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スモールトーク雑記

■パチンコ業界の憂鬱 2010.01.16

年明け早々、世の不景気を憂い、デスクでしんみりしていると、デザイン担当の役員から電話があった。今日、東京から来客があるので、同席してくれという。

夕方、デザイン会社の社長が到着。自社のプレゼンの後、「仕事ありませんか?」最近、こんなケースが多い。

デザイン会社といっても、昔のように、印刷物だけという会社は少ない。雑誌広告は激減しているし、そもそも、出版業界が危機的状況だ。盤石と言われた小学館や集英社まで、フラフラ(失礼)。

ということで、デザイン会社が生き残るには、デジタルコンテンツは必須。

もっとも、映画のようなハイエンドなCGを手がける会社は、ごく一部。圧倒的に多いのがウェブ系だ。簡単に参入できるし、難易度は低いし、一人でも可能。反面、差別化が難しいコモディティな世界だ。不毛の消耗戦は避けられない。

来社したデザイン会社は、数十名の社員をかかえ、ヤリクリが大変そう。じつは、これくらいの会社が、経営が一番シンドイ。

はた目には華やかなベンチャー企業の社長。実際は・・・、ほとんどが資金繰り。やってることは無味乾燥なのに、胃がキリキリ傷む神経戦だ。ところが、そんな事情を知らない社員は、「社長なんて、なんにもやってないじゃん!」社長、僕だけは分かってますよ(ヨイショ)

ところで、先のデザイン会社、仕事が、ゲーム業界から7号業界(パチンコ・パチスロ)へ、シフトしているという。確かに、ゲームはいい話は聞かない。ドラクエ、FF、無双シリーズ、バイオハザード・・・有名タイトルしか売れていない。もっと面白いゲームはいっぱいあるのに。

今のゲームユーザーは、1.好みのゲームを買う2.内容のいいものを買う3.面白そうだから買うではなく、「有名タイトルか否か」で選択している。ユーザーが「素人化」している証拠だ。

この後に待っているのは、「ゲーム=有名タイトル」、その他は選択の対象外!どんな面白いゲームでも、店に並ばなければ買ってもらえない。15年前のPCゲーム業界にソックリだ。

DSでさえ、実売本数500本は珍しくない。開発会社を経営する知人が、1タイトル200万円でやらされた、とぼやいていた。「2000万」ではなく「200万」・・・一体、何を作れというのだろう。

10年前、PCゲーム業界が崩壊し、食いっぱぐれたゲームデベロッパー(開発会社)が、7号業界(パチンコ・パチスロ)になだれ込んだ。そして今、デザイン会社(特にCGプロダクション)が、7号業界に殺到している。雑誌広告も、TVCMも激減し、逃げ場はココしかないのだ。

ところで、彼らは、パチンコ・パチスロの何をやるのだろう。役モノ(演出の仕掛け)や筐体のデザインは、独特のノウハウが必要だし、出玉制御はキモなので、すべてメーカーがやる。

ということで、デザイン会社が担当するのは、「液晶演出」。たかがパチンコ・パチスロの絵と侮るなかれ。ヘタなゲーム、TVCMより、カネがかかっている。

パチンコ・パチスロの台は、昔と大きく様変わりした。台のど真ん中に、液晶がドーン。そこに、様々な演出が表示され、遊技者をクギ付けにする。

パチンコ・パチスロの映像は、デジタルコンテンツ最強と言っていい。3DCG、アニメ、実写、まるで、映像のデパートだ。絵作りは絢爛豪華だが、独特のテイストがあり、ゲームやTVCMとは何かが違う。

絵は専用のハードで動かすため、制御用のプログラムも必要だ。描画方法は、高圧縮のムービー再生か、スプライト表示だが、パチスロではリアルタイム3Dも増えている。つまり、TVゲーム。

ということで、パチンコ・パチスロの液晶演出は、ゲームデベロッパーのスキルとオーバーラップする。だから、われもわれもと、7号業界に参入するのだろう。だが、7号業界はそんなに甘くない。

某大手パチンコメーカーの開発部長曰く、「絵が巧いだけのデザイン会社は掃いて捨てるほどある。だけど、ほとんどが、パチンコの絵が分かってない。あれじゃ、仕事は出せない」

大手商社の開発課長曰く、「提案力のないデベロッパーは、仕事が激減している」

これらの発言が意味するところは、

1.パチンコ・パチスロ映像の「文法」が分かってないとダメ。

2.演出の企画力・提案力がないとダメ。たとえ、ハリウッド映画なみの映像が作れたとしても・・・

怒濤のごとく、7号業界に参入しているが、そのほとんどが、1、2年以内に破綻するだろう。7号業界が縮小し、メーカーが開発機種を減らしているからだ。特に、パチスロは、このままいけば、業界全体が沈没する。

老舗のデベロッパーでさえ淘汰されるのに、パチンコ・パチスロのノウハウのない新規参入組に、勝ち目はない。絵を作るだけの二次下請けがせいぜいだろう。この場合、値段は叩きに叩かれ、仕事が継続する保証もない。

パチンコ・パチスロに対する世間の目は冷たい。ギャンブルだし、破産者まで出るし、社会悪、と断言する人までいる。

しかし・・・7号業界は経済と雇用に大きく貢献している。液晶演出だけではない。パチンコ・パチスロに使われる電飾、センサーで、潤っている電子部品メーカーは多い。パチンコ・パチスロを表に出さず、利益の100%がパチンコ・パチスロという東証一部上場企業も存在する。そして今、TVCMを支えているのは、間違いなく、7号業界。

そんなガラクタ資本主義が、良いか悪いかは別として、パチンコ・パチスロが、日本経済を支えていることは確かだ。ところが、その7号業界も斜陽化している。そろそろ、新世界を真剣に考える時かもしれない。

by R.B

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