インターネット(3)~仕組みと未来~
■インターネットの正体
インターネットは今や世界の中心だ。情報収集、買い物、コンテンツ、コミュニケーション、スポンサー広告とインターネットなしでは世界は一日も成立しない。ところが、今から15年前、世界はインターネットなしでうまくやっていた。本当は必要でもないのに、いつの間にか「必要品」にすり替わった文明アイテムは多い。インターネットもこのたぐいかもしれない。つまり、ガラクタ。
だが、インターネットはただのガラクタではないだろう。歴史上初めて、無制限の自由主義をもたらしたので。ショップでは扱えない少量他品種の販売も可能だし、ご近所専門の超ローカルサイトも簡単に開設できる。国が法律で禁じようが禁じまいが、物騒な武器・薬物のたぐい、恥知らずなアダルト写真も入手できる。さらに、ネット上では不毛の中傷合戦が花盛りだ。つまり、なんでもあり。もちろん、良し悪しは別だが。
■インターネットの危うさ
最近、中国政府がGoogleをはじめアメリカIT企業に対し、情報のアクセス制限を要求し、彼らはそれをのんだ。するとアメリカの一部の議員が、「金儲けのためなら民主主義を抹殺する恥知らずな行為」と罵倒した。だが、一見正論に見えるこの主張も精査する必要がある。政府の都合の悪い情報を選択的に抹殺するのは問題はあるが、幼児のアダルト写真から原子爆弾の作り方までアクセスできる「自由」というのは、いかがなものか。言ってしまえば、情報の無法地帯。中国政府の主張はこの2面を包含しており、しかも不可分。さて、どうしたのものか。
たとえば、歴史的な情報革命「活版印刷術」。グーテンベルクはこの発明で、悪書が世界中に広まるのを怖れ、公開を躊躇したと言う。もし、グーテンベルクが今のインターネットを見たら、卒倒するかもしれない。インターネットは原子力と似ている。インターネットは情報の効率を、原子力はエネルギーの効率を、それぞれ極限まで高めるためのテクノロジーだ。一方で、インターネットは国の法律を無効にし、原子力は人類を全面核戦争の崖っぷちまで追い込んでいる。
この2つのテクノロジーに共通するのは、「便利だけど、地球を破滅させるかも」その昔、古代ギリシャのプロメテウスは人類に火を与えた罪より、毎日肝臓をハゲタカについばまれる罰を受けた。では、「インターネットと原子力」の罰は誰が受けるのだろう?
■インターネットの仕組み
世界中の電話が電話回線とつながっているように、世界中のコンピュータはインターネットとリンクしている。そして、愚にもつかない情報から国家安全保障の情報にいたるまで、あらゆる情報がコンピュータの中にある。その気になれば、誰でも取り出せるわけだ。好奇心旺盛なハッカーが不法アクセスに精を出すのは、「そこに情報があるから」イギリスの登山家マロリーが、「なぜ、あなたはエベレストを目指すのか」と聞かれて、「そこに山があるから」と答えたという。こちらは歴史的な人物だが、好奇心が源という点で、似た者同士。法に触れるか否かの違いはあるが。
インターネットがコワイのは、家庭やオフィスの内部のコンピュータまでつながっていること。かつて、オフィス内部のコンピュータはLAN(ローカルエリアネットワーク)でつながっていたが、外(インターネット)とはつながっていなかった。ところが今では、LANはルーター(中継器)を介して、インターネット、つまり、世界中のコンピュータとつながっている。ルーターやコンピュータはネットワークの節にあたるので、「ノード」と呼ばれている。各ノードは銅線、光ファイバー、無線で接続され、地球規模のインターネットを構成している。つまり、パソコン、サーバー、ルーターなど世界中のコンピュータは、有線または無線で物理的(ハード的に)に接続されている。
もちろん、物理的につながっていても、通信手順がバラバラでは、コミュニケーションは成立しない。電話で日本語とスワヒリ語で話しあうようなものだ。つまり、世界共通の通信手順(ソフト)が必要になる。このインターネットの通信手順が「TCP/IP」だ。TCP/IPは、シンプルで融通が利く反面、ハッカーが悪さをするスキも与えている。
■インターネットと核戦争
インターネットは核戦争を想定して設計された、という神話がある。
真偽はともかく、そのような構造になっていることは確かだ。たとえば、ロサンゼルス、サンタフェ、ワシントンの3つの都市がお互いに通信できるようにするには、
1.ロサンゼルス-サンタフェ
2.サンタフェ-ワシントン
の2回線を敷けばいい。ロサンゼルスとワシントンは直接つながっていないが、サンタフェを経由すれば通信できるからだ。
ところが、サンタフェが核攻撃を受けて壊滅した場合、ロサンゼルスとワシントンも通信不能になる。そこで、ロサンゼルス-ワシントン回線も敷設しておく。そうすれば、サンタフェが壊滅しても、ロサンゼルス-ワシントンは通信できる。つまり、「迂回路を設けることで冗長性を高める」のがインターネットのキモなのだ。
■インターネットが高速な理由
ところで、メールにしろ、ウェブサイトにしろ、待ち時間がほとんどない。地球の裏側からデータを送ってくるわりには高速だ。一体、どうなっているのだ?ここで、距離について考えてみよう。一般に、距離とは「移動時間の長さ」をあらわす。つまり、移動時間が長けほど、距離も長い。我々が住んでいる世界は「ユークリッド空間」である。いわゆる3次元空間で、2点間の距離に比例して移動時間がかかる。つまり、「距離=空間上の距離」。
ところが、インターネットでは情報は光速で移動する。だから、地球上のどこからどこへ移動しようが、一瞬。つまり、インターネット上では、距離は空間上の距離を意味しない。ただ、経路上のノードの数が多いほど時間がかかるので、「インターネット上の距離=中継ノード数」となる。
ここで、インターネット上の各ノードが、それぞれ平均n個のノードと直接つながっているとする。当然、各ノードに接続される通信回線はn本だ。このとき、あるノードから出発して1ステップで到達できるノードはn個ある。さらに、2ステップ離れたノードはn×n個、sステップ離れたノードはnのs乗個存在する。
このことから、ノードに直接つながるノード数nの値が大きいほど、少ないステップ数(sの値が小さい)で相手ノードに達することができる。もちろん、sの値(ステップ数)が小さいほど、情報は速く伝わる。これがインターネットの平均距離(情報伝達時間)が短い理由だ。もう一つ、インターネットが高速な理由がある。通常、1本の回線を複数の人が共用するが、もし誰かが1時間かけてデータをダウンロードしたら、その間、誰も回線が使えなくなる。
ところが、メールにしろ、ウェブ閲覧にしろ、1時間も待たされることはない。なぜか?それは、通信データをパケットという小片に分けて、バラバラで送っているからである。たとえば、「Aさんのパケット1→Bさんのパケット3→Aさんのパケット2」という具合に。つまり、1人分の通信が長時間、回線を占有することはない。これはパケット方式とよばれる。限られた回線を、多数の通信で共用するには欠かせない技術だ。
■インターネットの未来
最後に、10年後のインターネットを予測してみよう。コンピュータや光ファイバーのような物理的インフラ(ハード)は変わらない。一方、サービス分野はどうか?コンテンツを提供するサイトは、10年後も間違いなく存在する。そもそも、コンテンツなしではインターネットの意味がない。検索エンジンはどうだろう。インターネットはまさに暗黒大陸、日々更新される膨大な情報やサービスを、検索エンジン無しで捜すのはムリ。検索エンジンはあらゆるコンテンツのゲートウェイ(架け橋)として、重要さを増すだろう。つまり、検索エンジンも生き残る。
一方、中途半端な仲介業サイトは徐々に淘汰される。たとえば、ショッピングモール。現在人気のショッピングモールのメリットは、複数店舗で商品を比較できること。だが、このような機能は進化した次世代検索エンジンに吸収されていくだろう。個人的には、今でも、ショッピングモールは使わない。買い物するときは、必ず複数の検索エンジンで捜す。次世代検索エンジンは、さらにショッピングモールを追い込むだろう。
未来の検索エンジンは、1人1台のプライベート検索エンジンになる。ご主人様の好み、性癖を考慮し、常時世界中のバーチャルショップから情報を集め整理する。マニアックなユーザーならマニアックに、価格に敏感なユーザーなら価格重視で、情報を収集し整理するのである。そして、ユーザーが検索エンジンに命令すると、整理した情報をもとに、ご主人様にお伺いを立てる。そこで、ユーザーが商品を購入したり、お気に入りに登録したり、リアクションがあると、それを分析し、ご主人様により気に入られるよう、進化を続ける。まさに、プライベート検索エンジン。だから、中途半端な仲介サイトは消えてなくなる。
さらに、ダイナミックな変化も起こるかもしれない。例えば、GoogleがAmazonを買収、さらに出版社を次々と併合していけば、出版の世界は一変する。インターネットで必要なページを読み、気に入ったら購入と言うことも可能になるだろう。未来にはいくつも分岐があるが、インターネット帝国の覇者は、たぶん検索エンジンになる。そして、このインターネット帝国の王道をひた走るグーグル(Google)、それを怖れるマイクロソフト、という構図がある。だが、マイクロソフトにはカネはあるが知恵がない。いつの間にか、第3勢力が台頭して勢力図が一変、という未来もありうる。10年前のグーグルのように。
《完》
by R.B