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週刊スモールトーク (第500話) ウクライナ侵攻(6)~シオン賢者の議定書~

カテゴリ : 戦争歴史

2022.05.27

ウクライナ侵攻(6)~シオン賢者の議定書~

■陰謀の真実

20世紀初頭、帝政ロシア(ロシア帝国)で不穏なウワサが飛び交っていた。

ユダヤ人が世界征服をもくろんでいるというのだ。プロットは凝っているし、筋書きもハラハラ・ドキドキ・・・1897年8月、スイスでユダヤの長老会議が開かれ、シオンの最高指導者が世界の王となることが決議されたという。

その秘密の議事録が「シオン賢者の議定書」で、今でもユダヤ陰謀論の代名詞になっている。秘密権力による世界征服計画では、有名な陰謀論の一つだ。ちなみに「シオン」とはエルサレムの古名で、イスラエル(ユダヤ人)の形容詞でもある。

では、ユダヤ陰謀論「シオン賢者の議定書」は真実か?

この手の陰謀論が出現すると、反応は真っ二つで、真ん中がない。「あぁぁ、陰謀論ね」と、はなからバカにする良識派と、はなから信じる陰謀大好き派。けれど、個人的見解と断った上で吐露すると、真偽のほどはグラデーション、真偽を分かつ鮮明な境界線はない。

なぜか?

陰謀論の真実を語る時がきた。

親しい知人に高校生の息子がいる。国立大学医学部を狙う成績優秀者だが、そこは重要ではない。問題は、息子の彼女(中国人留学生)が人工知能(AI)を使って世界征服をもくろんでいること。

あらら、まだ若いの妄想癖?

さにあらず。彼女は現実主義者で、成績もトップクラスだという。現実世界に適応していることは確かで、妄想にふけるタイプではない。

では、この女子高生の世界征服計画は、陰謀か妄想か?

人工知能による世界征服は、実現可能な企てなので「謀(はかりごと)」と言っていい。さらに、彼女はボーイフレンドにこっそり打ち明けているから「陰でコソコソ」。つまり、「陰謀」は成立している。とはいえ、主語が女子高生なら荒唐無稽なので、「妄想」も成立する。早い話、陰謀と妄想のグラデーションなのだ。

それは詭弁、荒唐無稽ならピュアな「妄想」では?

では、もっと確度の高い陰謀論で考えてみよう。

■ディープステート(地底政府)

今、旬な陰謀論といえば「ディープステート(影の政府)」だろう。

真の権力者は、政府や議会ではなく「ディープステート」だというのだ。影の政府、闇の政府とも言われるが、荒唐無稽とは言い切れない。米国の大手メディアFOXニュースも「ディープステート」という言葉を使ったから。

ちなみに、神戸大学で発見された20世紀初頭の新聞によれば、この頃すでに「ディープステート」の概念が存在し、「地底政府」とよばれていたという。「神戸大学 地底政府」で検索すれば、新聞の原文も確認できる。

ディープステートの具体的な組織や団体もあがっている。国際金融資本、ネオコン、軍産複合体、フリーメーソン、ユダヤ人など。おや、またユダヤ人。その特異な民族性と歴史が、耳目を集めるのかもしれない。

だが、ここは確度の高い国際金融資本に絞って検証してみよう。

お題は「ディープステート=国際金融資本」は実在するか?

まず、ディープステートはさておき、国際金融資本は実在する。

「資本」とは生産手段で、ヒト・モノ・カネのこと。具体的には、ヒトは労働者、モノは建物や設備、カネは資金をさす。

資本を所有するのが「資本家」で、その反対が「労働者」だ。労働者は、自分の労働力以外に売るものがない。そこで、資本家は労働者を雇い、自分が所有する資本(建物・設備)を使わせ、モノを生産し利潤を得る。このような形態を「資本主義」とよんでいる。

さらに、資本主義は2つに大別できる。

まず、モノ(建物・設備)を使って、製品やサービスを生み出す製造業や鉱業やサービス業、これを「産業資本」という。さらに、カネがカネを生む金融業や投資業、これを「金融資本」という。

18世紀の産業革命以降、産業資本と金融資本にはすみ分けがあった。金融資本は産業資本に資金を提供し、産業資本はモノやサービスを生み出す。ところが、現代では、金融資本は産業資本の所有権(株式)を獲得し、産業資本を支配しつつある。つまり、金融資本は「むき出しの資本主義」で、資本主義世界では最強なのである。

その金融資本の最上位に位置するのが「国際金融資本」だ。その名のとおり、ターゲットはローカルではなくグローバル、世界中に投資し、巨万の富を得ている。

具体的な名前もあがっている。ロスチャイルド、ロックフェラー、モルガン、ジョージ・ソロス、世界に名だたる超大金持ちだ。

というわけで、国際金融資本は実在する。

問題は、それがディープステートで、世界を影で操っているか?

国際金融資本の究極の目的は金儲けなので、利益の極大化を狙う。それなら、ローカルでシコシコやるより、グローバルでやる方がいい。世界を一体化し、わけへだてなく金儲けする、これを「グローバリズム」とよんでいる。ところが、一つ厄介な問題がある。「国」である。国ごとに、法律、制度、文化、価値観が違うから、制約が多く、好き勝手できないのだ。

というわけで、国際金融資本の望みは明白だ。国境を取っ払い、国の法律、制度、文化、価値観を無効化し、すべての価値を「マネー」に一元化する。拝金主義者、守銭奴と蔑むなかれ。このルールでは、マネーをもつ者が最強なのだ。つまり、「真の権力者は政府でも議会でもなく国際金融資本」は一理ある。

ところが、国際金融資本は内政も外交できない。そこで、政府に働きかけ、マスメディアを利用し、ありとあらゆる手段を講じて、グローバリズムを実現しようとする。というわけで、国際金融資本には、表の権力者を影で操る意志も意図もある。

論理としては成立するけど、現実は?

米国バイデン政権もマスメディアも、グローバリズム(国際金融資本)を応援している。

■グローバリズムVs.ナショナリズム

今、世界は「グローバリズムVs.ナショナリズム」が先鋭化している。

グローバリズムは「世界は一つ」で、唯一の価値基準はマネー。一方、ナショナリズムは「自国ファースト」で、重要なのは自国民。直訳すると「民族主義」である。

グローバリズムをかかげるのは欧米で、ナショナリズムは中国とロシアだ。中国は「中華思想(世界の中心は中国)」を信じ、東シナ海、南シナ海、インド洋で領土拡大をもくろむ。一方、ロシアは旧ソ連の復活を目指し、ウクライナに侵攻した。つまり、中国もロシアも、あからさまな自国ファースト、典型的な民族主義国家だ。

そして、ここが肝心、欧米のマスメディアは、ナショナリズムには反対、グローバリズムを応援している。

2020年の米国大統領選で、アメリカ・ファースト(ナショナリズム)を掲げるトランプが落選した。マスメディアが一致団結して(FOX系は除く)、トランプを叩いたからだ。その後、欧米マスメディアは、中国叩き、ロシア叩きに全力をあげている。「盗人にも三分の理(非難される側にも言い分はある)」というが、「一分の理」も認めない。

欧米のマスメディアがナショナリズムを嫌い、グローバリズム(国際金融資本)を応援しているのは明らかだ。

グローバリズムは正義だから?

まさか。

マスメディアは国際金融資本から資金提供をうけているからだ。

マスメディア、政府はもちろん、どんな組織・団体、個人も、マネーが一番。これが資本主義の第一原理なのだ。

というわけで、国際金融資本には、世界を意のままにしたい意図と意志がある。くわえて、最強の武器「マネー」ももっている。

では、国際金融資本は現実に世界を支配しているか?

世界はそんな単純ではない。事実、ロシアはウクライナに侵攻し、中国は南シナ海と東シナ海に侵出し、台湾を併合しようともくろんでいる。善し悪しはさておき、ナショナリズムも頑張っているわけだ。というわけで、世界を完全に支配するスーパーパワーは存在しない。

では、ディープステートは虚妄?

実現できるかどうかはさておき、世界を影で操りたい組織・団体・個人は実在する(願うのは勝手なので)。問題はそれを「ディープステート」とよぶか、「スペクター(映画007の悪の秘密組織)」とよぶか、「スラッシュ(0011ナポレオン・ソロの国際犯罪組織)」とよぶか、「ショッカー(仮面ライダーの悪の秘密組織)」とよぶか?

これが「ディープステートは実在するか?」の答えなのである。

そして陰謀論の核心でもある。

■ポグロム

「シオン賢者の議定書」に話をもどそう。

ユダヤ人の迫害は歴史上、枚挙のいとまがないから、世界征服を望むユダヤ人がいてもおかしくない。とはいえ、1897年8月、スイス、ユダヤ人の長老、シオン賢者の議定書・・・ここまで具体的なら、証拠を示さないといけない。当時の出版物が残っていて、日本でも翻訳本が買えるが、真実の書とは限らない。

一方、帝政ロシアの政府機関が捏造したという説があるが、こちらは信憑性が高い。因果関係が成立しているからだ。

時系列でみていこう。

1881年3月1日、ロシア皇帝アレクサンドル2世が、帝都サンクトペテルブルクで、テロ組織「人民の意志」に爆殺された。犯人グループは捕まったが、その中にユダヤ人女性がいた。それを機にユダヤ人の迫害が始まる。ところが、帝政ロシア政府は取り締まるどころか、煽ったのである。政府公認なので、ロシア人はやりたい放題、多数の犠牲者がでた。

そんな不穏な状況の中、1903年「シオン賢者の議定書」が新聞に掲載された。これで反ユダヤ主義に火がつき、迫害はロシア全土に拡大する。1903年から1906年にかけて、ユダヤ人は町単位で襲撃され、数百万人が殺されたのである。

とくに迫害が激しかったのは、ウクライナだった。というのも、300年前に、ウクライナ人はユダヤ人に恨みを買っていたから。16世紀後半、全盛期を迎えたポーランドはウクライナに侵攻、西方のガリツィアを占領した。ポーランド貴族は、占領地にユダヤ商人を送り込み、過酷な徴税を行った。それで、ユダヤ人は恨みを買ったのである。

これを「ポグロム」とよんでいる。ポグロムは、本来、ロシア語で「破壊」を意味するが、歴史の文脈では、ユダヤ人に対する迫害、殺戮、略奪をさす。

この凄惨な迫害で、何十万人というユダヤ人が、ウクライナからヨーロッパやアメリカに亡命した。バイデン政権のブリンケン国務長官もその末裔だという。

■帝政ロシアの陰謀

ここで、ポグロムの因果関係を整理しよう。

ロシア皇帝が暗殺され、犯人グループの中にユダヤ人女性がいた。そのため、ユダヤ人への迫害が発生。その後、シオン賢者の議定書が決定打となった。ユダヤ人への恐怖心がロシアに刷り込まれたのである。結果、恐ろしいポグロムがおこった・・・これが歴史の通説である。

でも、おかしくないですか?

アレクサンドル2世の暗殺犯の中に、ユダヤ人女性がいたから、ユダヤ人を迫害?

暗殺犯は、社会主義者のテログループで、主導したのは旧ロシア貴族だった。たまたま、ユダヤ人女性が混じっていただけで、ユダヤ人が悪いわけではない。皇帝の暗殺犯を恨むなら、ユダヤ人ではなく社会主義者、旧貴族では?

そもそも、「皇帝の暗殺犯を憎む」もおかしい。暗殺されたアレクサンドル2世は、国民から嫌われていた。嫌われ者の皇帝が暗殺されたら、国民は喜ぶのでは。なぜユダヤ人を迫害する必要があるのか?

メチャクチャだ。

そこで、公開されたデータから推論してみよう。

アレクサンドル2世の暗殺事件のあと、ユダヤ人の迫害がはじまった。これは確かだ。だが、この時点で、ロシア政府はユダヤ人迫害の主犯だったのではないか。小数の犯人グループを悪者にしても、大ごとにはならない。そこで、ユダヤ人という大きなくくりで仮想敵をでっちあげたのではないか。

事実、ユダヤ人の迫害が始まると、ロシア政府は取り締まるどころか扇動している。そして、とどめがシオン賢者の議定書だ。ユダヤ人は世界征服をもくろむサタンの手先というのだから、ただごとではない。ロシア人がパニックになってもおかしくない。

つまりこういうこと。

シオン賢者の議定書は、ユダヤ人の陰謀ではなく、帝政ロシア政府の陰謀だった可能性が高い。しかも、通説とは違い、初めから主犯だったのではないか。

根拠は2つ。

第一に、アレクサンドル2世は不人気で、デモ、ストライキ、暴動が絶えず、暗殺未遂事件も2回あった(2回目で落命)。政府転覆の可能性もあったから、放置するわけにはいかない。そこで、ユダヤ人を悪者に仕立て上げ、矛先をユダヤ人に向けたのではないか。隣国の反日政策と同じだ。

第二に、シオン賢者の議定書の作り込みがハンパなく、カネも手間もかかっている。趣味や暇つぶしで作れる書ではない。

そこまでやって、元が取れるのは?

帝政ロシア政府。

《つづく》

by R.B

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