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週刊スモールトーク (第435話) ベンチャー起業(2)~請負か派遣か自社開発か~

カテゴリ : 経済

2019.11.16

ベンチャー起業(2)~請負か派遣か自社開発か~

■学生起業とディープテック

ベンチャーとは「新しい・短期間・急成長」・・・と言えば聞こえはいいが、じつのところ、リスクのカタマリ。地上50mでジャンボ機を操縦するようなもの。

ではなぜ、われもわれもと、危ない橋をわたるのか?

「短期間で急成長」は「貧乏から一気に大金持ちに!」を意味するから。目もくらむサクセスストーリー、富と名声、勝ち組の人生。一方、世俗の極みでもある。

とはいえ、「健全な欲」が高度な文明を築いたことも確かだ。ただし、文明は諸刃の剣(もろはのつるぎ)。原子力は、街を明るくすることができるが、灰にすることもできる。

そんな文明の種子が、ベンチャーだろう。

「ベンチャー発のインベンション(発明)→ イノベーション(技術革新)→ 経済発展 → 高度な文明」が成立しているから。この因果律は米国で顕著だが、日本も後を追っている。今のところ、「インベンション(発明)」どまりだが。

先日、東京のコンサル会社とオンラインミーティングした。余談だが、最近、東京出張がめっきり減った。コンフィデンシャルな打ち合わせは有料ツール、それ以外はSkypeという感じ。気候変動もこれを加速している。

先月、台風19号の影響で北陸新幹線が不通になった。車両の1/3が水没し、運行できなくなったのだ。今後、日本列島は亜熱帯化し、風速70mを超える台風、未曾有の豪雨、未知の感染症が増えるだろう。さらに、犯罪、テロも。不要不急の外出は控えた方がよさそうだ。まずは、打ち合わせは、リアル空間ではなくバーチャル空間で。

今後、バーチャルミーティングはますます進化する。ビデオからVRへ、さらにAR(拡張現実)へ。やがて、AIが出席し、コメントするようになる。打ち合わせや会議の生産性は劇的に向上するだろう。悪名高い「無駄な会議」は過去のものとなる。

話をオンラインミーティングにもどそう。コンサルいわく、最近、学生起業が激増しているという。シーズは「ディープテック」、文字どおり深い技術。大学の研究室や、人里離れた秘密の研究所でマッドサイエンティストが励む怪しいテーマ。まだ理論段階で、海の物とも山の物ともつかない。だから、「学生起業」と相性がいいのだろう。

とはいえ、「学生起業」には疑問を感じる。

「起業」そのものはカンタンだ。株式会社なら、取締役1人、資本金50万円で作れる(昔は、取締役3人以上、資本金1000万円以上)。これだけ敷居が下がれば、誰でも起業できるだろう。しかし、問題は起業した後だ。

いつまで頑張ればいいというものではない。半永久的に存続させないといけない。10年黒字が続いても、一度でも資金がショートしたら、会社は破綻する。若い起業家はココがイメージできない。昨今の無責任な「起業啓蒙書」も災いしている。このシーズいけそー、ちゃっちゃと起業して、儲けて、売っちゃえばいい、ぐらいのノリなのだ。話としては成立するが、現実はそうはいかない。

知人が、東京でゲーム制作会社を経営していた。TVゲーム機のプラットフォーマーの一次下請けで、ゲーム会社としては上位に属する。ところが、経営が悪化し、MBO(マネジメント・バイ・アウト)に追い込まれた。MBOとは、経営陣が株主から自社株式を買取ること。早い話、株主に見離されたのだ。その後、資金繰りが悪化し、破綻に追い込まれた。この会社は、企画力と技術力があり、名作ものこしていた。それでも、10年ももたなかったのだ。

だから、ベンチャーで重要なのはシーズでも技術でもない。商品企画とヒト・モノ・カネの最適分配、これを半永久的に成功させること。さらに、資金繰りも重要だ。商品がバカ売れして、黒字が見込めても、一度でも資金がショートすれば墜落、地上50mのジャンボ機なのだ。

■請負と派遣の違い

日本のIT企業は、社員10名前後の零細企業が多い。しかも、ほとんどが請負か派遣。GAFAのような、プロデュース会社(自社開発)はほとんどない。

なぜか?

請負と派遣は、「商品企画」の責任がないから。つまり、商品が売れようが売れまいが関係ない。そのぶん、「ヒト・モノ・カネの最適分配」に集中でき、経営リスクも低い。

だから、日本で、IT起業といえば請負か派遣。価格を叩かれて、生かさず殺さず、顧客がジャイアン(わがまま)でも、じっと我慢する。ストレスはたまるけど、生存確率は上がる。それが、請負と派遣の世界だ。

一方、請負と派遣には微妙な違いがある。

請負は、発注元の指示どおり作れば、お金がもらえる。商品が最終的に売れようが売れまいが関係ない。作業した分、お金になるので、リスクが低い。ただし、請負にもリスクはある。いわゆる下請けイジメだ。よくあるのが、「仕様追加」は明々白々なのに、「品質が悪い」にすりかえられ、タダでやらされること。それでも、プロデュース会社よりリスクは低いけれど。

請負のリスクが低い理由はまだある。発注元に気に入られれば、継続して仕事がもらえる。ガツガツ営業する必要はないわけだ。

一方、派遣は、発注元に社員を「派遣」する。働く場所は派遣先で、仕事の管理も派遣先が行う。請負は働く場所も管理も自社なので、ここが違う。さらに、請負は仕事を完成させる義務があるが、派遣にはない。労働時間でお金がもらえるわけだ。

つまり、請負は「成果物」を、派遣は「労働力」を提供する。

ということで、リスクの低い順に、派遣>請負>自社開発

じゃあ、IT起業なら派遣の一択?

それがビミョーなのだ。

■派遣業のリスク

派遣は、長尺でみると、3つのリスクが潜んでいる。

第一に、年齢。IT業界なら、派遣を受け入れるのは、40歳代まで。50歳超えたら、よほどのスキルがないとムリ。つまり、派遣会社は、いずれ、派遣先のない社員で一杯になる。その時、どうするのか?真剣に考えている経営者は意外に少ない。

第二に、IT業界はドッグイヤー。「犬の1年=人間の7年」なので、IT業界は7倍速で進行する。

たとえば、今、Javaのプログラマーが引っ張りだこだが、先はわからない。その前はC言語、さらにその前はCOBOLやアセンブラが主流だったから。

そもそも、すでにJavaが怪しい。これまで無償だったのに、有償になるから(非商用は無償)。今後、JavaからC#に移行するIT企業も出てくるだろう。

ところが、そのC#も将来はわからない。民間企業のマイクロソフトの私物だから。さらに、今後は、AIがコモディディ化するから、Pythonプログラマーの需要が増えるだろう。というわけで、プログラマーはツールを覚えるだけで大変だ。

でも、プログラミング言語はどれも同じでは?

若ければ「イエス」、歳をとると「ノー」。歳を重ねるにつれ、新しいことを覚えるのが難しくなるから。

ボク、ワタシ、若いので大丈夫ですから!

ノーノー、いずれ、みんな歳を取りますよ。

最近、我が身におきた本当に哀しい話・・・これまで、コンピュータ一筋で、一生懸命キャリアを積んできた。難儀で悪名高いC++も難なくマスターできた。ところが、最近、Pythonが難しく感じる。C++より、カンタンなはずなのに。ショボイ「クロージャ(関数の一種)」を理解するのに、1時間もかかった。昔なら一撃なのに、一体どうなっている?

早い話、歳なのだ。

今旬なプログラマーも、いずれ、時代遅れになる。「財産」から「負債」へ。派遣会社にとっても、社員にとっても哀しい話だ。

第三に、法的しばり。派遣業の規制が厳しくなっている。派遣社員が、1事業所で働けるのは3年まで。しかも、5年経つと本人が希望したら雇用しないといけない。当然、派遣先は困る、というか絶対にのめない。社員として雇用したくないから、派遣を受け入れているのだ。そこで、大手派遣会社は、期限が切れたら、自社で雇用しようとしている。それなら、派遣先も安心して受け入れるだろう。

つまりこういうこと。

派遣は、人件費を固定費にしないサービスなのに、派遣会社の固定費になる!?

皮肉な話だ。ある大手派遣会社の営業マンはこうつぶやいた。

「派遣イジメですよ」

■資金調達の方法

最近、「50万円起業」と「学生起業」が増えている。大学生なら、遊びたい盛りなのに、学業と事業を両立させるとは立派だ。もちろん、学生すべてがそうというわけではない。大学生が二極化するのは、今に始まったことではないので。

でも・・・

資本金「50万円」で、何ができるのだろう?(事業)経験ゼロの学生に何ができるのだろう?

さらに、難儀なのが資金調達だ。

資金調達の方法は、融資と投資がある。融資は、金融機関などからお金を借りること。もちろん、借りた金は返さないといけない。返済期限までに利息をつけて。ただし、実績のないベンチャー(特にスタートアップ)に、カネを貸す銀行はない。

一方、投資は、株主として出資してもらう。会社の株を買ってもらい、それが会社の資金になるわけだ。融資と違って、返済義務はない。ただし、「投資=株」なので、投資家(株主)の発言力が増す。会社で一番偉いのは社長ではない。株を保有する株主だ。商品も事業もわからない株主に、口出しされ、空中分解する会社も珍しくない。

というわけで、起業時の資金調達は自腹、親兄弟、親戚、友人に頼るしかない。公的機関は金額が少ないし、VC(ベンチャーキャピタル)は敷居が高く、投資してもらえるのは100~1000社に1社?

ただし、親兄弟、親戚、友人にも問題がある。失敗したら、もめるから。親兄弟から縁を切られ、親戚は出入り禁止、友達も去っていく。哀しい話だ。

それだけではない。仮に資金調達に成功しても、その後が大変だ。「学生起業家」は若さがあるが、そのぶん、「経験」がない。皆無と言っていいだろう。

ディープテックなシーズ、明確なビジョン、ブルドーザーなみの馬力、天才的頭脳があっても十分ではない。大蛇、マウンテンゴリラ、ヒル、ペンギン(ウソです)が潜むジャングルに、虎の皮のパンツはいて、棍棒1本で迷い込むようなもの。この手の災厄を切り抜けるのは、「地頭」ではなく、「経験値」なのだ。

■起業する条件

定年で起業するのは悪くない。会社が破綻して、債権者が押しかけようが、脅そうが、余命分持ちこたえればいい。しかも、債権者は年金に手がつけられない。後は野となれ山となれだ。ただし、周囲もそれはわかっているから、取引も融資も投資も期待できないだろう。

一方、学生起業で失敗したら、後が大変だ。借金背負って、60年も生きるのだから。そもそも、経験値ゼロなので、勝ち目は薄い。特に既存市場は、百戦錬磨の競争相手がひしめている。

というわけで、学生起業は慎重に。何ごとも、基本が大事だ。アスリートは地味な筋トレ、学生は基礎学力をつけること。ビジネスは、社会人になってからでも遅くはない。目の前の仕事を一生懸命こなし、スキルと人脈と貯金を積み上げる。もし、やりたいことができて、会社がやらせてくれなかったら、転職を考える。それもダメなら、起業すればいい。

つまりこういうこと。

起業とは・・・やりたいことがあるけど、実現する場がない。でも、どうしてもやりたい、人生を賭けてもいいぞ、ぐらいの覚悟ができた時の最終手段なのだ。起業は、手段であって目的ではない。

■アップルの起業が成功した理由

1976年5月、スティーヴン・ウォズニアクはシングルボードのパソコンを製作した。家庭用のテレビにつないで、カラーグラフィックが表示できるスグレモノ。当時のパソコン(マイコン)は、モノクロの文字しか表示できなかったから、圧倒的な競争力があった。それを見たスティーブン・ジョブズは、ウォズニアクをそそのかし、起業した。それが、時価総額100兆円のアップルなのだ。

アップルが成功したのは、偶然でも運でもない。起業の条件がそろっていたのだ。

ウォズは、勤務するヒューレットパッカード社の上司に「シングルボードパソコン」を提案したが、相手にされなかった。だから、起業するしかなかったのだ。

つぎに、起業時にすでに「プロトタイプ」を完成させていたこと。しかも、圧倒的競争力をもつオンリーワン商品。これなら、起業するべきだろう。

日本は、起業の環境が整っていない。まず、シードマネー(準備段階の資金)を出すベンチャーキャピタルはほとんどいない。さらに、ミドル(事業をスケールしていくステージ)では、様々の人材が必要になるが、「人材プール」も少ない。

だから、日本で起業はリスクが大きい。ローリスクの派遣業でも、失敗することがあるのだ。知人は、ITの派遣会社を経営していたが、10年を待たずに破綻。給料未払いで社員に訴えられ、今も行方がわからない。

逃げるくらいなら、自己破産すれば?

そうカンタンではない。自己破産して、借金がチャラになっても、金を出してくれた親兄弟、親戚、友人の恨みを買う。それで、心身ともにボロボロになって、トラウマになる人もいるのだ。一方、借金を踏み倒して、クラウンを乗り回す無神経な輩もいるが、例外中の例外。

最近、起業をめざす学生の支援を始めた。ただし、成功させるためではなく、致命傷を負わせないため。頑張る若者が失敗するのは見ていられない。優秀でやる気のある若者ほど痛い目にあうのは、理不尽な話ではないか。

《つづく》

by R.B

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