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週刊スモールトーク (第438話) ベンチャーキャピタルは悪魔か?

カテゴリ : 経済

2019.12.29

ベンチャーキャピタルは悪魔か?

■ベンチャーキャピタルは天使か?

ベンチャーは毎日が貧乏だ。

「新しい・短期間・急成長」には大金がいるのに、銀行は融資してくれないから。それはそうだろう。海の物とも山の物ともつかない会社に、カネを貸す物好きはいない。

そんなとき、頼りになるのが、ベンチャーキャピタルだ。敷居は高いが、「億」のおカネを出してくれるから。しかも、融資ではなく、返済不要の投資で。貧乏なベンチャーにとって願ったり叶ったり。「ベンチャーキャピタルは天使」は本当かもしれない。

ベンチャーキャピタルは、リーマン・ショックから東日本大震災にかけて半減した。不況や不安のドン底では、起業家も投資家も怖気づくのだろう。

その後、ベンチャーキャピタルの数は増え、今は「第4次ベンチャーブーム」で沸いている。それをもじった「スタートアップ4.0」もよく聞く。他にも「ソサエティー5.0(来たるべき未来社会)」、「インダストリー4.0(来たるべき製造業)」・・・この手のネーミングの定番らしい。そういえば、昔流行した「Web3.0」はどこへ行ったのだろう。

ところで、ベンチャーキャピタルって何屋さん?

投資ファンドを運用して、稼いでいる。具体的には、一般投資家から資金を募り、ベンチャーに投資し、そのリターンを分配する。このような仕組みをベンチャーファンドという。

投資ファンドは他にもいろいろある。

最もポピュラーなのは、上場会社など流動性の高い商品に投資する「投資信託」や「ヘッジファンド」。投資信託は、少額で投資できるが、市場全体が上昇していないと利益がでない。NYダウや日経平均のようなインデックスを買うようなもの。

一方、ヘッジファンドは、市場が下落しても利益を出すことができる。「買い」からも「売り」からも入れるから。たとえば、株価が急落したら、まず「売り」から入り、下がりきったところで「買い」を入れる。結果、安く買って高く売ることになる。普通の取引と売買の順番が逆なだけ。ただし、ヘッジファンドの投資額は、最低「ん千万円」。大金持ちしか参戦できない。そのため、究極のマネーゲーム、強欲資本主義の権化と指弾されている。

■ソフトバンクのビジョン・ファンド

では、ベンチャーファンドは?

未上場のベンチャーに投資する。証券取引所に上場していないので、流動性が低く、簡単に売り買いできない。コケたら最後、会社と心中するしかない。しかも、ベンチャーは実績がないぶん、リスクが大きい。とくに、「シード」の投資はバクチに近い。シードとは、ベンチャーの準備段階で、リサーチしながら事業プランを練る。ところが、ベンチャーは「新しい」がウリなので、予測が難しい。計画というより「夢・希望」だろう。

そのため、ベンチャーキャピタルは、投資先を慎重に選ぶ。泥舟に金塊を積み込むわけにはいかないから。たとえば、100社リサーチして、20~30社にしぼって、最終的に1社、という具合。ところが、それだけ吟味しても、ほとんどが失敗する。ベンチャー投資には「千三つ」という格言がある。1000社に投資して3社成功すれば、元が取れるという意味だ(997社が失敗)。ただ、現実には、10社に投資して、1社の成功で元を取る算段をしている。

ここでいう「成功」とは、IPO(新規株式上場)、会社が株式上場すること。上場前に買った株が、上場後、何倍、何十倍にもなるから。とはいえ、9社の失敗を、1社の成功で取り返すには、少額投資ではムリ。元本が1000万円程度なら、50倍になっても、5億円にしかならないから。そこで、ベンチャーキャピタルは、1社あたり「億」単位で投資する。リターンが50億円なら、9社全滅でもなんとかなるだろう(たぶん)。ただし、これはあくまで一般論。桁違いの投資をするベンチャーキャピタルもある。

たとえば、ソフトバンクが運用する「ビジョン・ファンド(10兆円ファンド)」。世界中の投資グループから資金をあつめ、巨額の投資を行っている。最近、10兆円以上投資した米国ウィーカンパニーが不祥事をおこし、IPOを断念。巨額の損失を出した。すわ、ソフトバンク破綻か?という気の早い記事も見かけるが、それはないだろう(孫さんが生きている限り)。そもそも、投資は丁半バクチ。儲かることもあれば損することもあるのだ。

■ベンチャーキャピタルは悪魔か?

ベンチャーキャピタルの投資スタイルは大きく2つある。

カネは出すけど、口は出さない「ハンズオフ」と、カネも口も出す「ハンズオン」。

ハンズオンは、積極的に経営にかかわる。投資した会社に、取締役を送り込み、経営参加することもある。ベンチャーの経営陣は、事業や業界に明るいが、経営、とくにスケール(事業拡大)にうといから。一方、ベンチャーキャピタルは、経営の経験値が高い。というわけで、ベンチャーにとって、ハンズオンは渡りに船?

ビミョー・・・

ベンチャーキャピタルは「天使(エンジェル)」ではなく、「悪魔(デビル)」と揶揄する人がいる。事実、カネも口も出す「ハンズオン」は、ベンチャーの経営陣ともめることが多い。

まずは、経営陣の言い分。

事業も業界も、俺たちが一番わかっている。だから、経営にいちいち口をはさむなよ。仕事が遅れるだけじゃん。ベンチャーはスピードが命って、わかってる?カネのことばかり言いやがって、この野郎!

つぎに、ベンチャーキャピタルの言い分。

経営陣は、事業と業界に明るいかもしれないが、経営がわかっていない。経営とは、リソース(ヒト・モノ・カネ)の最適分配。バランスとタイミングだ。もっと、良い商品にしたいから、販売を延ばしたい?はぁ?それで、売上どんだけ増えるの?経営は「数字」だって、わかってる?そもそも、カネ出してるの俺たちだぞ、この野郎!

というわけで、双方に言い分はある。だから、もめてあたりまえ。ただし、みんながもめるわけではない。うまくいくケースもある。ポイントは2つ。ベンチャーキャピタルが事業と業界に精通しているか。お互いに、意地と感情を捨てて、問題解決に集中できるか。

冷静に考えみよう。

ベンチャーとベンチャーキャピタルは呉越同舟。利害は一致しているのだ。ゴールはIPO、株式上場なのだから。

ベンチャーが上場すると、ベンチャーキャピタルは、すべての持ち株を売却する。そのキャピタルゲインで、投資マネーを回収し、投資家に分配する。一方、ベンチャーも、新規公開株の代金が入る。返済義務のない大金だ。これで、資金繰りが楽になり、事業拡大も新規事業も思いのまま。つまり、ベンチャーとベンチャーキャピタルはウィン・ウィンなのだ。

では、なぜもめる?

プレイヤーは人間だから。意見が食い違うと、感情がむき出しになる。売り言葉に買い言葉、いつのまにか、分析が「主張」に、方針が「宣言」に変わる。

しかも、ベンチャーとベンチャーキャピタルは、原点が違う。ベンチャーの原点は「事業は俺たちが一番わかっている」、一方、ベンチャーキャピタルは「資金は俺たちが出している」。このギャップは大きい。別軸の話だから。もめごとがヒートアップすると、ともに原点回帰するわけだ。

ただし、これだけはいえる。大掛かりなベンチャー、とくにグローバルスタンダードを目指すなら、ベンチャーキャピタルは欠かせない。

■眠れないベンチャーキャピタリスト

ベンチャーキャピタルのプレイヤーを、ベンチャーキャピタリストという。会社によるが、ベンチャーキャピタリスト1人で10社ぐらいみる。逆に、1社に複数のベンチャーキャピタルが入ることもある。

ベンチャーの経営者は孤独だが、ベンチャーキャピタリストも孤独だ。事業と業界に精通し、起業するほどパワフルな人間を相手にするのだから。

一般社員は、何があっても、残業し徹夜すればすむ。それで失敗したら、部課長の責任だ。難しい判断も、部課長に投げればいい。部課長が手に余ったら、社長や役員に投げればいい。ところが、社長と役員は投げる所がない。早い話、逃げ場がないのだ。そのぶん、社長・役員のストレスはハンパない。そんな人種を相手にするのだから、ベンチャーキャピタリストも骨が折れる。

あるベンチャーキャピタリストから聞いた話。

夜中の3時に、投資先の社長から電話が入る。役員が社員にセクハラして、訴えられそう。くだんの役員、ストレスが溜まっていて、ついつい・・・どうしたらいいですか?

昨今、コンプライアンス(法令遵守)が厳しくなっている。上場前なら、なおさらだ。役員のセクハラで、上場が頓挫してはたまらない。ハンズオンなら、これもコンサルのうち。

だから、ベンチャーの社長は眠れないが、ベンチャーキャピタリストも眠れない。ベンチャーとは伸るか反るかの冒険ビジネスなのだ。社長もベンチャーキャピタリストも、毎日、命を削っている。電動鉛筆削りで、ガガガァァ~っ・・・

■ベンチャーファンドか株式投資か?

ところで、ベンチャーファンドはどのくらい儲かるのか?

米国なら年率20%、日本なら15%が目標。アグレッシブな投資で、高利回りで知られるヘッジファンドは、バラツキが大きいが、年率10%ぐらい。一方、投資信託は年率数%あればいい方だろう。というわけで、ベンチャーファンドは、ハイリスク・ハイリターン。

ベンチャーファンドは、他のファンド同様、期限がある。期限が10年なら、年率20%で6倍強、年率15%で4倍になる。もちろん、これは目標で、10年で3倍なら許容範囲だろう。

ちなみに、銀行の定期預金は、銀行によって違うが、だいたい年利0.01%。100万円を10年預けたら、利息は1000円ナリ。大根なら7本は買えますね!

では、株式投資は?

まず、どの会社にいくら投資するか、自分で決めなくてはならない。さらに、資産の比率も重要だ。たとえば、資産が少ないなら、現金・預金90%、投資信託5%、株式5%。資産が多く、生活費に困らないなら、現金・預金20%、投資信託20%、株式50%、金10%、という具合。これをポートフォリオという。資産の最適分配で、投資の重要なファクターだ。

絶対にやってはいけないのが、一本釣り。かつて、東京電力の株は、絶対安全とされた。電気文明はこれからも続くし、電気の需要はなくならない。しかも、東京電力は日本一の電力会社。事実、東京電力の株価は、一時期、4000円を超えていた。ところが、福島第一原発事故で、300円まで暴落。いまでも、400円台で低迷している(2019年12月)。絶対安全とされた資産が1/10になったわけだ。だから、ポートフォリオが必要なのである。

では、株は、10年でどれくらい上がるのか?

今後、大きく伸びるのはAI(人工知能)しかない。理由はカンタン、既存市場は「人口」のリミッターがかかるが、AIは青天井だから。しかも、AIはゼロスタートで、既存市場のすべてに浸透する。かつての、マイクロプロセッサーのように。

まず、既存市場の規模をみてみよう。

1位:石油(600兆円)

2位:医療(560兆円)

3位:食品(360兆円)

4位:自動車(300兆円)

5位:天然ガス(300兆円)

6位:原発(200兆円)

お気づきだろうか、これらの巨大市場すべてに、AIが実装されていく。経営計画、生産計画、開発、製造、メンテ、販売、総務、経理、人事あらゆる業務で。AIが、想像を絶する巨大市場に成長するのは間違いない。

ただし、既存の産業が潤うわけではない。たとえば、自動車産業。自動運転が普及しても、自動車の台数は増えない(カーシェアリングでむしろ減る)。さらに、電気自動車(EV)が普及すれば、部品点数が激減し、下請けの仕事も減る。自動車産業ピラミッドは、上から下までダウンサイジングするわけだ。一方、自動運転に使われるAIチップは、自動車の台数分売れる。しかも、ゼロからのスタートなので、成長率は桁違いだ。

■AIの有望銘柄

では、AIチップの有望な企業は?

まず、AIチップには、学習用と推論用がある。学習用は、データを機械学習して、予測モデルを作る。推論用は、予測モデルを使って、推論(予測・分類)する。この2つは別物なので、分けて精査しよう。

・エヌビディア社

行列演算の並行処理に最適化された「GPGPU」で、学習用チップと推論用チップの覇者をめざす。学習用ではすでにキングで、推論用でも有望。現在、AIチップとプラットフォームで最有力といっていだろう。この10年の株価は「10ドル→236ドル」で23.6倍(2019年12月)。

・ザイリンクス社

書き換え可能な半導体「FPGA」で、インテルと市場を二分する。FPGAは、GPGPUに比べ、高速、低遅延、低消費電力がウリ。次世代5Gの基地局の通信チップですでに一択となっている。さらに、低遅延なので、リアルタイム性が要求される自動運転の推論用に向く。また、すべてのモノがインターネットにつながるIoTで、大活躍するだろう。末端のIoTデバイスの推論用チップは、低消費電力が欠かせないから。この10年の株価は、「20ドル→98ドル」で、4.9倍(2019年12月)。

・ラティスセミコンダクター社

ザイリンクスに次ぐ「FPGA」の専業メーカー。ザイリンクスに比べ、低スペックだが、そのぶん、「低消費電力&安価」。中には電池で動作するものもある。来たるべき「5G&IoT」の時代では、小さなIoTデバイスが、屋内・屋外を問わず、あらゆる場所に設置されるだろう。世界で1兆個を超えるという予測もある。

では、「小さい&1兆個」に必要なのは?

「低消費電力&安価」。つまり、ラティスセミコンダクター。しかも、現在の株価はまだ「19ドル」。期待は膨らむばかりだ。しかし、抜け目のない投資家たちはすでに気づいている。この10年の株価は「2ドル→19ドル」で9.5倍(2019年12月)。

というわけで、ハイリスク・ハイリターンなら株式投資、ローリスク・ローリターンなら投資信託だろう。一方、ヘッジファンドは敷居が高いし、ベンチャーファンドは中途半端。もちろん、銀行預金やタンス預金は論外。消費税率が2%上がっただけで、200年分の利息が吹き飛ぶのだから。

さらに、中長期的にみれば、円安ドル高に進むだろう。理由は3つ。「米国経済>>日本経済」と「日本の財政赤字」と「日本の地政学リスク(中国と朝鮮半島)」。とくに、3番目が認識されれば、円の価値は大きく下落するだろう。これまで、日本の地政学リスクが為替に影響を与えたことは一度もないから。

では、日本の地政学的リスクは、いつ認識されるのか?

日本海をはさんで、中国、韓国、北朝鮮と有事が迫ったとき。昨今の情勢をみれば、ふつうにありえますよね。

ドル高円安になれば、物価は上がり、何もしなくても、銀行預金とタンス預金は目減りする。投資は、得するか損するか五分五分だが、預金は必ず損をするわけだ。「物価の上昇>利息」なのであたりまえ。さらに、消費税も忘れてはならない。将来15%まで上がるのは確実だが、物価が5%上がるのと同じことなのだ。銀行利息500年分!?

カネ、カネ、カネ・・・なんだか不毛。ベンチャーは、おカネが大事だが、それを集めるのも、使うのも人。というわけで、最後は、気持ちよく、「人」でしめくくろう。

ズバリ、アントレプレナー(起業家)に一番重要な「資質」は?

覚悟と執念、この2つがあれば、たいていのことは乗り越えられる。逆に、この2つがなければ、起業しない方がいい。一度や二度うまくいっても、長くは続かないから。いつかどこかで、心が折れて、多くを失うだろう。

by R.B

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