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週刊スモールトーク (第48話) インターネット(2)~スポンサー広告〜

カテゴリ : 社会科学

2006.05.27

インターネット(2)~スポンサー広告〜

■検索エンジンは何で儲ける?

今では、「検索エンジンは無料」を知らない人はいないだろう。では、GoogleやYahooは一体何で儲けているのか?もちろん、Msn(マイクロソフト)のことはゼンゼン心配していない。WindowsやOfficeで卒倒するような利益を上げ、預金額は世界のトヨタを上回る。明日をも知れぬ貧乏人が心配する相手ではない。

結論からいくと、GoogleもYahooも、収入のほとんどを広告掲載料に頼っている。Google、Yahoo、Msnの画面に「スポンサー」または「スポンサーサイト」と書かれたブロックがある。そこに、宣伝らしきものが表示されているが、それが「スポンサー広告」だ。インターネット広告(ネット広告)、オンライン広告、ウェブ広告とも呼ばれるが、これまでの広告と決定的な違いがある。誰でもスポンサー(広告主)になれること。

■インターネットで小銭を稼ぐ

これはあくまで仮定の話だが、あなたが退屈な勤め人生活に飽き飽きしていたとしよう。仕事は面白くないし、上司はバカだし、部下は生意気だ。家に帰れば、口うるさい嫁と問題児が待っている。一体、何のための人生や!と、まぁ、そこまではいかなくても、何か生き甲斐を見つけなくては、と思っていたとする。

そこでちょっと唐突なのだが、庭かベランダでオリーブを栽培するとしよう。なぜ、オリーブかと言うと、我が家でも栽培しているから。何と言っても、オリーブは特別な樹だ。天才画家ゴッホも、オリーブの葉のきらめきをこよなく愛したという。旧約聖書のノアの方舟伝説にも登場する。大海を漂う方舟から、ノアが放ったハトが持ち帰ったのがこのオリーブの小枝。ノアはこれで陸地が近いことを知ったのだ。また、オリーブは平和のシンボルだし、国連のマークにも使われている。オリーブは、地球の歴史にとって特別の樹なのである。

オリーブは今、世界中で愛用されている。オリーブ化粧品、オリーブオイル、オリーブの果実。これらオリーブ製品の殺し文句は「健康」。オリーブにはオレイン酸が含まれ、悪玉コレステロールを退治する、というわけだ。また、オリーブにはもう一つ特徴がある。樹から実を採取すると、すぐに腐り始めるのだ。そのため、加工設備はオリーブの樹の近くに設置する必要がある。食品会社がオリーブの実を産地から工場に輸送し、一気に加工するという大技が使えないのだ。それなら、庭やベランダの片隅でオリーブを栽培し、その場で加工して自分のブランドで販売できるかもしれない。

そこでまず、オリーブの小苗を購入する。品種にもよるが、1本2000円~3000円ほど。それを30本ほど購入して、大切に育てるが、何年経っても実はならない。オリーブは長寿で、樹齢1000年を超えるものもある。成長して実がなるまでには長い年月かかるのだ。それによく考えると、30本の樹から、オリーブオイルがどれだけ採れるというのだ?問題発生・・・そこで、インターネットで「オリーブ 大苗」で検索すると、なんと1本2万円~3万円で販売しているではないか!オリーブの実などあてにせず、大苗まで育てて、売抜けばいいのだ。どんな問題でも解決策はある。

そろばんをはじくと、

(30,000円-3,000円)×30本=810,000円

なんと、81万円の儲け!

とはいえ、この程度の本数では、店舗を構えるわけにいかない。店舗に委託する手もあるが、ケチなあなたはマージンを取られるのが我慢ならない。そこで、流行のインターネット販売を思いつく。8000円でホームページ作成ソフトを購入し、徹夜で勉強、1週間ほどで、自分のホームページを立ち上げる。ところが、あなたのホームページを訪れる人は一人もいない。それもそのはず、あなたがホームページをひっそりと立ち上げたところで、それを知るすべがないのだ。そこで、楽天のようなショッピングモールに出店しようと電話するが、あまりの敷居の高さにめげてしまう。

それなら、検索エンジンでと思うが、「オリーブ 大苗 販売」で検索してみたところで、あなたのホームページは表示されることはない。そもそも、検索エンジンで上位に表示されるには、尋常ならざる努力が必要なのだ。これはSEO対策と言われるが、それを生業にする会社があるほどだ。自分のホームページに「オリーブ 大苗 販売」の言葉を並べ立ててみたところで、最近の検索エンジンでは大した効果はない。それどころか、検索サイトからルール違反で永久追放されるかもしれない。一体、どうしたらいいのだ?またしても、問題発生・・・じつは、その解決方法こそ「スポンサー広告」なのだ。

■オーバーチュア(overture)

最初に、この話は2006年5月時点ということをお断りしておく。まず、インターネットの広告は、大きく、「オーバーチュア(overture)」と「アドワーズ(adwords)」がある。「オーバーチュア」と契約すればYahooとMsnに、「アドワーズ」と契約すれば、Googleに広告が掲載される。どっちも、基本的な仕組みは同じなので、日本で一番人気の「オーバーチュア」を例にとって話をすすめよう。

あなたの目標は単純明快である。YahooまたはMsnの検索エンジンで「オリーブ 大苗 販売」と入力されたら、あなたのホームページが最上位に表示されること。それがだめなら、せめて第1ページ目に。1ページ目に表示されるのと、2ページ以降とではアクセス数はまるで違うからである。

あなたが、検索エンジンで何かを検索したとして、2ページ目以降を見るかどうかを思い出して欲しい。まず、決めなければならないのは、キーワードだが、「オリーブ 大苗 販売」で問題ないだろう。次に、オーバーチュアからキーワードを購入する方法だが、入札方式になっている。

たとえば、1位表示を希望する広告主が複数いた場合、最高値で入札した広告主が1位表示を落札する。オーバーチュアでは、「オリーブ 大苗 販売」の他の入札価格を見ることができる。もし、最高入札価格が20円なら、21円で入札すれば、あなたのホームページは最上位に表示される。そこで、誰かが、あなたのホームページのタイトルをクリックすれば、あなたのホームページが表示されるわけだ。そして、この瞬間、あなたが予め振り込んでおいた資金から、21円が差し引かれる。つまり、検索エンジンのスポンサーサイトで表示されて、誰かがクリックするたびに21円の費用がかかる。裏を返せば、検索エンジンに何万回表示されようが、あなたの広告がクリックされない限り、1円も払う必要がない。

また、誰かが、いたずら目的で何度クリックしても、たいてい課金されない(らしい)。すべてが合理的、これがアメリカ式。一方、入札価格の決定には、多少の戦略が必要だ。例えば、キーワード「オリーブ 大苗 販売」をあなたが21円で1位を落札したとする。ところが、ある日、あなたの広告順位が2位に落ちているのに気づく。あわてて、調べると、なんと100円で落札した広告主がいるではないか。あなたが、101円で入札すれば、1位に返り咲くことは重々承知だが、そんなおカネはない。1日に100回ペースでクリックされようものなら、月に30万円も吹き飛ぶ(101円×100回×30日=30万円)。たくさんクリックして欲しい反面、あまり回数が多いのもちょっと、などと完全無欠の矛盾で悩むのも、スポンサー広告の面白いところだ。広告がクリックされても、ユーザーが購入するとは限らないからである。

それにしても、この広告主はなんで22円で落札しなかったのだろう。最高入札価格はあなたの21円なので、22円で1位になるのに。わざわざ破格の100円にするなんて、バカじゃないのか?とあなたは思うかもしれない。しかし、これこそイヤミな作戦なのだ。結論からいうと、この広告主の広告は1位に表示されるが、支払う金額は22円ですむ。落札価格とは最大でその価格まで払う用意があるという意味で、自分の次の広告主より1円多く支払えばすむのだ。つまり、この広告主は1位が確定しているため、2位の21円に1円プラスした22円を支払えばすむ。

もちろん、あなたが50円で入札すれば、この会社は51円払うハメになるが、あなたの順位は2位のまま。同じ2位なら21円の方がいいに決まっている。そのため、あなたが50円で入札することはありえない。となると、意味がある値上げは101円のみ。しかし、この場合2位が100円で入札しているので、クリックされたら、あなたは101円払わなければならない。つまり、あなたの1位は1クリック101円、この広告主の1位は1クリック22円。

あんまりだ、悪夢だ・・・こんな芸当ができるのはリッチな会社だけだが、たまに見かける。スポンサー広告を出して1ヶ月後、オリーブの売上がほとんど増えていないことに気づく。なんで?「オリーブ 大苗 販売」はニッチなキーワードなので、表示される回数そのものが少ないのだ。当然、クリックされる回数も少ない。もっと表示回数の多いキーワードがあるはずだ、とあなたは考えるだろう。オリーブの大苗を欲しいと思っている人の中には、「オリーブ 大苗 販売」ではなく「オリーブ」で検索する人もいるかもしれない。ならば、「オリーブ」というキーワードも購入しよう・・・

たしかに、「オリーブ 大苗 販売」より「オリーブ」の方が、検索数は多いだろう。だがその分、「オリーブ 大苗 販売」より「オリーブ」の落札価格は高くなる。一般に、広い概念を表すキーワードほど単価は高い。それでも、たくさん売るにはやむえないと、キーワード「オリーブ」を購入するのは薦められない。「オリーブ」で検索する人は、オリーブのウンチクを知りたいのかもしれないし、オリーブ化粧品やオリーブオイルを買いたいのかもしれない。

また、あるかどうか分からないが、オリーブという宗教団体を捜しているのかもしれない。オリーブの苗木を買いたい人とは限らないのだ。こういう人たちに面白半分でクリックされたら、目も当てられない。というわけで、ニッチなキーワードで攻めるべきである。

■アドワーズ(adwords)

一方、「アドワーズ(adwords)」は基本的な仕組みは同じだが、カネさえ出せば上位に表示されるわけではない。ここがオーバーチュアと違う点だ。いくら高値で落札しても、クリック率の低い広告は下位に下げられるのだ。逆に、クリック率が高ければ、自分より高値で入札した広告主より、上位に表示されることもある。ここで、「クリック率=広告がクリックされた回数÷広告が表示された回数」アドワーズにしてみれば、いくら高値で買ってくれても、クリック率が低ければ儲けが少ない。多少安値でも、パカパカ、クリックしてくれる方がいい。それに、人気のある広告はもっと目立つ位置に表示すれば、さらにクリック率が増えるかも、と考えているわけだ。なんという合理主義。さすがアメリカ、いやグーグル(Google)。

アドワーズにはオーバーチュアにないもう一つの特徴がある。例えば、あなたが「オリーブ 大苗 販売」を20円で落札したとする。ニッチなキーワードなので、安く落札できたとあなたは喜ぶ。だが、問題はクリック率だ。アドワーズでは、低いクリック率がつづくと、広告が自動的に削除されるのだ。それでも広告を掲載したければ、30円にしてくれという冷酷なメッセージが表示される。さすが、グーグル。

一般論だが、同じキーワードならアドワーズの方がオーバーチュアよりクリック単価が高い。また、どう考えてもニッチなキーワードなのに、最低入札価格が異常に高いものもある。ところが、広告主は一人もいない。広告を掲載したものの、クリック率が上がらず、どんどん値上がりし、最後には誰も買えなくなった・・・まるで、ゴーストタウンである。

■スポンサー広告の比較

日本のスポンサー広告の市場規模は、アメリカより小さいと言われる。また、日本では、GoogleよりYahooの方がシェアが高いので、それに連動して、オーバーチュアはアドワーズより掲載される広告が多い。実際、同じキーワードなら、クリック数はオーバーチュアの方がアドワーズより断然多く、価格はオーバーチュアの方が安い。もちろん、「コスト=クリック数×単価」なので、どちらが高くつくかは一概には言えない。

とはいえ、自分のホームページにより多くの顧客を誘導するという点では、オーバーチュアの方が有利だろう。ただし、ホームページを訪問したユーザーが、オリーブの苗を買うか買わないかは別問題だ。また、スポンサー広告では、複数のキーワードを購入して、どのキーワードが購買につながったかをトレースすることができる。これにより、購買につながらないキーワードを捨て、新たなキーワードを購入することもできる。この機能は、オーバーチュア、アドワーズの両方とも備えている。

スポンサー広告で商売繁盛!という事例が華やかに取り上げられている。だが、鵜呑みにするのは危険だ。オリーブの苗木は分からないが、ソフトウェアのような無体物はあまり期待できない。つい最近まで、誰もが知る世界企業の歴史ソフトがスポンサー広告を賑わしていた。ところが最近、全面撤退している。やはりスポンサー広告の効果は、商品に大きく依存しているようだ。ただ、ニッチなキーワードなら安価なので、挑戦してみる価値はある。また、物販で検索エンジンの効果が期待できない商品は、楽天のようなモールの方が良いかもしれない。

もっとも、モールも一時に比べ敷居は随分高くなった。何ごともいいことづくめとはいかない。いずれにせよ、スポンサー広告は、クリック保証と入札制度で新しい広告ビジネスを切り拓いた。一方、スポンサー広告は検索エンジンビジネスの生命線である。スポンサー広告が廃れれば、検索エンジンは無料ではなくなり、インターネットの未来もない。

《つづく》

by R.B

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