UFO(2)~ロズウェル事件~
■ロズウェル宇宙人解剖フィルム
今では、「UFO」もすっかりさびしくなった。かつては、オカルトと並ぶ謎と恐怖の大テーマで、テレビ局は世界中に取材に出かけたものだった。UFO評論家まで登場し、怪しげな写真や映像を取り上げては、真実か否か、真顔で議論したものだった。だが、それも今は昔。
今では、UFO特番といえば「バラエティ」で、かつてのカリスマはない。登場人物も固定化し、放送する側も観る側も誰も信じちゃいない、そんな中で、恒例のヒマつぶし番組となっている。このようなUFO低迷の原因となったのが、ロズウェルの「宇宙人解剖フィルム」だろう。イギリスの音楽プロデューサー、レイ・サンティリが手がけたとされ、1995年、欧米で公開された。その後、世界中にコピーがばらまかれ、日本でも1996年にテレビ放送されている。
「ロズウェルに墜落したUFOのエイリアンを解剖した!」という新手のネタで、つかみは抜群だった。また、この騒動のおかげで、「ロズウェル事件」も一躍有名になった。では、このフィルムは真実か否か?書籍、テレビ、インターネットの真面目そうな意見によれば、限りなくクロ・・・一瞥(いちべつ)して、古く似せた新しい映像だと分かる上、解剖シーンになんのリアリティも感じない。はじめから見せる目的で作られた偽装の臭いがプンプンする。
変にスムースで、不自然なのだ。人間の目はそう簡単にだませるものではない。これが真実だと言い張る人は、初めから信じたいと思っている人だけだろう。ところで、元ネタのロズウェル事件は?こちらは、真っ赤なウソとは言い切れない。真面目な?UFO研究家によれば、ロズウェル事件は、ベルギーUFO事件と並んで、最も信憑性が高いという。一方、あまりに有名なので、映画、TVドラマ、書籍、あらゆるメディアの金儲けのネタにされてしまった。骨の髄までしゃぶりつくされ、逆さに振っても、鼻血もでない。
つまり、ロズウェル事件は名声と引き替えに、真実と威厳を失ってしまったのだ。事件現場に近いロズウェルの町では、UFOと宇宙人は町おこしの小道具になっている。テレビ局のクルーが押しかけても、みな愛想がいい。それもこれも、あの頭でっかちで、つり目のインチキ宇宙人のせいだ。「宇宙人のニセフィルム=ロズウェル事件」という構図が、すっかり定着している。一つの世界に、誰が見てもインチキと分かるニセ情報を流せば、その世界全部がウソになる。
ロズウェル事件は、事実と確認されている部分と、そうでない部分に分けて考える必要がある。このような視点で制作されたのが、1992年の映画「ロズウェル」だ。原題は「UFO crash at Roswel」。映画「砂の惑星」やTVドラマ「ツイン・ピークス」の二枚目俳優カイル・マクラクラン、映画「ウォール街」やTVドラマ「ホワイトハウス」のマーティン・シーンと、キャストはけっこう有名どころ。ストーリーはドキュメンタリータッチで、観ていて全然面白くない。一方、事実と仮説がはっきり区別されていて、好感がもてる。ロズウェル事件の世界を、真面目に知りたい人には一見の価値あり。
■ロズウェル事件の真実
ロズウェル事件は、事件が起こった地名に由来する。ロズウェルは、ニューメキシコ州にある町で、かつて、アメリカ陸軍の航空基地があった。基地には、第509重爆撃大隊が所属し、アメリカ唯一の原子爆弾投下部隊として知られていた。広島に原子爆弾を投下したB29も、この基地から飛び立っている。この事実が、のちにロズウェル事件の信憑性を高めることになる。
1947年7月1日、ロズウェル航空基地のレーダーが、異常な飛行物体をとらえた。レーダーに映った光点は、魔法のように、現れたり消えたりしながら、時速1600㎞の猛スピードで基地上空を飛び回った。この頃、人類最速はP51ムスタング戦闘機で、時速700㎞ほど。1947年7月4日、この日も、未確認飛行物体は基地上空を飛び回っていた。やがて、雷雨が発生し、上空ですさまじい雷鳴がとどろいた。その瞬間、レーダーの光点も消えた。何かが雷鳴とともに空中爆発し、砂漠に落下したのだ。
この様子は、軍、住民、考古学調査隊など、多く人々によって目撃された。マック・ブラゼルは、ロズウェル近郊で羊を飼う牧場主であった。その日、彼は自分の牧場に銀色の破片が散乱していることに気づく。違和感を感じたブラゼルは、ロズウェルの町の保安官事務所に報告した。保安官ジョージ・ウィルコックスは、一目見るなり、それが「ありきたりのモノ」でないことに気づいた。ひょっとすると、軍事機密がからんでいるかもしれない。
ウィルコックスは、ロズウェルの航空基地に連絡した。第509重爆撃大隊に所属する情報将校ジェシー・マーセル少佐は、すぐに現地に行き、破片の回収を行った。つづいて、第509重爆撃大隊司令官のウィリアム・ブランチャー大佐は、マーセル少佐の報告をもとに、次のような発表を行った。
「かねてよりウワサされていた空飛ぶ円盤を軍が回収した・・・」
アメリカ軍が空飛ぶ円盤を公式に認めたのである。1947年7月8日、ロズウェルの地元新聞「ロズウェル・デイリー・レコード」は、軍の発表を大々的に報じた。全米はたちまち大騒ぎとなった。大新聞までがフィーバーし、ニュースは瞬く間に世界をかけめぐった。軍が主導しながら、どうしてこんなお粗末な対応になったのか?発表を命じたブランチャー大佐に原因がありそうだ。彼の写真を見ると、人の良さそうな、いかにも陽気なアメリカ人という風だ。
「歴史上初めてUFOを捕獲した英雄!」
そんな無邪気な野心が、彼の脳裏をよぎったのかもしれない。だが、さすがはアメリカ、その後の対応は迅速だった。テキサスにある第8陸軍航空司令部のロジャー・レイミー准将は、空飛ぶ円盤説を完全否定し、回収されたのは気象観測用の気球と公式発表したのである。マーセル少佐は、見間違えたとされる気球の残骸とともに写真を撮られ、新聞を飾った。彼は、空飛ぶ円盤と気球を見間違えたマヌケな軍人という役回りだったが、その見返りとして、軍罰は免除された。
こうして世界を席巻したロズウェル事件は、一件落着となった。だが、マーセル少佐の気分は晴れなかった。その時の屈辱は彼を悩ませたらしく、晩年、「あれは気象観測用の気球ではなかった」と言い続けたという。それが認められることなく、マーセルはこの世を去っている。以上が、ロズウェル事件のほぼ確実な部分である。ポイントを整理すると、次のようになる。1947年7月1日から、ロズウェルの航空基地周辺に未確認飛行物体が確認された。
1947年7月4日、ロズウェルで何かが墜落し、残骸が回収されたが、それは奇妙な物質でできていた。それが何であったか分からないが、アメリカ軍の情報将校が気球と間違えるはずがない。つまり、未知の物質だった可能性は高い。ということで、確実な部分は意外に少ない。次に、不確実な部分、つまり、仮説をみていこう。
■ロズウェル事件の仮説その1
もし、UFO(未確認飛行物体)が墜落したとすれば、もっと大物パーツがあってもいいはずだ。ところが、マーセル少佐が回収した残骸はほとんど薄い破片だった。こうして、さまざまな説が飛び交ったが、すべて人の証言で物証は一つもない。しかも今では、その証言すらあやしくなっている。
事件から60年が経って、ロズウェル事件の目撃者たちの寿命は風前の灯火。ここで、ロズウェル事件の仮説をみていこう。まずは、回収された残骸に大物パーツがないことに対する仮説。この説によれば、マーセル少佐が回収した残骸はUFOの一部で、主要部分は別の場所に落下したという。
その場所は、第1発見現場から200㎞離れたサンアウグスティン平原。この現場に最初に到着した軍は、驚くべき光景を目にする。丸みをおびた三角翼の物体が丘に突き刺さっていたのだ。それは、いわゆる「空飛ぶ円盤」とは、似ても似つかないものだった。機体には何本かの亀裂があったが、全体として無傷に見えた。墜落というよりは、不時着に近い。
この場所は、ロズウェル事件の第2の墜落現場と言われている。この第2墜落現場には、墜落した飛行体の近くに、身長120~140cmほどの灰色の遺体が4体あった。遺体の頭は、風船のように大きく、両目は大きく、アーモンドのような形状。鼻と口は小さく切れ込み、毛は認められない。この証言は、先の「ロズウェルに墜ちた宇宙人解剖フィルム」の宇宙人と酷似している。おそらく、この情報をコピペしたのだろう。
次に、マーセル少佐が回収した破片は何だったのか?
未知の物質だったという(仮説なんだから当然)。
では、どう未知だったのか?アルミ箔のように薄く、ナイフでなぞっても傷一つつかない。ナイフで切れるが、切った直後に元に戻る・・・傷つかないのにどうやったら切れる?どっちやねん?また、ライターの火であぶっても燃えない。さらには、クシャクシャにした後、テーブルにおくと、自然に元の形に戻り、しわ一つ残らなかった、等々。まるで、昔流行った形状記憶合金だが、いかにも未知の物質”らしい”のが気になる。どっちしろ、現物は残っていないので、検証するすべもない。
■ロズウェル事件の仮説その2
さらに大胆な仮説もある。地球のテクノロジーのいくつかは、ロズウェル事件で回収したUFOのコピー品だというのだ。論者は元陸軍情報将校フィリップ・J・コーソ。彼はロズウェル事件で回収したUFOを調べ、役立ちそうなテクノロジーをアメリカ企業に供与し、それが大発明につながったという。
コーソーの著書は、アメリカのタイム誌やニューヨークタイムズ紙でもとりあげられ、ベストセラーになった。また日本でも、1998年、「ペンタゴンの陰謀」というタイトルで出版されている(※)。一見、トンデモ本だが、内容は論理的で、長尺で見てもつじつまが合っている。それに、妙な説得力がある。真相はさておき、読むぶんには面白い。ロズウェル事件ものとしては異色本である。
コーソーの主張によると、ロズウェルで回収したUFOには、動力源も推進エンジンもなかったという。それでも、電磁界を反重力界に変換する方法で推進するのではないかと推測している。だが、こちらは説得力に欠ける。説明が中途半端で、言葉の意味を正確に理解していないようにも見える。むろん、翻訳に問題があった可能性もあるが。
現在の地球文明は、電動モーターのように、磁力を電流で制御できるが、重力を直接制御することはできない。そこで、制御可能な電磁力を重力に変換できれば、間接的に重力を制御できるというわけだ。もちろん、そうなれば、UFOのようなジグザグ飛行も可能になる。人工重力で飛行体を引きつければ、乗員の身体も血流もすべて同じ力で引きつけられる。そのため、ジェット機のように機体が推力を受け、乗員が逆方向の慣性力をうけ、死ぬ思いをすることもない。
また、ロズウェルで回収したUFOには、電気配線らしきものがなく、かわりに、透明で細長いワイヤがあったという。中に光を通すことができ、ワイヤを曲げれば、光も曲がり、「光は直進する」に反するので不思議だった、とコーソーは書いている。それが、今世界中で使われている光ファイバーというわけだ。
大学時代、光ファイバーの卒論で苦しんでいた頃、光ファイバーの基本特許はアメリカのコーニング社が独占していると聞かされた。信号や電力を銅線で送っていた時代に、しゃれた透明ワイヤーで光を使って送るというのは、確かに画期的だ。一方、原理は簡単だ。屈折率が異なる物質で二重構造にし、内側に光を全反射させながら、光を伝える。そのため、光が曲がって見えるのである。
さらに、クラッカーの形をした5cmほどの灰色の薄い板も見つかったという。表面には、ワイヤーが道路地図のように張り巡らされていた・・・つまり、現在のLSI。LSIは、現在、コンピュータだけでなく、あらゆる電子機器で使われている。高純度のシリコン上に、多数の部品と配線を直接生成するので、集積度がきわめて高い。
「リレー→真空管→トランジスタ→IC→LSI」という進化の中で、この時代は「真空管」。LSIがいかに突出したテクノロジーだったかが分かる。ちなみに、”地球”の歴史年表では、LSIの原型となるICを発明したのは、アメリカのテキサスインストラメンツ社のジャック・キルビーということになっている。彼はこのICを、入社した年の夏休みに考案している。1958年なので、時期的には矛盾しない。
しかし・・・アメリカの最高機密を新入社員に教える?キルビーは、この発明により、世界的な名声を得て、2000年にはノーベル物理学賞を受賞している。そんな名誉を、宇宙人からの盗作呼ばわりされては、キルビーもはた迷惑だろう。もっとも、そのジャックキルビーも、2005年に亡くなっている。
コーソーの主張によれば、ロズウェルに墜ちたUFOから、ほかに、暗視装置、粒子ビーム砲、電磁推進システムが発見されたという。ところが、世界中の真面目なUFO研究家たちは、アメリカ政府は故意にニセ情報を流し、真相を隠していると警告する。とくに軍関係者が証言する場合、このパターンが多いと力説する。とすれば、コーソーの主張も、真実を隠すためのニセ情報かもしれない。
一方、コーソーのような地位を築いた人物が、ウソで塗り固めた書を出して、世界中の笑い者になるとも思えない。真っ赤なウソと分かれば、だれも相手にしなくなるから。つまり、本物に見せるには、少しだけ真実を混入させる必要がある。そう考えると、この書は俄然面白くなる。どれがウソで、どれが真実か?考えただけで、ゾクゾクする。ところが、この本はすでに絶版。定価は1500円だったが、古本屋では2000円で売られている(買っておいてよかった)。
それにしても、内容は大胆不敵だ。しかも、暴露した相手は世界に冠たるアメリカ軍。こんな大それたことをすれば、タダじゃすまないのでは?他人ごとながら心配になる。CIAにヘンな注射を打たれ、自然死として片づけられてもおかしくない。そして、その不安は現実となった・・・コーソーは、この本を出版した後、急死したのだ。ということで、この話はこれでおしまい・・・君子危うきに近よらず。
■ロズウェル事件の真相が隠される理由
UFO研究家が力説するように、アメリカ政府がロズウェル事件の真相を隠していたとして、その理由は?
ここで、ある仮定をしよう。
もし、ちまたで大騒ぎのロズウェル事件が本当だったとして、それをアメリカ政府が世界に公表したとする。
アメリカ政府のUFOに関する公式見解・・・かねてよりウワサのあったUFOは実在する。軍はロズウェルに墜落したUFOを捕獲していて、物的証拠もある。捕獲した技術から推測するに、彼らのテクノロジーは我々を凌駕している。もし、戦争になれば、われわれに勝ち目はない。もっと詳しく知りたい人は、映画「インデペンデンスデイ」や「宇宙戦争」を観ることをおすすめする。当たらずとも遠からず、理解の助けになるだろう。また、彼らが地球に来ている理由はわからない。だから、行動は予測不能である。国民は不安を覚えるだろうが、わが国の軍事力をはるかに越える勢力が存在することは確かである。そして、地球の食物連鎖の頂点は人間ではなく、彼らだということを忘れてはならない。いつ食べられても文句は言えないのだ。
こんな発表があった翌日、いつもように、教科書を抱え、大嫌いな勉強のために学校に行くだろうか?窮屈なネクタイをしめて、嫌な仕事をするために出勤するだろうか?悪意をもった犯罪者、悪意はなくても必要に迫られた人たちが、国家権力を怖れて、犯罪を思いとどまるだろうか?世界の秩序は、国家権力が最強だとみんな信じているから、保たれているのである。
■未確認飛行物体はどこから来るのか
未確認飛行物体が人工物だとして、どこからやって来るのか?UFO研究家によれば、地球以外の天体だという。つまり、我々の世界のものではない。だが、太陽系や近くの恒星系で、高度な生命体はまだ確認されていない。とすると、宇宙のはるか彼方からの来訪者?最近、ハッブル望遠鏡で撮影した画像をもとに、NASAが巨大な銀河を画像化した。この銀河は1兆個を超す星の集合体であり、直径は17万光年にもなるという。
また、この銀河の中には、太陽とよく似た恒星が1000億個もあるという。とすれば、科学者たちが言うように、地球外生命体が存在してもおかしくない。一方、この銀河が地球から2500万光年離れていることを忘れてはならない。宇宙の創造主は、文明が互いに干渉しないよう、こんな長大な空間をつくったのではないだろうか?宇宙の最高速、光速をもってしても、2500万年もかかるのだ。たとえ、地球外生命体が存在したとしても、別の世界と考えたほうがいい。
技術的にみて、長大な空間を旅する宇宙船は、時間を旅するタイムマシンに匹敵する。1988年カリフォルニア工科大学のキップ・ソーン博士らはワームホールを利用したタイムマシンの作り方を発表したが、超光速飛行にもワームホールが欠かせない。ワームホールは、宇宙の2点を結ぶトンネルのようなもので、我々が住む世界の空間ではない。理論上成り立つだけで、生成はもちろん、観測されたこともない。
何が言いたいのか?
何万光年の彼方からの来訪者は、未来からの来訪者に匹敵する驚異だということ。最近、「ダークマター(暗黒物質)」という言葉が認知されるようになった。宇宙には、目に見えない物質が、目に見える物質の7倍も存在するのだというのだ。目に見えないから暗黒物質と呼ばれるだけだが、宇宙の彼方にあるわけではない。目に見える物質と同じ位置、つまり、われわれと同居しているのである。まるで多次元宇宙世界だ。とすれば、未確認飛行物体はこの暗黒物質の世界から来ているのかもしれない。
未確認飛行物体、地球外生命体、どれも考えるほどわからなくなる。あてにならない証言や、怪しげな写真や映像に頼らざるをえないからだろう。最も信憑性が高いとされるロズウェル事件ですら、物証はないに等しい。しかも、最近では、本物そっくりの写真や映像が、CGで簡単に作れる。つまり、デジタル技術が真実を消滅させているのだ。さて、どんな問題も十分時間をかければ、解決不能となる。
下手の考え休むに似たり。明日も、ネクタイをしめて出勤することにしよう。
《完》
参考文献:(※)フィリップ・J・コーソ著中村三千恵訳「ペンタゴンの陰謀」二見書房
by R.B