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スモールトーク雑記

■フェイスブックと反政府運動 2011.02.27

イスラム世界が混乱している。チュニジアの「ジャスミン革命」から始まり、30年続いたエジプトのムバラク政権が崩壊した。これをみて、誰かが言った。「次はどこだ?」エジプト人が答えた。「フェイスブックに聞いてくれ」

「フェイスブック(Facebook)」は、今流行のSNS(ソーシャルネットワーク)の一つで、インターネットの「交流サイト」。日本では匿名の「ツイッター」が人気があるが、フェイスブックは基本、実名。しかも、顔写真まで添付する。そのかわり、情報を開示する相手はこっちで選べる。

ところで、フェイスブックと反政府運動にどんな関係が?フェイスブックを使えば、仲間と情報を共有できるし、送信メッセージを暗号化できるし、デモの呼びかけも簡単、反政府運動の強力なツールになる。だから、「次の政変はどこかは、フェイスブックに聞いてくれ」というわけだ。

今回の反政府運動は、アルジェリア、イエメン、ヨルダン、バーレーンにも飛び火し、盤石にみえたリビアまで危機的状況にある(2011年2月27日現在)。それもこれも、フェイスブックのおかげ?

しかし・・・

たとえば、バーレーンの反政府運動は、今に始まったことではない。ここ30年、何度も大きな反政府デモが起こっている。ただ、バーレーンの場合、他の国とは事情が異なる。直接原因は、チュニジアやエジプトのような失業問題や格差問題ではなく、宗教対立。もちろん、最終的には、失業・格差への不満に行き着くのだが。

バーレーンの社会構造は複雑だ。一枚岩のイスラム教国ではなく、王家はスンナ派(スンニ派)、国民の大多数はシーア派、と分裂している。一方、政府の要職に就けるのはスンナ派のみ。多数を占めるシーア派が不満に思うのは当然だろう。

さらに、バーレーン王家は、近隣諸国からスンナ派の民を入国させ、国籍まで与えている。スンナ派の人口を増やすためだ。しかも、彼らは軍や警察に多数雇用されている。なぜか?スンナ派の外国人は、反政府運動の弾圧にうってつけだからだ。バーレーン国民へのしがらみがなく、容赦なく取り締まれるから。

そんなこんなで、国民の多数をしめるシーア派は、二重の不満をもっている。外国人に弾圧されること、外国人に雇用を奪われること、つまり、政治的にも経済的にも、外国人の下におかれているわけだ。これが、バーレーンの現状。

バーレーンに限らず、アラブのイスラム諸国は、王家が支配する君主国家が多い。当然、民主化は遅れ、格差が生まれる。これに、貧困と失業が加われば、民衆の不満が爆発するのは当然だろう。つまり、今回の事件は、起こるべくして起こっている。

今回の反政府運動を整理すると、原因は、貧困と格差と宗教にあり、それを加速したのは、爆発寸前の民衆の不満。なので、フェイスブックの役回りは「触媒」程度?それでも、運動の助けにはなっただろうが。

そのフェイスブックだが、アクセス数がグーグルを超えたと言う。しかも、映画化(ソーシャル・ネットワーク)され、アカデミー賞候補にもなっている。そして、今回は、「歴史」を変えた!

フェイスブック・・・よくわからんが、凄そうだ。情報社会はスピードが第一、乗り遅れて、負け組にはなりたくない。よ~し、フェイスブックを始めるぞ!とキーボードを叩く前に、ちょっと頭を冷やそう。物騒な個人情報を入力するのは、それからでも遅くない。

あるTV番組で、美人キャスターが、わざわざ米国フェイスブック社に出向き、フェイスブックに登録してみせ、懐かしい友人を見つけることができた!と騒いでいた。

しかし・・・

逆もあることを忘れてはならない。誰かが自分を見つけるかもしれないのだ。その誰かだが・・・友好的とは限らない。自分が指名手配中じゃないにしろ、見つかりたくない相手はいるものだ。

たとえば・・・

暴力亭主から逃げ出して、ひっそり暮らしている母子。執念深い夫なら、日々、フェイスブックをチェックしているかもしれない。

借金を踏み倒し、夜逃げした人もしかり。債権者がフェイスブックを、入念にチェックしているかもしれない。

自分が勤める会社も油断できない。会社の不満分子、転職を目論む反逆分子がいないか、人事部が目を光らせているかもしれない。

今のネット社会は何が起こるかわからない、と思ったほうがいい。2011年1月11日、それを象徴するような事件が起こった。

ある女子大生が、ホテルのレストランでアルバイトをしていた。そこに、サッカー選手と女性モデルが来客、2人の熱いデートを目撃した。

彼女は、ツイッターの常連だったので、さっそくこの目撃情報を書き込んだ。いわく、「○○と××がご来店、××まじ顔ちっちゃくて可愛かった・・・今夜は2人で泊まるらしいよお、これは・・・(どきどき笑)」

その数時間後、世界最大の掲示板「2ちゃんねる」でこのツイート(書き込み)に対するスレッドが立ち上がった。その後、女子大生の個人情報が次々と暴露されていく。

まず、ツイッターのアカウント名、プロフィール等の情報から、mixiのアカウントが発見された。次に、mixiの参加コミュニティから、大学名と入学年度が特定され、さらに、所属サークル名、氏名が判明。そして最後に、フェイスブックのアカウントも発見され、顔写真まで抜き取られた。ここまでくれば、おしまい・・・

事件から1ヶ月以上たった今、あらためて、この事件を調べてみた。4つのキーワード・・・「サッカー選手」、「デート」、「ツイッター」、「暴露」からスタートし、検索エンジンを駆使すると、この女子大生の実名、大学と学部学科および所属サークル、顔のアップ写真、着物姿の写真、が20分ほどで入手できた。もちろん、彼女はツイッター、mixi、フェイスブックのアカウントを既に削除している。だが、一度取られた情報は、ネット世界から完全に消去することはできない。これがインターネットのコワイところだ。

もし、事の発端が善行なら救いようもある。だが、彼女がやったことは、立場上知り得た個人のプライバシーを、ネット上でさらしものにした・・・法的にうんぬん以前に、モラルの問題だ、とみんな思っている。

とはいえ、この手のスッパ抜きは、フライデーなら日常茶飯事。もちろん、彼らが罰せられることはまれだ。ところが、この女子大生が受けた罰は致命的だった。実名、大学名、顔写真まで公開されたのだから。親戚、友人、知人に合わせる顔はないだろう。もちろんし、就活は絶望的。

つまり、罪と罰の重さがつりあっていないのだ。ネット世界の裁判は言わば「リンチ(私刑)」、判決も執行も一瞬だ。恐ろしい世界である。もちろん、匿名のツイッターも、100%安全とは言い切れない。

この事件は、米国TVドラマ「24・twentyfour」を彷彿させる。主人公のジャック・バウアーは、手がかりゼロからスタートし、ささいな出来事をたぐり寄せ、結びつけ、犯人を追い詰めていく。そして最後に、逮捕or殺害。今回の事件そのものだ。

フェイスブックやツイッターのような、SNS(ソーシャルネットワーク)には光と影がある。問題は影の部分。影が個人におよべば、一人の不幸ですむ。だが、もし、相手が政府なら、歴史が変わる(善し悪しは別として)。

今回のイスラム反政府運動で、最も神経を尖らせているのは中国政府だろう。じつは、中国のネット規制は世界最強。グーグルが中国本土から撤退した理由もこれだ。中国では、数万人のサイバー警官が、日夜、インターネットを監視・規制している。もちろん、フェイスブックやツイッターは、そのままでは利用できない。

中国政府は、なぜネット統制に執着するのか?歴史年表をみれば明らかだ。中国の歴代王朝のほとんどが、民衆の反乱を機に滅亡している。支配者の力は点と線だが、民衆の力は面・・・それが一斉蜂起だ。

もし、中国の民衆がSNSを手に入れれば、「情報=不満」の共有、蜂起の伝達は一瞬だ。人口13億の国の一斉蜂起・・・支配者にとって悪夢だろう。

最近、東アジアで、中国式のネット統制に興味を示す国が出てきた。自由が多少阻害されても、秩序のほうが大事というわけだ。確かに一理ある。

実際、ムバラク政権が倒れたエジプトは、不安定な状態が続いている。つまり、今回のエジプト政変は、政変というより、破壊に近い。

とはいえ、ここまでネットが普及した以上、強権的統制で、国を治めるのはムリだろう。

安定と秩序を求めるなら、中国式にも理はあるが、現実には長く続かない。

ネット文明は、既存の強権統治を破壊し、一時期に混乱を生むだろうが、最後には真の民主主義に到る、そう期待するしかない。民主主義とは時間がかかるものなのだ。

by R.B

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