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週刊スモールトーク (第473話) リスク資産への投資(1)~労働が消滅する日~

カテゴリ : 社会経済

2021.04.23

リスク資産への投資(1)~労働が消滅する日~

■労働の価値

「労働の価値」が低下している。

根拠は3つある。

まず、給料と退職金が減り、解雇や早期・希望退職が常態化している。もし、労働の価値が高いなら、高い報酬と終身雇用が約束されるだろう。

つぎに、労働分配率が低下している。労働分配率とは、企業の儲けに対する労働者の取り分。企業の儲けはその企業が生んだ付加価値で、粗利益(売上ー経費)で表される。一方、労働者の取り分は人件費で、具体的には賃金。もし、企業の付加価値が100万円で、人件費が70万円なら、

労働分配率=人件費÷付加価値=70万円÷100万円=70%

労働分配率が高いほど、労働者への還元が多いので、労働の価値は高いといえるだろう。

では、現実の労働分配率は?

米国では、1950年代に65%前後だったが、2016年に56%まで低下している。日本は、戦後上がり続けたが、2010年がピークで、米国同様、低下している。もし、労働の価値が高いなら、労働者の取り分が減ることはないだろう。

では、儲けの残りはどこへ行く?

株主配当として、株主に還元される。株主は、企業の株を保有し、それが資本金になっている。つまり、株主配当とは資本に対する分配なのである。その資本分配にあずかる株主は、資本家とよばれる。

というわけで、企業の儲け(付加価値)は、労働分配と資本分配からなる。式で表すと・・・

付加価値=労働分配率+資本分配率=100%

この式が意味するところは明快だ。労働分配率が下がれば、そのぶん資本分配率は上がる。賃金が下がれば、株主配当が増えるわけだ。結果「不労所得>勤労所得」に陥り、悲しい現実が生まれる。汗水たらして働くより、投資の方が儲かる・・・これが、労働の価値が低下している第三の根拠。

とはいえ、「労働」がなければ、生産も流通も販売も止まる。だから「労働」そのものの価値が低下しているわけではない。むしろ、上昇している。企業は競争に勝つために「コストダウン=生産性の向上」が欠かせないから。だから、企業は「労働の質」を高めることに余念がない。その究極の手段が「人間の労働」を「機械の労働」に置き換えることなのである。

■人間の労働から機械の労働へ

太古の昔、人間はエデンの園を追放された。結果、労働という苦役を背負わされたのである。

そこで、人間は辛い苦役を人工動力に置き換え、耐え難い単純作業をコンピュータに置き換えてきた。ところが、今回は根本が違う。肉体労働、単純作業だけでなく、知的業務、芸術や創作まで機械に置き換わろうとしているのだ。そう、今流行のAI(人工知能)である。

今後、「人間の労働→機械の労働」は加速するだろう。これは歴史の大潮流で、聖域はない。これまで、機械が人間の仕事を奪うと、新しい仕事が生まれたが、今回はそれはない。機械が人間の仕事を丸取りするのだ。

未来をイメージしてみよう。

すべてのデバイス(センサーとアクチュエータ)がインターネットにつながる。これが「IoT(モノのインターネット)」だ。この巨大なネットワークを介して、ありとあらゆる情報が吸い上げられ、AI(人工知能)が、分析・予測し、戦略・戦術・計画を立案する。その決定はアクチュエータ(物理運動に変換する機械)に送信され、しゅくしゅくと実行される。

お気づきだろうか。この世界に人間の入る余地はない。

その兆しも現れている。今トレンドの「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。

これまでのITと何が違うのか、等々議論百出だが、一言でいえば、文明の完全デジタル化。

文明の担い手の人間はアナログなのに、なぜデジタルなのか?

デジタルが得意なコンピュータに合わせるため。つまり、未来の文明の担い手は、人間ではなく機械なのだ。

そもそも、どんな労働も、人間より機械がうまくやる。企業は金儲けが第一なので当然だろう。というわけで、DXが完成した未来に人間の仕事はない。

では人間はどうやって稼ぐのか?

人間は稼ぐ必要はない。それが今話題のベーシックインカムだ。すべての国民は、国から必要最低限の生活費が支給され、それで人生をおくる。

財源は?

「機械=IoT+AI+ロボット」が生み出す付加価値。人間は、労働という苦役から解放され、エデンの園に回帰するのだから、究極のユートピア?

話はそうカンタンではない。人間の間で巨大な格差が生まれるから。ベーシックインカムで暮らす旧労働者と、機械を所有する資本家、この2つの階層に社会は分断されるだろう。前者は生存するだけのつつましい人生、後者は、衣食住、娯楽、医療、あらゆる分野で最先端のサービスを享受できる。

なんと不公平な。

でも、資本家にも言い分があるだろう。資本家が所有する機械のおかげで、みんな遊んで暮らせるのだから。

でも、なんかおかしい。これが究極のユートピア、それともディストピア?

■機械仕掛けの神

だが、資本家の我が世の春も、長くは続かないだろう。最終的に、AI(人工知能)が制御不能におちいり、人類を滅ぼすから。

SF映画「ターミネーターのスカイネット」?

SFでも、妄想でもない。その予兆もある。

今、文章作成AI「GPT-3」が話題になっている。文章があまりに秀逸で、人間の文章と見分けがつかない。それは悪いことではないが、一つ問題が。GPT-3は、短時間で膨大な記事を量産し、一瞬でネット配信できること。

それがすべてフェイクニュースだったらどうするのだ?

社会は大混乱に陥るだろう。人類を滅ぼすのに核爆弾は不要なのだ。

現在、GPT-3は、コトバを1750億次元(パラメータの数)で管理している。ところが、エヌビディアのパレシュ・カーリャによれば「数年以内に100兆次元のAIモデルが出現する」という。エヌビディアは、AI専用プロセッサ(GPGPU)の覇者だが、2021年4月13日、汎用プロセッサ(CPU)への参入を発表した。このニュースは重大だ。GPGPUとCPUをシームレスに融合すれば(SoCという)、処理能力は飛躍的にアップするから。100兆次元のAIモデルが現実になるのは時間の問題だろう。

とはいえ、GPT-3は、コトバの意味を「人間のやり方」で理解しているわけではない。

なら安心?

ノー!

GPT-3は、コトバを「機械のやり方」で理解している。人間とは異なるコトバの概念を獲得しているのだ。ところが、そのアルゴリズムは完全なブラックボックスで、人間には理解できない。人間の脳を解剖して顕微鏡でのぞいても、人間の思考や感情が見えないのと同じだろう。

理解不能のアルゴリズムで、100兆のパラメータでコトバを操る・・・コワくないですか?

今後、AI(人工知能)はあらゆるモノに組み込まれるだろう。自動運転車が地上を走行し、自動操縦の航空機やドローンが空を飛び交い、計画立案、設計・製造、発明・発見、芸術・創作までAIがこなす・・・完全なデジタル社会だ。

これほど複雑化した社会は、人間には制御できない。全体管理もAI(人工知能)に任せるしかないだろう。それは巨大なネットワークのハブで、人間と異質の概念と意思をもったビッグ・ブラザー、機械仕掛けの神と言っていいだろう。ただし不完全な人間がこさえた偽りの神。

そんなものを人間が支配できると思いますか?

生身の人間が、聖水と十字架で立ち向かうようなもの。

それで勝てると信じるなら、それこそ妄想だろう。

《つづく》

by R.B

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