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週刊スモールトーク (第556話) 骨折しました(2)~全身麻酔と死について~

カテゴリ : 社会科学

2023.11.20

骨折しました(2)~全身麻酔と死について~

■全身麻酔と死

全身麻酔で手術か、それとも一生腕が上がらないか?

究極の選択だ。

といつつ、躊躇せず「手術」を即決。

院長の言葉が効いたのだ。

「このままでは骨はくっつかない。手術しないと、偽関節になって、一生腕が上がらない」

偽関節・・・骨折部分が、本当の関節でないのに関節のようにグラグラ動くから、腕がちゃんと上がらない。しかも、痛みもともなう。だから「偽関節」なのだが、リアルな症状より、言葉の響きの方が怖い。

その後、担当医が、執刀する外科医になり、入院することに。

ところが、入院から手術までが綱渡りだった。

というのも、体温が37度以上あると、手術どころか、入院もきない。新型コロナが、まだ終息していないからだ。

入院の前に、体温を測ると、37.0度。

ギリ、ダメじゃん!

看護師さんが「うーん、新型コロナの検査をしましょう」

キター!

結果は陰性で、なんとか入院にこぎつけた。

ところが、手術する前に体温を測ると37.1度。

ゼンゼン、ダメじゃん!

看護師さん、天を仰いで、

「37度以上あると手術できないんですけど・・・うーん、コロナが陰性だから、いいでしょう」

というわけで、鼻の差で手術にこぎつけた。

手術までの4時間、心臓がバクバクかと思いきや、妙に落ち着いている。これが「まな板の鯉」なのだろう。

手術室まで歩いて行き、ベッドに横たわる。

頭上には、映画やドラマの手術シーンでおなじみの複眼ライト。まさか、この光景をリアルで見ることになるとは・・・

麻酔医師が落ち着いた声で、

「まず、左上半身を麻酔し、それから、全身麻酔します」

左上半身に麻酔をうったあと、しばらくして、麻酔医師が、

「麻酔が入りますよ」

数字を逆に数えさせられると聞いていたけど、そんなのなし。

3秒後に、意識がストン(後で認識)。

麻酔医師の

「終わりましたよ」

の声で目が覚める(後で認識)。

この間1秒(現実には1時間経過)。

手術は一瞬で終わった(後で認識)。

後で認識?

すべて目覚めたから言えること。目覚めなかったら、3秒で意識が落ちたことも、手術が一瞬だったことも、永遠に認識できない。意識が消滅しているから当然だ。

つまりこういうこと。

「全身麻酔」も「死」も、意識が落ちる瞬間に居合わせることは同じ。違いは、「意識が落ちた」を認識できるかどうか。「全身麻酔」は目覚めれば、記憶をたどって認識できるが、「死」はそれができない。

だから「死の永劫」なのである。

というわけで「全身麻酔」で「死」を疑似体験できた。

そのせいか、「死」が怖くなくなった。

さらに、人生観も微妙に変わった気がする。

■手術的治療と保存的治療

術後3時間は、絶対安静だ。

ベッドから起き上がることも、飲食も一切禁止。

術後の吐き気が凄いと聞いていたが、それはなかった。

ところが、術後、6時間たって、麻酔が切れたら、激痛が始まった。骨折したときより酷い。痛み止めの薬は、1ミリも効かない。脂汗がでる。看護師さんに訴えたら、筋肉注射を打ってくれた。

「これで眠ますよ」

全然眠れませんけど。

数時間後、あまり痛いので看護師さんに言ったら、座薬を入れてくれた。これが少し効いた。座薬が効いたというより、時間が経過したせいかもしれない。

というわけで、激痛は6時間で一服した。数日すると、痛み止めがいらなくなった。一方、感染症をふせぐ抗生物質は3日間、ガッツリ飲んだ。手術で一番怖いのは感染症、それを防ぐため。

上腕骨折・レントゲン写真手術の翌日、執刀医が病室に来て、手術の結果を報告してくれた。レントゲンの写真(←)を見せながら「金属の棒を6本のボルトでしっかり固定しましたから、大丈夫ですよ。1週間後からリハビリしましょう」

 もし、手術をしなかったら(保存的治療という)、身体の負担は軽いが、骨がずれる可能性があるので、リハビリは6週間後。一方、手術的治療は、チタン棒とボルトで固定するので骨はズレない。そのため、リハビリは1週間後に開始できる。

退院後、ネットで、保存的治療と手術的治療を調べた。手術的治療に批判的な言説もある。理由は、全身麻酔は身体の負担が大きいこと、術後の感染症のリスクなど。とはいえ、保存的治療で骨がくっつなかったら、偽関節。どっちにしろ、リスクがあるわけだ。

今回の治療法は2つ。

保存的治療:命の危険はゼロだが、偽関節のリスクは高い。

手術的治療:命の危険はほぼゼロで、偽関節のリスクもほぼゼロ。

偽関節を回避するのが優先なら、手術的治療の方が、数学的期待値は高い。

これまでの人生、岐路に立たされたら数学的期待値を計算し、参考にしたが、今回は即決した。

■コンテンツ制作に目覚める

術後、1日で痛みは消えたが、頭がぼんやりしている。

終日、ベッドの上で、ウトウトで、何時間でも眠れる。

それが、なんとも心地良いのだ。

元々、せっかちな性分で、いつも、せかせか、マルチタスクの人生を送ってきた。

生成AI(ChatGPT)のせいでコンテンツ制作なんて無意味じゃんと、ボヤきつつ、プログラムとブログを書く。並行して、サン=テグジュペリの「人間の土地」を読みながら、手塚治虫の鉄輪アトムをパラパラ、ついでにYoutubeも・・・なんとも忙しない人生だった。

ところが、全身麻酔のおかげで、3日間、脳がマルチタスクをこなせない。

できることはせいぜい一つだ。

そこで、ふと、7年前に企画したコンテンツを思いだした。

パラレルワールドとタイムトラベルを融合した一大叙事詩だが、スケールが大きすぎて、頓挫していた。それを、考えだしたら、とたんに楽しくなった。アイデアがどんどん出てくる。これが展開思考なのだろう。忙しないマルチタスクが封印されているので、創作に集中できるわけだ。

人生を振り返れば、新卒でコンピュータのハード&ソフト開発から始まり、続いて歴史ゲーム事業と「コンピュータ×歴史」一筋の人生だった。

これが人生の締めくくりかも?

とはいえ、生成AIが猛威を振う今、コンテンツ制作に意味がない。なぜなら、映画、ドラマ、小説、漫画、あらゆるコンテンツは、消費者が生成AIを使って、自ら創作するからだ。つまり「消費者=生産者」の世界になる。

生成AIは、大規模言語モデル(LLM)から派生した「言語AI」だ。言語を巧みに操るだけで、ここまでできるのか、と感嘆したものだ。言語AIは、社会を一変させるので、毎日リサーチを欠かさなかった。さらに、自分でAIコードを書いたり、AI銘柄に株式投資をしたり。

ところが、全身麻酔で死が怖くなくなり、AIも怖くなくなった。

AIがコンテンツ制作を丸取りしようが、AIに勝ち目がなかろうが、気にならない。自分の作りたいものをつくるだけ。数年前、AIの猛威を予測し、本業を投資に転換し、コンテンツ制作をブランディング、と割り切ったことも幸いした。

というわけで、不思議な体験をした。

全身麻酔で、3日間、マルチタスクが封印され、7年前に頓挫したコンテンツが蘇り、構想がまとまったのだ。

骨折したのは災難だったけど、得たものも多い。

人間万事塞翁が馬ですね。

by R.B

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