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週刊スモールトーク (第441話) 金融庁の報告書・2000万円問題(2)~対応策~

カテゴリ : 社会

2020.02.09

金融庁の報告書・2000万円問題(2)~対応策~

■金融庁のメッセージ

「人生100年時代」をむかえ、日本は大きく変わろうとしている。

まずは現役世代。

給料は上がらないのに、税金と社会保険料だけは上がる。「支出>収入」が万力で固定され、長生きするほど、辛くなる。

つぎに引退世代。

退職金が減り、年金は支給開始時期が遅れ、額は減る。一方、頼みの金融資産は横ばい(高齢世帯)。

というわけで、老いも若きも、不安でいっぱい。そんな中、金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」が発表された。すると、「老後、年金だけでは2000万円不足する」が独り歩きを始めた。

たしかに、報告書の中にこんな記述がある。

「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では、平均で、毎月約5万円不足する。平均寿命まで生きたとすると、単純計算で1300万円~2000万円不足する」

ここが摘み取られたのだろう。ところが、報告書にはその後があるのだ。

「これは、あくまで平均値の計算で、各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって不足額は異なる。不足しない場合もあるが、長く生きることに応じて、資産寿命を延ばす(資産を減らさない)ことが必要である」

ここが重要なのにカットされている。結果、2つの誤解が生まれた。第一に、「老後、年金だけでは2000万円不足する」は普遍的事実ではないこと。第二に、主旨は資産寿命を伸ばすことであって、「不足額」ではないこと。

つまり、伝えたいことが、二重にねじ曲げられたのだ。

金融庁が伝えたいのは・・・

社会が変化し、ライフスタイルが多様化している。そこで、変化を考慮し、各人のライフスタイルにあったライフプランを描こう。収入(退職金・年金)が減っているので、資産寿命を延ばす「自助」が重要である。長寿化がすすみ、認知症は誰にでもおこりうるので、事前に準備をしよう。

至極あたりまえのこと。これで、なんで非難をあびるのだろう。

■資産寿命を延ばす方法

では、資産寿命を延ばすにはどうしたらいいのか?

報告書では、対応策を、「現役期」と「リタイヤ期」と「高齢期」にわけて説明している。

まずは現役期。

生活資金は元本保証の預貯金で保有し、少額で積立・分散投資を行う・・・初心者の王道。絶対にやっていけないのは、生活資金をリスク資産(株・投資信託)に回すこと。生活に困ったら、損切りしないといけないので。

自分に合ったライフプラン・マネープランを検討する・・・これは注意が必要だ。投資の成否は、無数のパラメータの掛け算で決まる。しかも、パラメータと重みは常に変動する。だから、ヘタな考え休むに似たり、臨機応変に対応した方がいいだろう。とはいえ、すべて行きあたりばったりでは、羅針盤のない航海のようなもの。どこへ向かうかもわからない。

そこで、基本方針だけは決めておく。たとえば、再投資する額は、前回の利益を上限にする(元本割れを防ぐ)。投資するのは、自分が熟知した業界にしぼる(知らない世界に投資するのは無謀)。さらに、未来技術に集中投資する(株価は未来の期待値だから)。

最後に、上がり局面で買うか、下がり局面で買うか?

世界有数の投資家ウォーレン・バフェットは下がり局面で買う。みんながパニックになり、売り浴びせれば、株価は大きく下落する。底値で買うにはこれしかないだろう。これを「逆張り」という。ただし勇気がいる。バフェットはこう言っている。

「落ちてくるナイフをつかむようなもの」

信頼できるアドバイザーを見つけて相談する・・・これは難しい。顧客と金融機関は利害関係が一致しないから。かんぽ生命保険の不正販売がそれを示唆する。投資に長けた知人・友人が、実際に買ったものに投資するのが安全だろう。

つぎにリタイヤ期。

退職金を踏まえたマネープランを再検討する。収入が年金だけになる場合、資産運用の継続と計画的な取り崩しを行う・・・ここも注意が必要。資産運用の「継続」で「開始」とは言っていないから。退職金もらってから、資産運用を「開始」するのは危険だ。大金を失う可能性があるから。リスク資産(株や投資信託)への投資は、金融と経済とハイテクの知識が必要だ。くわえて、実戦経験も欠かせない。退職金を投資したら、あっという間に目減りしました、はよく聞く話。

最後に高齢期。

認知・判断能力の低下や喪失に備え、医療費、老人ホーム入居費も視野にいれる。取引関係(金融機関)を簡素化し、対応しやすくする・・・補足の必要はないだろう、寂しい話だし。

報告書は、「積立NISA」と「iDeCo」を推奨している。税制面で優遇処置があるので、利用する価値はあるだろう。

積み立てNISAは、年間40万円までの積立投資について、運用益は非課税。ただし、2037年までの時限措置で、投資対象も公募株式投資信託に限られる。

一方、iDeCoは、掛金の上限は年間14.4万円~81.6万円で、全額所得控除。年金受給時にも税の優遇処置がある。国内外の株式・債券や投資信託もOK。ただし、年金の意味合いがあるので、加入可能年齢は20歳から60歳まで。さらに、60歳になるまでは引き出させない。

■2025年問題

金融庁は、公的年金に自信がないのか、株を買って欲しいのか(たぶん両方)、投資を奨励している。

いわく・・・日本人は長生きするようになった。しかも、今の高齢者は昔に比べて元気である。これは素晴らしいことだが、寿命がのびると、そのぶんお金がかかる。老後を楽しむためには、健康とお金が重要・・・やっぱり公的年金に自信がない?

さらに、報告書は「団塊の世代」にも触れている。「団塊の世代」とは、戦後の第一次ベビーブーム(1947~1949)に生まれた世代で、人口は800万人。他の世代にくらべ、突出している。その「団塊の世代」が、2025年には75歳を迎える・・・と、報告書は強調する。

なぜか?

75歳あたりで、認知症有病率が急上昇するから。つまり、2025年以降、最大の人口を抱える世代で、認知症が急増するわけだ。

そもそも、2025年には、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になる。人類が経験したことのない「超高齢社会」だ。減りゆく若者と現役世代、増えゆく高齢者と引退世代。働き手が減り、世話が必要な人間が増えていく。

つまりこういうこと。

国のリソース(ヒト・モノ・カネ)が、国の発展ではなく、引退世代の世話に吸収されていく。攻めではなく、守りの社会。善し悪しはさておき、国が衰退するのは間違いないだろう。これを「2025年問題」とよんでいる。さらに、2030年頃には、もう一つの人口の塊「団塊の世代ジュニア」が60代になる(さぁ大変)。

そこで、報告書は結論づける。

この現状を見据えて、今何ができるか、何をすべきかを考えよう。標準的なモデルが空洞化しているので、唯一の正解は存在せず、各人の置かれた状況やライフプランによって、取るべき行動は変わる。今後のライフプラン・マネープランを、遠い未来の話ではなく、今現在において必要なこと、「自分ごと」として捉え、考えられるかが重要だ。それは、早ければ早いほどいい。

なんだかクドクドしているけど、何が言いたいのだ?

国はあてにするな、自分でなんとかしなさい!

そこ?

それにしては長い報告書でした。

参考文献:
・金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」

by R.B

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