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週刊スモールトーク (第479話) 株式投資とカジノと宝くじ~統計学の謎~

カテゴリ : 科学経済

2021.07.23

株式投資とカジノと宝くじ~統計学の謎~

■投資家はストリートファイター

投資に科学はない。もしそんなものがあれば、みんな大儲けだ。

経済学もしかり。経済学がホンモノの科学なら、経済は思いのまま、バブルも恐慌もインフレもデフレもない。さらに、経済学の大先生はみんな大金持ちだ。

だが、現実は違う。

そもそも、経済学は人文科学で、数学や物理のような厳密で再現性の高い自然科学ではない。早い話が疑似科学(フリンジ)

35年の投資経験から、これだけは言える。投資家は理論家ではなくストリートファイターだ。刻々と変化する状況に瞬時に対応しないと瞬殺される。しかも、知識と経験だけでは想定外には対応できない。

たとえば、「株価が暴落したら売らない」は重要な経験則だが、例外もある。1929年の世界恐慌や日本のバブル崩壊のように、回復に20年以上かかる場合。さらに、福島原発事故で暴落した東京電力株のように、奇跡以外に回復する見込みない場合。つまり、暴落と言っても、すぐに回復するか、長期化するか、そのまま沈没かが問題だ。自分の命数と天秤にかけないと不毛の投資になりかねない。

だが、じっくり考えているヒマはない。暴落が始まったら市場は阿鼻叫喚、売り抜けるが困難だから。しかも、過去のデータは役に立たない。

過去の株価暴落をみてみよう。

1929年世界恐慌は回復するまで25年かかっている。2008年のリーマン・ショックは数年で回復。日本のバブル崩壊は30年経った今も回復していない。過去のデータや単純な経験則はあてにならないことは明らかだ。

では何があてになるのか?

投資の身体能力・・・経験と知識と思考アルゴリズムが反射神経に刷り込まれた実戦力。切れ味鋭い「名剣」ではなく、戦場で役に立つ「戦場剣」だ。

つまり、勝つ投資家はストリートファイター、と言いたいのだが、例外もある。何もしない投資家だ。先祖代々、株を受け継いたけど、何をどうしたらいいかわからない。あーだこーだ考えるのもメンドーだから、ほったらかし。ところが、先祖が1株ん十円で買ったものが、今はん百円、ん千円。何もしないのに、知らぬ間に10倍~100倍になってました・・・これを「棚からぼたもち」と言う。

■退職金で投資を始めるリスク

ではなぜ、戦士(ストリートファイター)と民間人(何もしない人)という真逆の人種が、投資に向いているのか?

投資は運も必要だが、それだけでは勝てない。世界は因果関係で成り立っている。だから、勝つ要因が必要なのだ。ストリートファイターは投資の身体能力、何もしない人は時間を味方にしている。

ではどっちが強い?

何もしない人。「時間を味方にする」は外れのない天運で、人智を超えているから。天上の力が、地上の身体能力に優るのは当然だろう。

一方、中途半端が一番危ない。ソコソコ資金があり、付け焼刃的な知識と経験をもつ一般投資家だ。

なぜか?

投資に限らず、中途半端に勝ち目がないのは、世の常人の常。だが、投資の場合はサイアクだろう。たとえば、退職後、投資を始める人。

退職金という大きな軍資金があるし、時間もあるので勉強しながら投資できる。

ベストになのでは?

ノー、サイアク!

まず、株式投資は付け焼き刃では勝てない。ビギナーズラックはあるが、長続きせず、結局損する。一方、実戦で通用する「戦場剣」を鍛えるには、長い年月がかかる。最少の賭け金から始め、致命傷を負わないように、少しづつ実戦を積むしかない。個人差はあるが、勝率9割を超えるのは20~30年後だろう。だから、60歳過ぎて始めるのはおそすぎる。

指南役がいればいいのでは?

これも難しい。

まず、投資のプロとされる証券会社、トレーダー、ファイナルシャルプランナーの「投資の身体能力」にもバラツキがある。プロが運用する投資信託の投資パーフォーマンスに天地の差があるのはその証拠だ。さらに、指南役と顧客の利害が一致するとは限らない。

もし指南役に頼るなら、抜群の投資パーフォマンスを誇り、心から信用できる指南役が実際に買っている銘柄を買うしかない。それでも勝てるとは限らないが。

リスク資産への投資を始めて35年になるが、証券会社の担当者より自分の方が上と感じている(上から目線ではなく冷静に判断して)。おーなるほど、は10%ぐらい。それも、情報・データのたぐいで、思考アルゴリズムは参考にならない。

なぜか?

証券マンもファイナンシャルプランナーも、若い人が多い。57歳以下なら、1987年の株価大暴落「ブラックマンデー」を知らない。36歳以下なら、2008年のリーマン・ショックも知らない。座学の知識はあるだろうが、体験したわけではないのだ。ところが、こっちは両方とも戦場にいた。だから、カタストロフィーで何がおきるか、何をすべきかを身体が知っている。それでも、常に勝つわけではない。そんな難儀な白兵戦を、座学の知識で語られても・・・説得力ありません。

退職後に始める投資には、もう一つリスクがある。元手(退職金)が大きいので、賭け金が大きくなること。そのぶん、損失も大きい。

つまり、負ける確率が高く、負ける金額が大きい。

サイアクでは?

最悪です。

数学の期待値を計算しても、「損」は明々白々。というわけで、退職してから、投資を始めるのはおすすめできない。(RPGの)復活の呪文を体得していれば話は別だが。

■カジノと宝くじ

ではなぜ、投資で勝つのは難しいのか?

予測に役立つ統計学が通用しないから。科学が使えないと、予測というより予言、つまり、八卦・占いになる。

一方、カジノのゲームは統計学が有効だ。回数をこなせば、勝ち負けは統計学の予測値に近づくから。事実、カジノのルールは、統計学にもとづき、胴元が勝つように設定されている。だから、お客の数が多いほど、運営期間が長いほど、回数が増え、カジノ側(胴元)が勝つ。一方、客は勝つこともあるが、長くやれば必ず負ける。

このカラクリをコイン投げで考えてみよう。

統計学によれば、コインを投げて表がでる確率は1/2。ところが、コインを10回投げても、表が5回でるとは限らない。3回しかでないこともあれば、7回も出ることもある。だが、100万回振れば、誤差1%未満で表が50万回出る(裏も同じ)。もし、そうでなければ、コインに仕掛けがあるのだ。つまりイカサマ。

というわけで、回数をこなせば、現実は統計学の予測と一致する。

じゃあ、客側にも何か手があるのでは?

必勝法はムリだろうけど、ちょびっと必勝法とか?

あります。

それが、マカオで実戦勝利した「ほぼ必勝法」だ。ラスベガスの社員旅行で、この方法を社員に伝授したら、それを守った女性社員だけが勝利した。大した金額ではないが、大損するよりマシ。欲をかけばかくほど、賭け金が上がり、回数も増え、損得は統計学に合わされる。つまり、大損。

というわけで、大損を避けて慎ましく勝利するのが「ほぼ必勝法」なのである。

ところが、株式投資に統計学は通用しない。

統計学といえば、正規分布が有名だ。たとえば、人間の身長、IQ、学校のテスト結果、すべて正規分布に従う。中央に最大値があって、左右にいくほど数が減っていく、あの釣り鐘状のグラフだ。

受験でおなじみの偏差値も正規分布に従う。偏差値50なら、受験者の中では真ん中の成績。その平均からどれだけ離れているかを表すのが「標準偏差」だ。たとえば、平均から標準偏差1個分離れていれば偏差値60(低い方は偏差値40)。偏差値60以上なら、上位15.866%なので、いい大学に入れる。もし、平均から標準偏差2個分高ければ偏差値は70で、上位2.28%。ほとんどの大学に合格できるだろう。

さらに、宝くじも統計学に従う。

たとえば、ジャンボ宝くじは、1等当選7億円の当選確率は2000万分の1。人口2357万人の台湾なら、国中で当選者は一人(赤ちゃんから老人まで全員買ったとして)。

よく買う気になりますね!

でも、当選者は必ずでるし、そもそも買わないと絶対に当たらない!

その考えは間違ってます。

当たる人は必ずいるが、それが自分かどうかがすべて。そのどうかが2000万分の1なのだ。さらに、統計学の損得勘定の指標「期待値」は、ジャンボ宝くじ1枚147円。つまり、147円の価値を300円で買っているわけだ。

そんなわけで、35年間、投資をやっているが、宝くじは自分で買ったことがない。割りの合わないバクチには、1円も払いたくないから。

■株価は統計学に従わない

一方、株価は統計学が通用しない。

株価は、変動が小さい日の方が多く、変動が大きい日は少ない。つまり、小康状態がボリュームゾーンで、大暴騰や大暴落は外れ値。であれば、正規分布になりそうなのだが、そうはならない。

たとえば、株価の大暴落は標準偏差5個分で、発生確率は0.00006%。1万年経っておきないはずなのに、大暴落は過去100年に何度もおきている(※)。

なぜか?

株価を左右するパラメータが膨大だから。株価は、政治、経済、軍事、国際情勢、社会情勢、文化・エンターテインメント、天候、自然災害・・・無数の要因の影響をうける。さらに、要因は異種のドメインにおよぶ。しかも、各要因の重みは他の要因に依存する。からみが複雑すぎるのだ。このセカイでは最も複雑な因果律と言っていいだろう。

一方、カジノや受験の結果を左右する要因は少ない。カジノは単純な試技、受験は学力でほぼ決まる。

つまりこういうこと。

決定要因が多種多様多数、そしてここが肝心、要因の重みが固定できないと、統計学は通用しない。

さらに厄介ことがある。株価は理論ではなく、人の思いで動く。つまり、みんなが上がると思えば上がるし、下がると思えば下がる。株価はこの世で最も気まぐれな要因に支配されているわけだ。

実例をあげよう。

たとえば、インフレが始まったとする。物価が上がれば、金利も上がり、預金利息も上がるから、物騒な株式投資への意欲は減る。結果、株価は下がる。一方、良いインフレは好景気の証(あかし)だから、企業業績が上がり、株価も上がるはず。

どっちやねん?

どっちも現実です!

ここで結論。

ファンダメンタルズ(経済の基本指標)、テクニカル分析、金融工学、なんじゃもんじゃは、あてにならない。株価を決めるのは人間の思いだから。

たとえば、1980年代、バブル経済で日経平均株価は大暴騰したが、それを説明できる理論はなかった。すると、どこぞの誰かが怪しい理論をでっちあげて、異常な株価を正当化した。ところが、その直後、株価は大暴落。これが歴史に残る日本のバブル崩壊の顛末なのである。

というわけで、株式投資は一筋縄ではいかない。統計学も通用しないから、必勝法もない。しかも、最近はAI(人工知能)による売買が主流になりつつある。あいまいな人間にくわえ、何をしでかすかわからないマシン。株式投資は複雑になるばかりだ。

とはいえ、勝率を極大化する方法はある。これに大損を回避する方法を併用すれば、究極のローリスク・ハイリターンが実現できる。それが「カジノほぼ必勝法」ならぬ「投資ほぼ必勝法」なのである。

参考文献:
(※)統計と確率ベイズ統計編(ニュートン別冊)ムック出版社‏:‎ニュートンプレス

by R.B

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