ちなみに、確定申告は、平成28年度分から、申告書にマイナンバーの記載が義務づけられる。つまり、来年度から、国民の所得はガラス張りになるわけだ。
もちろん、マイナンバー制度は悪いことばかりではない(夜の店が減るのは悪いとは言ってませんよ)。
脱税の取り締まりが強化されるので、税収は増える方向に行く。それで、消費税のアップが緩和されるなら、けっこうな話ではないか。そもそも、国民の過半数をしめるサラリーマンや公務員は、元々、所得はガラス張り、だから、マイナンバーが導入されても、痛くもかゆくもない。
もっとも、個人情報もほぼガラス張りになるなので、世の中は窮屈になる。さらに、政府がマイナンバーで財産を把握し、預金封鎖に使うというコワイ話もある。
とはいえ、一番気になるのは「貧困女子」の問題だ。「貧困男子」という言葉もあるから、「若年貧困の問題」と言った方がいいかもしれない。
どう考えても・・・
若者の「今(所得)」も「未来(年金)」も明るくない。
これは大きな問題だ。
若者が夢をもてない国は衰退する。それ以前に、筋が通っていない。
なぜか?
ヒト・モノ・カネの社会資源は限られている。その貴重な資源が「中高年・高齢者」に優先的に配分されているから。
一に雇用、二に雇用、採用見送り!
一に年寄り、二に年寄り、若者は後回し!
若者から高額の社会保険料を徴収し、高齢者に高額の年金を払う。ところが、今の若者世代が年金をもらうようになったら・・・減額(やっとれん)。
さらに・・・
どんなに聡明で政治に精通していようが、20才未満なら選挙権はナシ。一方、自分の名前も思い出せない老人が選挙権を抱えている。だから、高齢者に有利な政治がつづくのである。
若者に冷たく、中高年・高齢者に手厚い国家、それが日本なのだ(実質破綻したギリシャもそうだが)。
冷静に考えてみよう。
十分生きた年寄りが、まだ生きていない若者より優先される?
なんと理不尽な話だろう。
長生きしたいと思ったら、若者の負担にならないよう、老いても働く、または蓄えておく。社会資源は限られているのだから。人道主義やら人権やら、人間の都合で、物理の法則を曲げることはできないのだ。無から有は生まれない(エネルギー保存の法則)。これを生物学では、自然淘汰、弱肉強食とよんでいる。
というわけで・・・
冒頭のビジネス雑誌の記事を思いだそう。
中高年は若者に席を譲れ!
そして、
年寄りも若者に社会資源を譲ろう!(薬の転売など言語道断)
まてよ・・・
自分も中高年だった。老後に備えなくては・・・
でも、65歳あたりでコロッといく方が楽ちんかな?
いつかは死ぬ身だし。
by R.B