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スモールトーク雑記

■大砲の街 2018.05.26

「大砲の街」、いい響きだ・・・

大友克洋の短編アニメだが、大友流の「わびさび(侘び寂び)」が濃縮されている。大作「AKIRA」に圧し潰された人にはおすすめだ。

「大砲の街」の尺は20分しかない。しかも、オムニバス・アニメ「MEMORIES(メモリーズ)」の3話の中の1話。ところが、存在感は圧倒的だ。

「大砲の街」はとある街の1日を描いている。

ただし「普通」の街ではない。文字どおり、街全体が大砲で埋め尽くされている、民家の屋根や壁にも。コトバにすると異様だが、映像でみると・・・大砲と街並がみごとに調和している。さすがは大友克洋だ。

じつは、この街は「大砲を撃つ」ためだけに造られた移動都市。街の作り、住人の仕事、教育、生活、すべてが「大砲を撃つ」に最適化されている。

アニメの作りも「普通」ではない。全編がワンカットで構成されているのだ。たとえば、人が移動すると、それに合わせて画面も移動する。ゲームのFPS(一人称視点)と似ているが、ステージの切り替えはない。

物語はある一家の朝から始まる。

父と息子が、弁当をもって家をでる。

息子は学校へ行ってお勉強。ただし、授業は「大砲を撃つ」に特化している。たとえば、弾道計算に必要な三角関数とか、弾道を左右する気温とか気象とか。

父は職場へ行ってお仕事。といっても、「大砲を撃つ」だけ。ただし、撃ち方も「普通」ではない。仰々しく芝居がかっているのだ。

まず、何十人もの作業員で、巨大な火薬と砲弾を装填する。それから、正装した砲撃手が登場する。帽子、軍服、マント、いかめしい出で立ちだ。

砲撃手が一人で行進する。ヒザをまっすぐ伸ばして、足を高く上げる、あの軍隊式だ。昇降機で砲台まで昇り、大砲の前に立つ。それから、派手な仕草でマントを脱ぎ捨て、トリガーロープを引く。巨大な砲声とともに、砲弾が発射される。

砲声に呼応して、女工たちが歓声を上げる。老若男女、すべての人間が「大砲を撃つ」ために生きている世界。

父と息子が帰宅して、テレビのスイッチを入れる。アナウンサーが淡々と原稿を読みあげる。

「本日の成果、敵移動都市に与えた被害、大打撃5発、中打撃7発、小打撃2発、不発1発。本日わが町が与えた被害は甚大であり、勝利の日は目前であります。では今月の標語・・・撃てや撃て、力の限り町のため」

息子が父に問う。

「ねえ、お父さん。あのさ、いったいお父さんたちって、どこと戦争してるの」

「そんなことは大人になればわかる。寝なさい」

毎日大砲を撃つだけ・・・そんなモノカルチャーな世界に、何の疑問も抱かない住人たち。

滑稽に見えるが、じつは、現実世界も同じなのだ。

子どもは、毎日学校へ行って、いい学校、いい会社に入るために勉強する。そうすればお金がたくさん稼げるから。

大人は、毎日会社に行って、出世するために働く。そうすればお金がたくさん稼げるから。

違いは、「大砲を撃つ」か「お金を稼ぐ」か・・・

ぼくらも、モノカルチャーな「お金の町」の住人なのかもしれない。

by R.B

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