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週刊スモールトーク (第98話) パソコン進化論(3)~ウェアラブルコンピュータ〜

カテゴリ : 科学

2007.10.14

パソコン進化論(3)~ウェアラブルコンピュータ〜

■ウェアラブルコンピュータ

ウェアラブルコンピュータは身につける(Wearable)コンピュータである。

たとえば、腕時計コンピュータ。腕時計にメモ機能などをつけたもので、一見面白そうだが、さっぱり売れなかった。必要性がない、操作性が悪い、取って付けたような、が災いした。その次に登場したのが「PDA(Personal Digital Assistants)」である。外観はiPhoneのような石版型で、スケジュール、住所録、メモなど簡単な個人情報が管理できた。いわゆる携帯情報端末のはしりだ。

日本で最初に認知されたPDAは、1993年のアップル社の「ニュートン」だろう。日本でもほぼ同じ頃、「ザウルス」が発売されている。ザウルスはそれなりに成功したが、ニュートンは不発に終わった。昔、アスキー出版の編集者が持っているのを見たが、目撃したのはそれが最初で最後。

ニュートンを仕掛けたのは、当時アップルのCEO、ジョン・スカリーだった。元ペプシコーラの副社長で、アップルの現CEOスティーブ・ジョブズを解雇した人物である。彼は、「スカーリー(日本語訳)」という素晴らしい自叙伝を残したが、PDA「ニュートン」の6年後、アップルを退任した。この業界は移り変わりが激しい。初めて、商業的に成功したPDAはPalmComputing社の「パーム(Palm)」である。後に、PDAの代名詞になったが、日本ではサッパリ売れず、その後、アメリカでも落ち込んだ。携帯電話から進化し、PDA機能を取り込んだスマートフォン(iPhoneなど)に食われたのである。

なぜ、Palm Computing社は「パーム(Palm)」に電話機能をつけなかったのだろう。スマートフォンにしてやられるのは見えていたのに。モバイルコンピュータの熱い戦い「PDA対携帯電話」を興味本位で見物していたら、パソコンにも火の粉が降りかかってきた。進化したモバイルコンピュータがパソコンを食おうとしているのだ。

じつは、デジタル機器のパーソナルユース(個人用途)の90%が通話、インターネット、メール、音楽、ムービー、ゲームである。この用途なら、小型軽量のモバイルコンピュータで十分。わざわざ、高価でかさばるパソコンを買う必要はない。次世代コンピューティングの主役はパソコンからモバイルコンピュータにシフトするのは時間の問題だ。そして、そのキモになるのは、

1.専用コンピュータ(専用化しないと小型化できない)

2.ウェアラブルコンピュータ(持ち運べないと主役になれない)

■任天堂DS

この条件で成功しているのは、iPhone/iPod touchだろう。任天堂DSもゲーム機ながら、スペック的には条件を満たしている。最近、その任天堂DSのゲームを開発する機会があった。いわゆる版権モノで、グラフィックとサウンドは使い回し、プログラムはユーザーインターフェイスだけ書き直すつもりだった。ところが、プログラムの全面見直しを迫られた。プログラムがメモリに入らないのである。原作はPCゲームなので、プログラムは拡張性が重要視されている。そのぶん、冗長的でプログラムサイズも大きい。

ところが、DSはパソコンに比べ、メモリ容量で1/250、外部記憶容量で1/10000しかない。パソコンのソフトなら、冗長性と拡張性は”善”だが、モバイルコンピュータなら”破綻”を意味する。このギャップは大きい。ここで、モバイルコンピュータのプログラムのキモを整理しよう。

1.シンプル

2.コンパクト

3.高速

4.拡張性と冗長性は捨てる

まさに、ぜい肉のそぎ落とし。というわけで、「リーンコンピューティング(lean:ぜい肉のない)」と呼ばれている。さて、次世代コンピュータの主役「モバイルコンピュータ」の正体が見えてきた。それを総括すると、

1.専用コンピュータ

2.ウェアラブルコンピュータ

3.リーンコンピュータ行き着くところ、「ぜい肉」は悪。

■iPhone/iPod touch+任天堂DS

現時点(2007年)で、次世代モバイルコンピュータに最も近いのはiPhoneだろう。一見、携帯電話のように見えるが、じつは、コンピュータそのもの。液晶の解像度は320×480ピクセルで、写真・ムービーもなんとか実用レベル。さらに、インターネットブラウザSafariを搭載するので、ウェブサイトの閲覧も問題ない。もちろん、メールもOK。音楽再生、デジカメなどの小物もほとんど入っている。

iPhoneから、デジカメと電話を省いたのが、iPod touchだ。どのみち、iPhoneはGSMという携帯電話方式を採用しているので、日本では使えない。それでも、iPhoneが欲しい人は、電話をあきらめて、iPod touchを買うかもしれない。iPhone/iPod touchの一番のウリは美しさ。思わず触れたくなる。さすがはアップル社、かつてブリキにメッキのパソコン全盛の時代に、洒落たプラスティックケースで世界を席巻したAppleⅡを彷彿させる。

iPhone/iPod touchは、操作性も良さそうだ。とくに、マルチタッチ・スクリーンは面白い。スクリーン上、複数の点をタッチできるので、2本指の操作が可能になる。入力デバイスではマウス以来の大発明かもしれない。マルチタッチ・スクリーンは、任天堂もすでに特許出願したらしく、将来スタンダードになる可能性が高い。また、スクリーンに直接タッチする仮想キーボードを採用しているので、キー操作も可能だ。iPhoneは「携帯電話+PDA」なので、スマートフォンのカテゴリに入る。

ところが、これまで、スマートフォンは売れたためしはない。重くてかさばる携帯電話、使いづらいPDA、というイメージで、何もかもが中途半端だったのだ。ところが、iPhoneはこの問題をうまく解決している。2007年東京ゲームショーが始まった。NHK夜のニュースでは、任天堂DS用ソフトをトップで取り上げ、手軽な実用ソフトという新しい市場が生まれつつある、と伝えていた。脳を鍛えたり、漢字を学んだり、ビジネスマナー、はたまたヨガまで学べる。長いゲーム機の歴史で初めての試みかもしれない。任天堂DSも、携帯電話、iPhone、iPod touch同様、分かりやすく、使いやすく、そしてウェアラブルだ。

東京で電車に乗ると、以前は携帯電話一色だったが、今は、携帯電話派と任天堂DS派が五分と五分。携帯電話もウカウカしていられない。携帯電話が任天堂DSのソフトを取り込むか、DSが携帯電話を取り込むか?かつての「携帯電話対PDA」の熱いバトルが再現されようとしている。

■モバイル化するゲーム

コンピュータのパーソナルユースの90%が、通話、インターネット、メール、音楽、ムービー、ゲーム。そして、そのほとんどが「iPhone+任天堂DS」で対応できる。パソコンにとって、由々しき状況だ。不吉な未来も見える。iPhoneがゲームを取り込むか、DSが電話を取り込むか、いずれにせよ、パソコンに芽はない。ところが、パソコンが存在価値を失うのはパーソナルユースだけではない。パソコンサーバーが100台以上なら、メインフレームがパソコンに取って代わる可能性がある。発熱、電力消費、メンテナンスで、メインフレーム(大型汎用機)が優位に立つからだ。パソコンが勝てるのは価格ぐらい?

さらに、サーバーなら、ワードもエクセルもいらないので、OSがWindowsである必要はない。パソコンが安泰なのは、オフィスの机の上ぐらいだろう。結局、パソコンはパーソナルなコンピュータでも、何でもこなせる汎用コンピュータでもなくなる。このままでは、パソコンが消える日は近い。ゲームの世界でも地殻変動が起こっている。RPGの覇者「ドラクエ」の最新作が任天堂DSでリリースされるというのだ。業界を代表するゲームの最新作が、Wii、XBox、プレステ3ではなく、DS?ゲームのメインプラットフォームまでが、モバイルコンピュータにシフトしている。

■大作ゲームの未来

一方、映画なみの開発費をかける大作ゲームが好きなマニアもいる。だから、ゲームは二極化する、と見る向きもある。一見、正論に見えるが、大作ゲームには大きな問題がある。あるゲーム会社では、プレステ3のタイトルなら、グラフィックデザイナーだけで200人も投入するという。開発期間が1年として、200人×12ヶ月×80万円=19億2000万円絵だけで19億円が吹き飛ぶ。この中には、プロデューサー、ディレクター、プログラマー、サウンドクリエーター、パブリシティ(宣伝広告)費用、デスクで暇つぶししている重役たちの取り分は入っていない。この大作が、1本6000円で50万本売れたとすると、6000円×50万本=30億円仮に、パブリッシャーの取り分が半分とすると、15億円。つまり、開発費15億円で収支はトントン。グラフィックだけで19億円もかけていられない。そもそも、50万本売れるゲームソフトが何本あるというのだ?

この適当な計算が意味するところは、「大作は宝くじ」だから、パブリッシャー(ゲームメーカー)は、売上げ数字が読める続編しか作らなくなる。資本主義が崩壊しない限り、その日は必ずくる。すでに、モバイルコンピュータの売上がパソコンを超えたという情報もある。単価を考えれば、にわかには信じられない。数が出るからだろうが、モバイル機器の多様化も大きな要因だろう。たとえば、身体に直接埋め込むインプラントウェアラブルコンピュータ。ウェアラブルと言うよりは組み込み型で、ほとんどSFである。実用化はまだ先だろうが、モバイルコンピュータの勢いは止まりそうにない。かつて、メインフレーム(大型汎用機)、ミニコン、ワークステーションを駆逐した無敵のパソコンは、今存亡の機にある。誰に話しても信じてもらえないこの予言のカウントダウンは、もう始まっている。

《完》

by R.B

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