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週刊スモールトーク (第444話) 明智光秀(1)~麒麟が裏切る~

カテゴリ : 人物歴史

2020.03.22

明智光秀(1)~麒麟が裏切る~

■麒麟がくる

NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」は面白くない、で始めると、身もフタもないが、本当だ。

映像はキレイだし、役者も有名どころで、信長役の染谷将太の演技は秀逸。しかも、お題は一番人気の「戦国モノ」。

それで、なぜ面白くならないのか?

テンポが悪く、話が動かない。それでも、台詞と演技にキレがあれば救いはあるが、それもない。全体が、退屈でマッタリなのに話がつながらない。ダラダラ、バラバラ、何を表現したいのかサッパリ。米国、中国、韓国のドラマと比べると、自主制作の域だろう。

さらに、「新しい」明智光秀を描こうとする「力み」があるが、イヤな予感がする。中途半端にやると、史実でもファンタジーでもない、得体のしれないゲテモノになるから。そんなもの、誰も観たくないだろう。

ということで、少々辛口になったが、そこは天下のNHK、厳しい評価にさらされて当然だろう。アンテナのある世帯から、あまねく視聴料を徴収して、好きなもの作っているのだから。

ところで、なぜ「新しい」光秀なのか?

NHKの大河ドラマでは、素の明智光秀は描けないから。

■新しい明智光秀

明智光秀のレッテルはすでに確立している。大恩ある主人を裏切り、弑逆した大罪人。しかも、何の前触れもなく、突然、背後から突き刺す、非道な手口。下剋上の戦国時代にあっても、ここまでやる人間は珍しい。世界史を見渡しても、主イエスを銀貨30枚で売ったイスカリオテのユダか、カエサルを暗殺したブルトゥス&カッシウスのコンビか。彼らはその罪で、地獄の最下層にある「コーキュートス(嘆きの川)」で、氷漬けにされているという。

ところが、NHK大河ドラマは、一家団らん、茶の間でみるドラマ。その主人公が大罪人では、具合が悪い。NHKは、視聴率を気にする必要はないが、脚本家はそうはいかない。名声は富と直結しているから。駄作の烙印は押されたくないだろう。ちなみに、脚本家は池端俊策で、ネットで調べると、実績といい勲章といい、文句のつけようがない。ただし、この脚本は原作がない。何でもありのオリジナル脚本。まぁ、「新しい」光秀なら、これしかないだろう。

とはいえ、問題はどう新しくするか?

ドラマはまだ始まったばかりで、知る由もないが、およそ見当はつく。

明智光秀は、本当は理想主義者で、高い志を抱いていた。正義感があり、優しく、ひょうきんで、愛すべき男。ところが、織田信長は晩年、凶暴化し、執拗なパワハラにあい、仕方なく主を殺した・・・まぁ、こんなところだろう。昨今、どこもかしこも「コンプライアンス(法令遵守)」が叫ばれ、パワハラはもってもほか、立派な犯罪です。だから、悪いのは光秀ではなく信長、というわけだ。

もしそうなら、あまりに安直すぎる。織田信長は、本当は気弱で優しかったのに、サタンにそそのかされて冷酷になった、だから、悪いのはサタン、というようなもの。子供が書く脚本ですね。もちろん、そうならないことを心から願っている。

では、どうしたらいいのか?

明智光秀の「大罪人」を直視し、視聴者が共感を覚える文法で書き換えればいいのだ。じつは、同じNHKの大河ドラマで、その成功例がある。

■ジェームス三木の発明

「独眼竜政宗」はNHK大河ドラマ史上、最高傑作とされる。まず、視聴率が凄い。平均視聴率39.7%、最終回の視聴率47.8%。しかも、評論家や視聴者の評価も高い。

原作は山岡荘八で、「歴史」がちゃんとしている。さらに、ジェームス三木の脚本が素晴らしい。戦国時代は、複雑が利害がからみあい、裏切り、殺し合う、非情の世界。そんな異形の世界を、簡潔にわかりやすく描いている。しかも、ドラマ全体が、何となく明るい。風通しもいい。ジェームス三木は「新しい」戦国ドラマを発明したのだ。

というわけで、明智光秀のダークサイド(暗黒面)に目をつぶらなくても、健全な?ドラマは作れる。頑張ってください、NHKさん。言うは易し行うは難しとはこのことですね。

ところで、なぜ、そこまで明智光秀のダークサイドにこだわるのか?

映画「スターウォーズ」を思い起こして欲しい。

この物語で、悪の化身といえば「ダースベーダー」。悪いこと全部やって、最後に、ちょっとだけ人間らしいところみせて死ぬ。ところが、明智光秀は、ダースベーダーどころではないのだ。ダースベーダーの師匠にして、銀河帝国の初代皇帝「ダース・シディアス(パルパティーン)」に限りなく近い。

ダース・シディアスは、最後の暗黒卿にして、究極のダークサイド。師匠からフォースを学び、すべて習得すると、用済みとばかり、師匠を殺害。その後、ダースベーダーをそそのかし、手下にして、人民を惑星ごと焼き殺し、共和国を殲滅せんともくろむ。血も涙もない悪の化身。

でも、本当に、明智光秀はそこまで大悪人だったのか?

■明智光秀のダークサイド

そこで、明智光秀のダークサイドを検証してみよう。

まずは、世間のウワサから。

明智光秀は、越前の朝倉家に仕えた後、足利義昭に鞍替えし、織田信長が台頭すると、足利義昭を見限って、織田家に転職。つぎに、主人の信長を弑逆して、天下人にのし上がる。ところが、その11日後、羽柴秀吉に不意を突かれ、討ち死。天国から地獄へ。これを、光秀の「三日天下」という。

これを一文で表すと・・・寝返り、裏切り、主人殺しの人生。

明智光秀は、忠誠を尽くす相手がころころ変わる男さ♪

節操がないと言われても一向に気にしない♪

涼しい顔の光秀くん♪

裏切り者とは違うんだ♪

主従の契約を交わしたわけじゃない♪

取り立ててくれれば、誰でもいい♪

ボクは天上天下唯我独尊、と光秀くん♪

~明智光秀の歌~

■明智光秀の史実

つぎに、ウワサを史料で検証してみよう。

参考にするのは「信長公記」。太田牛一が著した織田信長の一代記だ。太田牛一は、信長の家臣で、素性がはっきりしている。しかも、この時代の目撃者なので、信憑性が高い(一次資料という)。これに比肩するのは、宣教師ルイス・フロイスが著した「日本史」ぐらいだろう。ところが、この2書にケチをつける向きもある。たしかに、450年前のことは誰にもわからない。でも、本文を精読すれば、本物は本物の、偽物は偽物の臭いがするものだ。

信憑性の高い史料によれば、明智光秀が越前(福井県)に現れるまで、どこで何をしていたかハッキリしない。じつは「朝倉家に仕え、つぎに足利義昭に鞍替えし」も怪しい。1566年頃、後に室町幕府15代将軍となる足利義昭が、朝倉義景の居城「一乗谷」に身を寄せていた。この頃、明智光秀は浪人で、越前をウロついていたというから、そういう話になったのだろう。ところが、そんな話は「信長公記」には一切出てこない。

明智光秀が「信長公記」に初めて登場するのは「六条合戦」。1569年正月4日、三好三人衆が、足利義昭のいる京都六条の本圀寺(ほんごくじ)を包囲した。その頃、織田信長は足利義昭の後ろ盾だったので、織田勢が応戦する。その中に「明智十兵衛(光秀)」の名があるのだ。

その後、明智光秀は出世街道を驀進する。

信長公記によれば、1578年正月1日、織田の支配地(畿内、尾張、美濃、近江)の武将たちが、安土城に出仕し、年頭のあいさつをした。そのとき、信長から、お茶が12人の武将たちに下された。その中に明智光秀の名がある。ただし、「明智十兵衛」ではなく「惟任日向守(これとうひゅうがのかみ)」。「惟任」は、明智家が朝廷からもらった姓名なので、大出世していたことがわかる。本能寺の変の4年前である。

さらに、光秀は、重要拠点である琵琶湖の坂本城と丹波の亀山城を拝領している。これほどの城持ちは、織田家臣団の中では、明智光秀だけ。じつは、織田家の一番出世は、筆頭家老の柴田勝家でも、信長のお気に入りの羽柴秀吉でもなかった。明智光秀だったのである。その栄誉は、本能寺の変でかすんでしまったが。

ということで、ここまでの検証では、明智光秀は大罪人にはみえない。究極のダークサイドは、ただのウワサだったのだろうか?

《つづく》

参考文献:
・信長公記 太田牛一著 榊山潤訳富士出版
・ぼくたちは、フォースの使えないダース・ベイダーである ディズニー (著) 講談社

by R.B

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