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スモールトーク雑記

■24-ベンチャー企業編(1) 2010.03.14

これは、とあるベンチャー企業の役員の午前6時から午後3時までに起きた出来事である。

【6:00AM】

朝起きて、朝食をとる。メニューは豆乳とプロポリス。豆乳は脳の劣化を防ぐため、プロポリスは若く見せるため。それ以外、食さないのは、肥満と高血圧を防ぐため。

【7:30AM】

会社に到着。フレックスタイムなので、社長以外誰も出社していない。

まず、社員のタイムカードをチェックする。脈絡のない残業をしていないか、スタッフによるバラツキがないか、残業が予算に影響を与えていないか、感覚的に把握する。

【7:50AM】

メールのチェック。デジタルコンテンツの開発には、複数の企業がかかわり、場所も、金沢、東京、大阪、名古屋とバラバラ。そのため、プロジェクトごとに、FTPサーバーとメーリングリストを立ち上げ、指示・承認、成果物をやりとりする。

30人ほどの小さなベンチャー企業なので、役員は、なんでも雑用係。ソフトウェア開発部と管理部をみて、たまに、個別案件のプロデューサー、まれに、ディレクター、ごくまれにプログラマー!ここまでくると、デスマ(deathmarch)。

さらに、複数のメーリングリストに名前が登録され、毎日、山のようなメールが入る。ほとんどが、実務メールだが、内容が分かろうが分かるまいが、必ず目を通す。納期を遅らせる、予算を狂わせるなど、重大な結果を招くサインを、読み取るため。

ということで、夜中に飛び交ったメールをすべてチェックする。

【8:30AM】

不意に、育休中のSが出社する。彼女は、N社の会計ソフトを担当するSE(システムエンジニア)だが、今は育休中で、来月から復帰予定だ。それが、なんで出社?

いきなり、紅潮した顔付きで、「ぶ、ぶっちょう~、大変です。わたしの仕事がなくなりそうなんです」「え、どういうこと?」「N社の友だちから電話があって、わたしが担当するプロジェクトがポシャったって。正社員すら仕事がないんで、外注はみんなクビだって・・・」

「じゃ、制御系のソフトでもやるか」「エー、わたし、あーいうのやりたくないんですよ。勝手言うわけじゃないけど・・・」(言ってるよ)「だけど、こんな時期だから、仕事があるだけで感謝しなくちゃ」「・・・」(リスク覚悟で転職するか、安全をとって残るか、天秤にかけてるな)

社内で、事務処理系のソフトをこなせるのは、彼女しかいない。そして、今後、この手のソフトは必ずクラウド化する。

クラウドとは、ユーザー側でハードとソフトをもつのではなく、インターネット上に存在するハードとソフトを借りる方法。ソフト開発費もハード費用も不要で、使用料金を払うだけですむ。莫大な初期投資は不要だし、すぐに使えるし、資産計上も不要、すべて経費で落とせる。しかも、クラウドコンピューティングは、今後20年の基幹テクノロジーになるのは見えている。

彼女はわがままだが、どこか憎めないし、優秀なSEで、客先の信頼も厚い。彼女もクラウドも、手放すわけにはいかない。

興奮気味のSに尋ねる。「で、いつ決まるの?」「今日の午後一番の会議だそうです」あと4時間・・・

すぐに、N社の担当部長に電話をかけ、彼女を継続して使ってくれるよう、ネチネチくどく。Sは優秀なので、先方も迷っているようだ。長電話のあげく、会議の最終決定を待つように言われる。Sはちょっと安心した表情で、帰宅。

それにしても、機転が利く娘(こ)だ。彼女じゃなかったら、今頃、クラウドなど雲のかなた。企業にとって、人材でなく「人財」とは、よく言ったものだ。

【10:00AM】

コアタイムが始まり、社員がゾロゾロ出社してくる。戦闘開始だ。3つのメーリングリストで、大量のメールが飛び交う。デザイン、プログラム、サウンド、すべての実務情報に目を光らす。危険なサインがあれば、すぐに、担当者に確認する。

【12:00AM】

昼食。カミサンの愛妻かも弁当。まぁ、実体は残飯整理なのだが、これで、昼食代300円が浮く。世の中、不景気なわけだ。

食後、会社の周囲を45分ウォーキング。雨の日も、風の日も、雪の日もかかさない。循環器系の数値を悪化させないためだ。ただし、雷の日は歩かない。RPGゲームをプレイすればわかるが、「電撃」ほど”痛い”ものはない。

【1:00PM】

メールで、契約書のドラフトが届く。秘密保持契約書と開発委託契約書の2つ。秘密保持契約書の方は、デザインの外注先候補。任天堂との取引もあるそうで、内容は、これまでになくシビア。まわりくどい部分があったので、3点、先方の社長に問い合わせる。すると、法務を通さず、社長自ら回答してきた。内容はしっかりしている。実務ができる社長だ。

次に、開発委託契約書に目を通そうとした時、社長から声がかかる。社長と役員2人で、資金繰りの会議。現在進行中のプロジェクト6本と受注予定のプロジェクト2本の、スケジュールと、入金と出金を再確認する。ちょっとアブナイ時期があるが、銀行からの短期借入でしのぐことに。

会社の借金はすべて、社長が連帯保証人になる。つまり、「会社の借金=社長個人の借金」だから、社長は仕事はしなくてもいい。いるだけで、黄金の価値がある。社員はそんなこと、知らないけど・・・会議が終わり、デスクに戻る。

【1:50PM】

開発委託契約書のドラフトを精査する。金額が1億円クラスのものは、もう一人の役員と読み合いをする。このクライアントは上場企業で、法務部門を強化しつつある。なので、毎回、契約書がグレードアップする。今回も、以前にも増してシビアな内容だ。

あれ、これ著作権法上、問題では?納期遅れのペナルティ、こりゃキツイ。だけど、文句を言えば、徐々に仕事は減るだろうし、放置すれば、致命傷になりかねないし、確認という名目で電話して、やんわりと落としどころを模索する。なんとか、問題解決。

【2:40PM】

重大なメールを発見。メーカーからのメールで、「人物の服がリアルでない」という。FTPサーバーにアップされた画像を確認すると、確かに、服が”モッコリ”している。3DCGなのだが、MayaかMaxでモデリングされている。手作業で服をモデリング(形状作成)したに違いない。

リアルに見せるには、まず、人体をモデリングし、その体型にあわせて、計算によって、服の形状を作り込む。「物理演算(物理シミュレーション)」とよばれる手法だが、リアルに見えるぶん、高くつく。1回の計算に時間がかかるし、試行錯誤を繰り返さないと、良いものができないからだ。

最初、このメーカーは、コスト優先で、物理演算は不要とのことだった。ところが、絵があがってくると、目が慣れて、より良い品質を望むようになる。もちろん、その段階では、予算は確定している。もし、物理演算でやり直せば、こっちの持ち出しだ。つまり、納期と予算がオーバー。とはいえ、「ムリ」なんて言おうものなら、次の受注はパァ!?よくある話だ・・・

ベンチャー企業にとって、黒字/赤字よりコワイのが、資金繰り。資金繰りのミスは、即、会社の死を意味するからだ。1ヶ月後に黒字でも意味はない。そして、納期と予算のオーバーは、資金繰りを直撃する。

トラブルには、

1.大変

2.さあ、大変

3.神に祈ろう

の3つのモードがあるが、これは間違いなく、「さあ大変」モード。

意識をギアチェンジし、思考中の4つのプロセスを中断し、全力でこの問題にあたることにした。

3:00PM・・・

by R.B

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