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週刊スモールトーク (第5話) タイムトンネル

カテゴリ : 娯楽

2005.07.14

タイムトンネル

■タイムマシン

歴史をホンモノの映像で見る・・・歴史好きにとってこれほどの興奮はないだろう。タイムマシンはありえないと、初めからあきらめがついている。目の前で時計が逆回転することなどありえないし、だいいち、タイムマシンがあれば、すでに未来人が来ているはずだ。いや、ひょっとして、もう来ているかも。

UFO目撃で最も信憑性が高いとされるのがロズウェル事件。アメリカのロズウェルにUFOが墜落して、エイリアンの死体が回収されたという、あの話である。怪しい再現映像によれば、頭は異様に大きく、手足が退化している。これを見て、未来人はこんな姿かもしれないと思った。テクノロジーが今より格段に進歩した結果、肉体が退化し、頭だけ発達した、というわけだ。だから、ロズウェルに堕ちたUFOは、宇宙の彼方から来たのではなく、時間の彼方から来たのだ?
不毛の話はやめて、本題にもどろう。

タイムマシンはムリとして、「歴史を見るだけ」の装置は作れないものか?一家に一台、タイムテレビジョン。TVの前にすわって、チャンネルをまわすだけで、どんな時代、どんな場所でも映し出せる装置。地球上に存在したすべての文明、すべての歴史を見ることができる。そんなTVがあったら、ドキドキするだろうなぁ。「見る」だけなんだから、なんとかならないのかな?

たとえば、2000年前、イエスの皮膚から反射した光は、微弱だが宇宙のどこかを彷徨っているはずだ。それを集光し、結像できたら・・・また不毛の話になってきた。

■タイムトンネル

じつは、この夢を実現しようとした国家プロジェクトがあった。1966~1967年に、アメリカABCで放送された「タイムトンネル」である。つまり、TVドラマ。タイムトンネルはNHKで放映されたが、デフォルメされた砂時計と「チックタック」音の印象的なオープニングを覚えている人もいるだろう。

タイムトンネルはSFドラマだが、科学と歴史好きにはたまらない魅力があった。SFTVドラマ「原子力潜水艦シービュー号」、「宇宙家族ロビンソン」を制作したアーウィン・アレンの3作目にあたる。

アーウィン・アレンは、TVドラマのほかに、「ポセイドンアドベンチャー」や「タワーリングインフェルノ」など劇場映画も手がけている。それなりの名声は得たが、この世界で歴史を刻むにはもう一押しだった。アーウィン・アレンは、先のTVドラマ「宇宙家族ロビンソン」の映画化を目論んだが、夢かなわずこの世を去っている。ところが、後にアーウィン・アレンの妻の尽力もあり、1998年、「ロスト・インス・ペース」で映画化された。登場人物と大筋以外はTV版との共通点はなく、別作品と考えていいだろう。ただし、映画としては非常に面白い。

ところで、アーウィン・アレンの「原子力潜水艦シービュー号」、「宇宙家族ロビンソン」はDVD化されているが、「タイムトンネル」のDVDはない。ビデオもナシ。それに、BS、CSでも見たことがない。懐かしいSFドラマは、ほとんどCSで見ることができるのに・・・「タイムトンネル」はもう永遠に観ることができない?

結論からいくと、「タイムトンネル」を観る方法は一つだけある。昔出たLD版をオークションで入手すること。このLD版「タイムトンネル」はVol1とVol2があり、発売当初8万2400円もしたが、今も値段は変わらない。リッチな人は月給で、そうでない人もボーナスで買える金額だ。

じつは、このLD版「タイムトンネル」、なかなかの優れものである。日本で未放映の2作品も収録されているし、吹き替えも当時のまま。また、大判の美しいグラビア付きの解説書がついていて、翻訳者と声優の座談会まで載っている。「へぇ~、そんなことがあったんだ」など当時の裏事情もわかって、なかなか楽しい。「タイムトンネル」ファンにはお勧めの逸品である。

ところが仮に、LD版「タイムトンネル」が手に入っても、LDプレイヤーがない。店頭では、LD専用プレイヤーはすでになく、DVDとのコンパチプレイヤーが12万円!で販売されている。LDの時代は終わったのだ。このような事態を予測し、バックアップ用も含め、LDプレイヤーを2台購入している(マニアはカネがかかる)。

ところが、DVDも先行きが怪しい。どうやら、次はブルーレイディスクらしい。消費者はメディアが変わるたびに、金を払わされる。理不尽な話だ。消費者はコンテンツに金を払うのであり、アルミの円盤に金を払うのではない

■タイムトンネルの世界

タイムトンネルは壮大なストーリーである。アメリカのアリゾナ砂漠の地下深くに、800階建ての巨大な科学センターがあり、その中に、タイムトンネルが設置されている。それはアメリカ合衆国の国家プロジェクトであり、人間を過去と未来に送り込むための巨大な時空装置であった。さらに、過去と未来の映像を映し出すこともできたが、一つ問題があった。タイムトンネルはまだ、完成していなかったのである。

ある日、タイムトンネルに政府の高官がやって来る。タイムトンネル計画を中止させるためである。莫大な予算を食いつぶしながら、完成のメドもたっていないからである。そこで、タイムトンネルに執念を燃やす若き副主任トニー・ニューマン博士は、命賭けの勝負に出た。未完成のタイムトンネルで時空移動を試みたのである。

タイムトンネルのゲートをくぐり抜け、トニーがたどりついたのは、「タイタニック号」だった。トニーの未来は歴史上最も有名な海難事故、つまり命が危ない。そこで、トニーを救うべく、主任ダグ・フィリップス博士もタイムトンネルのゲートをくぐる。こうして、ダグとトニーの息詰まるようなタイムトラベルが始まる。

TVドラマ「タイムトンネル」は、他のタイムトラベルものとは一線を画していた。それまでタイムマシンと言えば、マッドサイエンティストが人里離れた秘密の研究所で作りあげた怪しい機械。ところが、タイムトンネルはアメリカ合衆国の国家プロジェクトなのだ。この壮大で大がかりな設定が、ドラマ全体にリアリティを与え、独特の世界観を生み出している。

また、人物設定も面白い。主人公のダグとトニーは、現実にはありえない万能の頭脳の持ち主なのだ。タイムトンネルの設計者で、電子工学の天才、他の自然科学、さらに人文科学にも通じ、歴史年表は日単位で記憶している。タイムトンネルが二人を送り込む世界は、過去と未来、つまり異形の世界である。どんな危険が待ち受けているか分からない。だから、並外れた頭脳が必要なのである。実際、ダグとトニーは人間離れした知識で、次々と危機を乗り越えていく。胸の空くような知的爽快感!

タイムトンネル側のスタッフもなかなか個性的だ。冷静で決断力に富むカーク所長(一番偉い人)。タイムトンネルの操作パネルの前で、いつも頭をかかえ、悪戦苦闘するスウェイン博士。ホレたダグの帰還を願うが、いつも状況が能力を超え、ヒステリー気味のアン博士。彼らはタイムトンネルを通して、ダグとトニーを支援する。何があっても、ダグとトニーならなんとかしてくれる、それがダメなら、タイムトンネルが解決してくれる。この2つの世界が同時進行する接点に、タイムトンネルの面白さがある。

また、ダグとトニーが迷い込んだ過去や未来からタイムトンネルを通って現代に現れる者もいる。彼らは決まって、タイムトンネルを破壊しようとする。もし、タイムトンネルが破壊されれば、ダグとトニーは永遠に還れない。このような緊急事態では、決まって、タイムトンネルから地下800階を見下ろす視点に切り替わり、サイレンがけたたましく鳴り響いた。そして、多数の警備員がタイムトンネルにかけこむのだが、役に立ったためしはない。このふがいない警備員たちも、ハラハラドキドキのタネだった。

タイムトンネルはストーリーや設定以外にも魅力がある。時空装置としてのカリスマである。巨大なタイムトンネルの全体像は、メカマニア、SFマニア必見。タイムトンネルの全体像が確認できるのは、シリーズを通して、1カットだけ。巨大で、立体的で、威圧的で、世界を変えるほどの力を秘めた装置、そんなオーラがムンムン伝わってくる

タイムトンネルは全30話で、2シーズンにわけて放映された。そのほとんどは、有名な歴史事件にからむエピソード(歴史の勉強になる)。また、当時日本で放映されなかったエピソードもある。「第4話・真珠湾攻撃の前夜」と「第17話・生死をかけたゲーム」である。ともに、時代は太平洋戦争、日本人に対するアメリカ人の偏見そのままなので、放映できなかったのだろう。ただし、「LD版タイムトンネル」には2作とも収録されている。

タイムトンネルは、リアリティを優先にした点で、他のタイムトラベルものとは一線を画す。科学的裏付けはしっかりしているし、歴史的考察もぬかりはない。荒唐無稽感は皆無で、ストーリーの展開もリアルだ。タイムトラベル作品にありがちな「B級SF」感はまったくない。そこで、印象に残ったエピソードをドラマと歴史年表を対比させながら紹介しよう。

■第1話「タイタニック号の最後」

タイタニック号は歴史上もっとも有名な客船で、1912年4月14日、ニューファンドランド沖で氷山に衝突し、翌日15日に沈没した。トニーはタイムトンネルの完成を急ぐあまり、未完成のタイムトンネルに飛び込み、行き着いたのがタイタニック号だった。

タイタニック号が沈むのはわかっている。このままではトニーは死ぬ。そこで、ダグ・フィリップス博士は、「タイタニック号の沈没を伝える新聞」をかかえ、タイムトンネルのゲートをくぐった。タイタニック号が沈むことを知らせ、氷山との衝突を避けようというのだ。つまり、歴史を変える

ダグとトニーは、船長に新聞を見せ、タイタニックの暗い未来を説明する。コースさえ変えれば、タイタニックの事故は避けられるのだ。ところが、船長は信じようとはしない。衝突の時間は刻々と迫る。そして沈没する直前、タイムトンネルはダグとトニーの回収に成功するが、二人はタイムトンネルに戻ることはできなかった。違う世界へとタイムスリップしたのである。

■第6話「火山の島」

ダグとトニーは、火山の島に時空移動した。そこには、英国学士協会から派遣され、この島を調査しているホーランド博士がいた。ダグとトニーはホーランド博士と話をし、ここがクラカタウ火山だと知る。さらに、ホーランド博士の娘の日記から、今日が1883年8月26日だと知る。明日8月27日、クラカタウ火山は歴史上最大の大爆発を起こすのだ。もちろん、ダグとトニーはそれを知っている。

それにしてもこの2人、知識の量がハンパじゃない。頭のいい人は何でも知っている、子供心に強い憧れをもったことを覚えている。ダグとトニーはホーランド博士に事情を説明し、島を脱出するよう進言するが、信じてもらえない。その事情というのが、自分たちは未来人で、未来はすべてお見通し・・・これでは説得は難しいだろう。何でも知っているダグとトニーだが、人間学はダメらしい。

地学にも明るいダグは、明日噴火なのに、今でも爆発しそうな様子に疑問をいだく。タイムトンネルのスタッフも同じ認識だったが、やがて驚くべき事実が明らかになる。今日は8月26日ではなく8月27日、つまり大噴火を起こす当日だったのだ。ホーランド博士と娘は、ロンドンを出発し西に進み、日付変更線を超えた。つまり、日付が1日ずれていたのである。いつも懐中時計を持ち歩き、時間に気を使うホーランド博士だが、当時の懐中時計には日付はない。

やがて、地球の歴史上最大の噴火が始まった。大地震、そして火山が吹き上げた粉塵は空を覆い、世界の終わりのような情景だ。間一髪、タイムトンネルはダグとトニーを時空移動させる。時間を超越しながら、いつも時間に追われるハラハラ、ドキドキ、今思えば絶妙のシナリオである。

クラカタウ火山は、インドネシアのスマトラ島とジャワ島にはさまれたスンダ海峡にある。タイムトンネル第6話「火山の島」の題材となった1883年の大噴火では、火山島の中央部がまるごと吹き飛んだという。その爆発規模は有史以来最大級で、噴煙は上空70kmに達し、地球全体を覆いつくしたという。一つの火山噴火が、地球規模で災いをもたらしたのである。さらに、山が崩落し、高さ20mを超える津波が発生し、36000人もの犠牲者が出たという。

ところが、その120年後の2004年12月26日、同じスマトラ沖で大地震が発生した。前回同様、地震による大津波で、16万人が犠牲になった。歴史的にみても、大災害の起こりやすい地域なのである。

■第18話「星からの侵略者」

タイムトンネルのエピソードで、一番のお気に入りである。タイムトンネルで時空移動したダグとトニーは宇宙船の中にいた。その宇宙船には地球侵略を目論む異星人が乗船していた。ところが、時代は1885年、アメリカはまだインディアン(ネイティブアメリカン)と戦う西部劇の時代。「異星人侵略」なのに時代は過去という設定が面白い。

異星人はアメリカのアリゾナにある小さな町を標的にした。目的は、母星で得られなくなったタンパク質の確保である。異星人は大量破壊兵器でおどしつつ、町の住民に従うよう要求する。すると、異星人に反発する武闘派と、怖じ気づいて異星人に従う隷属派で対立するのだが、この心理描写が秀逸だ。

また、異星人のメイクは顔に銀粉を塗っただけなのだが、かなりリアル。無機質で機械的で怖いのだ。さらに、異星人が話す宇宙語だが、どこかホンモノっぽい(ホンモノは聞いたことはないが)。ところが、ネタを明かすと・・・セリフを日本語で録音し、それを逆再生しただけ。こんなリアルでお手軽な宇宙語はないだろう。

異星人の危機に直面していたのは、ダグとトニーだけではなかった。タイムトンネルにも危機が迫っていたのだ。タイムトンネルと同じ時代の先の異星人の子孫がタイムトンネルに侵入したのである。この異星人は、過去の地球で行方不明となった仲間を捜索していたのだが、その仲間というのが、ダグとトニーが直面しているた異星人だった。つまり、2つの種族が、過去と現在の2つの世界で並行して戦っていたのである。タイムトンネルならではストーリーだ。

■第20話「ジェリコの城塞」

ダグとトニーは、タイムトンネルによって古代の野営地に送り込まれた。すぐに、兵士に見つかり、あやうく殺されそうになるが、間一髪、指導者に助けられる。その指導者はヨシュアといった。電子工学のみならず、旧約聖書もそらんずるダグとトニーは彼がユダヤの指導者ヨシュアで、その軍団が包囲する町はジェリコだと確信する。つまり、このエピソードの元ネタは旧約聖書。

指導者ヨシュアは、ダグとトニーが未来から来たと主張するが、もちろん、信じない。ところが、ヨシュアが神から授かり、誰にも話していない秘密の作戦をダグとトニーが言い当てると、一転、信用するようになる。このヨシュアが神から授かった策というのが、旧約聖書に登場する有名な逸話だ。ダグとトニー、そして、二人を見守るタイムトンネルのスタッフたちは、聖書の逸話が史実なのか、息を呑んで見つめていた。

この第20話「ジェリコの城塞」では、舞台となった町は「ジェリコ」となっていた。しかし、「Jericho」は英語読みではなく、エリコ、イェリコと読む方が正しいらしい。だが、ここではタイムトンネルに敬意を表して「ジェリコ」で通すことにする。

ジェリコは、ヨルダン川西岸地区にあり、死海の8km北方に位置する。海抜マイナス240mという低位置にあり、旧約聖書の世界では重要な町である。また、歴史上もっと古くから人が住んでいた町であり、その歴史は紀元前8000年までさかのぼる。つまり、ジェリコは実在した町なのだ。旧約聖書によると、モーセの後継者ヨシュアは、ユダヤの民を率いて約束の地カナンにつく。そこで、ジェリコの町を征服するのだが、これがタイムトンネル第20話のモチーフとなっている。

ヨシュアは、神より授けられた秘策を実行する。旧約聖書によれば・・・

6日間、毎日、兵士と祭司が町を1周する。そして、7日目に7周した後、祭司が吹く角笛の音を合図に、すべての民がときの声を上げる。すると、ジェリコの城壁は、音をたてて崩れた。

もちろん、この話は実証されているわけではない。しかし、この物語には真実と思われる部分もあり、どこまで歴史でどこから神話か分からない。地球の歴史にはこんな謎はたくさんある。もし、タイムトンネルがあれば一目瞭然なのだが。

■タイムトンネルと時計

タイムトンネルには一つ謎があった。ダグとトニーが時計を持たないこと。タイムトラベラーは時間が命綱なのに、時間を知る術(すべ)を持たない?おかしいやろ?
ドーデモいいことをせんさくするのも、SFドラマの楽しみである。

最近、タイムマシンものの映画が2本つくられた。科学的な裏付けもちゃんとしているし、CGを駆使した映像もリアルだ。ところが、どこか味気ない。「歴史時空」の深遠な世界観が感じられないのだ。時間へのロマンをかきたてるのは、やはりタイムトンネルだけかもしれない。

【資料】タイムトンネルの全エピソード

by R.B

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