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スモールトーク雑記

■アニメ会社破綻! 2012.02.11

デザイン会社のA社長から電話があった。いつもは、メールなのに・・・さては緊急事態?

ビンゴ!

年明け早々、またかいな。半年前、このデザイン会社に、アニメパートを発注したのだが、元絵のアニメだけ、別のアニメ会社に発注している。(餅屋は餅屋)ところが、このアニメ会社の納品が遅れに遅れ、あげく、「会社が閉じた」という。閉じたって、倒産?ノー!この業界は、手形は使わないので、「手形の不渡り→倒産」は基本ありえない。では、「会社が閉じた」とは?

アニメ、CG、コンピュータソフトウェア、サウンド、それがなんであれ、成果物が無体物なら、原材料はいらない。つまり、仕入れがないわけで、ほぼ「経費=人件費」。だから、資金がショートしても、倒産はなく、給料の支払いが滞るだけ。ところが、「給料の遅配」が続くと、労働基準監督署にかけこむ従業員が出てくる。

すると、労働基準監督署は、(この会社の)債権者に通達する。結果、関係者に「アブナイ」が知れわたるわけだ。しかも、今はインターネット社会、2ちゃんやSNSに書き込まれた最後、悪事千里走るで、「みんなの共有情報」になってしまう。そうなると、従業員も浮き足立ってくる。給料がもらえないかも・・・で、仕事に精を出すバカはいない。優秀な人材から逃げ出し、やがて、自然消滅・・・だから、根も葉もないウワサでも、いったん、広まったが最後、本当に破綻する。そうなると、この会社の責任だけではすまない。ウチも、アブナイ会社に発注した責任、完成できなかった責任で、最悪、損害賠償もありうる。

当然、ウチも、下請けに損害賠償を請求したいところだが、下請法の問題もあって、ヘタをすれば、こっちが訴えられる。だいたい、ここまでくると、破綻した会社のほうが強い。もう後はないので、「信用」を気にする必要がないからだ。「無いものは払えない」と居直って、借金を踏み倒して、後は野となれ山となれ~コワイコワイ。

ということで、頭をかかえた4社が一堂に会した。元請け、ウチ(1次下請け)、デザイン会社(2次下請け)、アニメ会社(3次下請け)。場所は東京のとあるビルの1室。会議では、3つのプランが提案された。

【プランA】このアニメ会社で開発を続ける。

【プランB】アニメ会社を変える。

【プランC】開発を断念し、損害賠償モードへ。もう一つ、

【プランZ】神に祈るというのもあるが、さすがに口に出せない。

ところが、驚くべきことに、問題のアニメ会社の社長が吠えだした。「納品が遅延しているというが、ウチは、全部納品している。なんで、カネを払わない!」瞬間、みんな仰天して、「宇宙人を見るような目」で社長を見た。このアニメ会社は、確かに、全カット納品しているが、30%がメーカー(発注者)からNGが出ている。OKが出て初めて、納品でしょ。これを、リテイク(やり直し)というが、このメーカーは確かにリテイクが多い。

ただ、その分、高品質→販売好調→業績好調→カネ払いがいいウチみたいな下請けデベロッパーは、優良企業に信用されてナンボ、嫌われたが最後、明日はない。だから、ウチはメーカーが満足するまでリテイクに応じる。目先、赤字でも、次の仕事につながるからだ。明るい未来はきっと来る、そう信じて頑張ってるわけだ。

そんな努力のかいあって、今では、このメーカーのトップデベロッパーに紛れ込んでいる。ところが、このアニメ会社はそういう意識がない。TVアニメの延長で、納期が迫れば、品質を落として、平気で納品してくる。しかも、かなりの部分が中国。納期が間に合いそうにない、人件費が安い、からだ。

しかし、「中国=人件費が安い=安く上がる」が、いつも通用するとは限らない。今回のように、高品質が要求される場合だ。いくら、安くても、リテイクを繰り返せば、納期はのびるし、コストもアップする。あげく、予算オーバー・・・何をしているかわからない。ということで、このアニメ会社はプロ根性がない!と言いたいところだが、話はそうカンタンではない。アニメ制作のスキームはザックリ、

1.総作画監督(規模が大きい作品の監督・一番偉い)

2.作画監督(規模が小さい作品の監督・偉い)

3.原画マン(アニメの原画を描く人・絵が上手)

4.アニメーター(原画と原画を補間する絵を描く人・作業員)

ところが、「4.アニメーター」は分業なので、品質がバラつく。それをおさえるのが作画監督(作監)だ。ただし、例外もある。たとえば、シルヴァン・ショメ監督の「イリュージョニスト」。このアニメは、アカデミー賞(長編アニメーション部門)にノミネートされたが、作監クラスがアニメーションを描いている(たぶん)。

なので、このクラスなら、そんな心配はない。ということで、一部の例外をのぞけば、アニメの品質は作画監督で決まる、といっていい。ところが、最近、日本の作画監督の数が減っている。総作画監督は100人、作画監督は200人ぐらいだという。さらに、アニメ会社のスタッフ(作監も含む)は、ほとんどがフリーで、仕事が終わると、解散して、次の仕事に移る。当然、仕事場(会社)も変わる。

だから、「リテイク(やり直し)」と言われても困るのだ。解散して描き手はもういないのだから。ということで、アニメ会社にはアニメ会社の事情がある。もちろん、これを許せば、メーカー→元請け→ウチ→デザイン会社→アニメ会社と、損害賠償のドミノが始まる。もちろん、そんな事態は誰も望んでいない。会議は紛糾し、のべ4時間にもおよんだ。

夕方の4時、会議をおえて、蒲田に向かう。大学時代の友人Yと会うためだ。居酒屋で一杯やって、その後、Yおすすめの中国人クラブへ(後で「場末のスナック」と判明)。今回の出張は、これだけが楽しみ?寂しい人生だ・・・

by R.B

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