BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第491話) 発火法(1)~摩擦熱~

カテゴリ : 歴史科学終末

2022.01.28

発火法(1)~摩擦熱~

■巨大災害の時代

コロナ禍のさなか、地震、津波、噴火が後を絶たない。

2022年1月15日、トンガ沖で海底火山が噴火した。100年に一度といわれる大噴火で、津波も発生。日本でも潮位が上昇し、漁船が転覆する被害が出ている。今後は、噴出物が成層圏や中間層に滞留し、太陽光を遮り、地球の平均気温が低下するかもしれない。2度以上低下すれば、不作と食料難は避けられないだろう。

先例がある。

「平成の米騒動」だ。この呼称は「大正の米騒動」にちなむ。1918年(大正7年)、コメ価格が急騰し、富山で暴動が発生し、それが全国に飛び火したのだ。

平成の米騒動は、大正の米騒動とは違い、火山噴火が原因だった。1991年、フィリピンのピナツボ火山が噴火し、夏場の気温が2度以上低下した。日本は冷夏が続き、米の収穫量が30%も減り、歴史的な大凶作に見舞われた。あわてた政府はタイ米を緊急輸入したが、消費者は侃侃諤諤(かんかんがくがく)。いわく「タイ米はまずい」「それは失礼だ」「贅沢な言うな」。タイ米はチャーハンにすると美味しそうだが、実際に試したわけではなく、それ以前に、そんな悠長な話を言い出せるような空気ではなかった。

そして、有史以来最大の噴火とされるのが、1883年のインドネシアのクラカタウ火山の噴火だ。規模も被害も超弩級で想像を絶する。山が一つ丸ごと崩落し、高さ20mの津波が発生、3万6000人が犠牲になった。噴き上げた粉塵は、上空70kmに達し(成層圏の上の中間圏)、地球を覆い、世界規模の不作を引き起こした。

それだけはない。空の色まで変わったのだ。ヨーロッパ中で、異様に赤い夕焼けが観測された。ムンクの有名な絵画「叫び」はそれを描いたという説がある。橋の上に立つ人が両耳をおさえて、何か叫んでいる。空は真っ赤な紋様が波打ち、この世の終わりを暗示している。

クラカタウ火山の大噴火は、アートにも影響を与えたわけだが、それだけではない。タイムトラベルもの傑作ドラマ「タイムトンネル」の題材にもなっている。第6話・火山の島では、主人公のダグとトニーが噴火寸前のクラカタウ火山に時空転送される。噴火を歴史的事実として知っているダグは、噴火が近いことを周囲に訴えるが、誰も信じてくれない。それはそうだろう。僕は未来から来たから何でも知っている、噴火は必ずおきるんだ!では話にならない。

現在、南海トラフ巨大地震、首都直下地震、富士山噴火が予測されているが、日本は「火山の島」だ。地震も噴火もいつどこで起きても不思議はない。しかも、被害は想像を絶する。阪神・淡路大震災、東日本大震災を思い起こせば、何十万、何百万人の人々が廃墟を彷徨うことになっても不思議はないのだ。

ちなみに、阪神・淡路大震災は1995年1月、東日本大震災2011年3月におきている。ともに冬場なので、アウトドアで火をおこす方法知っておいて損はないだろう。

■摩擦熱(往復運動)で発火

マッチやライターを使わずに火をおこす方法は4つある。熱源が、摩擦熱、火花、太陽光熱、空気の圧搾熱かによる。

まずは摩擦熱から。

何かをこすれば、「こする=運動エネルギー」が「熱エネルギー」に変換され、摩擦熱が生じる。寒い日に、手をこすれば手が温まるのもこれ。

火溝式(ひみぞしき)
【火溝式】

摩擦熱で、一番カンタンな方法は「火溝式(ひみぞしき)」。左のイラストのように、土台に棒を押しつけ、素速く、何度もこすれば、摩擦熱が生じる。そばに燃えやすい「火口(ほくち)」をおいておけば、そこに着火する。これが火種だ。つぎに、火種を枯木や枯れ草の中にいれてフーフー吹けば、一気に燃え上がる。発火までに要する時間は1分弱で、かなり骨が折れる。

火溝式の棒と土台は、竹か木を使うが、竹の方が火がつきやすい。ただし、カラカラに乾いていること(生竹はダメ)。火口(ほくち)は、木や竹の表面を薄く削りとり、ふわふわの鳥の巣状にする。その方が火がつきやすいから。

鋸式(のこぎりしき)
【鋸式】

火溝式の改良版が「鋸式(のこぎりしき)」だ。左のイラストのように、土台に細長い割れ目を入れて、そこを棒でこする。棒と土台の接地面積が増え、摩擦係数も大きいから、摩擦熱も大きくなる。ギザギザでこするからノコギリ式。火溝式より若干速く着火する。

鋸式の発展型で「糸鋸式(いとのこぎりしき)」という方法もある。木の枝の細い割れ目に、直角に竹ひごをあてがって強くこする。こする場所が狭いので、摩擦熱の密度があがり、鋸式より早く着火する

以上3つの方法は、往復運動を利用するが、効率が良くない。摩擦熱は、こする速度に連動して大きくなるが、水平方向にゴシゴシでは限界があるから。そこで、往復運動ではなく、回転運動を利用する。ゴシゴシ往復より、クルクル回転の方がスピードアップするから。

とはいえ、ねじ回しのように、直接回すのは効率が悪い。そこで、往復運動を回転運動に変換するのである。

■摩擦熱(回転運動)で発火
錐揉式(きりもみしき)
【錐揉式】

回転運動で火をおこす一番カンタンな方法は「錐揉式(きりもみ式)」。左のイラストのように、土台に皿状のくぼみをつくり、火切り棒をくぼみに強く押し当てる。つぎに両手をこすりあわせると、火切り棒は回転する。運動速度は「回転運動>往復運動」なので、火溝式や鋸式より早く着火する。要する時間は30~40秒。錐(きり)を揉んで穴をあける要領なので「錐揉み式」という。

弓錐式(ゆみきりしき)
【弓錐式】

錐揉式より効率がいいのが「弓錐式(ゆみきりしき)」。左のイラストのように、火切り棒を弓の弦に巻きつけ、弓を水平方向に往復運動させれば、火切り棒は回転する。図からも想像がつくが、手でこする錐揉み式より、速く回転する。そのぶん、摩擦熱が大きく、錐揉式より早く15~20秒で着火する。古代から、エスキモーの人びとが使っていた。

紐錐式(ひもきりしき)
【紐錐式】

弓の弦のかわりにヒモを使うのが「紐錐式(ひもきりしき)」。左のイラストのように、火切り棒を革ヒモを巻きつけ、交互に引けば、火切り棒は回転する。火切り棒を押さえつける人と、火切り棒を回転させる人が別なので、摩擦圧と回転速度が増し、摩擦熱が大きくなる。そのため弓錐式より若干早く、10~15秒で着火する。弓錐式同様、古代からエスキモーが使っていた

 

舞錐式(まいぎりしき)
【舞錐式】

回転運動式で最強なのが「舞錐式(まいぎりしき)」だろう。左のイラストのように、火切り弓という特殊な器具を使う。弓錐式は水平方向の往復運動だが、火切り弓は垂直方向の往復運動。水平運動より垂直運動の方が楽だし、上から押さえるので、摩擦力も大きい。着火時間は10秒前後と最短である。

舞錐式は世界中で遺物として発掘されている。こんな複雑な装置をどこでも誰でも思いつくのだから、やはり人間は賢い。

というわけで、アウトドアで火をおこすには「摩擦熱」が手っ取り早い。ただし、どの方法も程度の差こそあれ、かなりの筋力と根気が必要だ。一方、使用する器具はシンプルなので、ナイフ一本で作れる。Amazonや楽天で完成品も入手できるが、趣味と実益をかねて、DIYしてみてはどうだろう。

じつは、発火方法は他にもある。火花、太陽光熱、空気の圧搾熱を利用するのである。とくに「圧搾熱」はかなりのハイテクだ。オーパーツとまではいかないが、古代人が思いつく技術とは思えない。人間の賢さには驚くばかりだ。

《つづく》

参考文献:
(※1)週刊朝日百科世界の歴史20巻、朝日新聞社出版
(※2)世界の歴史を変えた日1001、ピーターファータド(編集),荒井理子(翻訳),中村安子(翻訳),真田由美子(翻訳),藤村奈緒美(翻訳)出版社ゆまに書房

by R.B

関連情報