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週刊スモールトーク (第516話) 胡錦濤の退場劇(1)~習近平の陰謀説~

カテゴリ : 人物思想社会

2022.11.18

胡錦濤の退場劇(1)~習近平の陰謀説~

■胡錦濤の退場劇

中国の胡錦濤(こきんとう)の退場劇が、物議をかもしている。

2022年10月22日、第20回中国共産党大会のこと。

閉会式で、外国メディアのカメラが回る中、胡錦濤がSPに腕をつかまれ、退場させられたのだ。胡錦濤は、前国家主席で、今も元老として中国政界ににらみをきかす。そんな重要人物が、2000人の党員が見守る中、会場から連れ出されたのだ。

一体、何がおきたのか?

すぐに、欧米メディアが飛びついた。いわく、国家主席の習近平が、前国家主席の胡錦濤をおとしめる陰謀だと。これに日本メディアも追従した。ただし、中国国営メディアが報じた「理由は体調不良」も忘れない。中国政府にソンタクしているのだ。マスコミは左派が多く、中国にも弱いから当然だろう。産経新聞のように中国政府を批判して、取材証をもらえなかったら、元も子もないから。

公開された映像を観ると・・・

胡錦濤が、目の前におかれた書類を取ろうとすると、左横の栗戦書(りつ せんしょ)が取り上げる。それでもあきらめない胡錦濤。栗戦書は、書類を取り上げたまま、胡錦濤をなだめすかしている。ちなみに、栗戦書は習近平の側近である。

右横の習近平は、胡錦濤と栗戦書のやりとりが気になる様子。冷静を装いつつ、SPをよんで、指示をだす。その直後、SPは胡錦濤の腕をつかみ、退席させようとする。胡錦濤の嫌がる様子が生々しい。結局、胡錦濤は腕をつかまれたまま、退場させられた。

衝撃的な映像だが、他にも奇異なことがある。

胡錦濤の様子だ。

席から立ち上がる時もふらつくし、歩く姿も不自然だ。前かがみで、小さな歩幅で、パタパタ歩く。パーキンソン病が進行しているのかもしれない(7年前からパーキンソン病の噂がある)。

しかも、こんな異常事態がおきているのに、会場はざわめきも喧騒もなく、静まり返っている。ひな壇に並ぶ、ナンバー2の李克強(りこくきょう)、ナンバー4の汪洋(おうよう)も、正面を見すえて、微動だにしない。この2人は、胡錦濤の愛弟子なのに、見ざる聞かざる言わざるを決め込んでいる。

一体、何が起きているのか?

なぜ、胡錦濤は目の前の書類を取ろうとしたのか?

なぜ、習近平派はそれを阻止しようとしたのか?

胡錦濤は、なぜ退場させられたのか?

こうして、陰謀論が生まれたのである。

■中国の支配者

中国の支配体制は、ピラミッド構造だ。

上から順番に・・・

1.国家主席(1人)

2.中央政治局常務委員(7人):トップの国家主席を含む。中国の最高機関で、欧米では「チャイナセブン」とよばれる。

3.中央政治局員(24人):上位の中央政治局常務委員7人を含む。

4.中央委員(205人):上位の中央政治局員24人を含む。

以上が、中国人民14億人、共産党員9600万人の頂点である。

ただし、中国の最高指導者は3人いる。

1.総書記 :中国共産党のトップ

2.国家主席:中華人民共和国のトップ

3.中央軍事委員会主席:人民解放軍のトップ

この中で、一番偉いのは、国家主席ではなく、総書記である。つまり、「国」より「党」の方が偉い。それは軍隊にも表れている。中国軍といえば、人民解放軍だが、国の正規軍ではない。共産党の党軍なのだ。世界広しといえど、こんな国は中国ぐらいだろう。

一方、中央軍事委員会主席もあなどれない。いざというときに、頼りになるのは軍隊だから。

鄧小平(とうしょうへい)は、毛沢東の独裁時代、血みどろの権力闘争で、何度も失脚し、蘇り、不倒翁とよばれた。最終的に、中国の最高権力者にのぼりつめたが、総書記にも国家主席にも就いたことがない。就いたポストは中央軍事委員会主席のみ。鄧小平は最後に何がモノを言うか知っていたのだ。さすが、不倒翁と言われただけのことはある。

とはいえ、近年は、3つのポストを兼任するのが慣例となっている。

今回の陰謀論は、中国の権力闘争と関係がある。

まず、根底に、習近平派と胡錦濤派の権力闘争がある。

習近平は現国家主席で「太子党」の頭目、胡錦濤は前国家主席で「共青団」の頭目である。

太子党とは、中国革命の功労者の師弟で、特権と人脈を世襲し、中国の政財界に大きな力を持つ。中国の国有企業のトップはたいてい太子党だ。ただし、太子党は「身分」であって、グループではない。

一方、共青団(共産主義青年団)は、一流大学の優秀な学生を抜擢して、共産党の幹部にした知的エリート集団だ。中国14億人の頂点に立つ大秀才だが、コネも人脈もない。実力でのしあがっただけなので、しょせんは点の力。そこで、グループを形成して、太子党に対抗している。

鄧小平の「改革開放」以降、太子党と共青団は、権力闘争しながら、共存共栄してきた。いわば、革命の血統と、秀才の血統のハイブリッドだ。だから、中国の支配層は優秀なのである。

ひるがえって、日本。

二世・三世のボンボン議員、知名度だけのおバカなタレント議員。中にはコンサートを再開する議員、国会審議中に新曲をPRする議員もいる。国会の場と国民の血税を、自分の商売に利用しているわけだ。信じがたい話だが、こんな議員に投票する人間がいることが問題なのだ。このような国民を愚弄する裏切り行為は、議員ではなく国民に起因する。なんとも皮肉な話ではないか。

くわえて、サラリーマン議員。野党、とくに立民に多いが、学芸会のノリで政治ごっこをやっている。

言い過ぎでは?

では、国にどんな貢献をしたか、この紙に書きなさい、と1ミリ×1ミリの紙を渡すことにしよう。それだけあれば十分だろう。

日本は、こんな議員が幅を利かせている。これでは中国には勝てるはずがない。だから、尖閣を実効支配され、EEZ(実質日本領)にミサイルを何発撃ち込まれても「大変遺憾に思う」しか言えないのだ。立民にいたっては、ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにしても「話し合いで」・・・バカじゃないのか。

国会議員に一体どんな意味があるのか?

だが、日本にも共青団的な政治家は、少なからずいる。昔なら舛添要一、今なら高市早苗だが、ケチな家族旅行公費流用で失脚したり、安倍晋三・銃撃事件で親分を失ったり、なかなかうまくいかない。

他にも優秀な政治家はいるが、なぜか、上に行けない。日本は、政治制度も人事制度も腐っているからだろう。だが、一番の問題は頭悪すぎの政治家が多いこと。IQ140の人間は、IQ120の集団でリーダーになれるが、IQ100の集団ではなれない。これが社会というものなのだ。

■一掃された共青団

中国の権力闘争は凄まじいが、それが国力の源泉だ。

綺麗ごとをいっても、権力を握らなければ、始まらない。政策を間違えれば、結果がでるから、たちまち失脚する。中華人民共和国70年の歴史は、この繰り返しだ。建国者の毛沢東でさえ、失脚したことがあるのだ。日本とは段違いの権力闘争、それが、無能を排し、国を強くしているのである。

でも、中国は中国、日本は日本でいいのでは?

それを打ち砕いたのが、ロシアのウクライナ侵攻だ。日本の親中派や野党の「まず話し合いで」がぶっ飛んだのである。ロシアは「まず軍事侵攻」したからだ。

日本は弱く、隣国の中国は強い。しかも、中国は世界一の覇権主義国家。日本にどんな未来が待っているか明らかだ。親中派・媚中派の議員は、そうなっても、自分たちは安泰と思っているかもしれないが、中国はそんな甘くない。凄惨を極めた中国革命、文化大革命をみれば明らかだ。そもそも、売国奴は寝返えった相手にも信用されない。

中国は、この10年習近平・太子党 Vs. 胡錦濤・共青団」の権力闘争が続いた。ところが、今回の第20回中国共産党大会で一件落着。

胡錦濤・共青団が完敗したのだ。共青団が、指導部から一掃されたのである。ここまでやるかというほど、徹底的に。

具体的な人事をみていこう。

まず、胡錦濤派のツートップ、李克強(りこくきょう)と汪洋(おうよう)。

李克強は、現在、総理(首相)でナンバー2、汪洋はナンバー4である。ところが、2人とも、定年前の67歳なのに、チャイナセブンから外された。それどころか、24人の「中央政治局員」はおろか、205人の「中央委員」にも残れなかった。完全な隠退である。

さらに、胡錦濤派の若手のホープ、胡春華(こしゅんか)は、チャイナセブン入りと総理が期待されたが、24人の「中央政治局員」にも残れなかった。205人の「中央委員」に入るのがやっと。事実上の降格である。

今回の人事で、もう一つサプライズがあった。

新しいナンバー2に、李強(りきょう)が就いたのだ。来春、総理に就くのは間違いない。

ではなぜ、これがサプライズなのか?

1970年代後半から1980年代以降、すべての総理は、副総理を経験した後、総理になっている。総理は、中国のナンバー2で、経済政策では最高責任者だ。高い能力と豊富な経験が欠かせない。

ところが、李強は副総理はおろか、中央政府(国務院)で働いたことすらない。

一方、胡春華は、現在、副総理で、16歳で北京大学に入学した大秀才。しかも、若い頃から要職を歴任し、まだ59歳という若さ。順当にいけば、胡春華が総理だっただろう。

ところが、経験も実績もない李強が、ヒラの政治局員からチャイナセブンへ2階級特進。さらに、ナンバー2の総理にのぼりつめた。

ではなぜ、こんな番狂わせがおきたのか?

番狂わせではない。必然である。

■実力より忠誠心

李強は、習近平の秘書出身で、側近中の側近だ。一方、胡春華は胡錦濤の側近で、小胡錦濤と言われたほど。実力より忠誠心が買われたわけだ。

イエスマンより、実力者を登用するべきでは?

単純な二元論でしかモノゴトを考えない評論家が言いそうな御高説だが、根本が間違っている。

ことは権力闘争、実力のある部下に寝首をかかれたらどうするのだ。明智光秀やブルータスのように。歴史は、こんな裏切り劇で埋めつくされている。

つまりこういうこと。

真実は、机上の空論ではなく、現実におきた事実に宿る。

そもそも、李強が実力がないという証拠はない。

膨大な情報をシャワーのように浴び、矛盾点を洗い出し、偽情報を排除すると、残るのは真実だ。そこで、浮かび上がる李強の姿は・・・

全体をバランスよく考えるタイプで、経済も弱いとは言えない。新型コロナ対策も、当初は経済優先で緩めにし、経済界の声にも耳を傾けた。ただ、最終的に習近平に従っただけ。

褒めているのか、けなしているのか?

どちらでもない。

トップは孤独だ。

頭上には、鋭い剣が髪の毛1本でぶら下がっている(ダモクレスの剣)。常に死と隣り合わせで、失敗したらすべて自分の責任。これがトップリーダーだ。

こんな立場で、頼りになる部下とは?

頭が切れて、仕事ができて、部下の信頼も厚いが、最後はトップに従う。これに尽きるだろう。

自分が正しいと思うことは、上司に直言し、退くなと言う識者もいるが、重い責任を背負ったことがない人間の戯言(たわごと)だ。

根拠は2つ。

まず、自分が正しいとは限らない。

つぎに、「決定者=上司」しか結果責任はとれない。責任が取れない人間に決断をゆだねて、どうするのだ。しかも、結果は神のみ知る。だから、ルールが必要なのである。

そして、ここが肝心、どんな有能でも、最終的にトップに従わない部下は無能と同じ。トップに嫌われて、意見は採用されず、行き着くところはクビ。何の成果も生まないではないか。伸るか反るかのベンチャーで12年役員やった経験から言うと、偉い人に逆らって、いい気分になっているだけ。ただの道化師にしか見えない。

どうしても、自分の意見を通したければ、まず、上司のクビをとれ。または、自分で会社を興せ。仕事はそれからだ。成果を出すにはそれしかない。

その覚悟がなければ、親分に従うしかない。ストレスはたまるが、新橋の居酒屋で上司の悪口言って憂さ晴らしすればいい。蔑んでいるのはない。若い頃の自分がそうだったから(新橋ではなく吉祥寺だったが)。今思うと、あの頃の方が幸せだったなぁ。

ということで、習近平に嫌われた李克強より、李強の方がうまくやる可能性は1ミリはある。実力主義とか耳触りのいい言葉で、李克強や胡春華を礼賛し、李強をディスるのは早計だろう。

そもそも、「実力」とは何か、誰もわかっていないのだ。

《つづく》

by R.B

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