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スモールトーク雑記

■2016年の鳥瞰図・混迷する中東情勢 2016.03.12

2016年、世界は「混迷」の時代に入った。

これまでのパワーバランスが一転したのだ。オセロのように。

ソ連が崩壊して「米ソ2極体制」から「米国1極体制」へ、さらに、リーマンショックで米国が沈んで「米中2極体制」かと思いきや、一気に「多極化体制」へ。

多極化体制?

タダの混迷じゃん!

なのだが・・・そんなフラフラの状況で、Mr.トランプのようなアブナイ人物が米国大統領に名乗りを上げている。ははぁ~ん、いつもの「お騒がせ候補」ね、と思いきや、2016年3月、共和党のトップを独走中。泡沫候補で終わる気配はない。

これでは、民主党のヒラリークリントンもウカウカしていられない。あと一回でもテロが起こったら「トランプ大統領」という不吉な予言もあるのだから。

そのあかつきには、さしものトランプ大統領も自制するだろうが、根っこは「おっ死ね!」なので、予断は許さない。

というのも、世界のリーダーの顔ぶれをみると、

中国・習近平、北朝鮮・金正恩、ロシア・プーチン・・・そろいもそろって究極の「オレ様」。

この「天上天下唯我独尊」クラブに、米国・トランプまで入会したらどうなるのだ?

「混迷」どころか「戦争」!?

それも並の戦争ではすまない。行き着くところまで行く、つまり、全面核戦争!?

現在、南シナ海で中国軍と米国軍が一触即発・・・いつ偶発戦争がおこってもおかしくない。その場合、中国艦隊は壊滅するだろうが、それで中国が降伏すると思ったら大間違い。国民と世界に威信を示すため、最終兵器「核ミサイル」を使うだろう。

さらに、「日中尖閣戦争→核戦争」の可能性もある。

くわえて、昨今の北朝鮮の「水爆実験」と「人工衛星(大陸間弾道ミサイル)打ち上げ」。

われわれの行き先は暗雲がたちこめている。それがキノコ雲でなければいいが。

とはいえ、人類がカタストロフィーに直面するのは初めてではない。

たとえば、1962年のキューバ危機。

史上初めて全面核戦争にリーチがかかったのだ。ただ、このときはリーダーに恵まれた。米国はジョン・F・ケネディ大統領、ソ連はニキータ・フルシチョフ第一書記。ともに、聡明で、忍耐強く、メンツと人類滅亡どっちが大事?をふつうに判断できるリーダーだった。だから、全面核戦争は回避されたのである。

ところが、現在のリーダー・・・習近平、金正恩、プーチン、トランプならどうなるか?

オレ様の言うことを聞け!

イヤ?

あっそぉ、これでも食らえ!

のノリで、核ミサイルのボタンをふつうに押す可能性がある(プーチンは除く)。

スタンリー・キューブリックの退屈だが秀作のほまれ高い映画「博士の異常な愛情」を彷彿させる。愚かな指導者が愚行を繰り返して、偶発的に全面核戦争にいたる・・・シニカルだがゼンゼン笑えないシナリオだ。

では、今後、世界はどうなるのか?

まずは、パワーバランスから。

これまで、米国と英国は仲良しこよし、何をするのもいっしょだった。

ところが、最近、英国は米国から中国に鞍替えした。米国の反対を押し切って、AIIBに参加し、人民元のSDR構成通貨を支援したのだ。あげく、英国キャメロン首相は「英中黄金時代が到来した」と中国を持ち上げた。というわけで、100年以上つづいた米国と英国の「特別の関係」は崩壊しつつある。

つぎに、中東のパワーバランス。

これがさながらオセロ。たった一手で、盤面が一転したのだ。

これまで、中東のパワーバランスは、

米国&サウジアラビア&イスラエルVs中東諸国

米国が、サウジアラビアとイスラエルを味方につけて、中東にクサビを打ち込む。もちろん、狙いは石油だ。

米国の方針は終始一環していた。

「石油のためには戦争も辞さない」

事実、米国は2003年にイラク戦争を引き起こしている。英国とオーストラリアとポーランドを引き連れ「イラクの自由作戦」を敢行したのだ。

「自由作戦」・・・明るく民主的で正義の響きがあるが、じつのところ、イラクがアルイカダに加担したとか、大量破壊兵器を隠し持っているとか、難癖つけて、政権転覆を狙ったのである。

ところが、どこを捜しても、大量破壊兵器もアルカイダの証拠も見つからなかった。

や~ワリかった、ではすまない。フセイン政権崩壊後、イラク国内が大混乱におちいったのだ。博物館からメソポタミア文明の貴重な遺物が消えた。イラクの市民や兵士、米国兵士が多数命を落とした。その数は100万を超えるという。

そして、サダムフセインは公開死刑

つまり、イラク戦争の目的は、フセイン政権を倒し、イラクに親米政権を打ち立てることだったのだ。

米国がこれほど石油に執着する理由は、産業と国民生活を守るため。でも、本当の理由は「戦争」にある。

歴史とは「戦争」の記録である。「平和」の記録ではない。平和とは、戦争と戦争の間の休息期間、次の戦争のための充電期間にすぎないから。

人類が戦争を克服できない理由は2つある。

もめごとの最終手段が戦争であること。戦争を怖れる人は多いが、リーダーの資質は戦争を怖れないこと。

米国の大統領が世界のリーダーといわれるのは、米国の経済力が最強だからではない。もしそうなら、日本が韓国や北朝鮮にコケにされるわけがない。

かつて、

米国の経済力>>ソ連の経済力

だったにもかかわらず、「米ソ2極体制」が成立したのはソ連の強大な軍事力による。

というわけで、米国の軍事力は世界最強、他国の追随を許さない。ところが、その最強の軍事力も石油がなければ何にもならない。戦闘機も爆撃機も軍艦も戦車も動かないから。つまり、石油は米国の国家安全保障のかなめなのである。

米国が「中東」に執着した理由はここにある。

ところが・・・

2013年、米国の「シェール革命」がすべてを変えた。エネルギー事情、米国の国家戦略、ひいては世界のパワーバランスも。

「シェール」の「革命」?

「シェール」とは頁岩(けつがん)のこと。密度の濃い泥が堆積して凝固した岩で、中に石油や天然ガスが閉じ込められている。これを取り出すことができれば、第二の油田になるのだが、頁岩が濃密過ぎて、取り出せなかったのだ。

ところが、21世紀に入ると画期的な採掘技術が確立された。2000m以上の深い地層で、水平方向に掘削する「水平掘り」と、水圧で頁岩を破砕する「ハイドロ・フラッキング」である。この2つの技術により、シェールオイルやシェールガスが取り出せるようになったのだ。

このシェール層は米国全土に広く分布する。そのため、米国の石油と天然ガスの埋蔵量は100年分以上といわれている。

つまり、こういうこと。

世界最大のエネルギー輸入国の米国が、一転して「世界最大の産油国」になったのである。

現在、原油の生産コストは、

シェール>油田

だが、さらなるイノベーションがおこって、

シェール=油田

になれば、米国はエネルギー資源を輸入する必要がなくなる。結果、貿易赤字が激減するので(ゼロになるかも)、米国の経済力は無敵。長期的みて、ドル高(円安)は間違いない。

話はそこではなくて、

石油さえ確保できれば、中東がどうなろうが知ったこっちゃない、が米国の本音。

というわけで、米国は中東に興味がなくなったのである。結果、サウジアラビアとイスラエルは見捨てられた。

じつは、その予兆もあった。

2011年11月、オバマ大統領はオーストラリア議会で演説し、「戦略の重点を中東からアジアにシフトする」と宣言したのだ。もちろん、中国の太平洋侵出を牽制する意図もあったのだが。

この状況は、第二次世界大戦前夜の相似である。中国がもくろむアジアの覇権は、大日本帝国の「大東亜共栄圏」に酷似しているのだ。米国は太平洋をはさんでアジアと向き合う。だから、米国は太平洋とアジアで大国が台頭するのを嫌う。その結果が太平洋戦争だったのだ。

さらに、2013年9月、米国はイスラエルとサウジアラビアの天敵「イラン」との和解にのりだした。2015年7月には、核問題でイランと「歴史的合意」に達し、翌年2016年1月、イランの経済制裁は解除された。2013年はシェール革命の年・・・因果関係は明白だ。

これに仰天したのがイスラエルだった。

イスラエルのネタニヤフ首相は、よほどムカついたのか、公の場でオバマ大統領を非難している。イスラエルは、中東世界では天涯孤独、米国の援助なしでは生きていけないのだ。

ここで、一つ疑問がわく。

これまで語り継がれた「イスラエル最強ロビー説」である。

米国内ではユダヤ人は少数派だが、お金持ちが多く、最強のロビー集団を構成している。彼らが米国政府に圧力をかければ、米国は何があってもイスラエルに味方する・・・

たしかに、これまではそうだった。では、石油の切れ目は縁の切れ目?

一方、サウジアラビアも、米国とイランの和解に仰天した。米国が裏切ったと思ったのだ(アタリ)。もっとも、サウジアラビアは、日本のように米国のポチというわけではない。米国のシェール革命をつぶそうとしているのだから。

事の発端は原油価格の下落・・・

2014年夏まで、原油価格は1バレル「100ドル」を行ったり来たり。ところが、秋口からダラダラと下がりはじめた。いつもなら、産油国(OPEC)は「減産」で対抗するのだが、今回は違った。

同年12月、サウジアラビアが「減産」を拒否したのだ。結果、原油価格の下落は加速し、2015年末には20ドル台に突入した。1/3に暴落したのである。

ではなぜ、サウジアラビアは減産を拒否したのか?

米国のシェール革命をつぶすため。

原油価格が下がれば、シェールオイルは採算割れになり、米国のシェール企業が破綻し、シェール革命は失敗する。

カラクリは原油の生産コストにある。サウジアラビアの生産コストは、平均1バレル「20ドル」だが、米国シェールオイルは平均「60ドル」。つまり、サウジアラビアより先に、米国シェールが音を上げるわけだ。

では、サウジアラビアは1バレル20ドルまで耐えられるかというと、そうでもない。サウジアラビアは潤沢なオイルマネーにものを言わせて、国民に大盤振る舞いをしている。大学までの教育費、医療費は無料で、電気代の補助まである。つまり、公的支出がハンパないのだ。

では、国が赤字にならない損益分岐点は?

1バレル「85ドル」(生産コストは20ドルなのにね)。

2016年3月、原油価格は1バレル「35ドル」なので、このままでは国がもたない。「パンとサーカス」をやめるしかないだろう。でも、そうなると国民は不満タラタラ、「アラブの春」の二の舞になりかねない。このときは、チュニジア、エジプト、リビアで政権が転覆しているのだ。

話をシェール革命にもどそう。

シェール革命つぶしは、米国にとって災難?

ビミョー。

シェール革命の天敵は産油国(OPEC)だけではない。かつて、石油を独占的に支配した石油メジャーもしかり。そのスーパーメジャー4社のうち、2社が米国資本なのだ。

そのためか、米国政府は、サウジアラビアのシェールつぶしに無関心だ。シェールがつぶされたら、価格の下がった中東の石油を買えばいい。中東で何かおこれば、シェールを再開すればいい。米国にしてみれば、どっちでもいいわけだ。

さらに、2016年、サウジアラビアと米国の関係を決定づける事件がおきた。

年初に、サウジアラビアはシーア派の指導者ニムル師をテロに関与した罪で処刑した。すると、シーア派のイラン民衆は激怒、サウジアラビア大使館を襲撃した。そこで、サウジアラビアは「国交断絶」で応酬・・・憎悪の連鎖、取りつく島もない。

いつもなら、ここで米国が仲介に入るのだが、国務省のカービー報道官は記者会見でこう言い放った。

「我々はこの問題の仲介者になろうとしているかと問われれば、答えはノーだ」

身もふたもない。

米国がイスラエルとサウジアラビアを見捨てたことは間違いない。結果、中東のパワーバランスは一転したのである。

《つづく》

by R.B

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