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週刊スモールトーク (第504話) ウクライナ侵攻(10)~戦争の責任と未来~

カテゴリ : 戦争歴史終末

2022.07.22

ウクライナ侵攻(10)~戦争の責任と未来~

■安倍晋三・銃撃事件

惑星の未来は完全に予測できる。

どの惑星が、いつどこにいるか、神の方程式「ニュートン力学」で計算できるからだ。

一方、人間社会は予測不能。

未来を左右するパラメータが、あまりに多いから。政治、経済、外交、軍事、科学、文化にくわえ、個人80億人・・・その掛け算がパラメータなのだ。無数の変数をもつ方程式は存在しないから、神の方程式も存在しない。アルゴリズム(コンピュータのプログラム)なら理論上可能だが、無限の計算力が必要なので、現実的にムリ。

ところで、個人が未来を変える?

一般人でも可能だ。

たとえば、安倍晋三・銃撃事件。

2022年7月8日、奈良で安倍晋三・元首相が銃撃され死亡した。もし単独犯なら、1人の意志が日本を変えたことになる。安倍晋三氏は、「安倍一強」時代を築き、首相を退いた後も、「政界重力場」の中心点だった。そんな巨人が一瞬で、地上から消えたのだ。日本の未来が一変してもおかしくない。ただし、どう変わったかはわからない。銃撃事件がなかったもう一つの世界を見ることはできないから。

では、2022年のウクライナ侵攻も個人が原因?

2022年現在、「すべてプーチンが悪い」が常識になっている(将来は変わるだろう)。つまり、安倍晋三・銃撃事件と同じで、個人が原因。もっとも、そう主張するのは、欧米とそれに盲従する日本だけだから、鵜呑みは禁物だ。

では真実は?

ウクライナ、米国、NATOの対応次第で、ウクライナ侵攻は回避できた。だから、プーチン以外にも責任(原因)がある。

■ウクライナ侵攻とキューバ危機

ソ連崩壊後、米国はロシアに「1インチも東方拡大しない」と約束した。

ところが、その後、旧ソ連共和国が続々とNATOに加盟。東方拡大は加速するばかり。話が違うと、プーチンは激怒したに違いない。

さらに、ウクライナで、ウクライナ人と親ロシア派の内戦が始まった。そこで、2015年、ドイツとフランスが仲介し、内戦を停止するミンスク議定書が締結された。これをミンスク合意という。ところが、2019年にウクライナ大統領に就任したゼレンスキーはミンスク合意を履行しなかった。それどころか、NATO加盟を画策したのだ。

もし、ウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアとNATOの「中立地帯(緩衝地帯)」が消滅する。結果、ウクライナはNATOの前哨基地と化し、ロシアとウクライナは角を突き合わせ、一触即発。それが現実に発火したのが、ウクライナ侵攻なのである。

ウクライナ戦争を俯瞰すると、米国とロシアの代理戦争であることは明らかだ。NATO・米国は、軍需物資を送るだけで、直接的被害をうけないから。血を流すのはウクライナ人とロシア人なのだ。プーチンは腸(はらわた)が煮え返っていることだろう。

ところが、欧米は「ロシアが悪い」の一点張り。だが、重要なことを忘れている。キューバー危機だ。

1962年10月、米国の「裏庭」キューバに、ソ連の核ミサイルが持ち込まれたことが発覚。そこで、米国のケネディ大統領は、ソ連のフルシチョフ首相に、核ミサイルを撤去するよう迫った。さらに、カリブ海を海上封鎖し、米ソの緊張が一気に高まった。核爆弾を搭載した米軍機が飛び立ち、世界は全面核戦争寸前に。ケネディがこのような強硬姿勢に出たのは、米国の安全保障に死活的な問題ととらえたからだ。だから、ケネディの対応は、米国の大統領として筋が通っている。

だが、もしそうなら、プーチンのウクライナ侵攻も筋が通っているのでは?

ウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの安全保障上死活的問題になるから。つまり、「ロシアVs.ウクライナ」と「米国Vs.キューバ」は同じ構図なのだ。

それでも、米国は正義で、ロシアは悪?

冷静に考えてみよう。

もし、フルシチョフがキューバに核ミサイルを持ち込まなければ、キューバ危機も核戦争の危機も歴史から消える。つまり、引き金を「引かせた」のはフルシチョフなのだ。

もし、ゼレンスキーがミンスク合意を履行し、NATO加盟を画策しなかったら、ウクライナ侵攻も歴史から消える。つまり、引き金を「引かせた」のはゼレンスキーなのだ。

プーチンは冷酷な指導者だが、好戦的な侵略者ではない。ウクライナが中立地帯(緩衝地帯)であるかぎり、軍事侵攻はしない。プーチンの20年の外交をみれば明らかだ。このセオリーは、隣国の政治家なら容易に予測できたはず。にもかかわず、挑発しておいて、攻められたら、武力行使する方が悪い、では国民はたまらない。おきなかったはずの戦争に巻き込まれ、命を落とすのだから。それが、現実におきているウクライナ戦争だ。

政治のトップリーダーは、自分の損得、主義主張より、国民の生命と財産を守ることを優先すべきだ。そんなあたりまえのことをやらないから、こんな大惨事を招いたのだ。さらに、世界中をウクライナ戦争に巻き込んだせいで、欧州は天然ガスを断たれ、世界で小麦が不足し、物価は高騰し、あげく全面核戦争も射程に入った。

その原因はロシアの内戦にある。それを引き起こしたのは何か、冷静に考えるべきだろう。

では、ウクライナ戦争の原因はゼレンスキー?

一因にすぎない。

■ウクライナ戦争の原因

もし、ロシアの大統領が、国家安全保障より平和を優先する人物だったら、ウクライナ侵攻はおきていない。つまり、プーチンにも責任がある。

もし、NATOが東方拡大しなければ、ウクライナ侵攻はおきていない。つまり、NATOにも責任がある。

そして、米国の責任は大きい。ウクライナのNATO加盟を言い出したのは米国なのだ。

2008年4月、ルーマニアの首都ブカレストで、NATO首脳会議が開催された。その席上、米国ブッシュ大統領は、ウクライナとジョージア(グルジア)の加盟を提案した。一方、フランスとドイツはこれに反対。ロシアを怒らせたら、ロシアから天然ガスを断たれ、冬場に暖をとれなくなるから。国民が凍死したら、政権を維持するのは難しい。結局、この議案は先送りされたが、ロシアは西側に強い不信感を抱いた。事実、その4カ月後、ロシアはジョージアに侵攻している。

お気づきだろうか?

2008年のジョージア侵攻も、2022年のウクライナ侵攻も、構図は同じ。だから、大国と隣接する国は、相手が何を考えているか注意を払うべきなのだ。とくに、ロシアは、安全保障を確保するため、隣国に中立地帯(緩衝地帯)を設けることを好む。さらに、脅威が迫ると、武力行使をいとわない。それが、現実におきたジョージア侵攻、クリミア併合、ウクライナ侵攻なのだ。

でも、先に手を出しほうが悪いのでは?

戦争は相互で予防するべきだろう。

戦争が始まったら、あっちが悪い、こっちが正しいなんて言ってられないから。都市が破壊され、国民が死んで、国が焦土と化すのだ。だから、政治家の最大の責任は戦争の回避にある。何をしたら、相手がどうでるか、慎重に考えるべきなのだ。とくに、核を保有する大国ロシアに対しては。まして、他国の内戦に介入するのは狂気の沙汰、災厄を拡大するだけではないか。

ハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授はこう主張している。

「米国の保護は、安易に与えるべきではない。外交は慈善事業ではないのだ」

ウクライナ戦争の米国の軍事支援を言っているのだ。非情に聞こえるかもしれないが、「保護=軍事援助」は、周囲を巻き込みながら、ローカルな戦争をグローバルな戦争に拡大する。結果、破壊と殺戮が極大化し、最悪、全面核戦争に突入する。それが正しいことか、冷静に考えるべきだろう。

■ネオコン

では、各国はウクライナ戦争をどうとらえているのか。

まず、当事者のウクライナ。

ゼレンスキーは、自力でロシアに勝てないことはわかっている。だから、米国とNATO、さらに世界中を巻き込もうとしている。結果、全面核戦争になろうが、気にもとめない。ウクライナにとって、ロシアに敗北することは、全面核戦争と同じことなのだ。とはいえ、他国はたまったものではない。

つぎに、欧州。

NATOが東方拡大し、ロシア領が縮小すれば、欧州は安泰と信じていたフシがある。ところが、現実は違った。ロシアがウクライナに侵攻し、ロシアからの天然ガスが断たれたのだ。今ごろは、ロシアとよりを戻し、天然ガスを供給してもらいたいと願っているだろう。もちろん、後の祭りだが。

では、米国は?

バイデン政権の主張は一貫している。

「世界でおきている厄介ごとは、すべて邪悪な指導者に責任がある。だから、その悪党を取り除くことが唯一の解決策だ」

事実、バイデン大統領は「プーチン排除」を公言している(後に修正)。国家元首を決めるのは、その国の国民であって、他国の指導者ではない。あからさまな内政干渉だが、珍しいことではない。世界中で日常的におきているから。

とはいえ、米国は伝統的に他国に干渉しない「モンロー主義」を掲げてきた。だが、やってることは逆だ。当事者でもないのに、第一次世界大戦にも第二次世界大戦にも参戦しているから。小学生でもわかる言行不一致だ。

そこで、この矛盾を解決する一派が米国で出現した。「ネオコン(新保守主義)」である。彼らは、民主主義と自由主義の覇権を唱え、独裁主義を潰すために武力行使もいとわない。バイデン大統領が、ネオコンの影響をうけているのは明らかだ。

■ディープステート

ウクライナ戦争には、国際金融資本もからんでいる。国際金融資本は、神様より金持ちで、自分の財産を増やすことに余念がない。そこで、彼らは世界の一体化(グローバリズム)をもくろんでいる。

ローカルでコソコソ商売していても、儲けはしれているから、世界中で商売しよう。それが、グローバリズムだ。世界は一つ、みんな仲良くしよう、はけっこうなのだが、重大な事実がある。各国の法律や制度や文化や価値観を無効化し、すべての価値を「マネー」に一元化する。そのルールで勝利するのは、もちろん、最強の金持ち、国際金融資本だ。

このグローバル勢力(国際金融資本)に敵対するのが、ナショナリズム(民族主義)国家だ。その代表が中国とロシアで、自国の民族、法律、制度、文化を守ろうとしている。当初、グローバル勢力は、中国とロシアを取り込もうとしたが、失敗。そこで、マスメディアを使い、ロシアと中国を悪党に仕立て、追い詰めている。

つまり、国際金融資本もネオコンも、民族主義のロシアと中国と敵対する点で一致している。そこで、この2つの勢力を「ディープステート(影の政府)」とよぶ向きもある。怪しい陰謀論にみえるが、事実無根とは言えない。米国の大手メディア、FOXニュースも「ディープステート」という言葉を使っているから。

さらに、神戸大学で発見された1941年6月23日付の新聞に「地底政府」の記事が載っている。言説は筋が通っていて、裏もとれているが、新聞なのであたりまえ。記事を読むと、「地底政府=ディープステート」なのでビックリ。

ディープステート(DS)というと、陰謀論と蔑む向きもあるが、国際金融資本、グローバリズム、ネオコン、またはそのような意志を持つ集団が存在することは確かだ。それを、ディープステートとよぶか、国際金融資本とよぶか、地底政府とよぶかは重要ではないだろう。そもそも、陰謀とは、陰で謀(はかりごと)をすること。国家どころか家庭でも存在する。だから、ディープステートを「陰謀論」で片付ければ、真実を見誤るだろう。

というわけで、米国も欧州もロシアもウクライナも、自国のことしか考えていない。だが、それはあたりまえ。政治家は、国民によって選ばれているから「納税者=国民」の利益を優先するのは当然だ。

ところが、日本は違う。

■日本の代償

ウクライナ戦争は、本質的にロシアの内戦であり、日本とは関係がない。ところが、岸田政権は欧米に追従し、ウクライナに味方した。世論も、ゼレンスキーの演説に無邪気に感動し「ウクライナ可哀そう、ロシアは酷い」で乗っかった。結果、ロシアと完全に敵対し、日本は甚大な損失をこうむっている。

まず、北方領土問題は棚上げどころか、交渉もできない。それどころか、北海道でロシアの軍事的脅威が高まっている。さらに、ロシアと中国の艦隊が共同で、日本列島を周回。日本を威圧している。

そして、サハリン・プロジェクトも問題だ。北海道の北方にあるサハリンに、3兆円を投じ、石油・天然ガスを生産する巨大プロジェクトだ。このプロジェクトに、日本も投資し、参加していたのだ。ところが、日本がウクライナに味方したことで、ロシアが国有化を宣言。日本の投資はすべて没収されてしまった。もちろん、石油・天然ガスも得られない。安倍元首相とプーチンが築き上げた富を生む投資が一瞬でパァ。

これが、日本がウクライナに加担した代償なのである。

この大損失を、岸田政権はどう考えているのか?

それに見合う国益は何なのか?

国民にきちんと説明する義務があるだろう。

■ウクライナ戦争の未来

では、ウクライナ戦争の結末は?

長期化するか、全面核戦争か、どちらかだろう。

各国の思惑ベクトルを足し算すると、この2つしかないから。その各国の思惑だが・・・

まずは、ロシア。

絶対に負けられない。ウクライナ戦争の真の敵は、背後にいる米国だから。最大の宿敵に敗北すれば、大国ロシアの威信は失墜し、国家安全保障は危機的状況におちいる。国が崩壊するかもしれない。1991年のソ連崩壊のように。だから、ロシアは勝利するまで戦うだろう。たとえ、全面核戦争になろうと。つまり、ロシアのベクトルは戦争の長期化に向いている。

つぎに、ウクライナ。

唯一の戦場なので、被害は甚大だ。だから早期終結を望んでいる。とはいえ、ロシアに降伏すれば、ゼレンスキーは、国外逃亡か死しかない。ウクライナの国民も、ただではすまない。ロシアとウクライナの因縁の歴史をみれば明らかだ。ただ、ウクライナはロシアのような専制国家ではないから、国民の厭戦が優勢になれば、降伏するかもしれない。だが、そこに至るには長い時間がかかるだろう。つまり、戦争は長期化する。

欧州は、天然ガスが欲しいから、早期終結を望んでいる。とはいえ、短期決戦を狙って参戦すれば、100%核戦争だ。だから、ロシアを激怒させないよう、おっかなびっくり軍事支援するしかない。つまり、戦争の長期化の要因になる。

米国は、軍事支援するだけで、国民が血を流すわけではない。また、古い兵器・弾薬を在庫処分できたので、新しい兵器を製造できる。軍需産業は商売繁盛だし、国は兵器を一新できるから、いいことずくめ。恐ろしい話だが、これが現実だ。また、米国は石油、天然ガスをふくめ、資源を自給自足できるから、戦争が長期化しても、痛くも、かゆくもない。むしろ、戦争が長期化すれば、ロシアが弱体化するから、米国に利がある。というわけで、米国は戦争の長期化を望んでる。

これらの思惑ベクトルを足し算すれば、ウクライナ戦争は「長期化」に向いている。ただし、戦争は何がおこるかわからない。突発イベントで、ロシアの敗北が濃厚になればば、プーチンは核のボタンを押すだろう。

最後に、ウクライナ侵攻を総括しよう。

まず、ウクライナ戦争の責任は、ロシア、ウクライナ、米国、NATOにある。なぜなら、この4勢力は、単独でウクライナ侵攻を阻止できたから。

つぎに、ウクライナ戦争の未来。

ダラダラ長期戦か、トートツに全面核戦争か。もし、前者ならウクライナは焦土と化し、後者なら人類は石器時代に逆戻り。これが、局所的な内戦を世界災厄に拡大させた結末だ。

物理学者アインシュタイン博士はこんな言葉を残している。

「無限なものは2つある。宇宙と人間の愚かさだ」

by R.B

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