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週刊スモールトーク (第541話) 大発明の2023年(1)~ChatGPT~

カテゴリ : 科学経済

2023.06.25

大発明の2023年(1)~ChatGPT~

■大発明の年

2023年は、後世「大発明の年」とよばれるだろう。

50年に1度の大発明が、2つも生まれたのだ。OpenAIの人工知能「ChatGPT」と、アップルの空間コンピュータ「Vision Pro」だ。

まずはChatGPTから。

人類が50年間待ち望んだ、本物のチャットボットがついに実現した。

チャットボットとは会話するAIで、元祖は57年前にさかのぼる。1966年、ジョセフ・ワイゼンバウムが「ELIZA(イライザ)」という自然言語処理プログラムを書いたのだ。アルゴリズムは単純なパターンマッチングで、ハードウェアも貧弱だったから、実用にはほど遠かった。

一方、ChatGPTは人間より巧みに言葉を操る。

会話、翻訳、文章の作成・校正・要約、さらにプログラミング・・・言葉を使って言葉で完結するなら何でもできる。史上初の実用レベルの自然言語処理AIと言っていいだろう。

ChatGPTは、2023年初頭、いきなりブレイクした。

公開後わずか2ヶ月で、アクティブユーザーが1億人に達したのだ。ツイッター、インスタグラムをこえて、史上最速。

話題性だけではない。その4ヶ月後、実体経済にも波及した。大手半導体メーカーのエヌビディアが、驚異的な決算を発表したのだ。

上場企業は、1年を4期に分けて決算発表する。これを四半期決算という。最初の四半期は第1クォーター(1Q)、つぎに第2クォーター(2Q)、第3クォーター(3Q)とつづき、最後は第4クォーター(4Q)だ。

エヌビディアの1Q(2023年2~4月期)は、前4Qと比べ、売上高は19%増で、利益は70%増。

しかも、2Qの売上高見通しは、なんと50%増。利益ではなく、売上高であることに注目。規模の小さなベンチャーならともかく、大手企業で50%増収はありえない。

そのためか、エヌビディアの株価はこの半年で3倍に急騰している。

日本の銀行利息は、1年で0.001%なんですけど。

銀行に預けるより、エヌビディアに預ける方がいいですか?

2年前、このサイトで「AIのおすすめ株」を紹介したけど、これを信じて株を買った人は、コーヒーごちそうしてくださいね。

■ChatGPTとエヌビディア

ところで、ChatGPTがブレイクしたら、なぜ、エヌビディアが儲かるのか?

ChatGPTを開発したのはOpenAIですよね。

風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる・・・風が吹けば、土ほこりが舞い、目に入って、盲人が増える。盲人は三味線を生業にするので、三味線の需要が増える。三味線には猫の皮が欠かせないので、猫が減って、ネズミが増える。ネズミは桶をかじるので、桶の需要が増える、というわけ。

いえいえ、そんな難しい話ではないです。

ChatGPTを動かすには、巨大な専用コンピュータが必要だ。その「心臓と肺」を握るのがエヌビディアなのである。だから、ChatGPTの稼働が増えると、専用コンピュータの需要が増え、エヌビディアが儲かるわけだ。

でも、コンピュータメーカーや半導体メーカーはたくさんあるのに、なぜエヌビディア?

ここを押さえると、株式投資に有利になるので、詳しく説明しよう。

ChatGPTは、言語を学習する「トレーニング」と、言語を操る「推論」の2つのフェイズで成り立っている。

この2つのフェイズは、行列の計算のカタマリだ。行列とは、複数の変数データを一括で扱う方法。その計算に、エヌビディアの半導体「GPGPU」が欠かせないのだ。メディアはこれを「GPU」とよんでいるが、本当は間違い。「GPU」はグラフィック処理専用ユニットで、AIなどの汎用計算に使うのは「GPGPU」です。

さて、ここまでは、並の投資家ならみんな知っている。彼らを出し抜くためには、さらに深掘りしないと。

ChatGPTは、まず、テキストを言葉の最小単位「トークン」に分割する。ここで「トークン≒単語」と考えていい。たとえば、トークンが「私」、「は」、「人間」、「自動車」・・・全部で5万個あるとする。その場合、1つのトークンは5万個の要素をもつベクトルに変換される。

というのも、このベクトルは、それぞれのトークンに対応する要素だけ1で、残りの要素はすべて0。そのため、5万個の要素が必要なのである。これを5万次元の「行ベクトル」という。

では、ChatGPTはどうやって文章を作るのか?

人間式に言葉を理解して、作文しているわけではない。次に来るトークンを予測して、文章をつないでいるだけ。

たとえば・・・「私」のつぎに「は」が来る可能性が高い。さらに「私は」のつぎは「人間」が来る可能性が高い。「自動車」はまず来ないだろう。つまり、GPTは、つぎに来るトークンを計算で予測しているのだ。

ただし、データを集計して、「私は」のつぎに来るのは「人間」が一番多い・・・なんて単純な多数決で決めているわけではない。文脈も考慮した非常に複雑な処理をしている。つまり、ChatGPTは「コンピュータ式」に言葉を理解しているのだ。

ところが、ここが理解できない識者や投資家は、こう考える。ChatGPTは人間のように言葉を理解できないから、ニセ知性である。

これは完全に間違っている。

自然言語はそんな単純なものではない。ChatGPTの挙動を観察していると、自然言語の「未知の原理」に気づいたフシがある。

たとえば、自動翻訳。

完全に実用レベルに達しているが、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語だけでなく、系統の違う日本語も難なく翻訳する。

なぜか?

AIは、すべての言語に共通する「中間言語」を見つけた可能性が高い。それを使って、効率的に翻訳しているのだろう。人間が気づかないうちに、AIが「自然言語の原理」を見つけていたら?

ChatGPTはニセ知性どころではない。

すでに、人間の知性を超えたかもしれないのだ。もしそうなら、人類史上最大級のイノベーションで、人類文明を根底から揺るがすだろう。

ただし、ChatGPTは万能ではない(今のところ)。

入力の長さが制限されているのだ。無制限にすると、データが無限になり、処理しきれないから。

たとえば、ChatGPTのGPT-3モデルは「2048」トークンに制限されている。もし、2048個のトークンが入力されると、このテキストは、2048個の5万次元の行ベクトルに変換される。つまり、2048列×5万行の巨大行列だ。これを言葉の符号化という。つぎに来るトークンを予測するために、こんな膨大な計算をしているのだ。

たとえば、2048列×5万行の行列なら、単純に2048列×5万行=1億240万回の計算が必要になる。もし、並列計算ができれば、計算速度は劇的に向上する。1度で10回の計算ができれば、計算速度はほぼ10倍だ。それを実現したのが「GPGPU」なのである。

ChatGPTは、トレーニングも推論も、おうちのパソコンではできない。計算量が膨大すぎるのだ。

そこで、複数のGPGPUを搭載したサーバーを多数連結して、データセンターを構築している。その巨大コンピュータで、ChatGPTを動かしているわけだ。実際は、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」が使われている。つまり、ChatGPTは高度なソフトウェアだが、設備産業の側面も持つわけだ。

つまりこういうこと。

AI専用コンピュータの実体は「GPGPU」。その90%のシェアを握るのがエヌビディアなのだ。つまり、エヌビディアはChatGPTの「心臓と肺」。だから、ChatGPTの需要が増えれば増えるほど、エヌビディアのフトコロも潤うのである。

簡単な計算をしてみよう。

2023年、マイクロソフトとエヌビディアは、AIに特化したクラウドコンピュータを構築すると発表した。このコンピュータには、エヌビディアの最新GPGPU「Hopper H100」が数万基搭載される。

H100は1基500万円なので、エヌビディアの取り分は・・・

500万円×数5万基=約2500億円ナリ

エヌビディアさん、濡れ手に粟ですよ。

もし、半年前、ここに気づいて、エヌビディアの株を買っていたら、今は3倍。

ということで、AIの投資は、テクノロジーを深掘りするのコツだ。そうすれば、一般の投資家より、早く気づき、そのぶん、安く買える。

「株式投資のパーフォーマンス=売値÷買値」をお忘れなく。

■ChatGPTとマイクロソフト

ChatGPTの恩恵をうけるのは、エヌビディアだけではない。

ハードウェアがエヌビディアなら、ソフトウェアはマイクロソフトだろう。

でも、ChatGPTを開発したのはOpenAI?

イエス。

だが、両社の間には複雑な契約があるようだ。

情報筋によると、マイクロソフトのOpenAIへの出資額は100億ドル(約1兆4000億円)。さらに、マイクロソフトは出資を回収するまで、OpenAIの利益を75%取得する。投資が回収できた段階で、マイクロソフトがOpenAIの株式49%、他の投資家が49%、そしてOpenAIの親会社が残りの2%を保持するという取り決めがあるという(公式発表ではない)。

マイクロソフトが、OpenAIの実権を握っていることは明らかだ。

動かぬ証拠もある。

ChatGPTの基盤(心臓)となるのが、大規模言語モデル「GPT」だ。その独占使用権をマイクロソフトが握っているのだ。そのおかげで、マイクロソフトは最新バージョンの「GPT-4」を、自社のブラウザのEdge、検索エンジンのBing、ワード、エクセル、パワポなどのOffice、さらにWindows本体にも組み込もうとしている(一部実装済み)。こんなことができるのはマイクロソフトだけだ。

というわけで、ソフトウェア業界は不穏である。

そんなおり、マイクロソフトのナデラCEOはこんな発言をした。

「AIによって、すべてのソフトウェアカテゴリーを再構築する」

行間を読むと・・・

「AIで、すべてのソフトウェアを作り直す。AIを握るのはマイクロソフトなので、すべてのソフトウェアは我々が支配する」

早い話、マイクロソフトによるソフトウェア独占だ。

20年前、マイクロソフトは、MS-DOS、WindowsでOSを独占し、Officeをはじめ主要なアプリを独占した。だが、今回の独占は次元が違う。

スケールが大きすぎて、にわかには信じられないが、現実になる可能性がある。

なぜなら、マイクロソフトのトップは、ビックテック(巨大IT企業)の中で最強だから。

ナデラCEOは、歴代のマイクロソフトのCEOの中でも、ズバ抜けて優秀だ。未来を正確に見抜き、素早く決断し、実行する能力をもつ。1兆円を超えるOpenAIへの出資も決断したのも、ナデラCEOだ。運に恵まれて大成した初代ビル・ゲーツ、体育会系で鳴かず飛ばずで終わった2代目スティーブ・バルマーとは大違いだ。

しかも、ナデラCEOは賢く、用心深く、スキがない。

独占の批判もかわそうとしている。

ChatGPTが、他社も利用できるようにAPIを公開したのだ。APIは、ChatGPTのようなコアソフトとアプリをつなぐインターフェイスだ。このAPIを使えば、誰でもChatGPTを利用できる。

ただし!

ChatGPTは、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」でしか利用できない。もちろん、有料だ。つまり、他社がChatGPTを使えば使うほど、マイクロソフトは儲かる。

一挙両得じゃん!

ただし、マイクロソフトは責められない。これが今どきのビジネスモデルなのだ。悪しきサブスクもその一つだ。

■ChatGPTが生む巨大市場

50年に一度の大発明「ChatGPT」は、文明を発展させ、人々の暮らしを豊かにするだろう。

一方で、ChatGPTは、人間の知的労働を奪う。かつてない規模で、失業者が街にあふれるだろう。

ChatGPTの基盤「GPT」から派生したのが、生成AI(ジェネレーティブAI)だ。文章、画像、映像、サウンド、ボイスを創る新種のAIで、巨大なアプリ市場を生むだろう。かつて、MS-DOSやWindowsが、巨大なパソコンアプリ市場を生んだように。

一方で、生成AIアプリは、簡単に作れるので、血で血を洗うレッドオーシャンと化す。さらに、アイデア勝負で、次々と新しいアプリやサービスが登場する。いわば「飛び石」ビジネスだ。乗っている石が沈む前に、次の石に飛び移るしかない。

というわけで、末永くガッポリ儲かるのはエヌビディアとマイクロソフトだけ。

なぜなら、AIビジネスは、プラットフォームが頭と胴体で、アプリは尻尾だから。もちろん、頭と胴体はエヌビディアとマイクロソフトがとり、尻尾はその他大勢が分け合う。

そんなカラクリが丸見えで、実業への興味がすっかり失せてしまった。

残されたのは投資しかない?

7年前にエヌビディア、半年前にマイクロソフトの株を買ったが、元金が小さいので、爆上げしても、人生は変わらない。1泊2日の小旅行を楽しみにする今日この頃だ。

なんか、虚しい。

そんなおり、2023年6月、第2の大発明が発表された。

AIで出遅れたアップルが、空間コンピュータ「Vision Pro」を発表したのだ。

これは、タダのVRやARではない。パソコン、スマホに続く第3世代のプラットフォームになる可能性がある。新しいプラットフォームは、並みのイノベーションとは根本が違う。ChatGPT同様、巨大なビジネスを生み出すだろう。

半世紀前、マイクロプロセッサが発明され、マイコン・パソコン革命がおこった。そして、今、Vision Proで、空間コンピュータ革命がおころうとしている。

マイコン・パソコン革命で、ワクワクな人生を築けたから、空間コンピュータで夢よもう一度!?

だが、待てよ。

あのときの実業は、すべて消滅してしまった。残ったのは資本(マネー)のみ。

最後は資本が勝つ。

やっぱり投資しかないかな

《つづく》

by R.B

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